- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:03:00.95 ID:Iof5d2+a0 - 澪「お待たせ」
澪ちゃんはパンパンになった袋を両手に持ちながら、コンビニから出てきた。 綺麗な女の子が毎日これだけのお酒を買ってるんだから、やっぱり店員さんも……。 律「覚えちゃってるだろうなぁ」 澪「え?」 律「なんでもないよーん。さ、行こーぜ」 私が澪ちゃんに袋をこちらに渡すよう促すと、澪ちゃんはありがとうと言って、ひとつだけ私に預けた。 りっちゃんも澪ちゃんからひょいと袋を取り、私達は唯ちゃんの家に向かった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:07:08.99 ID:Iof5d2+a0 - 唯ちゃんの部屋は川沿いのマンションの五階にある。
一応デザイナーズマンションらしく、シャープな外観と、楽器もある程度演奏できるくらい防音のしっかりした部屋をウリにしていた。 入居したての頃の唯ちゃんは、「もっと可愛いところにすればよかったなぁ」とボヤいていたけど、最近は川沿いにあるガス灯が置かれた公園を気に入ったらしく、そういう事を言わなくなった。 りっちゃんがエレベーター前のインターフォンを鳴らすと、すぐにドアのロックが解除された。 澪「確認もしないで開けたら、セキュリティの意味全くないな」 澪ちゃんが呆れたように言った。 紬「唯ちゃん、セールスとかに引っかかってないかな……」 律「大丈夫大丈夫。ベルが鳴っても唯なら起きないから」 私達はそのままエレベーターに乗り、五階に向かった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:10:42.62 ID:Iof5d2+a0 - 唯ちゃんの部屋の前まで行き、ベルを鳴らす。
玄関の前に山積みになった新聞紙を見て、りっちゃんは言った。 律「あいつ、絶対新聞なんて読んでないぜ 」 ドアが軽い音をたてて開く。 パジャマを着て寝癖をつけたままの唯ちゃんが、携帯電話を片手に持ちながら出てきた。 律「おーす、買ってきたぞ」 紬「お邪魔しまーす」 唯ちゃんは、にっこり笑って言った。 唯「はいはーい。どうぞ〜」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:15:40.92 ID:Iof5d2+a0 - 【平成22年 11月25日】
次の日は唯ちゃん達も部室に来た。 唯「は〜部室はやっぱり落ち着くね〜 」 私はいつも通りにお茶とお菓子を用意した。 お菓子を壊す必要はなかったし、そうしようとも思わなかった。 みんなは勉強をするふりをしながらクッキーをつまみ、普段通りの会話をした。 普段通りなのに、梓ちゃんは普段よりもよく話し、よく笑った。 その事に気付いたりっちゃんが、いたずらな笑顔を浮かべながら言った。 律「梓〜良かったな、私達が来て」 梓「えっ」 唯「やっぱりみんな一緒じゃないとさみしいよねー」 梓「なっ……。そ、そんなことないです!えーと……あ、ムギ先輩が来てくれてましたから!」 梓ちゃんは慌ててそう返した。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:18:00.51 ID:Iof5d2+a0 - 唯「まあ!いいなぁ。私もムギちゃんと二人っきりでお話したいなぁ」
澪「唯はお菓子独り占めしたいだけだろ」 唯ちゃんはそれを必死に否定したけど、その様子が可笑しくて、部室に笑い声が響いた。 梓「あ、でも」 梓ちゃんが思い出したように言った。 梓「ムギ先輩って意外とおっちょこちょいなんですよ」 唯「え?なになに?」 途端に私の体は強張った。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:21:52.24 ID:Iof5d2+a0 - みんなには絶対に知られたくないと思った。
知られたら、これからの楽しい未来が全部駄目になる気がした。 紬「梓ちゃん」 澪「ムギがどうかしたの?」 紬「梓ちゃん待って」 梓「昨日……あ、一昨日もなんですけど、ムギ先輩が」 紬「梓ちゃん!」 私は立ち上がり、声を張り上げて梓ちゃんを制した。 みんながきょとんとした顔をして私を見た。 その視線を受けて、私のまわりだけ重力が何倍にもなったように思えた。 重くなった身体から、ねばついた汗が噴き出す。 口の中は乾上がり、鼻の奥に酸っぱいものが込み上げてくる。 私は舌を動かして口内を湿らせる。 私の唾液ってこんなに苦かったっけ。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:23:57.78 ID:Iof5d2+a0 - 律「おーいムギ。どうした?そんな怖い顔するなよ」
