- ワールドトリガーやっと連載再開か
2 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 00:14:08.580 ID:J7EFiUnL0 - ま?
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- 悪党が破綻した日
1 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:00:17.766 ID:J7EFiUnL0 - 住宅街特有の十字路が入り組む道。
ミラーも設置されていたりされてなかったりと区々で非常に走りづらい。 辛うじて設置されている箇所も、明後日の方向を向いていてカーブミラーとしての存在価値を発揮してはいなかった。 「まるでオレ達みたいだな」 同じ景色を見て同じ感想を抱いたのであろう、隣でハンドルを握る待田は嘲笑するように言う。 「まへぇを向いて運転しゅろぉ?」 待田の発言に俺は他の歯よりも発達した右中切歯、歯医者風に言うなら右上の一番、わかりやすく言うのなら右前歯。 言わなくてもわかると思うが俺のチャームポイントだ。 それをチラリと覗かせながら待田を注意する。 「見ちょうしが悪いんだぁ、もっちょ気ほつけて運ちぇんしろぉ?」 これも一々言わなくてもわかる事だが、2つ目のチャームポイントである愛嬌のある舌足らずな話し方。 愛すべき要素だ、それを使って再度注意する。 「はいはい」
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2 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:00:58.155 ID:J7EFiUnL0 - 俺達は今、右折左折を繰り返しながら、住宅街を早急に抜けようとしている真っ最中だ。
ここはギャング達が巣食う住宅街。 日本では珍しい場所でもないが、そうは言っても長居はしたくない。 だが行き止まりにぶち当たって凶悪な住民から不審がられてもまずいので、 急ぎつつも正確にこの町を抜け出さなければならないのだ。 途中丸腰の住民を何人か轢いたが、これといって大きな問題も起こさずに進めている。 この調子なら何事もなく越えられるだろう…… そう思いながら最後の十字路を右折した。 その瞬間、対向車と蜂会わせる。 乗り手は一目でギャングとわかる人間だ、 そいつらは不審者でも見るみたいに、こちらに向けてガンを飛ばしている。 「ふぉい……待田ぁやべぇじょ……」 「っ……任せろ!」 待田は咄嗟に方向転換をした。 狭隘な道路ではすれ違うことも出来ないのでバックして本来右折したかった道を直進する。
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3 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:01:43.074 ID:J7EFiUnL0 - これは相手にとっても道を譲られたという事で普通なら何ら不審がられる要素はない筈なのだが、バックミラーを見ると何故かギャング達の車がついてきていた。
「ひゃんでついてくるんだおよっ!」 「知らねぇよ!」 待田はスピードを上げて、住宅街を爆走していく。 バタバタと住民を5、6人くらい轢きながら、 無我夢中に住宅街を時速150キロ程度の速度で走行していると、やがて砂利が敷かれているタイプの駐車場に出た。 その先はロープが張られていてどうやら行き止まりのようだ。 「まちゅだっ!」 「っ!!」 どうしたら良いのかわからず、俺はチャームポイントの中切歯とその周囲5本……合計6本しかない歯を、 まるで宇宙生物のように剥き出しにしながら待田の名を叫んだ。 そこは田の字を使って説明するなら、右下の四角が俺達のいる月極め駐車場。 左下と右上の四角が所有地で生垣で覆われた家がある。 左上の四角には廃品置場と書かれた看板が出ていて、その奥に建築現場のような建物が佇んでいた。
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4 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:02:46.749 ID:J7EFiUnL0 - 「あそこしかない」
「しょうぎか?まちゅだっ!」 待田は俺の制止を無視して建築現場の方に向けてアクセルを踏む、車はロープを引きちぎって廃品置き場へと侵入していくが、 その先の建築現場は、どうみても通り抜け出来そうにない。 行き止まりだ。 「まちゅだっ!はめろっ!」 「オレを信じろ!」 廃品置き場へと車を止めて、待田はペットボトルの入った大量の袋を後部座席から引きずり出し「リサイクルで持ってきました!!!」と突然声高らかに叫んだ。 女王にでも献上するかのように地面に突っ伏し高く抱え上げながら。 そうすると、見た目から察するに恐らく分別の見張りで立たされていたのであろうか? 日本刀を腰に携え眼帯をした小太りの男が「ご苦労様」と柔和な笑みを浮かべながらそれを受け取った。
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5 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:03:31.498 ID:J7EFiUnL0 - そこに少し遅れてやってきたギャング達は、
その光景をチラリと見て、何か納得したように頷くと道を引き返していく。 「……ひゃぁ…」 どうやら九死に一生を得たらしい。 緊張の糸が解けた俺は履いていたTバックを正しながら大きく息を吸って、 さっきまでの不安をぶちまけるように虚空へと息を吐き出した。 〜〜〜〜〜
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6 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:04:24.210 ID:J7EFiUnL0 - 危機を脱した俺達は山中を走っている。
アスファルトで補強された車1台がなんとか通れるくらいの道幅を待田は鼻歌を歌いながら走り続けていた。 緊張感のない奴め。 日本の山中なんていまだ平然と山賊が跋扈してるのに、いつ脇道から斧を持った男達に襲撃されるかわからんぞ。 「こうやって山の中を走ってると学生時代の事を思い出さないか?」 「んあぁ?」 「2年生の時にさ、やったじゃんオリエンテーション」 「あぉ、しょういえばやったなぁ」 あれは今から10年前の出来事か、当時14才の待田と30才前後の俺。 同級生の俺達はちょっとずるをしたんだったな。 他の班は真面目に草木生い茂る山の中、獣道を切り裂いて闊歩していたが、 俺達だけは舗装されたアスファルトの道を歩いて山を登りきっていた。 多少、遠回りにはなったが舗装されてない山の中を歩くよりはましだと思ったからだし、 そもそも教師陣が楽したいからと車で頂上まで行ける山を選ぶのが悪いのだ。 舗装された道があったら誰だってそこを通るだろう。
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7 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:05:06.027 ID:J7EFiUnL0 - あの時、俺達以外は真面目に山を登っていたけど、あいつらが異常なだけで普通なら絶対そうする筈だ。
現に最終的には俺達の行動が正しかった訳だし。 それは何故かと言うと、 あの時、土砂崩れが起きて俺達以外の生徒は全員土に還ってしまったからに他ならない。 「なちゅかしぃな」 「あぁ」 しかし、まさかあんな事になるなんて誰も想像できなかった事であろう。 あの日は生憎の大雨で地盤も緩んでいた事以外、土砂崩れが起きた理由なんて全く見当もつかない。 だから、あれは誰も予想できなかった悲劇なのだ…… 「ひゃひゃっ」 俺は楽しい過去を思い出したみたいに笑って、 でも特に語る事もないので、その話題はそこで終わった。
