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以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
ミスった
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」

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紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:01:53.49 ID:Iof5d2+a0
この日から五日間、私は毎日梓ちゃんを物置に閉じ込めた。
梓ちゃんは抵抗したけど、私は力ずくで押し込めた。
二日目は特に激しく抵抗したから、私は梓ちゃんをぶった。
何度もぶつと、梓ちゃんは大人しくなった。
閉じ込められた梓ちゃんが泣き喚き、しばらくして私がドアを開け、手を繋いで帰る。
それから電話をかけて、私は梓ちゃんに謝って仲直りをする。
電話で交わす言葉数は少しずつ減っていった。

四日目で梓ちゃんは抵抗しなくなり、物置の中で啜り泣くだけになった。

梓ちゃんが泣くと、私は悲しくなった。

お願いだから、泣かないで。
お願いだから、「どうして」なんて訊かないで。


五日目、私は梓ちゃんに「泣いたら絶対に出してあげない」と言った。
梓ちゃんはそれに従ってくれた。

私の好奇心は確実に梓ちゃんの重荷になっていたはずなのに、梓ちゃんはこの事を誰にも話していなかったらしく、唯ちゃん達は普段と変わらず私に接してくれていた。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:08:56.28 ID:Iof5d2+a0
【平成23年 10月28日】


律「かんぱーい!今日もお疲れー!」

りっちゃんの音頭で、私達は缶の蓋を開けた。

唯ちゃんとりっちゃんはゴクゴクとお酒を喉に通し、澪ちゃんはちびちびと飲んだ。
私はみんなが飲み始めたのを確認すると、ゆっくりと缶につけた。

時計は10時を回っていて、テレビは何度目かわからないくらい放送した映画を流している。
筋肉質な男がテロリストに占拠されたビルに取り残される、有名なアクション映画。

澪「この映画って最後どうなるんだっけ」

律「え?テロリストやっつけて終わりだろ」

澪「そりゃそうだけどさ、どういう流れだったかなーと思って」

唯「どうだったかなー?何回も見たけど忘れちゃったよ」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:15:17.19 ID:Iof5d2+a0
私はみんなほどテレビも映画も見ていなかったけど、この映画のラストは覚えていた。
結局テロリストは思想家でもなんでもない、ただのこそ泥。
敵のボスは死闘の末、哀れビルから転落。


律「流れなんてどーでもいいって。悪い奴は最後死んで地獄に落ちるの!」

唯「そうなの?」

律「そう!」

唯ちゃんがりっちゃんに笑顔を向けて言った。

唯「じゃああずにゃんは悪い事してないからいなくならないね〜」

りっちゃんは、しまったという顔をして、澪ちゃんに目配せして助けを求めた。

澪ちゃんもどうしていいかわからず、苦手なはずのお酒をぐいっと飲んだ。

テレビから響くマシンガンの音がとても耳障り。
なんで男の人はこう乱暴なのが好きなんだろう。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:19:34.08 ID:Iof5d2+a0
紬「かんぱーい!」

空気を変えるために、私は空気を読まずにわざと間抜けな調子で二回目の音頭をとった。

みんなもそれに続き、お酒は進んだ。

澪ちゃんがリモコンのボタンを押してテレビを消したけど、今度は唯ちゃんも止めなかった。

律「おらー!澪飲め飲めー!」

りっちゃんが大袈裟に澪ちゃんに詰め寄った。
澪ちゃんはりっちゃんを小突いてそれをやめさせる。
唯ちゃんはそれを見て笑顔になる。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:22:57.11 ID:Iof5d2+a0
みんなお互いの胸のうちはよくわかっていた。
私はみんなの考えている事が手に取るようにわかったし、きっとみんなも私の事
をよく知ってくれている。
ひょっとしたら、私の知らない私の事も。

だから、いっその事みんなに聞いてしまいたかった。

「どうして私はこんな事を続けているの?」

梓ちゃんならきっと知っている。
私の気持ちは、私の手元にない。
全部梓ちゃんに叩きつけたから、もし梓ちゃんが棄てていなかったら、きっと今も梓ちゃんが持っている。

みんなが談笑を続ける一方で、私は時計が気になって仕方なかった。
さっき確認したばっかりなのに。

時計の針はほとんど進んでいない。

私はまた缶に口をつける。

スクリュードライバーはあんまり好きじゃない。
もっと甘いのが私は好き。
もっと甘いものを飲んで、食べて、それからもっと甘い曲を書くの。

中身を一気に飲み干して缶をテーブルの上に置いた時、私は唯ちゃんが時計に目をやっているのに気付いた。

唯ちゃんは時計から目を離すと、澪ちゃんと話しながら携帯電話に手を伸ばした。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:27:01.88 ID:Iof5d2+a0
【平成22年 12月12日】