紬「あ……」 唯「まあまあムギちゃん、座ってお茶でも飲むといいさ。ほれ、お菓子をあげよう。おいしいよ〜」 紬「……うん。ありがとう唯ちゃん」 唯「お母さんにはナイショだよ」 澪「なんだその田舎のおばあちゃんがお小遣いくれる時みたいなノリ」 澪ちゃんが突っ込むと、唯ちゃんとりっちゃんが笑った。 私もそれに合わせようとしたけど、まだ強張ったままの表情筋は歪な笑みを作り出した。 梓ちゃんは手を指先を弄りながら、俯いていた。 結局それ以降、昨日の私の話は出て来なかった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
91 :ミスった[]:2010/09/27(月) 00:27:51.93 ID:Iof5d2+a0 - 律「おーいムギ。どうした?そんな怖い顔するなよ」
紬「あ……」 唯「まあまあムギちゃん、座ってお茶でも飲むといいさ。ほれ、お菓子をあげよう。おいしいよ〜」 紬「……うん。ありがとう唯ちゃん」 唯「お母さんにはナイショだよ」 澪「なんだその田舎のおばあちゃんがお小遣いくれる時みたいなノリ」 澪ちゃんが突っ込むと、唯ちゃんとりっちゃんが笑った。 私もそれに合わせようとしたけど、まだ強張ったままの表情筋は歪な笑みを作り出した。 梓ちゃんは指先を弄りながら、俯いていた。 結局それ以降、昨日の私の話は出て来なかった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:29:02.89 ID:Iof5d2+a0 - その日の夜、勉強に区切りをつけた私は携帯電話を開いた。
梓ちゃんに電話をしようと思ったけど、特に用事があるわけじゃない。 用もなく電話をかけたところで、軽音部のみんなは怒ったりしない。 むしろみんなも用もなく私に電話をかけてくる事はあるし、私も同じ様にみんなに何度か電話をしてきた。 それでも私の指は、携帯電話のボタンを押す事を躊躇う。 私が小さな液晶画面をぼんやり眺めていると、不意に着信が来た。 私はすぐにその電話に出た。 紬「は、はい!」 梓「はやっ!」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:31:21.55 ID:Iof5d2+a0 - 紬「今ちょうど携帯触ってたの」
梓「そうでしたか。あの、ムギ先輩」 紬「なあに?」 梓「なんていうか、すいませんでした」 梓ちゃんが何の話をしているかはすぐにわかったけど、私は気づかないふりをした。 紬「なんのこと?」 梓「えっと……昨日の話、あんまりされたくなかったんですよね?」 私は何も答えなかった。 梓「すいませんでした。でも、そんなに気にする事ないと思いますよ」 紬「うん。そうだよね」 梓「まぁそのへんは人それぞれなのかもしれないですけど」 紬「うん」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:33:38.45 ID:Iof5d2+a0 - 梓「あ……それだけです。勉強の邪魔してすいません。それじゃ失礼します」
紬「待って、まだ切らないで」 私はベッドの上で膝を抱え、電話を持ち直した。 左耳に電話を押し当てて、私は話し始めた。 紬「もう今日のぶんの勉強は終わったから全然平気!それより梓ちゃん、明日何か食べたいお菓子ある?」 梓「え?そうですね……チョコレート、とか」 紬「うん、わかった。じゃあ持っていくね」 梓「はい!楽しみにしてます」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:37:33.45 ID:Iof5d2+a0 - それから私達は延々と話を続けた。