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8 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:05:48.726 ID:J7EFiUnL0 - 「……」
ふと、何気なく窓の外を眺めてると体操服を着た少年が歩いている。 下に肌着をつけてないのだろうか? 中学生男子がよくつけているタイプのブラジャーが透けて見てとれる。 俺も中学の頃は皆が体操服の下にTシャツを着てるのを知らなくて、 なんで他の奴等は俺みたいに下着を透けさせていないのか不思議だったものだ。 俺はあの頃貧乏だったから、皆とは材質の違う体操服を着ていたんだと卒業するまで思い込んでいた。 正確に言えば卒業式後のあの時までだが。 そんな昔の事思い出し、少年の姿にあの時の俺を見てるような気がしてノスタルジックな気持ちになってくる。 俺はその少年に人生の先輩として声をかけてみた。 「ふぉいっ!ひょ前!」 「……っ!」 少年はビクリとしながらこちらを見る。
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9 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:06:32.163 ID:J7EFiUnL0 - 「ピーシャツを着ろおっ!」
「……」 「ひたぁに!」 「……」 車は少年を追い越していく。 きっと今頃、目から鱗がこぼれ落ちている事だろう。 後輩に人生の先輩として重要な事を教えられた俺は少し誇らしくなって、左頬に刻まれたMoronと言う英単語。 意味は知らないが、かっこいいからと子供の頃に入れられた、恐らくクールな意味らしきタトゥーをかきながら、フロントガラスから見える切り取られた空を見上げた。 〜〜〜〜〜
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10 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:07:22.933 ID:J7EFiUnL0 - 「ひゃなせっ!けがわらしいゴミョ共がぁ!」
山を抜けた俺達は1週間前に所属していた組織に捕らえられていた。 「ひゃなせよぉっ!!」 ちなみに待田は別の部屋へと連れられている。 「うるせぇっ!!」 そう叫んだのは俺のかつての仲間。 一緒の仕事をした時に、30分くらい休憩時間で話をした事がある仲だ。 そんな深い仲の人間に俺は今、乱暴されている。 「ほれが何したってゆうんだ!」 かつての仲間は俺の3つ目のチャームポイントである頭の天辺にピンと立って生えた癖っ毛。 それを乱暴に掴んで引きずりながら声を荒げた。 「テメェ、本気で言ってんのか!」 「ひゃにがだよ!」 たしかに俺達は組織の金4000万くらいに手を出したが、こんな仕打ちを受ける道理はないはずだ。
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11 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:08:06.158 ID:J7EFiUnL0 - 「あまり乱暴するな」
すると、奥から声がする。 「っ!おみゃえっ!」 その声の主は忘れるはずもない。 かつて自分達のリーダー、 龍の首飾りをした男のものであった。 「でも!こいつは!」 「そいつに善悪の区別はつかない……」 「……ちっ!」 そう言われて、かつての仲間は不服そうに俺の髪を離す。 俺はやっと離された癖毛を労るように撫でながら、痛みが他の範囲にも広がってるような気がして、 その天辺以外にはほとんど毛の生えてない頭を撫でながら、かつて仲間だった男を睨み付けた。 その間に入り込むようにして、首飾りの男は身長145センチもある俺と目線を合わせるようにしゃがみ込み、ゆっくりと語りかけてくる。
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12 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:08:48.888 ID:J7EFiUnL0 - 「まったく……お前達には困らされっぱなしだ」
「しゅきを見せるのがわるいんだよぉ!」 「隙だと?」 「完全にぬしゅめないようにしておいてくれてちゃら!俺達だってこんなことしなくてしゅんだんだ!」 「そうか」 「お前達のしょいだじょ!」 「それは悪かった……」 「ふんっ!」 「だが……やってしまったことは見逃せない」 「にゃんだとぉ?」 「償ってもらうぞ」 「俺がぁ?」 首飾りの男は龍を揺らめかせながら頷く。 「ふじゃけるな!!!まちゅだ!聞こえるかぁっ!!帰ろう、こいちゅら話にならねぇ!」 「テメェ!!舐めてんのか!」 かつて仲間だった男が俺に殴りかかってくる。 「おい!リィーヂャー!こいちゅを何とかしろ!」 俺は咄嗟に首飾りの男の背中に隠れ叫ぶ。
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13 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:09:37.427 ID:J7EFiUnL0 - 「やめろ」
「リーダー!!」 「こいつの相手は俺がする」 首飾りの男はかつての仲間を宥めると、ゆっくり俺に向き直りまた視線を合わせてきた。 「なぁ?俺はこのままだとお前を消さないといけなくなる」 「なんぢぇだよ!」 「俺もそんな事したくないがこのままだとそうせざるおえないんだ」 「にゃにぃ!」 「だがもう一度だけチャンスをやる」 「チャンチュだと?」 「このブツを郡山まで運べ、無事に運び終わればチャラにしてやるし盗んだ金も返さなくて良い」 見た目より軽そうなキャリーケースを見せながら。 「やってくれるな?」 「……」 こんな状況じゃ選択肢などないではないか。 俺は不服そうに歯を剥き出しにしながら「いいよぉ」と頷き、目の前の龍を揺らめかせた。 〜〜〜〜〜
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14 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:10:28.352 ID:J7EFiUnL0 - 「……」
「はぁ〜マジあり得ない〜」 「……」 「この私がこんなの奴等の見張りだなんて〜」 例のキャリーケースを膝の上に置きながら後部座席の女がぼやく。 「たくっ……こんなの私の仕事じゃないっての」 肩まである黒髪、両サイドには線が縦に引かれている用な紫のメッシュが入った女は、 上半身を落ち着きなく揺らしながら喚き続けている。 「はぁ〜最悪」 「ひょい!ちゃっきからうるちぇぞ!」 「はぁ?」 じろりとバックミラー越しに俺を見て、呆れたように溜め息を吐く。
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15 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:12:06.227 ID:J7EFiUnL0 - 「女の子は皆うるさいものよ。これくらい我慢しろっての」
「しるきゃ!そんなこと!いいかりゃ静かにしりょ!」 「はぁ?なにその言い方、女の子の扱い方も知らないとかあんた達童貞なわけ?」 「ひゃあ〜?」 どこまでも失礼な女だ。 「ひょれは違うぞ、まちゅだはそうだけでょな」 「ふーん、そうなの?」 「……まぁな」 「結構イケメンなのにね。まさかゲイなの?」 「はぁ?冗談はよしてくれよ」 待田は自分の膝の上に座らせた俺の頭を愛おしそうに撫でながら、憤慨したみたいに否定する。 俺も大事な友達が侮辱されて腹立たしくなった。 右の銅で出来た義眼が思わず飛び出そうになるのを押さえ女を睨み付けてやる。
