- エロゲスレとくらそう
648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/04/26(月) 00:10:16.53 ID:hPjhEPuw0 - 20だろう
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- エロゲスレとくらそう
656 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/04/26(月) 00:29:43.04 ID:hPjhEPuw0 - 基本エロゲなんてそんな感じ
ここまで盛り上げといてこれかよ・・・みたいな
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- エロゲスレとくらそう
662 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/04/26(月) 00:47:03.23 ID:hPjhEPuw0 - おいやめろ
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- エロゲスレとくらそう
668 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage]:2010/04/26(月) 01:03:50.24 ID:hPjhEPuw0 - さて終末論の残りやるか
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- ラノベ、小説書いてるやつが息抜きに寄るスレ
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 15:46:46.65 ID:hPjhEPuw0 - 一番書きやすいのは三人称作者視点なのかな
神の視点だったら比喩とか使いにくくなっちゃうし
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- 迷い猫オーバーランを観たんだが
4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 15:55:36.52 ID:hPjhEPuw0 - 可愛いってのは容姿だけの問題じゃないんだよ
性格が一番重要 それなのにその性格を「属性」だと勘違いして 更に属性をペタペタ貼り付ければいいんじゃね?wwなんて考え方をしてしまうバカが増えたから救えない
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- 貧乳が羨ましい
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 15:57:06.12 ID:hPjhEPuw0 - 解ってない
大きさより形が重要だということを解っていない つまり美乳こそ至高
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- マジレスお願いします。すごくなやんでます
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 15:57:55.27 ID:hPjhEPuw0 - 怒らないでマジレスしてほしいんだけど
なんでこんな時間に書き込みできるわけ? 普通の人なら学校や会社があるはずなんだけど このこと知った親は悲しむぞ? 現実見ようぜ
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- 1990年が20年前
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:01:51.09 ID:hPjhEPuw0 - あのころは楽しかった……
俺の人生のピークだったな
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- 心太←読めない奴はゆとり
3 : ◆azNZBc5e2w []:2010/04/26(月) 16:02:23.96 ID:hPjhEPuw0 - こうだろ
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- 今期No.1の正統派ドタバタ学園ファンタジーアニメについて
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:02:51.29 ID:hPjhEPuw0 - メイドって設定が斬新
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- なんでアニメって、オヴァになると途端につまらなくなるの?
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:04:09.97 ID:hPjhEPuw0 - オリジナルなビジュアルのアニメーション
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- 主人公がリア充なアニメ見ると死にたくなる
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:05:01.10 ID:hPjhEPuw0 - NHKにようこそ!
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- 予備校で二目惚れした
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:05:31.86 ID:hPjhEPuw0 - えるしってるか
画面の向こう側には行けないということを
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- 萌えに媚びてる商業アニメばっかだけどお前ら面白いと思ってんの?