梓「子供の頃、ですか?」 紬「うん。どんな事して遊んでたの?」 梓「普通ですよ。鬼ごっことかかくれんぼとかなわとびとか。あ、小4からはギターいじったりもしてましたけど」 紬「いいなぁ」 梓「それも夢だったりするんですか?」 紬「うん」 梓「唯先輩と律先輩なら付き合ってくれそうじゃないですか?」 紬「梓ちゃんは?」 梓「私はそういう遊びは卒業しました」 紬「え〜?面白そうなのに」 梓「ていうか、かくれんぼにあんまりいい思い出ないんですよね。押し入れの中に隠れた事があって、でられなくなっちゃって。あれ以来、狭いところはちょっと苦手なんです」 紬「そっかぁ。じゃあかくれんぼは諦めなきゃダメね」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:40:20.55 ID:Iof5d2+a0 - 梓「もう子供じゃないですからね」
紬「じゃあ大人の話しよっか。梓ちゃんどうぞ 」 梓「あはは、そうですね。うーん……大人の話……。あ、そうだ、ムギ先輩に前から聞きたい事があったんですけど……」 紬「なあに?」 梓「ムギ先輩って彼氏とかいないんですか?」 紬「え?いないよ?」 梓「そうですか……。いや、軽音部の中だったら、ムギ先輩ならいそうだなって思ったんですけど」 紬「うーん、まだそういうのはわからないわ」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:43:20.43 ID:Iof5d2+a0 - 梓「私もです……。でもクラスの中にはもう彼氏がいる子もいるんですよね。私って子供なのかな」
紬「じゃあ私達みんな子供ね〜」 梓「ふふっ、そうですね。それで、彼氏がいる子って……えーと、その……やっぱりそういう事もあるんですよね……」 梓ちゃんが言おうとしてる事はなんとなくわかった。 紬「なんだか今日の梓ちゃんは大胆ね」 梓「う……すいません。忘れてください……」 紬「ねえねえ、これって恋バナだよね!」 梓「あ……はい。多分」 紬「ふふ、今夢が叶っちゃった」 梓「ぷっ!ムギ先輩、ほんと面白いですね」 紬「それで?梓ちゃんはそういうのをどう思うの?」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:47:02.87 ID:Iof5d2+a0 - 梓「えっと……漠然となんですけど」
紬「うんうん」 梓「怖いなって思う一方でちょっと憧れてたりもするんです。ムギ先輩はどうですか?」 紬「私は……やっぱりわからない、かな」 梓「あ、あー……。ですよね」 紬「梓ちゃんがこんな話するなんて珍しいね」 梓「深夜だからつい……。ほんとに忘れてください!他の先輩方にも内緒で……あ、特に律先輩には」 紬「りっちゃん可哀想」 梓「え?あ、そういうわけじゃなくて……あー!とにかく内緒にしてくださいね!」 紬「うん。わかった。内緒話!私、内緒話するのが」 梓「夢だったんですね?」 紬「うん!」 時計に目をやると、もう0時を回っていた。 でも私は電話を切ろうなんて気持ちにはちっともならなかった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:49:44.74 ID:Iof5d2+a0 - 【平成22年 11月26日】
それから、次に作るとしたらどんな曲がいいかについて話していると、梓ちゃんが一旦それを止めた。 梓「あ、すいません。充電切れそうなんでちょっと待って下さい」 電話の向こう側で、梓ちゃんが充電器を探す音が聞こえた。 梓「はい、もう大丈夫です。で、なんでしたっけ。あぁそうそう、それで、やっぱり私はあんまり暗い曲はやらなくてもいいと思うんです」 紬「どうして?」 梓「バンドのイメージじゃないっていうか 紬「うん」 梓「曲調の幅があるのも悪くないんですけど、私達には明るい曲が合ってると思います。えっと、そのほうがコンセプティブな感じがしますし」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:53:34.57 ID:Iof5d2+a0 - 紬「そっか。じゃあ今の調子で作っていって大丈夫だね」
梓「はい。今のままが一番です!」 紬「うん!」 梓「って、ちょっと熱く語りすぎましたね私……」 紬「ふふっ」 梓「……ていうかもうこんな時間!すいません、長々と話しちゃって」 紬「ううん、楽しかったよ」 梓「私もです。じゃあムギ先輩、おやすみなさい。また明日」 紬「うん、またね」 それから数秒、私達は無言になった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:55:23.70 ID:Iof5d2+a0 - 梓「もう切りますよ」