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16 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:12:58.940 ID:J7EFiUnL0 - 「あーら怖い怖い」
「次ふざけた事言ったら本気で怒るぜ」 「しょうだじょ!」 「はいはい、わかりましたよ〜」 そう言うと紫メッシュの女はキャリーケースを枕に後部座席で横たわった。 これでしばらくおとなしくしてくれそうだ。 俺は興奮して位置がずれてしまったので、待田の膝から腰を何度も浮かし、ベストな位置を探るように座り直した。 俺の尻が待田の下半身に触れる度にこいつは謎の声を出すが、そんな事は気にせずにアクセルを踏む。 旅はまだ始まったばかりなのだから。 〜〜〜〜〜
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- 悪党が破綻した日
17 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:13:53.544 ID:J7EFiUnL0 - 「あんた、そのタトゥー何?」
「ひゃあ?」 しばらくして、また紫メッシュの女が話しかけてくる。 「どういう意図で彫ってるの?」 そういえば最初に会ったときも、俺の体のどの部分よりも顔のタトゥーに注目していたな、この女。 「ふんっ!ひょまえにおちえる必要はないだろ!」 「あら冷たいのね」 「ひゅん!」 「まぁいいけど」 「……」 「でも、クールね」 「…………へっ?」 「いかしてるわ」 「しょう?」 「えぇ」 「ひゅ〜ん……」 このタトゥーの良さがわかるなんて……案外、悪い女でもないのかもしれない。 機嫌を良くした俺は左手にある6本目の指を揉みながら、ニヤケそうになる顔を堪えた。
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18 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:14:41.227 ID:J7EFiUnL0 - 「ねぇ?」
「にゃんだ!」 「あんたの事、Moron(モラン)って呼んでいい?」 「ふん!しゅきにしろ!」 「Moron」 「にゃんだ!」 「呼んだだけよ」 「ふぅんっ!馴れ馴れしいきゃつめ」 「ふふ」 「ふんっ」 「…………Moron(知恵遅れ)ね」 〜〜〜〜〜
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19 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:15:41.233 ID:J7EFiUnL0 - 途中、道の駅に寄る。
あらゆるものが他で買うより高くつく場所だが俺達には組織からパクったかつて4000万円だったもの(80万)がある。 値札を見ずに買い物が出来るには十分な額だ。 目的地に着くと俺は財布をTバックに挟みながら車から降りた。 待田は俺の汗でびしょびしょになったズボンを少し乾かすようにして歩いていき、 紫メッシュの女はキャリーケースをセグウェイみたいにして乗って自販機へと走っていく。 「ふゅうっ!」 長時間のドライブで疲れた俺はおもいっきり伸びをしながら空を見上げた。 若干、オレンジ色に染まりつつある空が目に染みる。 そんな事をしていると、 薄汚い犬が俺のもう血の通ってはいない、銅で出来た左足にすり寄ってくるではないか。 「ひゃあ?」 犬種はゴールデンレトリーバーだろうか? だが、他の血も混ざってそうな見た目で純血という訳でもなさそうだ。 ちなみに俺もフランス人の血が半分入ってる。 日本とフランスのハーフだ。
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20 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:16:27.341 ID:J7EFiUnL0 - そして、その犬にはカブトムシくらいの大きさのてんとう虫を頭につけていた。
「あら、かわいい犬ね」 自販機で買ったのであろう、めんつゆを持った紫メッシュの女が近付いてくる。 「迷子かしら?」 「にゃんだ、いにゅっころ。飼いにゅしは?」 「……くぅん」 「はぐれたのかもしれないな」 股間部分に白い染みをつくった待田もやってきた。 「でも、この犬。首輪はつけてないみたいよ」 「そうか」 「にょらいぬか、おまえ?」 「くぅん」 「どうする?」 「そうだな……」 「俺にしゅりよって、でょうしてほしいんだ?」 「……くぅん」 俺達がさっきから声をかけても、犬はうんともすんとも言わない。 俺はそれについ腹が立ってしまい、思わず怒鳴り付けてしまった。 「にゃんとかいえ!このいぬきょろ!」
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21 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:17:11.329 ID:J7EFiUnL0 - すると先程から隣で「くぅん」「くぅん」と鳴いていた全く知らないおっさんがビクリと震え、
犬の方はいきなり怒鳴られた事で俺を敵だと認識したのか、凶悪な白い牙を剥き出しにして跳躍の構えをとった。 俺に飛びかかるつもりだ。 「こらっ!!ひゃめろ!」 「ガウッ!!」 「うわぁぁっ!!!!」 「グルルルッ!」 犬は俺に飛びかかりTバックへと噛みついて、そのまま引きずり下ろそうとする。 レースで出来ていて中央に愛らしいリボンがついた俺のTバックが、ビリビリと引き裂かれていく瞬間だ。 「まちゅだっ!早く俺ほ助けりょっ!」 咄嗟に待田へ緑色のヨダレを飛ばしながら助けを求める。 「こら!やめろ!」 「ぐるっ……」 犬は軽く唸りながら待田の方を向いた、その瞳は『邪魔するなら次はお前だ』というとても凶悪な瞳だったが、 待田はその犬に優しい眼差しを向けてゆっくりと瞬きしている。 そういえば、目を合わせてゆっくり瞬きをすると動物の警戒が解けると聞いたことがあるが、実際にその様子を見るのは初めてだ。
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22 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:17:53.523 ID:J7EFiUnL0 - 本当に効果があるのか疑問だったが、そんな疑念を吹き飛ばすかのように犬は唸るのをやめてみるみる大人しくなっていく。
待田を信用したみたいに軽く吐息を吐いて、犬は喰らい付いていた俺のTバックから口を離した。 その後は待田の方を見て、ゆっくりと地面に腰を下ろしたのである。 もうこの犬にはさっきまでの狂暴さは感じとられない。 それは俺の敵じゃなくなった瞬間だった。 「ほりゃあっ!」 そんな状態になった犬を俺はさっきのお返しだと躊躇なく蹴り飛ばす。 かつては俺の血肉だった……でも今は硬い銅で出来た、その悲しい左足で。 〜〜〜〜〜
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23 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:19:09.783 ID:J7EFiUnL0 - 「この犬の名前どうするわけ?」
すっかり俺達になついてしまった犬。 旅は道連れというし、あのまま置いていくのは忍びなかったので結局連れていく事にした。 「あんたに一番なついてるんだから、あんたが名付けなさいよ」 「オレか?」 待田は困ったなというように後頭部をかく。 こいつはネーミングセンスが皆無なのだ、きっとこの犬は泣きを見ることになるぞ。 「うーん、どうしよう」 「適当につけちゃいなさいよ」 女はめんつゆをゴクゴクと飲みながら言う。 「う〜ん……じゃあ……チャクスウェル……」 「はぁ?」 「ちゃくいすいえい?」 待田にしては良いセンスではないか。 俺は犬に食い千切られた左耳を取れないように押さえながら唸った。 「ひぃじゃねぇか、まちゅだ」 「ワン!」 チャクスウェルと名付けられた犬を見ると少し頬を緩めている。 どうやら気に入ったようだ。 頭についた巨大なてんとう虫も気に入ったように、 先程鳴らした「ワン!」という不気味な羽音を再び発声させて喜んでいる様子。 「じゃあ決まりね。よろしく犬と虫さん」 「ひゃあ!」 「あぁ」 それは仲間が2匹増えた瞬間だった。 〜〜〜〜〜