私が音楽室に行くと、梓ちゃんは水槽の中でふわふわと泳ぐトンちゃんに向かって何か話していた。

紬「梓ちゃん、こんにちは」

梓ちゃんは私のほうを向くと、会釈だけをして、またトンちゃんに向かって何か呟き始めた。

紬「何のお話してるの?」

私は梓ちゃんの隣に行き、水槽を指先でつついた。

梓「いえ……」

と言って、梓ちゃんは目を伏せた。

紬「そっか、トンちゃんは知ってるんだもんね」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:31:16.29 ID:Iof5d2+a0
梓ちゃんが私の顔をじっと見詰めた。

紬「なあに?」

梓「今日もあそこに入ってなきゃいけないんですか……?」

梓ちゃんは物置をちらっと見て言った。
私は無視して訊ねた。

紬「梓ちゃん、トンちゃんの事好き?」

梓「……はい。好きです」

紬「じゃあ一緒にご飯食べよっか」

梓ちゃんは拳をきつく握りながら言った。

梓「わかりました」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
237 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:34:40.30 ID:Iof5d2+a0
私は梓ちゃんのティーカップにトンちゃんの餌を入れて、梓ちゃんに差し出した。

梓ちゃんは眉間にシワを寄せ、目に涙を浮かべながらそれを食べた。

紬「泣いたらダメだからね」

梓「はい。わかってます」

梓ちゃんの物分かりが急によくなった事に、私は疑問を抱かなかった。
梓ちゃんと二人っきりで音楽室にいると、得体の知れないものが私の心を支配して身体を動かし、そういう思考を奪った。

梓「食べ終わりました」

紬「うん」

私は梓ちゃんの頭を撫でた。
梓ちゃんはびくっと身体を震わせた。
それが気に入らなかった。

私は梓ちゃんの髪の毛を掴み、そのまま頭を机に叩きつけた。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:41:20.65 ID:Iof5d2+a0
梓「……っ」

梓ちゃんが抵抗してくれなかったから、私はすぐに止めた。

もう物置に閉じこめても、梓ちゃんは泣かない。
ああ、私が禁止してるんだっけ。
どっちでもいいわ。
何か他の事をしないと。

紬「梓ちゃん」

私は座ったまま椅子をひきずり、梓ちゃんのすぐ隣に行き、顔を近づけ、梓ちゃんの頬を触った。

柔らかい。
暖かい。
唯ちゃんが気に入ってる気持ち、何となくわかる。

梓ちゃんは唇を震わせながら、じっと私を見据えた。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:45:36.69 ID:Iof5d2+a0
紬「梓ちゃん、前に言ってたよね」

梓ちゃんは何も答えなかった。

そっか。そんなに私が嫌いなんだね。

紬「こういうのに憧れてるって」

私は梓ちゃんのおでこに唇を押し当てた。

梓ちゃんは、「ひっ」と声を漏らした。

私は一度梓ちゃんの頭をぶってから、今度は梓ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。

カサカサに乾いた唇。
生臭い。
こんなのに憧れてるなんておかしいよ。

唇を離すと、梓ちゃんは私を突き飛ばす事もなく、膝の上で拳を丸めて微動だにしなかった。

紬「平気なの?」

梓ちゃんは小さく首を横に振った。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 17:49:33.35 ID:Iof5d2+a0
紬「嫌?」

梓ちゃんは黙ったまま首を縦に振った。
その拍子に、目から涙が溢れた。

紬「泣かないで」

私は梓ちゃんの足を蹴った。

梓「すみません」

梓ちゃんは急いで涙をごしごしと拭き取り、私に顔を向けた。

私はまた梓ちゃんに唇を重ねた。
梓ちゃんはぎゅっと目を瞑った。
私は目を開けたまま、梓ちゃんの唇を噛んだ。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:02:25.88 ID:Iof5d2+a0
梓「……つっ……!」

梓ちゃんは声を漏らして痛みに耐えた。
私の口の中に、血の味が広がる。

おいしくない。
私はドラキュラじゃないもの。
おいしいわけない。

私は唇を離し、梓ちゃんに立つように言った。
梓ちゃんは机に両手をつき、私は梓ちゃんの後ろに回って制服のシャツの中に手を入れた。

私に、梓ちゃんに対する情欲があったわけじゃない。
恋愛感情もない。

梓ちゃんの事は大好きだけど、それは恋愛とかそういう事じゃない。
私はただ、梓ちゃんを可哀想な目に遭わせたかっただけ。
それだけの理由で、私は梓ちゃんの身体を触った。

でも梓ちゃんが可哀想になると、私の心は軋んだ。
骨が歪み、皮が千切れるんじゃないかと思うほど、辛かった。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:07:57.62 ID:Iof5d2+a0
紬「よかったね梓ちゃん。憧れてたんだもんね」