紬「はーい、おやすみ」 また沈黙が訪れる。 梓「切らないんですか?」 紬「じゃあせーので切ろっか」 梓「はい」 紬「せーの」 私は電話を切らなかった。 梓ちゃんも切らなかった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 00:58:28.16 ID:Iof5d2+a0 - 梓「もう、なんで切ってくれないんですか」
紬「梓ちゃんこそ」 梓「だって……」 紬「じゃあもうちょっとだけお話する?」 梓「……はい」 顔は見えなかったけど、梓ちゃんが電話の向こうで恥ずかしそうにしているのがなんとなくわかった。 梓「そう言えばムギ先輩、この前言ってましたよね。楽しい時に曲が浮かんでくるって」 紬「うん。今みたいに、楽しい時と嬉しい時に浮かぶよ」 梓「今はどんな曲が浮かびですか?」 私はそっと目を閉じた。 紬「今だったら……こんな感じかしら」 私は鼻歌で、頭に浮かんだメロディを梓ちゃんに伝えた。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:01:23.78 ID:Iof5d2+a0 - 梓「綺麗……。それに、なんだかホッとします。この前のとちょっと似てますね」
紬「ご静聴ありがとうございました」 梓「あ、今なら気持ちよく電話切れそうです!」 紬「じゃあもう寝よっか」 梓「はい。せーので切りましょう。今度はちゃんと切りますからね」 紬「うん、じゃあ……せーの」 私達は同時に電話を切った。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:04:19.62 ID:Iof5d2+a0 - 携帯電話を閉じると、ずっとそれを押し当てていた左耳が疼いた。
繋いだ手と同じくらい暖かくて、嬉しい痛み。 私は寝る前に軽くシャワー浴びた。 ドライヤーで髪を乾かしていると、私の頭の中で、梓ちゃんとした交わした言葉のひとつひとつがランダムに再生された。 私はこの上なく幸せな気持ちでベッドに入り、目を閉じた。 そして、やっぱり瞼の裏には梓ちゃんのがっかりした顔が張りついていた。 翌朝、私は鏡の前で中々纏まらない髪と格闘しながら、斎藤を呼んだ。 紬「チョコレートのお菓子って余ってない?なるべく古いのがいいの」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:09:10.16 ID:Iof5d2+a0 - 【平成23年 10月28日】
唯ちゃんの部屋は、実家のそれと似た雰囲気だった。 家具も小物も実家から持ってきたものばかりだから当たり前だけど。 違うとすれば、ふかふかのクッションが置かれたソファーと、お洒落な座椅子がある事くらい。 それから窓の形。大きくて、朝には日の光がたくさん射し込んでくる。 ベランダからはマンションの前を流れる川を対岸まで眺める事ができて、私はそれが好きだった。 唯ちゃんとりっちゃんがベッドに座り、部屋の真ん中に置かれたテーブルを挟んで澪ちゃんが勉強机の椅子に、私は床の座椅子に足を伸ばして座った。 これがそれぞれの定位置。 特にそうと決めたわけじゃないけど、音楽室の席と同じで、みんななんとなくそれぞれしっくりくる場所があった。 ちょっと前までは私の向かい側のソファーに、梓ちゃんがクッションを抱きながら座っていた。 私服の私達に対し、梓ちゃんは制服だったから、唯ちゃんとりっちゃんが梓ちゃんを見て「初々しい」「若々しい」と言っていた。 梓ちゃんはその時、「一歳しか違わないじゃないですか」と返した。 唯「ねえねえ何買ってきたの?」 律「秋山セレクションですぜ」 唯「ほほう、そいつは楽しみですなぁ」 澪ちゃんはちょっとだけ得意げな顔をした。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:13:02.01 ID:Iof5d2+a0 - 私は手に持った袋の中身をひとつずつ取り出した。