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24 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:19:53.201 ID:J7EFiUnL0 - 『そこの車!止まりなさい!』
道の駅を出てしばらく走っていると後ろからパトカーに呼び止められる。 「んぁ?」 「警察か」 「まずいわね」 「なじぇ目をつけられたんだりょ?」 俺は飲んでいたビールをダッシュボードに置きつつ、流石に警察には逆らえないので時速155キロの走行速度を落とそうとした。 だが、紫メッシュの女に「正気?」と後ろから腕を掴まれ阻止される。 「にゃんだよ?」 「止まるのはまずいでしょ」 「ひゃあ?」 「警察にこのキャリーケースを見られるのはまずいってことよ」 「そんなきょと言っても……」 「いいから、なんとか振り切りなさいよ」 「きゃんたんに言ってくれりゅじぇ……」 俺は更に30キロぐらいスピードを上げてなんとか振り切ろうとする。 ナンバープレートをつけてない車体はガタガタと震え、速度メーターの針は端で動きが止まり、道路は悲鳴を上げていた。 フロントガラスではさっきの全く知らないおっさんが必死にしがみついている様子が確認できる。 それを視界の端に入れつつバックミラーで後ろを確認すると、警察車両はもう追ってきていないようだった。
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25 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:20:35.684 ID:J7EFiUnL0 - 「……ひゃ」
だが、あっさりすぎる…… たかが時速180キロで警察を振り切れる訳がない。 きっとどこかで待ち受けていたり先回りされているはずだ。 「まじゅいぜ……」 だから、咄嗟にカーナビの案内を切って地図を目的地までの全体表示にし、可能な限り直線で目的地に目指す事にした。 道路を外れ山の中へと入っていく車、この道なら警察も追ってこれないだろうと枝分かれする獣道を爆走していく。 しばらく木を薙ぎ倒しながら走り続けて、もう大丈夫だろうと思える距離になってからスピードを落とし一息吐いた。 スピードを出したからかフロントガラスには小さな虫が大量に貼り付いている。 周知の通り俺は潔癖症なので当然洗車したい気持ちに駆られたが、 それをフロントガラスにしがみついている全く知らないおっさんが、まるで空豆でもつまむみたいにチビチビと食べて掃除してくれていたので、 何とか気にしない方向にもっていけそうだった。 おっさんに感謝しながら俺は掌に唾を吐いて郡山へ向かう道へとハンドルを滑らせる。 〜〜〜〜〜
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26 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:21:29.400 ID:J7EFiUnL0 - 俺達は長野県千曲市に突入していた。
今は姨捨の棚田という美しい段々畑の中を車で下っている真っ最中だ。 ガタゴトと揺れる車内。 振動で体中が痛いが、走っているのは水田の中だ、スピードを少しでも緩めたらそのまま止まってしまうかもしれない。 だからノンストップで走り続けるしかないのだ。 「ねぇ」 現在ハンドルを握ってるのは紫メッシュの女。 「ん?」 「にゃんだよ」 俺と待田は後部座席で背中をくっつけあいながら、でも手は繋いだ状態で女の方を見る。 「こんなところ車で走って良いの?」 「問題ない」 「いいにきみゃってるだろ!」 「でも、道じゃなくない?」 「ひゃあ……?」 女というのは運転が下手な生き物と聞いたが、知識までもが足りないのか? まさかとは思うがアスファルトで出来た道路だけが道だと思っているのだろうか。 「まちゅだ……笑えるな」 俺は待田の手をギュッと握り締めながら笑った。
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27 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:22:12.270 ID:J7EFiUnL0 - 「大丈夫だ、そのまま走り続けてくれ」
待田の方も俺の手をしっかりと握り返しながら、でも女をフォローするように答える。 「そう?……なら走り続けるけど」 「そうしゅりょ!」 ややキレ気味に答えて元の体勢に戻す、休めるときに休んでおかなくてはもうじき四十になる体が保たないからだ。 横たわる直前に見えた、全く知らないおっさんが泥だらけになりながらフロントガラスに必死でしがみついている光景を少し思い出しながら、俺はもう一眠りついた。 〜〜〜〜〜
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28 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:23:57.556 ID:J7EFiUnL0 - 車は群馬県吾妻郡嬬恋村に到着する。
そこで俺達はとある喫茶店の前に駐車していた。 軽いティータイムはもちろん朝食から夕食までお気軽にご利用いただけるカフェ&レストラン。 そういう甘い謳い文句に誘われて休憩がてら寄る事にしたのだ。 その喫茶店はガーデンテラスがあり、そこからは広大な浅間山が見えた。 雰囲気の良い店だなと思いながら俺は道中の山で知らないおっさんが狩ってくれた血塗れた猪を手に喫茶店へと入っていく。 「いらっしゃいまっ……」 店員はお決まりの挨拶を最後まで言い切らず、ギョッとしたような顔で俺達を見つめる。 最近はマナーのなってない店員も増えたなと目の前の社会問題を嘆きながら、カウンターへとその猪を乗せた。 「これ捌いてくりぇ」 「は、はい……?」 「私、出来れば鍋が良いなぁ〜」 後ろからひょこっと顔を出しながら紫メッシュの女が言う。 「ひょっ!いいぢゃねぇきゃ〜」 これは良い提案だ、やっぱり猪は鍋じゃないと。 「あー、ぼたん鍋ってヤツか。いいね」 待田も同意見のようだ。
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29 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:24:54.744 ID:J7EFiUnL0 - 「あ、あの……」
しかし、店員は困ったように奥をチラチラ見ながら、どうしたらいいのかわからない様子。 「捌けないにょか?」 「えぇっと……そう……ですね……当店ではそういったサービスは……」 「しょうか……」 まさか出来ないとは考えもしなかったが、俺達もクレーマーじゃない。 出来ない事なんて世の中にはたくさんあるのだから。 俺にだって出来ない事は当然ある。 例えばトイレの後に水を流したりとか、金を払うのが苦手で会計が上手く出来なかったりする。 だがそんな俺でも猪を捌く事は出来た。 だから…… 「キッチュン借りるじょ」 「へっ……?えぇっ?」 「俺が捌きゅ」 奥へと猪を引きずって進んでいく。 こいつらに出来ないなら俺がやるしかないだろうと。 だが、そんな俺を制止するように店員が立ち塞がってきた。 「こ、困ります!」 「にゃんだとぉ?」 「関係者以外の立ち入りは禁止してまして……」 「?」 何を言ってるのか意味がわからない。 ちゃんと捌けるのか心配なのだろうか?