梓ちゃんは、ふっ、と息を吐いた。
暖房をつけていなかったから、それは白く立ち上ぼり、すぐに消えた。

私は梓ちゃんのスカートの中に手を入れ、下着を脱がせた。

それから私の指は、そっと梓ちゃんの脆いところに触れた。

梓ちゃんの呼吸が乱れた。
それは性感によるものではなく、泣くのを堪えていたからだ。

紬「泣かないで」

梓ちゃんの声が震える。

梓「泣いてません」

紬「泣いてるよ」

梓「泣いてません」

紬「嘘。泣いてるよ。私の指、梓ちゃんの涙で濡れてるもん」

梓ちゃんは身体を机に倒し、顔を隠しながら言った。

梓「……すみません」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:12:23.62 ID:Iof5d2+a0
梓ちゃんはいよいよ泣くのを我慢できなくなり、机の上に涙をこぼし、しゃくりあげた。

私は梓ちゃんの中に指を入れた。

梓「っ……く……」

梓ちゃんはまた声を漏らした。
太股に血が伝う。

紬「痛いの?」

梓「……は、い……」

紬「でも憧れてたんだよね?」

梓ちゃんは答えなかった。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:16:05.35 ID:Iof5d2+a0
紬「そうなんでしょ?」

私は梓ちゃんの中に埋もれた指を動かしながら言った。

梓「あ……っ。違い、ます……」

梓ちゃんは泣きながら言葉をひりだした。

紬「泣いちゃダメって言ってるのに」

私はまた指を動かした。

梓「いっ……た……痛、い……痛い…………」

紬「じゃあ痛くなくなるまで動かすから」

それから私は指を動かし続けた。
梓ちゃんは随分長いこと涙を流しながら、痛みに耐え続けてくれた。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:20:16.65 ID:Iof5d2+a0
窓の外の日が落ちて部屋が暗くなる頃、梓ちゃんの声色が変わった。

動物的なその声に、私は少し怯えながら指を動かした。

指先に当たる、梓ちゃんの子宮の入り口が気持ち悪い。
こんなに小さくて弱々しい身体なのに、子供を作る事はできるなんて、なんだか不思議。

いつもならみんなの笑い声と演奏だけで構成される部室の音景は、単調に展開する梓ちゃんの声だけになり、私はそれがとても嫌だった。

添加物をどっさり入れて作ったお菓子のような下品な声を出し続ける梓ちゃんの身体から、雌の匂いが撒き散らされているような気がして、私は顔をしかめた。

梓ちゃんは一際大きな声で鳴くと、がくりと膝から落ちた。
梓ちゃんから私の指は抜け、てらてらと光る指先に私は寒気を覚えた。

それから私は念入りに手を洗うと、泣きながら項垂れる梓ちゃんの腕を掴んで立たせた。

紬「帰ろっか」

梓「……はい」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:23:08.55 ID:Iof5d2+a0
冬の通学路に、人は疎らだった。
街灯は頼りなく揺れ、私と梓ちゃんを導く。

ごめんね街灯さん。
いくら照らしてもらっても、梓ちゃんは元気にならないの。
私が家に帰って電話をかけないと、梓ちゃんは元気にならないの。

不意に、指先に冷たいものが当たった。

紬「梓ちゃん、雪だよ」

梓ちゃんは俯いたまま。

紬「早く帰らないと風邪引いちゃうね」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:26:52.22 ID:Iof5d2+a0
駅に着いて、私は梓ちゃんの手を離した。

バッグから消毒薬を取り出し、ティッシュを湿らせて、私が噛んだ梓ちゃんの唇に当てた。

梓「っ……」

紬「ちょっとだけ沁みるからね」

手当てを済ませても、梓ちゃんは私の顔を見てくれなかった。

紬「じゃあね」

梓ちゃんはようやく顔を上げ、目の周りを赤く腫らした顔で、毅然と言った。

梓「はい。失礼します。また明日」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:29:49.18 ID:Iof5d2+a0
家に着き、私は梓ちゃんに電話をかけた。

紬「梓ちゃん、ごめんなさい」

梓「はい」

紬「本当にごめんね……」

梓「大丈夫です。怒ってないです。私こそ泣いちゃってすみませんでした」

紬「私の事嫌いでしょ?」

梓「そんなわけないじゃないですか」

紬「大っ嫌いでしょ……」

梓「私は絶対にムギ先輩を嫌いになりません」

紬「梓ちゃん……もう酷いことしないから……。絶対にしないから嫌いにならないで……」

梓「なりません」

紬「……良かった」

私は安堵して、身体の力がふっと抜けてしまい、ベッドに倒れこんだ。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
262 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:34:23.85 ID:Iof5d2+a0
次の日からは毎日唯ちゃん達が部室に来たから、私と梓ちゃんが二人っきりになる事はなかった。

私はいつも通りに振る舞う事ができたし、梓ちゃんもいつも通りに接してくれた。
バレンタインには梓ちゃんがチョコレートケーキを持ってきてくれた。
梓ちゃんは私みたいに、箱を落としたりしなかった。

私達三年生は無事に大学に合格し、梓ちゃんのために曲を作る事にしたから、残りの高校生活も消化試合にはならなかった。

梓「アンコール」

卒業式の日、梓ちゃんはその曲を聴いた後、軽口を叩いてからそう言ってくれた。

この日梓ちゃんは泣いちゃったけど、私はそれを咎めなかった。

部活を引退したあの日、私の涙を拭ってくれたのは梓ちゃん。

梓ちゃんがいくら泣いても、私がそれを叱るなんて事があるわけない。
私の役目は、梓ちゃんを叱る事じゃなくて、涙を拭いてあげる事だもん。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:38:30.83 ID:Iof5d2+a0
私達は部室を出る前に、写真を撮る事にした。