紬「えっと、スクリュードライバー、オレンジブロッサム、カシスオレンジ、テキーラサンライズ……がそれぞれ3本」 律「まぁ!柑橘系大好き!わたくし最近酸っぱいのが好きなのー……ってなんでオレンジ縛りなんだよ!」 澪「え?だって、可愛いかなって……。でも他のお酒もちゃんと買ってきたぞ」 律「はー、わかってないなぁ。もっとこう、渋いのが大人だぜ?ウイスキーの一本くらい買ってこなくてどうする」 澪「ウイスキー飲んで泣きながら吐いたヤツが何を言ってるんだ」 唯「私は好きだよ、オレンジ!ありがとう澪ちゃん」 私は袋の中の最後の二本を取り出した。 紬「あ、他にもあったわ。えっと、ビールが一本とカルアミルク」 りっちゃんはわざとらしく肩を落とした。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:16:28.23 ID:Iof5d2+a0 - 唯「いくらだったー?」
唯ちゃんは財布を取り出した。 律「二万くらいかなー」 唯「うっ……今月破産確定……」 澪「はいはい、嘘だよ。ほら、レシート。全部で6,500円」 唯「じゃあ、えーと……1100円だね」 澪ちゃんとりっちゃんが視線を落とした。 澪「いいよ、払わなくて。部屋使わせてもらってるんだし」 唯「ええ?悪いよー」 紬「いいのよ」 澪「律はちゃんと払えよ」 律「へいへい」 唯「……えへへ、ありがとう、みんな」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:21:52.99 ID:Iof5d2+a0 - 私達が初めてお酒を飲んだのは、大学に入ったばかりの頃。
他大学と合同の軽音サークルの新入生歓迎コンパの席でだった。 みんなおそるおそるお酒を口にして、それを見た上級生は気を良くして、ことさら私達に飲ませた。 澪ちゃんは外見で目立っていたから、特に標的にされた。 勝手にご機嫌になる唯ちゃんとりっちゃんの横で、一向に酔えない私はずっと先輩と世間話をしていた。 しばらくして澪ちゃんの姿が見当たらない事に気づき、私はすぐにトイレに向かった。 澪ちゃんは息も絶え絶えに吐いていて、その背中を先輩がさすっていた。 私は介抱役を先輩と代わり、澪ちゃんの背中をさすり続けた。 胃の中が空っぽになってからも、澪ちゃんは何度か胃液だけを吐いた。 それから泣きながら、「もうこんなの嫌だ」と言って、澪ちゃんは訴えるような目で私を見た。 私はハンカチで澪ちゃんの涙と口のまわりを拭い、「じゃあ私達でサークル作っちゃおうか」と言った。 澪ちゃんは涙目になりながらも、安心したようにうんうんと頷き、また便器に向かって吐いた。 その飲み会の後も、唯ちゃんとりっちゃんは他のサークルのコンパに顔を出し続けていたから、私と澪ちゃんは不安になったけど、結局二人はタダでご飯を食べたかっただけらしく、晴れて四人でサークルを立ち上げる事になった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:26:18.40 ID:Iof5d2+a0 - お酒を開ける前にお菓子の封を開け、しばらく適当に会話をしていると、唯ちゃんがテレビをつけた。
生放送の音楽番組が液晶テレビの画面に映し出された。 唯「私の好きなバンドが出るんだ〜」 セットの階段を降りてくるアーティスト。 唯「あっ、この人達だよ〜」 唯ちゃんがテレビの画面を指差した。 律「ってお前、それ唯の好きなバンドじゃなくて梓の好きなバンドじゃん」 その言葉で訪れる沈黙に、私達は飲まれた。 やたら明るい司会者の声だけが間抜けに響く。 りっちゃんは自分を責めるように頭をがしがしと書いた。 唯ちゃんはそんなのお構い無しに、テレビの画面を食い入るように見ている。 澪「他になんかやってないの?私、このアナウンサー苦手なんだ」 澪ちゃんがとってつけたような理由を添えて、チャンネルを変えようとした。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:27:22.35 ID:Iof5d2+a0 - お酒を開ける前にお菓子の封を開け、しばらく適当に会話をしていると、唯ちゃんがテレビをつけた。
生放送の音楽番組が液晶テレビの画面に映し出された。 唯「私の好きなバンドが出るんだ〜」 セットの階段を降りてくるアーティスト。 唯「あっ、この人達だよ〜」 唯ちゃんがテレビの画面を指差した。 律「ってお前、それ唯の好きなバンドじゃなくて梓の好きなバンドじゃん」 その言葉で訪れる沈黙に、私達は飲まれた。 やたら明るい司会者の声だけが間抜けに響く。 りっちゃんは自分を責めるように頭をがしがしと掻いた。 唯ちゃんはそんなのお構い無しに、テレビの画面を食い入るように見ている。 澪「他になんかやってないの?私、このアナウンサー苦手なんだ」 澪ちゃんがとってつけたような理由を添えて、チャンネルを変えようとした。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:28:08.74 ID:Iof5d2+a0 - ミスった