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30 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:25:47.939 ID:J7EFiUnL0 - 「問題にゃい」
心配ないと宥めながら再び進もうとする。 「あっちょっと!困ります」 また立ち塞がる店員。 「問題にゃいから」 「問題はあるんですよ!」 「いいきゃら!」 「何がですか?」 「とにかくいいきゃら!!」 「ダメですってば……」 「いいってびゃ」 「だから……」 「いいって言ってるでゃろ!!」 そんな押し問答を繰り返し、ついカッとなってしまった俺は怒鳴り声をあげてしまう。 それを合図にと知らないおっさんが店員目掛けて発砲してしまった。 弾丸は店員の頬をかすめ、そこに赤い線を引く。 たったそれだけの出来事で店員は卒倒し、さっきまで俺を邪魔していたものはいなくなってしまった。 「……じゃあ、キッチュン借りりゅな」 もう聞こえてはいないだろうが、 一応床に突っ伏している店員にそう告げて俺は店の奥へと入っていく。 奥にいたコックと同じようなやりとりをした後、俺は皆に猪鍋を振る舞った。 〜〜〜〜〜
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31 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:28:57.237 ID:J7EFiUnL0 - 猪鍋を堪能した後、俺達は草津へと車を走らせる。
一緒に食事をしたからか車内のメンバーとも少し仲良くなれた気がした。 「ひょい!すげぇ街並みだにゃ!草津って」 俺がそう皆に声をかけると待田は「そうだな」と眠そうに返し、 紫メッシュの女は聞こえなかったのか無反応。 犬とてんとう虫は寝ているし、フロントガラスのおっさんは吸い込まれそうな黒目で俺をじっと見つめている。 「だにゃ!!」 そんな皆の反応を見て、やはり思い過ごしなんかじゃなく、 俺はこいつらと仲良くなれてる気が間違いなくした。 俺はまるで新しい友達が出来たようや気がして嬉しくなる。 いままで友達なんて待田以外いなかったからだ。 「ひゃ〜」 上機嫌になりながら俺は草津の温泉街へと入っていった。 理由は勿論、泥だらけになった車を洗うためだ。 あの店の畑から頂戴した嬬恋村名産のキャベツを丸かじりにしながら、どの温泉にするか草津の街を見渡す。 「……どこが一番いいんだりょ?」 流石は草津、たくさんの風呂場や温泉宿がある。 こんなにあるとどこに入ればいいのかわからない。 「どこも一緒でしょ」と紫メッシュの女。 「適当な所入っちゃえば良いじゃない」 「ひゃあ?おみゃえは本当に適当な奴だにゃ」 食事も腹に入れば全部一緒というタイプの奴なんだろうと、 新しく出来たマブダチを分析しつつ、適当に選んで後悔はしたくないので店をゆっくりと吟味する。
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32 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:30:00.933 ID:J7EFiUnL0 - 「ひょっ……!」
すると外観が一番立派な宿に目が止まった。 「ひゃあっ!!あしょこにするじぇ!!」 「はぁ?どこよ?」 「ありぇありぇ!!」 「おー、良さそうな宿だな」 「あしょこに決まりだじぇ!いいな?みんにゃあ!」 「あ〜、まぁ別に良いけど」 「オレも賛成」 「ワン!」 チャクスウェルのてんとう虫がまた不気味な羽音を響かせる。 どうやら賛成のようだ。 前を見るとフロントガラスのおっさんも頷いているような気がした。 どうやら全員同じ気持ちらしい。 「よしゅ、決定!!」 俺は目的の宿に時速160キロで突っ込んだ。 〜〜〜〜〜
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33 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:31:06.379 ID:J7EFiUnL0 - 只今、絶賛洗車中である。
源泉掛け流しの湯を直に車に掛けてやると、心なしか車も喜んでるような気がした。 「ほらチャクスウェル、体キレイにしてやる」 待田の方もチャクスウェルを温泉につけてゴシゴシと洗っている。 「気持ちいいか?」 「……」 犬は風呂嫌いがほとんどらしいが、おとなしくしている辺りあいつはそうじゃないらしい。 温泉の硫黄臭さも気にならないようで鼻も犬にしてはよくないのが伺える。 待田も鼻炎を患っているのであいつらは似た者同士なのかもしれない。 さっきはあの犬に少し酷いことをしたし仲直りとして、俺がたまに待田にしているみたいに口で鼻水でも吸いとってやろうかなと思った。 友達と仲良くしてる奴とは仲良くしたいものだからな。 「冷たっ!もうっ!」 足湯に浸かってる紫メッシュの女が悲鳴をあげる。 全く知らないおっさんが体をブルブルと振ったから水滴がかかったようだ。 一々うるさいやつだと女を侮蔑しつつも、俺は自分の体に泡をつけて車を丁寧に洗い続けた、 定期的に喘ぎ声を漏らしながら。 そうこうしていると……
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34 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:32:20.427 ID:J7EFiUnL0 - 「ちょっと!!何やってんだい!!あんた達!!」
突如、響き渡る怒号。 そちらを振り向くといかにも頑固そうなババアが佇んでいる。 「うちの風呂は車も!犬も!混浴も許しちゃいないよ!!」 頭が固くて融通が効かなそうなババアは、ヒステリーを起こしたみたいに叫び続けた。 「っ!!壁にこんな大きな穴空けやがってぇっ!!あんた達いったいなんのつもりだい!!覚悟は出来てるんだろうね!!」 めんどくさいことになったなと、俺は艶かしい自分の体から泡を落としながらババアの方へと向き直る。 「洗車じょえ」 「はぁ!?」 「車を洗わせちぇもらっちぇる」 「温泉でかい?」 俺は可愛く頷く。 「ふざけてんのかい!!あんた達!!!」 ババアは突発的に持っていたチェーンソーのスターターを勢いよく引いた。 直前まで使用していたのか、それとも温泉地だけあってエンジンがすでに温まった状態だったのかは不明だが、 チェーンソーはすぐさま起動し、けたたましい音を唸りあげる。 「ひゃあっ!?やべぇじょみんなぁ!」 俺は情けなく叫ぶが、10メートル先にいる皆には俺の声どころか、この一連のやりとりすら聞こえていない様子。