唯「どのへんで撮る〜?」

さわ子「黒板があるんだし、そこに何か書いてみんなその前に並んだら?」

澪「あ、それいいですね」

律「最後の最後でさわちゃんもやっといい事言うようになったかー」

さわ子「ちょっと!私はいつもいい事言ってるでしょ!」

唯「ねえねえ、何て書く〜?」

私はチョークをとり、黒板に文字を書いた。

『きっと、ずっと、いっしょ!』

それから唯ちゃんが星やハートマークを黒板にちりばめ、澪ちゃんがウサギを書き、りっちゃんは自分の立ち位置に「ぶちょう!」と書いた。

最後に梓ちゃんが放課後ティータイムのマークを書いて、私達は黒板の前に並んだ。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 18:56:55.38 ID:Iof5d2+a0
唯ちゃんを真ん中にして、その左側に澪ちゃんとりっちゃん。
右側には私と梓ちゃん。

誰かが言うでもなく、私達は手を繋いだ。

私は梓ちゃんの右手をぎゅっと握った。

でも、梓ちゃんは握り返してくれなかった。

唯ちゃんと繋いだ梓ちゃんの左手は、お互いにしっかりと握られている。

みんなにとって梓ちゃんは、本当に天使だった。
でも、もしかしたら梓ちゃんの目に、私は悪魔として映っているのかもしれない。

私はまた不安になった。
あの時のがっかりした梓ちゃんの顔が過る。

私はまた、梓ちゃんと二人っきりになりたいと思った。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/09/27(月) 19:01:17.97 ID:Iof5d2+a0
ちょっと休憩
参考画像→http://i.imgur.com/27g07.jpg
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:09:29.95 ID:Iof5d2+a0
【平成23年 10月28日】


唯ちゃんは、時々携帯電話を弄りながら甘いカクテルばかりを飲み続けていた。

りっちゃんはいつもの調子で澪ちゃんを挑発し、それに引っ掛かった澪ちゃんと飲み比べを始めた。

りっちゃんは、

律「これはウーロンハイだから!」

と言いながらウーロン茶を飲み続け、澪ちゃんはひたすらオレンジを使ったカクテルを飲み続けた。
途中でりっちゃんの不正が発覚し、りっちゃんは買い置きの焼酎をラッパ飲みするハメになった。

11時を回る頃には、みんなかなりお酒も回っていた。

澪「唯〜……唯は本当にいい子だよな〜……」

りっちゃんはベッドの上で寝息を立て、澪ちゃんは首まで真っ赤にしながら唯ちゃんに甘えていた。

唯「もー、澪ちゃん飲み過ぎだよー」

唯ちゃんも相当ご機嫌になっていたけど、澪ちゃんほどじゃなかった。

澪ちゃんがこのテンションになった時は、大体三十分もしないうちにトイレに直行して、泣きながら戻すパターン。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:14:05.56 ID:Iof5d2+a0
澪「唯〜、私、唯とバンド組めて本当に幸せなんだぞ」

唯「私もだよ澪ちゃ〜ん」

私はその二人を眺めているだけでも楽しかったけど、やっぱり自分だけ酔えないのは寂しかった。

でもそのぶん、酔い潰れたみんなのお世話ができるからいいかな。

澪「ム〜ギ〜」

澪ちゃんは、今度は私にひっついてきた。

紬「きゃっ」

澪「ムギはほんっとうに、いい曲書くよね〜」

紬「ありがと。でも澪ちゃん、それこないだも言ってたよ?」

澪「何度でも言うよ!私はムギの曲大好きだー!!」

紬「澪ちゃん、夜遅く騒いだらお隣さんに迷惑だからもうちょっと……」

唯「大丈夫大丈夫ー。ここ防音しっかりしてるから〜」

私達がお酒を飲むと、この部屋はサーカス小屋みたいになる。
今まで苦情が来なかったという事は、本当にちゃんとした作りなんだんろうなぁ。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:18:37.81 ID:Iof5d2+a0
澪「ん、ムギ〜」

澪ちゃんは私の膝に顔を埋めた。

紬「もう、澪ちゃん飲み過ぎよ〜。お酒嫌いって言ってたのに」

澪「えへへ」

唯「澪ちゃんは甘えん坊だなぁ〜」

ツッコミ役のりっちゃんがダウンすると、本当に収拾がつかなくなる。

澪「ムギ〜」

紬「なあに澪ちゃん?」

澪ちゃんは顔を上げて言った。

澪「吐きそう」

いつもより大分早く、澪ちゃんの限界がきたみたい。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:23:08.02 ID:Iof5d2+a0
紬「澪ちゃん、トイレいこっか」