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 01:30:12.91 ID:Iof5d2+a0 - 唯「だめだよー。これ見ようよ」
唯ちゃんが澪ちゃんを制した。 澪「唯」 澪ちゃんはなおも食い下がる。 唯「だーめ」 唯ちゃんは笑いながら頑なに拒んだ。 律「まぁいいじゃん。見ようぜ」 りっちゃんが諦めたように言った。 私はテーブルの上の小さい時計に目をやった。 午後八時。 日付が変わるまで、あと四時間。 梓ちゃんの四十九日まで、あと四時間。 前編 おしまい
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/09/27(月) 01:31:46.97 ID:Iof5d2+a0 - すまん、寝ます
朝方再開します
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:15:50.91 ID:Iof5d2+a0 - 沖田
再開します
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:20:31.88 ID:Iof5d2+a0 - 【平成22年 11月26日】
この日、唯ちゃん達は音楽室に来なかった。 斎藤に渡されたチョコレートケーキは安全に食べられるものだった。 でも、それじゃダメだった。 だから、私はまた梓ちゃんの目の前でそれを落とした。 今度はわざとだとわかるように、これ見よがしに落として、爪先で踏んだ。 梓「ちょ、ちょっと何してるんですか」 梓ちゃんは慌ててしゃがんで箱を開けた。 梓「あぁ、これもう食べられないじゃないですか」 紬「梓ちゃん」 梓「はい?」 紬「昨日チョコレートがいいって言ってたから持ってきたの」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:26:03.82 ID:Iof5d2+a0 - 梓「それはわかりますけど、でもこれじゃ……」
紬「食べたくないの?」 しゃがんで私を見上げる梓ちゃんの目に、少しずつ怯えの色が広がる。 梓「……言ってる意味がわかりません」 紬「私、お茶淹れるね」 私は梓ちゃんを放って、お茶の用意を始めた。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:32:58.63 ID:Iof5d2+a0 - 机の上にティーカップを並べて、梓ちゃんからケーキの入った箱をパッと取ると、私は箱ごと梓ちゃんの席の前に置いた。
紬「座って。お茶にしよう?」 梓ちゃんは愛想笑いを浮かべながら言った。 梓「ええと、すいません、どうつっこんだらいいんですか?」 私は笑い返した。 紬「ふざけてないよ」 梓「って言われても」 紬「ねえ、早く食べようよ」 梓ちゃんは渋々席につき、お茶を啜った。 紬「ケーキは食べないの?」 梓「……はい」 紬「どうして?」 梓「ムギ先輩が落としたから……」 梓ちゃんは伏し目で答えた。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:37:44.44 ID:Iof5d2+a0 - 紬「いらないの?」
梓「……いりません」 紬「食べてよ」 梓ちゃんは顔を上げた。 そこに不安が水彩絵の具みたいに滲む。 梓ちゃんは、自分が悪意を向けられている事に気付き始めたみたい。 梓「なんで……」 梓ちゃんからしてみれば、それは突然で、不可解だったはず。 私には突然ではなかったけど、不可解なのは同じだった。 梓「ムギ先輩、私、何か失礼なことしました?だったら謝りますから……」 紬「怒ってないよ」 梓「怒ってるじゃないですか」 紬「怒ってないわ」 梓「怒ってるじゃないですか!」 梓ちゃんは声を荒げた。 それから目に涙を溜めながら言った。 梓「何かあるならはっきり言ってください。じゃないと私、わからないです……」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:42:05.87 ID:Iof5d2+a0 - 何を言えばいいの?