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:06:25.96 ID:hPjhEPuw0 - 萌え豚はオナニーができればいいんだろ
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- 結局ゆとり叩きってさwwwwwwwwwwww
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:09:10.70 ID:hPjhEPuw0 - ニコ厨の特徴
・ニコ厨=東方orボーカロイドorひぐらしのなく頃にが好き ・ニコニコ動画のことをニコ動と言う ・リアルで2ch語を使う ・ニコニコ動画への勧誘を常に行う ・アンチニコ厨には必死でニコニコ動画の面白さを伝えるしかしそのいらないおせっかいのお陰でウザさ倍増 ・知ったかぶりが激しい ・スレ主 うp主とかいっちゃう(笑) ・〜なやつ挙手(笑) ・自己中 ・しつこい ・すぐキレる ・他人の話しを聞かない ・自分の意見を押し通す ・他人の好きなアニメが自分が嫌いなアニメに当てはまっていたら「あああの糞アニメか」「見るだけ無駄」「見たら負け組」などとことんけなす ・自分の意見が全てだと思ってる ・何か勘違いをしている
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1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[文才が無いのは仕様]:2010/04/26(月) 16:12:29.85 ID:hPjhEPuw0 - 「生徒と教師の恋愛ってどうなんでしょうね」
放課後の部室内。部員は僕と先輩の二人だけで、必然的にこの部室に入れるのも僕と先輩だけになる。部長である先輩は毎日欠かさずこの部屋に居るし、先輩目当てで入部した僕も金魚の糞のように付いてきている。 今は特にすることも無いので先輩が問題集を解いている様子を眺めていたのだけど、いい加減飽きてきたので話題を降ってみることにした。 その声はとても小さく、ともすれば独り言にしか聞こえないほどの声量だったけど、自称地獄耳の先輩にははっきりと聞こえていたようで、彼女はくるくるとペンを回していた手を止めると、顔を上げて僕を見た。 「何よ突然」 「いえ、特に意味は無いんですけれどね。最近はそう言う類の相談が多いじゃないですか。ニュースとかでもよく取り上げられますし」 相談。 そう。それこそが三島先輩と僕が立ち上げた部の活動内容だ。僕達二人は放課後から完全下校時刻までこの部室で待機し、誰かが相談に来ればその話を親身に聞いて適切な助言をし、場合によっては手助けをすることもある。 勿論相談を受けてやったんだから見返りを寄越せなんて言わないし、僕達は毎日無料で相談を受け付けている。元々が先輩の暇潰しのために創った、娯楽のための部活だから相談自体が見返りなのかも知れない。僕は解らないけど。 ……でも相談者が感謝の気持ちにと言って渡してくる紙幣貨幣はありがたく受け取ってますけどね。いえだってこちらからは強要していませんし感謝されて悪い気もしませんし、貰えるものは貰っておこうというのが僕のポリシーです。 「本人達が納得して、それで幸せなら別に良いんじゃないの? そりゃまぁ公然といちゃつくのは問題があるでしょうけど、そこはほら卒業するまでは我慢するとかさ」 「そうですね。僕も概ね同感です。……ですが先輩、同様の相談を受けた際に生徒と教師が恋愛なんてけしからんとか何とか言ってた時もありましたよね。あれはどう言う意味だったんですか?」 まさかその時々によって信念を変えているわけじゃあるまい。はたして、先輩は首を横に振った。 「勿論違うわよ。あの場合はね、教師が危ない奴だったからね。普段は気さくで格好良い先生を演じて、その実何人もの生徒を脅しているらしいのよ」 「脅しているって……」一瞬疑問に思い、すぐさま理解する。「あ、やっぱり良いです。答えないでください」 「ありがと。つまりそう言うことなのよ。個人の自由だって言っちゃえばそれまでなんだけど、悪い方に転がるってのが解りきってるとついつい手を出しちゃうのよねぇ。はぁ……」 先輩が陰鬱そうにため息を吐く姿は珍しいので、僕は小首を傾げてしまう。 「別に良いことなんじゃないですか? 犯罪者の毒牙に掛けられるのを未然に防ぐのは悪いことじゃないと思いますけど。と言うか警察に通報してしまえばそれで良いでしょう。