澪「う、うん……」

私が澪ちゃんの手をとると、唯ちゃんがそれを制した。

唯「あ、私が介抱するよ〜」

紬「え?でも唯ちゃんも酔ってるでしょ?」

唯「私はまだ大丈夫だよ〜」

紬「でも……」

唯「いざというときは私も澪ちゃんと一緒に吐きます!ふんす!」

紬「うーん……」

澪「は、早く……」

澪ちゃんの顔がみるみる青醒めていったから、私は問答を終わらせて唯ちゃんに任せる事にした。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:28:58.33 ID:Iof5d2+a0
紬「じゃあ唯ちゃん、お願いね。あとこれ、お水」

唯「はーい!ありがとー!ささっ、澪ちゃんいくよ〜」

唯ちゃんは携帯電話をポケットに入れると、澪ちゃんを支えながらトイレに向かった。

少しして、トイレから澪ちゃんの戻す音が聞こえた。

私は新しい缶を開け、口の中を湿らせた。

どうやったらみんなみたいに酔っ払えるのかな。

私は缶を持ったまま、窓を開けてベランダに出ようとした。

律「全く、澪はしょうがないな〜」

私はベッドに顔を向けて、窓を閉めた。

紬「りっちゃん、起きてたの?」

律「ん、今起きた」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:33:22.27 ID:Iof5d2+a0
紬「澪ちゃんお酒弱いんだから、あんまり飲ませちゃダメだよ」

りっちゃんは私に背中を向けたまま答えた。

律「だってああでもしないと澪は飲まないじゃん。飲まないと酔えないじゃん」

紬「そうだけど」

トイレから澪ちゃんの泣き声が聞こえた。

澪「う、ううう……もうお酒なんてヤダ……ゆいぃ……」

唯「大丈夫だよ澪ちゃん!頑張って吐いて!」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:38:54.29 ID:Iof5d2+a0
紬「やっぱり飲ませたら可哀想だよ」

律「酔えないほうが可哀想だって」

またトイレから声が聞こえる。

唯「ほら澪ちゃん吐いて!吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー」

澪「それはお産のときの……うっ、お、おぇ……」

りっちゃんはまだ私に背中を向けたまま、訊ねてきた。

律「ムギは平気なの?全然酔っぱらってないじゃん」

私にはその質問の意味がわからなかった。

またトイレから泣き声が聞こえた。

澪「ふっ……う、う……ムギ……りつ……」

唯「澪ちゃん、ほら吐いて」

澪「あ……ずさ…………」

りっちゃんの背中が震えている事に、私はやっと気付いた。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
291 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:44:25.86 ID:Iof5d2+a0
澪「ふっ、う、うぅぅ……梓ぁ………」

唯「澪ちゃん飲み過ぎだよ〜」

澪「……梓に会いたい……」

それから澪ちゃんは、大声で泣き出した。

防音のしっかりした部屋じゃなかったら、お隣さんに怒られちゃうところね。

唯「澪ちゃん、泣いたらあずにゃんに笑われちゃうよ〜」

りっちゃんは枕で顔を隠しながら、身体を震わせた。

言葉を見つけられない私は、りっちゃんの肩を撫でた。

りっちゃんは

律「ごめん、今だけだから」

と言ってから、枕をぎゅっと握り、また身体を震わせた。

私は肩を擦りながら、あやす様に言った。

紬「りっちゃん、大丈夫。きっと飲み過ぎたのよ」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
293 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:51:24.13 ID:Iof5d2+a0
しばらくして、りっちゃんはまた静かに寝息を立て始めた。

澪ちゃんは泣き止まなかった。

時計に目をやると、もう11時30分を過ぎていた。

りっちゃんが眠った事にほっとして、私は泣き続ける澪ちゃんの様子を見に行こうと思い、部屋を出た。

私がトイレのドアノブに手をかける前にドアが開いて、唯ちゃんが出てきた。

唯「お酒買ってくるね」

紬「えっ?今から?」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
294 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 19:54:34.48 ID:Iof5d2+a0
澪ちゃんの泣き声が止んだ。

唯「今度は平沢セレクションで買ってくるよ〜」

紬「でも、澪ちゃんもりっちゃんも潰れちゃってるし……」

唯「えへへ〜澪ちゃんのことよろしく〜」

そう言って唯ちゃんはふらふらと外に出ていった。
私がトイレを覗くと、澪ちゃんは泣き疲れて眠っていた。

私はそのままにしておいてあげたほうがいいと判断して、部屋に戻った。

ソファーに座り、クッションの感触を確かめてから、それを抱き締めた。
それからテーブルの上の缶を取り、口をつける。
私は座椅子を倒して、身体を横たえた。
左耳のピアスがかちゃんと音を立てて床に触れた。

視線の先にある物を見て、私は呟いた。

紬「唯ちゃん、財布置きっぱなし……」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
309 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:13:11.95 ID:Iof5d2+a0
【平成23年 4月29日】