私は梓ちゃんを大切な後輩だと思っているし、怒る理由なんて何もないのに。 紬「梓ちゃん落ち着いて。怒ってないよ」 梓「でも」 紬「ほら、早くケーキ食べないと」 梓ちゃんは箱をじっと睨んだ。 それから観念したように、箱の中に飛び散ったチョコレートケーキを指先で摘み、口に運んだ。 そうすれば、私の怒りが収まると思ったのかな。 でも何度も言ったように、私は怒ってないんだよ。 こんな事をさせる理由も、自分でよくわかってないの。 梓ちゃんはケーキを飲み込むと、私の方を見た。 私は何も言わずに手の平を見せて、全部食べるように促した。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:48:03.22 ID:Iof5d2+a0 - 梓ちゃんはケーキを手でかき集めて口に入れ、それを飲み込むと、口の周りをチョコレートで汚したまま鼻をすすった。
私はその一挙一動を、両手で机の上に頬杖をつきながら、しげしげと眺めた。 梓「……食べましたよ。これでいいんですか」 私は笑顔でそれに答えると、梓ちゃんから視線を外して、参考書を開いた。 梓ちゃんは啜り泣きながら、流し台で手を洗った。 それからギターをケースにしまい、バッグを肩にかけて、 梓「お疲れ様でした。失礼します」 と言って、部室から出ようとした。 紬「梓ちゃん待って。一緒に帰ろう?」 梓ちゃんは立ち止まったけど、私の方を見ようとしなかった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:51:06.63 ID:Iof5d2+a0 - 私は帰る準備をして、ハンカチを用意した。
紬「お待たせ〜。じゃ、帰りましょう」 私は梓ちゃんの涙を拭いながら言った。 梓「ごめんなさい……」 いくら拭っても、梓ちゃんの瞳は涙を運んだ。 紬「泣かないで梓ちゃん」 梓「ごめんなさい……」 梓ちゃんはしゃくりあげながら、何度も私に謝った。 私は梓ちゃんの手を取り、音楽室を出た。 帰り道、私達は言葉を交わさなかった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:54:54.34 ID:Iof5d2+a0 - 家に着くと、私は梓ちゃんに電話をかけた。
梓ちゃんはすぐに出てくれた。 梓「はい……」 かすれた声が受話口から聞こえた。 紬「梓ちゃん、ごめん」 梓ちゃんは答えない。 紬「酷いことしてごめんなさい……」 鼻をすすり、梓ちゃんは私に訊ねた。 梓「なんで?なんであんな事させたんですか……?」 今度は私が無言になった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 11:57:59.17 ID:Iof5d2+a0 - 梓「昨日せっかくムギ先輩と仲良くなれたと思ったのに……何でですか……?」
紬「ごめんなさい……」 私にもわからないの。 でも、今謝ってるのは本当に悪い事をしたと思ってるからだよ。 梓「いたずら……ですか?」 紬「そう、かも」 体のいい理由を梓ちゃんが用意してくれたので、私はそれに乗っかることにした。 梓「やりすぎですよ……。私、ムギ先輩に嫌われたのかと思いました……」 紬「私が梓ちゃんを嫌いになるわけないじゃない」 梓「ならいいんですけど……ああいうのはもうやめてくださいね。本当にヘコむんですから」 紬「うん。ごめんね」 電話の向こうで梓ちゃんがはーっと息を吐いて、受話口からばたばたという音がした。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 12:01:05.30 ID:Iof5d2+a0 - 梓「良かったです。私、ムギ先輩に何か失礼なことしちゃったのかと思って色々考えちゃいました」
紬「ううん、私が悪いの。だから気にしないで」 梓「はい」 紬「じゃあ梓ちゃん、また明日ね」 梓「はい。失礼します」 そこで私達は電話を切った。 私の左耳は、また暖かくなった。 私はベッドに寝転んで、壁とにらめっこしながら考えた。 なんで私はあんな事をしたんだろう。 梓ちゃんが傷つくのはわかりきっていたのに。 梓ちゃんが傷つけば、私も悲しくなるのに。 その疑問に私の頭が全部持っていかれたおかげで、罪悪感は枕の横に置いたままになった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 12:02:28.15 ID:Iof5d2+a0 - 申し訳ないけど出かけます
3時半頃再開予定 ラストまで書き溜めてあるので、今日中には投下終えるつもり
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:08:16.29 ID:Iof5d2+a0 - それから一週間、唯ちゃん達も部室に通い続けた。
梓ちゃんが唯ちゃん達に何か言った様子はなく、いつも通りの時間が過ぎていった。 梓ちゃんも私がした事に言及してこなかった。 私だけがいつも通りじゃなかった。 私は音楽室に入るたびに、怖れと好奇心を募らせた。 みんなに知られた時の事を考えると身が竦む。 竦むのに、好奇心は堆積して私を隈なく覆っていく。 私はこっそり、音楽室の物置の内側の鍵を壊しておいた。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:16:43.93 ID:Iof5d2+a0 - 【平成22年 12月6日】