教師に犯罪者が居るんですけどって」 「んー。実を言うとね、そいつが実際に生徒を脅していると言う証拠は無いのよ。さっきのも人伝えに聞いただけだし。黒に限りなく近いグレーだけど、警察は動いてくれないのよ」 「そうなんですか」 全く理解できなかったけどとりあえず頷いておく。警察って案外大したこと無いんだなぁぐらいしか感じませんでした。 そう言えば学校と言うのは開放的に見えて実は閉鎖的だし、そう言うのは公表したくないのかも知れない。教師一人のせいで評判を下げる訳にもいかないのだろうし、大体の事件はもみ消しているらしいですね。僕は知りませんけど。 「……」 会話が一段落着いたので三島先輩は再び問題集に目を落とし、僕も再び先輩の観察を開始した。 何はともあれ、今日も平和でした。とてもじゃないけどこの学校で性犯罪が行われているとは思えないくらいに。 「……」 沈黙は息苦しくなく、むしろ心地良い。 先輩と同じ空間を共有できることに喜びを感じながら、僕はうららかな夕日を全身で感じ、大きな欠伸を漏らしたのだった。 Fin
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4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:15:49.04 ID:hPjhEPuw0 - 「――以上。HR終わり。用事が無い生徒は速やかに下校するように」
「きりーつっ!」 クラス委員長の号令で全員が立ち上がり、息を揃えたさよならの挨拶が教室中に響く。その声に背中を押されるようにして担任教師が教室から出て行くと、途端に生徒達が談笑を始めた。 平均的な男子高校生である僕も例に漏れず、比較的仲の良い友人達と世間話に興じていたのだけれど、それも一人の女子の介入によってあっさりと終わってしまう。 「あんた、この私を放っておいて何楽しそうに世間話なんかしてるのよ! さっさと帰るわよ!」 「へいへい」 彼女の名前は古城春香。長身でスタイルも良くルックスも割合整っているのだけど、肉が縦に積み重なった弊害なのか、女の子のステータスとも言える一部の起伏が貧相な、非常に残念な人である。 先の科白からも想像できる通り気の強い女子で、猫のように吊り上がった目が、赤みがかったショートヘアに良く似合っている。 ちなみに、僕の知人に極度のヲタクが居るのだけど、彼は初めて春香を見たときに「彼女はツンデレでござるな」と断言していた。確かにそんな要素を持っていることは否定しないけど、 肝心のデレはどこに行ったのだろうか。残念ながら僕は一度も彼女のデレた姿を見たことが無い。 「いっつも怒っているように見えるしなぁ」 「ちょっと、何ブツブツ言ってんのよ。早く帰る準備しなさいって」 「解ってるって」 どうして春香が僕の帰りを急かしているのかと言うと、理由は単純明快で、僕達が小学校からの幼なじみだからである。家が隣接していて、学校もエスカレーター式だったため、もう10年以上も登下校を共にしていて、それがいつの間にか日常化してしまったのだ。 僕もその辺りには異論は無いのだけど、しかしHR終了からすぐに下校する必要はあるのだろうか? 今日は別段急ぐ用事なんて無かったはずだけど……と、そんなことをかれこれ5年以上思い続けている。思うだけで口に出したことは無いけれど。 「それじゃ皆、今日はこれで」 「おう、また明日」 教科書と筆記用具を詰めた鞄を持って、春香と共に教室を出る。後ろから「こうして見るとカップルにしか見えないよな」と冷やかしの声が飛んでくるけど、いつものことなので無視。それを聞いた春香が怒りに顔を真っ赤にして拳を握るのもいつものことなので無視。 ……してたら3発ほど殴られました。僕は全く関係無いはずなのに理不尽な話である。まぁ、これも含めていつものことだからもう慣れてしまったのだけど。 下駄箱で一旦別れた僕達は校門で再び合流し、そして岐路に着く。 秋風が肩を並べて歩く僕達の間を通り抜け、僅かながらに残っていた枯れ葉を散らしていく。木々の根元に落ち葉が溜まっているのを見ると、もうすぐ冬なんだと言うことを実感して、そうすると途端に空気が肌寒く感じて思わず身震いをしてしまった。 こんなことならマフラーを持ってくれば良かったと今更ながらに後悔する。手の寒さはポケットがあるからある程度我慢できるけど、さすがに首元はガードできない。亀のように学ランの中に首を引っ込めても、 秋風は容赦なく隙間を見つけて僕を攻撃してくる。 一体僕が何をしたんだと心の中で涙を零していると、隣を歩く春香が顔を覗き込んできた。 