高校を卒業し、大学に入ると、私達はすぐに軽音サークルを探した。

でも最初に参加した飲み会で澪ちゃんが散々な目に合ったから、結局自分達でサークルを作る事にした。

その立ち上げ会議は、まだ家具の揃わない唯ちゃんの部屋で行われた。

律「んじゃとりあえず会長は私で」

澪「異議あり」

律「ええー?なんだよ、私じゃ嫌なわけー?」

澪「律が会長やったらまた申請とか忘れるだろ。高校の時は和が生徒会だったから良かったけど、大学じゃそうもいかないし」

律「大丈夫だって。大船に乗ったつもりで任せてもらおうか!」

澪「絶対氷山にぶつかるだろその船。信用できません」

律「なっ?それが大親友に言うセリフかよ!?」

澪「それとこれとは別」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:18:51.96 ID:Iof5d2+a0
紬「私はりっちゃんでいいと思うけど」

唯「私も〜」

澪「ええ?じゃあ梓はどう思う?」

梓「えーっと……ていうかその前に……」

梓ちゃんはみんなの顔を見渡してから言った。

梓「なんで私がこの会議に参加してるんですか?」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:26:58.36 ID:Iof5d2+a0
みんなそれを聞いて不思議そうな顔をした。

律「いや、なんでと言われても」

唯「あずにゃんは会議嫌い?」

梓「そうじゃなくて、これみなさんのサークルを作る会議ですよね?」

澪「うん」

梓「なんで私が……」

憂「みなさん、お茶どうぞ」

お茶を運んできた憂ちゃんは、にこにこしながら座った。

律「だって梓も頭数に入ってるし」

梓「でも私、まだ高校生ですよ?それに高校の軽音部もありますし」

唯「えー?あずにゃんも一緒にサークルやろうよー」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
315 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:31:21.89 ID:Iof5d2+a0
梓「でも……」

梓ちゃんは私の顔をちらっと見てお伺いを立てるような表情をした。
私は笑顔を見せてそれに答えた。

紬「梓ちゃんも一緒にやろう?」

梓ちゃんは照れ臭そうな顔をした。

梓「私は……はい。構いませんけど」

律「まーったく梓は素直じゃないなー。卒業式の時なんて「卒業しないでよ〜!うえーん!」とか言って可愛かったのに」

りっちゃんは梓ちゃんと肩を組んで茶化した。

梓「そ、そんな言い方してません!」

憂「へえ〜梓ちゃん、泣いちゃったんだ」

梓「あーっ!もう!そんなことより会長を早く決めましょうよ!そのための集まりなんですから!」

結局なんだかんだで澪ちゃんもりっちゃんが良かったらしく、投票の結果、満場一致で会長はりっちゃんに決まった。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
317 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:37:01.29 ID:Iof5d2+a0
【平成23年 5月3日】


梓ちゃんは学校の軽音部の活動と平行して、私達のサークルにも参加した。

よくよく考えてみれば、それはサークルじゃなくてあくまでも放課後ティータイムだった。
一応サークルの申請は出したけど、会員の募集はしなかった。
もう「放課後」ではないから、バンド名を変えようという話も出た。

唯「じゃあ、自主休講ティータイムとか?」

結局バンド名は据え置きで活動を続ける事になった。

大学では高校の時より自由な時間が増えたため、私達四人は高校の時に働かせてもらった喫茶店でアルバイトをするようになった。
バイト代の一部はスタジオを借りる費用に使われた。

ゴールデンウィークは梓ちゃんを入れた五人で練習をして、唯ちゃんの部屋に集まった。

梓「やっと引っ越し終わったんですね。……ていうか……」

梓ちゃんは室内を見渡しながら言った。

梓「実家の部屋とあんまり変わりませんね」

唯「そうなんだよ。大学生なんだから、もっと新鮮な感じが良かったんだけどなぁ」

梓「家具とか新しいの買わなかったんですか?」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
318 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:40:17.37 ID:Iof5d2+a0
唯「いやぁ〜愛着があるもんでね〜。あ、でもあずにゃんのためにソファーとクッションを買いました!」

梓「私はセレブに飼われるネコですか……。前に来たときも思ったんですけど、このマンションの外観って唯先輩にはもったいないくらいかっこいいですね」

唯「やっぱり?だよね〜。いつかもっと可愛いところに引っ越したいなぁ」

律「唯、今の皮肉だぞ」

梓「一人暮らしってことはもしかして自炊もしてるんですか?」

唯「うん!憂がご飯作って持ってきてくれるんだ〜」

梓「通い妻!?ていうかそれ自炊って言わないですから!」

唯「えっ、そうなの?」

梓「はぁ……やっぱり唯先輩は唯先輩ですね」

梓ちゃんは呆れたように言ったけど、どこかほっとしている様に見えた。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
319 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:45:41.94 ID:Iof5d2+a0
律「さて、では我々の新しい門出を祝ってー」