梓「今日はみなさん来ないんですか?」 紬「うん」 梓「そうですか」 そう言って、梓ちゃんは少し残念そうな顔をした。 みんなが来なくて寂しいの? それとも私と二人でいるのが嫌なの? 梓「あ、でもムギ先輩と二人っきりなら、この前みたいに作曲の話ができますね」 私はそれに答えず、部室の物置を指差した。 紬「梓ちゃん、ちょっと取ってきてほしいものがあるの」 梓「なんですか?」 紬「物置の中なんだけど……」 梓ちゃんは不思議そうな顔をしながら、物置に入っていった。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:22:03.75 ID:Iof5d2+a0 - 梓「どれですか?」
紬「奥の方」 梓「うーん、散らかってて何がなんだか」 私は物置のドアを閉め、鍵をかけた。 梓「あっ、もう!いたずらしないでくださいよ」 私が何も答えないでいると、梓ちゃんは内側から軽くドアを叩いた。 梓「ムギせんぱーい、開けてください」 梓ちゃんはしばらくドアノブをガチャガチャと回した。 梓「はぁ……。ていうか内側にも鍵あるんですからね」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:29:56.81 ID:Iof5d2+a0 - ドアの向こう側から鍵を外そうとする音が聞こえた。
梓「……ムギ先輩、開けてくれませんか?」 紬「嫌」 そう言った私の声は、自分でも驚くほど冷えきっていた。 梓ちゃんもそれを感じ取ったのか、声のトーンを変えた。 きっと、梓ちゃんは私がケーキを無理矢理食べさせた時の事を思い出したんだと思う。 梓「ムギ先輩、お願いします。開けてください」 紬「ダメよ」 梓「お願いします」 紬「梓ちゃん、私もう帰るね」 私はバッグを肩にかけて、音楽室を出ようとした。 梓「ちょ、ちょっと待ってください!もういたずらはしないって約束したじゃないですか!」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:36:13.65 ID:Iof5d2+a0 - 梓「待って!ムギ先輩待ってください!出してください!」
私は音楽室のドアに耳を当てて、梓ちゃんの声を聞いた。 梓「出して!お願いします!出してください!」 梓ちゃんは数分間叫び続けた後、急に静かになった。 静かにすれば私が戻ってくると思ったのかな。 梓ちゃんはしばらくしてから、さっきより必死に叫び出した。 梓「やだああああ!出して!助けて!!」 私はまたドアに耳を当てる。 梓「誰か!やだ!やだああっ!いやああああっ!!」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:44:27.34 ID:Iof5d2+a0 - 物置のドアを何度も叩く音が聞こえた。
それから一時間近く、梓ちゃんは泣き叫び続けた。 最後の方は声もほとんど掠れていたし、なりふりかまっていられないといった様子だった。 梓ちゃんが静かになって更に一時間くらいしてから、私は音楽室に入った。 物置のドアを開けると、梓ちゃんは泣き疲れたのか諦めたのか、抱えた膝に顔を埋めて座り込んでいた。 紬「梓ちゃん、帰ろう?」 私が声をかけると、梓ちゃんは力なく顔を上げた。 紬「ね、帰ろう?」 梓ちゃんはほっとした顔を見せると、ぽろぽろと涙を流した。 梓「はい……」 私は梓ちゃんの手を引いて、物置を出た。
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:49:41.22 ID:Iof5d2+a0 - 家に着くと、私はまた梓ちゃんに電話をした。
紬「梓ちゃん、ごめんね」 梓「もういいです……」 紬「よくないよ。私、梓ちゃんのこと泣かせちゃったんだし。本当にごめんね」 梓ちゃんは涙声で言った。 梓「いたずらはしないって約束したじゃないですか……。狭いところは嫌だって言ったじゃないですか……」 知ってるわ。 だから閉じ込めたの。 紬「ごめんなさい」 梓「……私の事嫌いなんですか?」 紬「そんなことないよ。大好きだよ」
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- 紬「カンカンカンカンカンカンカンカン」
220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/09/27(月) 16:55:03.72 ID:Iof5d2+a0 - 梓ちゃんはしばらく黙った後、ぽつぽつと言った。
梓「今日のことは忘れます。唯先輩達にも言いません。もちろん、憂にも純にも。だからムギ先輩も忘れてください」 紬「うん、ありがとう」 梓「それから、約束してください。もう意地悪しないって」 紬「うん。約束」 それからお互いを慰める言葉をいくつか掛け合い、私達は電話を切った。 私はお茶を淹れて一息つくと、梓ちゃんに「本当にごめんね。もう絶対に意地悪しないから」とメールを送った。 梓ちゃんは、「はい。ていうか忘れてくださいね。また明日部室で。おやすみなさい」とすぐに返してくれた。 そのメールを見て私は安心したけど、その気持ちも翌朝には綺麗さっぱり消えていた。
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