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35 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:33:22.665 ID:J7EFiUnL0 - そうこうしてるうちにババアが目前まで迫り寄ってきていた。
「きぃえぇぇぇぇえっ!!!」 「ひょえぇぇぇぇぇっ!!!」 ヤバイと思い咄嗟に頭を覆うが防ぎきれない。 終わったと思ったが、洗車していた事が幸いし泡まみれになっていた床にババアは足を滑らせてしまう。 「ぐぇっ!」 無様に地面とキスするババア。 そして、その手から離れたチェーンソーは、まるで乗り手の居なくなった一輪車のようにひとりでに進みUターンして持ち主の方へと向かっていく。 「っ!!!こっちくるんじゃないよっ!!!」 向かってくる走る凶器から逃がれようとよたよた逃げ惑ったが、チェーンソーは躊躇なく足の靭帯を切り裂きババアは地面に屈伏した。 「ギャアアアアッ!!」 ババアが床でのたうち回る。 「ちょっとおっさん、ここは足湯だっての。浸かるな浸かるな」 「よし、もうすぐ終わるからな?チャクスウェル」 こんな大騒ぎを起こしても仲間達はまだ気付かない。 その代わりにと騒ぎを聞き付けて一人の男が入ってきた。 俺達にとっては招かれざる客だ。 その男は両腕に腕時計をつけていて、 左手には文字盤全体がアメリカ国旗の星条旗を模した物を、 右手には中央下に小さくワンポイントのように入ったフランス国旗を模した時計をつけている。 ちなみにどちらも日本時間を刻んでいた。
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36 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:34:22.694 ID:J7EFiUnL0 - 「お婆さんどうしました?その怪我は……」
「あんた!!ちょうど良いところに!」 俺を指差すババア。 「こいつらにやられたんだよ!なんとかしておくれぇっ!!」 俺は指を差された事でつい反射的に自分の体を見てしまい、 半裸になった自分の姿を見て「見ないでっ!」といった具合で体を手で覆った。 「毎月みかじめ料を納めてんだからあんたにはそれをする義務があるだろ!」 「私が……ですか?」 「暴力は得意ではないのですが」とポリポリ頬をかく国旗の男。 「いいから早くしなぁっ!!」 「はぁ……仕方ありませんね」 男はこちらに向き直る。 俺は近くにあったネグリジェで自分の体を隠す。
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37 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:35:32.130 ID:J7EFiUnL0 - 「まずは自己紹介をしましょうか?」
「……ひゃあ?」 「私は幌日東馬、アガツマの人間です」 「あがちゅま?」 「貴方の名前を教えていただきます?生年月日と顔写真もよろしければ」 「にゃに言ってるんだ……おみゃえ?」 「アドレス帳に登録したいんですよ……貴方を」 「ニャンパか?」 「いえ、そうではありません警戒しないでください」 スマホを取り出しながら続ける。 「アドレス帳のですね……『へ』と『れ』が埋まってないんですよ」 「ひゃあ?」 「こういうのって気持ち悪くないですか?」 「さっきからにゃにいってんだ?おみゃえ?」 「全部、埋まってないと……気分が悪いんです……」 アガツマという組織名を名乗った国旗男は拳を構えて更に続ける。 「貴方の名前がそのどちらかから始まればありがたいのですけど……」 1歩1歩と迫りよってきて…… 「まぁ、違ったとしても構いませんけどね」 お互いの距離が5メートルくらいになったときに…… 「貴方を殺してアドレス帳をいただきますから……その中から、ゆっくり欠けたピースを探させてもらいますよ……!!」 先程までの穏やかな表情は消え失せ、男は獣のように襲いかかってくる。 「ちくちょうっ!!」
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38 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:36:36.554 ID:J7EFiUnL0 - 国旗男の両手から素早い殴打が浴びせられた。
胸、脇腹、肩、腿ときて男は宙返りし踵落としを首筋へと繰り出してくる。 「がはっっ!!がぁっ!!!」 全く知らないおっさんが急にえずき出したのを少しだけ心配しながら、俺は繰り返される国旗男の猛攻を必死に防御していた。 泡を落としたとはいえ、俺の体はいまだにヌルヌルしている。 そのおかげか衝撃を和らげ奴の攻撃を辛うじて耐える事が出来ていたのだ。 「タフですね……だったらっ!!」 国旗の男は背後に回り込み腕で首を絞めてくる。 「ぐっ……がぁっ……!!」 知らないおっさんがまだまだえずいているのを心配しながら俺はもがく。 首に絡んできた腕をどうにかしようと、俺は国旗男のたくましい腕を優しく羽根でくすぐるみたいに触れてみたりキスしてみたりした。 「貴方っ!何をしてるんですかっ!!」 更に首がキツく絞まる。 息が苦しい…… 「はぁ……はぁ……」 酸素が足りなくなって息が上がっていく。 「はぁ……あんっ……あぁっ……あぁぁんっ!」 「変な声を出さないでください!!気色が悪い!!」
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39 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:37:51.621 ID:J7EFiUnL0 - なんとかしなくては……
俺はこの状況を打破する何かを必死に思案しながら、国旗男のよく鍛え上げられた脂肪のついていない太股を擦った。 「やめなさいっ!!」 その時、どうしてかはわからないが絞められていた腕が一瞬弛む。 俺はその隙を見逃さない、すかさず左足に収納したナイフを取り出し背後にいる男を軽く斬りつける。 「がっ……!」 一度は劣勢を強いられたが立場は逆転だ、相手は丸腰で手負いになった。 勝利の風は俺に吹いている。 「もう動きゅな……しにゅぞ」 「くっ……!」 首筋、左胸、右脇腹、右太股から赤いものをダラダラと流した男は顔を伏せ降参といったように両手をあげようとした。 その瞬間、銃声が鳴り響く。 音の主は国旗男の頭を貫き、先程までお互いの熱を感じあっていた男はもうただの物言わぬ塊へと成り果てていた。 いったい誰が? 辺りを見回すとそこには…… 「お、おっしゃん……」 どうやら知らないおっさんが助けてくれたらしい。 リボルバーを構え険しい顔で国旗男だった物を睨み付けている。 「ありがちょう……たしゅかったぜぇ……」