「かんぱーい」

唯ちゃんとりっちゃんと私はお酒を、澪ちゃんと梓ちゃんはジュースで乾杯した。

梓「いいんですか?みなさんまだ未成年ですよね」

梓ちゃんは抱いたクッションで口元を隠しながら言った。

唯「大学生は大人だから大丈夫だよ〜」

さわ子「法律で20歳未満の飲酒は禁止されてるから本当はダメなのよ」

もちろんさわ子先生はビールで乾杯。

律「あー……もうさわちゃんがいきなり現れても驚かなくなったなぁ」

梓「って律先輩、先生の前で何堂々と飲んでるんですか」

さわ子「いいのいいの。私はもうりっちゃん達の先生じゃないんだから、いくら飲んでも私は止めないわ。さあ!どんどん飲むわよー!」

そう言ってさわ子先生はビールを飲み干した。

澪「職務から解放されて前よりのびのびしてますね……」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
322 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:48:20.43 ID:Iof5d2+a0
律「ところで梓、制服なんだよな〜」

梓「え?まぁ、そうですけど。それがなにか」

唯「制服ですよりっちゃん」

律「初々しいなぁ」

唯「若々しいなぁ」

梓「一歳しか違わないじゃないですか!ていうかついこないだまで先輩達も着てましたよね!?」

唯ちゃんとりっちゃんはしばらくそのネタで梓ちゃんを弄り倒した。

さわ子「あ、梓ちゃんは飲んじゃダメよ。まだ教え子なんだから」

梓「わかってますよ」

律「梓が酔ったら怖いだろうなー。一升瓶振り回して、バキッ!ガシャーン!オラー!って」

唯「あなた、もうやめてー!子供がみてるわー!」

梓「はいはい」

紬「ふふっ」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
325 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:51:48.14 ID:Iof5d2+a0
梓「ところで、みなさんが酔っ払ったらどうなるんですか?」

唯「えっとね、澪ちゃんはおえーってなって」

澪「おい」

唯「りっちゃんは面白くなって、私は楽しくなるよー。ムギちゃんはあんまり変わらないなぁ」

梓ちゃんは、ぷっと笑った。

梓「つまり、みなさんほとんど変わらないんですね」

律「そういやさわちゃんが酔ったところは見た事ないな」

さわ子「私も大して変わらないわよ」

唯「ふうん。ところでさわちゃん」

さわ子「なあに?」

唯「今日休日だよね」

さわ子「そうよ?」

唯「休日の夜に私達と遊んでるってことは、本当に彼氏いなかったんだねー」

一同沈黙。

律「唯、それそろそろ私達にも跳ね返ってくるから!」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
326 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 20:55:25.07 ID:Iof5d2+a0
お酒は進み、夜が更ける。

先生は少ししてから身支度をして、「いつでも音楽室にきてね」と言って帰っていった。

高校の時は気づかなかったけど、先生はずっと、私達に大人の手垢がつかないように守ってくれていた気がする。
私達が持っている根拠のない全能感や、漠然とした希望を、そのまま残して生きていけるように。
だから私達は振り返らないし、反省もしない。

先生が帰ってしばらくすると、りっちゃんは梓ちゃんにお酒を勧め始めた。

梓ちゃんは押しに負けて飲んでしまい、思いの外その味を気に入ったらしく、何杯も飲んだ。

結局澪ちゃんも、

澪「私だけ飲まないなんてなんか嫌だ……」

と言って、苦い苦いと言いながら先生が開けずに置いていったビールを飲んだ。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
330 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 21:00:18.89 ID:Iof5d2+a0
梓ちゃんは意外とお酒に強くて、唯ちゃんとりっちゃんと澪ちゃんが潰れた後も、私と二人で飲み続けた。

私達は大学の様子、新しい軽音部の話、それから作曲の話をした。

私が梓ちゃんにした行為については、一切話題に出なかった。
私はいつその話を出されるのかと内心怯えていたけど、梓ちゃんはそんな様子を全く見せなかった。

梓「ムギ先輩、今ならどんな曲が浮かびますか?」

紬「うーん、さすがに今はお酒も入ってるし……。あ、待って」

私は立ち上がり、部屋の窓を開けてベランダに出た。
それから梓ちゃんに手を差し出した。
梓ちゃんは一度その手を取ろうとして、すぐに引っ込めた。

紬「大丈夫。ベランダに置き去りにしたりしないから」

梓ちゃんは申し訳なさそうな顔をして、私の手を取り、ベランダに出た。

春の夜空が心地よい風を室内に運ぶ。
眼下に流れる川のすぐ側には公園があって、そこのガス灯が川面にちらちら反射する。
煌めくパノラマは宝石箱を引っくり返したみたいで、先生が大人から守ってくれたのは、きっと私達にこれと同じものを見たからだと思った。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
331 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 21:10:06.33 ID:Iof5d2+a0
私は手すりに手をかけると、頭に頼りなく浮かぶ音符をかき集め始めた。
それを頭の中で五線譜に書きなぐり、口ずさんだ。