「どうしたのよそんなに縮こまっちゃって。……あ、もしかして私と一緒に歩くのが居心地悪いの? 古い仲なんだから萎縮しなくたって大丈夫だって」 「どこをどう分析すればそんな結論が出るんだよ……」冗談だというのは解りきっているので本気で返すようなことはしない。「ただ、ちょっと、風が冷たいからさ」 「風?」 普通なら今の説明で理解できるはずなのだけれど、春香は理解できていないようで眉間に皺を寄せた。これは彼女が考え込むときの癖なのだけど、傍から見ていると何か怒っているように見えて心臓に悪い。 せっかく可愛らしい顔立ちをしているのだから小首を傾げるとか色々あるだろうに……。 と言うか、
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7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:18:25.99 ID:hPjhEPuw0 - 「いつの間にマフラーなんて用意したんだよ」
そう。校門で合流したときには風に煽られて白いうなじが見えていたのに、今は手編みらしきマフラーを首に巻いて完全に風を弾いている。まさかと思って視線を下げると、 なんと手袋まで着用していた。ちゃっかりしていると言うか何と言うか……、僕は呆れてため息を吐いてしまう。 僕の視線に気付いたのか、はたまたさっきの科白で僕がどうして縮こまっているのかを理解したのか、とにかく春香はぽんと手を打つと、見せびらかすようにマフラーをひらひらと振ってきた。 「……羨ましいんだ?」 おまけに質問内容にかすりもしない返事だし。……いやまぁ確かに羨ましいのだけれど。それを認めると家に着くまで延々とからかわれるのは火を見るより明らかだし、 言ったところで何の解決にもならないし。 要するに僕は黙秘権を行使することにした。 「羨ましいんでしょ? こら、黙ってないで答えなさいよ」 「別に、羨ましくなんて――っくしゅん」 「…………」 気まずい沈黙が場を支配した。 と言うか何やってんだよ僕は! よりにもよって最悪のタイミングでくしゃみしやがって。春香はこんな絶好のチャンスを見逃すような女じゃないぞ。絶対からかわれる……! どうやって耐えようかと俯いていると、不意に首が暖かくなった。 冷静に考えてみると、それは毛糸の暖かさだった。 「……春香?」 女性特有の甘い匂いが鼻孔をくすぐったので顔を上げてみると、思ったより近くに春香の顔があってびっくりした。 と言うか、僕達の首は同じマフラーで繋がっていた。 まぁ、常識的に考えて二つもマフラーを持ってくるような人間は居ないだろうから理解はできる。だけど、どうしてマフラーを僕に半分くれたのだろうか。普段の彼女を知っているだけに、そこが大いに気になる。 何か裏があるのではないかと勘繰ってしまい、納得できない。 解らないのなら本人に訊けば良いのだろうけど、当の春香は何故かそっぽを向いているので話しかけられない。頬が少し赤らんでいるのは風が当たっているからだろうか。 全長を使って口元まで覆っていたのに比べると、今の首筋だけを覆っている状態は堪えるのかも知れない。 それでも充分暖かいのだけれど。 じぃっと見続けても一向にこちらを向く気配が無いし、時間が経つごとに赤面度が上がっている。やっぱり寒いのだろう。ミイラ取りがミイラに(使い方が間違っている気がしないでもない)なったら元も子もないから、 やっぱりマフラー返そうかと口を開きかけたとき、それに被せる形で春香が小さく呟いた。 「……寒いんでしょ」 「へ?」 僕の意思に関係なく聞き返すと、春香は物凄い勢いで僕を振り返った。 「か、勘違いしないでよね!? あんたに風邪でも引かれたら見舞いに行くのも面倒だし、ここであんたを見捨てたら死ぬまで根に持たれそうだったし、第一私は困ってる奴を見捨てるほど非情な人間じゃないのよ。 別に、あんたと正々堂々相合マフラーできるとか恋人みたいだなとか、そんなことこれっぽっちも思ってないんだから!!」
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8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[長すぎる行がありますUZEEEEEEEE]:2010/04/26(月) 16:20:32.97 ID:hPjhEPuw0 - 「えー、あー、うん。解ったからとりあえず落ち着いてくれ。周囲の注目を浴びてるし、お前が動き回るからマフラーで首が絞まって息苦しい。あと、どさくさに紛れて人の足を踏むな」