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40 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:38:53.848 ID:J7EFiUnL0 - 本当に危ないところだった。
ネグリジェで汗を拭いながら一息吐くも、呆然としているババアを見て俺はハッとする。 そうはさせないぞと急いで国旗男の死体へと駆け寄った。 いやしいババアに横取りされる前に財布やスマホ等を漁るためだ。 財布の中身は三万円でカードの類いはなし。 スマホにはドイツ国旗のキーホルダーがついていてセキュリティロックがかかっていたが、古いタイプの物でこの機種には欠陥があるのを知っていた、 ステータスバーを下ろし適当な通知、今回はメールのお知らせをタップする。 するとパスワードなしでメール画面が開き、中央の物理ボタンを押すとホーム画面へと進んだ。 「楽勝」と俺は可愛く呟いて…… 「しゃてと……」 正当防衛とはいえ人一人殺めてしまったんだ。 こいつの仲間が復讐で追ってくる可能性がある。 自分達の身を守るため、アガツマという組織の情報がないかとアドレス帳を開いてみた。 するとそこにはきっちり名字から名前まで記載されていて、 さらに誕生日や関係性、顔写真に至るまで完璧に情報が埋まったアドレス帳が表示される。 これは個人情報の宝石箱だ。 そして律儀にも、アガツマの構成メンバーも全員グループ名『アガツマ』と付けて、しっかりと登録されていた。 俺はそこにあるメンバーを覚えながら、三万円をティーバッグの中に入れる。 これは戦いの序章なのだと感じながら…… 〜〜〜〜〜
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41 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:40:01.153 ID:J7EFiUnL0 - あの後、不運な事に俺達は騒ぎを聞き駆け付けてきた警察と鬼ごっこを繰り広げ、なんとか長野原まで逃れるもそこの市警に捕らえられてしまっていた所だった。
今は署へと連行されている真っ最中である。 だが、俺達は法に触れるような事は何もしていないし、あのババアも俺達の正当性を証明してくれるはずだ。 心配することはない。 「ひょっ?」 しばらく走行していると長野原警察とかかれた看板が見える。 もう着いたのかと一瞬身構えるが肝心の警察署の姿が見当たらない。 どういう事だろうと思っているとパトカーは脇道を通っていく。 そこは坂道になっていて、坂を上りきると外からは見えなかった警察署が現れた。 俺と待田、紫メッシュの女の3人は署内へと連行される。 知らないおっさんとチャクスウェル達はどこかに行ってしまったので今は俺達だけだ。 「ほらっ!早く歩け!」 急かす警官。 待田はわかったというように手を胸の高さまで上げて、紫メッシュの女は自分にかけられた手錠を針金でカチャカチャとやっている。 この女は何をしているんだろうか? 皆目見当もつかない。 俺の方はというと偉そうな警官のケツポケットから財布を盗みだそうと何度かチャレンジしていた。 そんな風に皆がおとなしくして、お行儀よく指示に従っていると署内で別の警官にすれ違う。
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42 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:40:54.239 ID:J7EFiUnL0 - 「ひょっ……!」
そのすれ違った男は…… アドレス帳でみたアガツマの構成メンバーと瓜二つだ。 「やべぇじょ……俺達…けしゃれるじょ……」 「どうした?」 「さっきのアガチュマの人間ぢゃ……警察にアガチュマの情報がもりょないよう消しにきちゃんだじょ……」 「なんだと?」 「た、大変だじょ……早く逃げなきゃ……」 「落ち着け……!」 「でも……このみゃみゃじゃ……」 「ふーん」 紫メッシュの女がその両手にかけられた手錠を片方外しながらつまらなさそうに呟いた。 「っ!おみゃえ!何を他人事みたいにぃ!」 「まぁ……大丈夫よ、なんとかするから」 「ひゃあ?」 何を言ってるんだこの女は? こんな状況でどうすることも出来ないだろう。 俺は何か悪口を言ってやろうとしたが、いつの間にか取り調べ室の前へとつき会話はそこで終了させられる。 中に入ると3、4人の警官と、特に目立った特徴のない刑事らしき男が、ワイングラスに豚汁を入れて待ち構えていた。 これと言って特徴のない男は見掛け通り平凡な口振りで語り出す。
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43 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:43:41.914 ID:J7EFiUnL0 - 「ごきげんようだす。君達だすか?あっちこっちを騒がしてる悪党だすだすわ」
「俺達はしゃわぎなんておこしてないじぇ」 「おっと、そっちの言い分は聞いてないだすよ、事実だけあれば背景には興味ないだす」 なんて刑事だ、俺は侮蔑するように見る。 「ん?よく見ると君……中々可愛いだすな」 「ひゃあ?俺が?」 「好みだすよ……」 特徴のない男が軽く頬に触れてきた。 「にゃっ……にゃにすんでぃ!」 突然の事で俺もつい可愛いらしい反応をしてしまう。 そんな俺の反応に笑みをこぼしつつ男は告げた。 「そうだす……まずはだすね……持ち物検査と行こうだすだすか?」 言い切ってすぐ、男の手が俺のBカップのバストに触れる。 「ひゃあっっっ!!」 「おい!!!」 「わぁお」 叫ぶ俺、怒る待田、半笑いの女。
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44 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:44:53.837 ID:J7EFiUnL0 - 「やめりょ!!どこをしゃわっているんだ!?」
「ほう……なかなか良い揉み具合だすよぉ」 「やめろぉ!!!」 待田が飛びかかってくるも後ろの警官に抑えられて阻止される。 「離せっ!!くそっ!!」 「まちゅだっ!」 「ふふ……そういう関係だすか?それはそれは……燃えるだすなぁ」 これといって特徴のない男は先が2つに分かれた舌を出しながら、待田に見せつけるように俺を辱しめた。 「ひゃあっ……やぢゃ……やめてっ……」 ビクビクと震える俺、歯を食い絞り睨み付ける待田、ヘラヘラと笑いながら見る女。 だが、男の手は休まらない。 俺の控えめな胸を弄りながら、片方の手は下の方へと…… もう耐えきれないと退出する警官が1人。 鬼の形相の待田。 女は腹を抱えて笑い出しそうな勢いだ。 こんな絶望的な状況を、 次の瞬間、室内に入ってきた1人男が一変させる。