梓ちゃんはしゃがんで、グラスを口につけた。
赤い顔をして身体を前後にゆすりながら、私の声に耳を傾けてくれた。

川の対岸にある建物郡は、ひとつずつ明かりを消していった。
そのおかげで、星もよく見えた。
でも、星を見る必要はなかった。

目を閉じると、音の微粒子が私の容器に降り積もり、私はそれをひとつずつ掬い上げて、声に変える。
あます事なく、梓ちゃんと、それから眠っている唯ちゃん達に伝えるために。

この曲をみんなが演奏してくれたら、とっても素敵な音になりそう。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
333 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 21:13:03.99 ID:Iof5d2+a0
紬「ご清聴ありがとうございました」

梓「なんだか浮遊感のある曲ですね」

梓ちゃんのろれつは回っていない。

紬「やっぱりちょっとお酒入ってるからかな?」

梓「私も最近自分で作ったりしてるんれすけど、中々うまくいかなくて」

紬「……梓ちゃん大丈夫?ちょっと横になる?」

梓「だいじょうぶです。ムギ先輩は一年生の頃から曲書いてたんですよね」

紬「私も一年生の頃は四苦八苦したわ。三年生になってからかな、いっぱい書けるようになったのは」

梓「そうですか……。じゃあ私も」

そこで梓ちゃんは言葉を詰まらせた。
というより、喉に何か詰まらせたみたいだった。

梓ちゃんは口を両手で押さえ、涙目で私をじっと見詰めた。

紬「あ、梓ちゃん!?」

梓ちゃんは額に汗を滲ませながら、首を横に振った。

私は急いで梓ちゃんをトイレに連れていった。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
334 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 21:16:04.50 ID:Iof5d2+a0
梓「うっ、げほっ……おええ……」

私は梓ちゃんの背中を擦りながら謝った。

紬「ごめん梓ちゃん。飲ませ過ぎちゃったね」

梓「だい、じょう……お、おえっ……げほっ……えほっ……」

紬「吐けば楽になるから」

私は梓ちゃんの口に手を入れて舌の奥を刺激して、吐かせてあげた。
梓ちゃんは鼻をすすりながら言った。

梓「すみません……うっ、げほっ、ごほっ……」

梓ちゃんがあらかた吐き終わると、私は服の袖で梓ちゃんの口元を拭った。

梓「すみません、服汚しちゃって」

紬「いいの、気にしないで」

梓ちゃんは肩で息をしていた。
潤んだ瞳が弱々しく私を見詰める。

梓ちゃんが泣きそうだったから、私は気分が悪くなった。

こういう時はどうすればいいんだっけ。
こういう時は。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
335 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 21:20:16.36 ID:Iof5d2+a0
汗でおでこにくっついた梓ちゃんの前髪を引っ張り、私は梓ちゃんに唇を押し当てた。

梓「ん……っく……」

梓ちゃんが驚き、怯えている事はすぐにわかったけど、私はやめなかった。
唇を離すと、梓ちゃんは苦しそうに言った。

梓「酔ってるんですか……?」

紬「わかんない」

トイレの鍵を閉め、私は梓ちゃんの服を脱がせた。

梓「ムギ先輩。ダメですよ。やめましょう。ね?」

梓ちゃんは私の手を握り、子供を諭すような口調で言った。

私は梓ちゃんの口を押さえ、人差し指をその上から当てて、静かにするように促した。

瞳に諦めの色が浮かび、梓ちゃんはゆっくりと頷いた。

私は口を押さえていた手をそっと離した。

紬「声出しちゃダメだよ」

梓ちゃんはまた頷いた。
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
337 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 21:25:40.78 ID:Iof5d2+a0
それからの数十分は、きっと梓ちゃんにとっては悪夢でしかなかったと思う。

私は梓ちゃんの中に指を入れて、かき回し、尊厳を踏みにじった。

梓ちゃんは他のみんなに聞こえないよう、歯を食いしばって声を殺した。

梓ちゃんが果てると、私は梓ちゃんの頭を掴んだ。

そして便器の中に頭を突っ込ませた。

溜まった水で梓ちゃんは呼吸できなくなり、それが限界になると私を引っ掻いた。

私は梓ちゃんの顔を上げさせて、その表情をしげしげと見た。
睫毛の一本一本、唇の皺、頬についた水滴、全部目に焼き付けた。

紬「泣いてないよね?」

梓ちゃんはずぶ濡れになりながら、真っ直ぐに私を見て答えた。

梓「泣いて、ません……」
紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
339 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 21:29:18.90 ID:Iof5d2+a0
私はまた梓ちゃんの顔を便器の中に入れた。
梓ちゃんは私を引っ掻き、私は顔を上げさせる。
それを何度も繰り返した。

それに飽きると、私は梓ちゃんを残してトイレを出て、ドアを締めた。

梓「いや……行かないで……」

紬「ちゃんとドアの前にいるわ」

梓「狭い所、恐いんです……」

紬「知ってるよ」

梓「お願いです……出してください……」

紬「それはダメ」

ドアの向こう側で、梓ちゃんは一度泣き出しそうになったけど、すぐにそれを我慢してくれた。
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