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45 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:46:01.633 ID:J7EFiUnL0 - 「おっと、お楽しみ中すまんな」
その男は軽い調子で謝ると同時に手を振った。 すると俺の背後にいた特徴のない男がバタリと倒れる。 どうやら何かが奴の頭に激突して、俺の背後には今スイカ割り会場が開幕しているようだ。 「にゃっ……!」 だが、俺はそんな物よりも部屋に入ってきた男の方を凝視する。 こいつはさっきすれ違ったアガツマの男だ…… 警官の服装に頭はスキンヘッド、顔のシワから予想するに年は50才くらいだろうか、 手には鎖鎌を持っていて、どうやらその鏃部分で特徴のない男を仕留めたようだ。 「霊前時刑事!!」 周りの警官がもう息のない奴の名を叫んだ、名前までもがこれといって特徴のないどこにでもいるような名前だ。 だが、今はこいつの名前なんてどうでもいい…… 「まじゅいじょ……!!」 早速、アガツマが口封じに来たのだ、 しかもこの男、雰囲気でわかるが国旗男よりも遥かに強い。 早々に皆殺しにされる。 俺は恐怖で膝から崩れ落ち、 その拍子に後ろに転がってる死体から金目の物をしっかり吟味して、うっかり全てティーバッグの中にしまってしまう。 その間にも、ただ者ではない男はヒュンヒュンと音を鳴らしながら、どんどん警官達を無力化していく。 赤で彩られる室内。 それを塗り潰すように赤い照明がつき、緊急事態発生という放送が響き渡った。
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46 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:47:03.889 ID:J7EFiUnL0 - 「詰んだな、お前ら」
ただ者ではない男はそう吐き捨てる。 「……っ」 確かにその通りだ、俺達にもう未来はない…… 今後のため必死に金目のものをティーバックに詰めながら俺は絶望した。 しかし、アガツマの男は俺達3人には手を出さず、何故かゆっくり室内から出ていく。 そして部屋を出て奴は床に倒れ込み「助けてくれぇ」と叫んだ。 「……?」 最初はどういうつもりかわからなかったが、少し考えて顔が青ざめる。 あの男は今、警官の服装をしているではないか。 ということは、 今、周囲に転がってる警官達はあいつがやった物だが、この状況を見れば俺達がやったと判断される訳だ。 数秒後には駆け付けてきた大勢の警官に問答無用で射殺される。 あの男の方はその混乱に乗じて逃げれば良いだけで、 邪魔者は全員消せて自分は安全に帰路につける。 やはり見た通り、あの男はただ者ではない。 「やべぇじょ……!!」 狼狽える俺。 いまだにショックを受けている待田。 女は両手を頭に乗せながら「ちょっとめんどくさいことになっちゃったわね」等とほざいていた。 よくこんな状況でそう呑気に余裕をこいてられるものだと思ったが、女の手を見ると何故か手錠がなくなっている…… 「おみゃえ!手錠は……?」 まさか食ったのか?そう言おうと思ったが、紫メッシュの女は「んー?」と言いながら、 いつのまにか外していた手錠をポイッと床に投げ、紫にデコレーションされた自動拳銃を取り出す。
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47 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:48:07.919 ID:J7EFiUnL0 - 「私が援護するから2人はさっさと逃げなさい」
「おみゃえ1人で援護しきれるきゃ?相手は少なきゅても30人いじょーは来るじょ!」 「まぁ、ベストは尽くすわよ」 ガチャッと音をたて拳銃を構える。 「早く行きなさい」 「……でみょ」 「ここで悩んでても死ぬだけよ」 「っ……まちゅだ!いくじょっ!!」 「……」 「まちゅだ?」 待田はさっきの事をまだ気にしているようだ、俺達の声が聞こえていない。 「なにしてんの?早くしなさいよ」 「まちゅだ!!」 「……」 それほどショックだったのだろう。 待田が悲しんでいる…… 「まちゅだ……」 その姿を見てると俺も…… 「うっ」 「はぁ?」 「うぅっ……ぐすっ……」 「なに泣いてんのよ」 俺はさっきの辱しめを思い出し涙が止まらなくなっていた。
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48 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:49:28.848 ID:J7EFiUnL0 - 「ちょっと?もぉ、情けないわねぇ」
ハンカチを手渡す女。 「しっかりしてよ」 「すまねぇ……」 「あんたも早く立ち直りなさい」 「……」 「聞いてんの?」 待田は暗い顔をして俯いている。 「まちゅだ……」 「…………オレは……お前を守れなかった……」 待田がやっと重い口を開く…… 顔を上げると待田も泣いていた…… 「気にしゅるな……まちゅだ……」 「くそぉっ!!」 「まちゅだぁ……」 「ちくしょうっ!!」 「反省会は後にしてくれる?今は早いとこ逃げないといけないんだから」 待田の手を引くが奴は動かない。 「ちょっと!」 「……」 「もぉー」 なら仕方がないと女は待田を抱えて外に出ようとした。 しかし、すでに部屋の外には……
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49 :以下、5ちゃんねるからVIPがお送りします[sage]:2018/08/01(水) 02:50:42.496 ID:J7EFiUnL0 - 『銃を捨てて降服しろ!!』
応援に駆け付けてきた警官が周囲包囲している。 「やべぇじょ……」 「あらま」 絶体絶命だ、 活路はどこにも見出せない。 もう終わりだと俺は歯茎を剥き出しにして嘆くが、 その時、警察署の壁をぶち破って1台の車が現れる。 その車は見覚えがあった。 それに乗った人間にも見覚えがあった。 「おっしゃん!!!」 知らないおっさんが俺の愛車を運転して突っ込んできたのだ。 おっさんは軽く手を振って『乗れ』という合図をする。 しかし、警官達は突然現れた車に驚き全員が拳銃をそちらに向けて一斉に発砲。 「おっしゃん!!!」 ヤバイと思ったが、おっさんの運転する車は一輪のタイヤだけでクルクルと回転し銃弾を全て弾き飛ばし、 さらに子供向けに擬人化した車のキャラクターみたいに2つの前輪を平泳ぎするみたいに動かし、警官達を掻き分けながら俺達の元にやって来たのだ。
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