何やら錯乱しているらしい春香を宥めつつ、自然と歩を速くする。周りの野次馬から逃げるためでもあるし、何故か沸騰している春香の頭を冷やすためでもある。 冷たい空気に当たれば熱も冷めると言うけど、それは思考回路までカバーしてくれていたらしい。数分も掛からない内に春香は正気に戻ってくれた。 「……あー、ごめん。迷惑掛けたわね」 「別に。いつものことだから慣れたよ」 苦笑交じりに手を振ってやると、彼女も同じように苦笑してみせた。 お互いの吐息が掛かる距離の中、僕達は穏やかに笑い合う。 ――たまには寒いのも良いかもしれない。 いつもより身近に春香の体温を感じて、僕は心の中でそう思った。 Fin
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9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[二次創作の方が多いよ]:2010/04/26(月) 16:22:45.86 ID:hPjhEPuw0 - わたしの願いは主の願い。
ほかには何も望みません。 「崩子ちゃんって、何か願い事とか無いの?」 ある日、お兄ちゃんは言いました。 ちょうどそのとき、わたしはテレビを見ていて、だから最初は何を言われたのか分かりませんでした。 「えっと、すみません。何か言いましたか?」 「いや、そんな大したことじゃないんだけどね」お兄ちゃんは後ろめたそうに両手を振ります。「崩子ちゃん、願い事とかあるのかなって」 「願い事、ですか……」 そういえば明日は七夕でした。テレビでもそのようなことが流れていて、だから急にそんなことを質問したのかと納得しました。 しかし、願い事。 「特に、これといった願いはありませんね。現状に不満がある訳でもないですし」 「ふうん……そうなんだ」 本当は、ひとつだけ望みはあるのですが、しかしこれはわざわざ言うほどのものでは無いので黙っておくことにします。 それに、わたし自身の願いという訳でもないですし。 「そう言うお兄ちゃんはどうなのです?」 「何が?」 「願い事ですよ。お兄ちゃんにはあるのですか?」 「ぼくは……」腕を組んでなにやら真剣そうに悩んでいるお兄ちゃん。一度だけチラッとわたしに視線をよこしました。「やっぱり、無い……かな」 「そうですか」 含みを持たせた言い方が少し気になります。ひょっとしたらお兄ちゃんも隠しているのかもしれません。 もう少し質問すれば教えてくれたかもしれませんが、聞いたからといってどうにかなるようなものではないので流すことにしました。 「でも、明日までには何か考えておかないといけませんよ」 「分かってるよ」
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10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[感慨深いよね。黒歴史的意味で]:2010/04/26(月) 16:25:13.55 ID:hPjhEPuw0 - 翌日、七月七日。
この日のためにアパートのみんなでお金を出し合って買った大きな笹に、みなさんの短冊を括り付けることになりました。 「崩子ちゃん、見ちゃ駄目だよ」 「お兄ちゃんこそ、付けるのはお兄ちゃんなのですから、見ないでくださいよ」 「分かってるよ」 仲良くぶら下がった二枚の短冊。 風に吹かれてひらひら揺れる。 『崩子ちゃんの願い事が見つかりますように』 『お兄ちゃんの願い事が叶いますように』 数日後に見つかったわたしの願い事。 わたしのような者が願うには分不相応ですが、もし叶うのならば。 ――お兄ちゃんとずっと一緒にいられますように。 fin
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11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[リアルタイム執筆。3月14日]:2010/04/26(月) 16:27:16.87 ID:hPjhEPuw0 - 宿題を終わらせ、息抜きがてらソファに身を預けてテレビを見ていると、緊急地震速報と言う文字が画面上部にチカチカと出現した。
どうやら東北辺りで地震が発生したらしい。震源地は福島県沖で、マグニチュードは6.6。津波の心配も無さそうだし、僕はほっと胸を撫で下ろした。 「昨日に引き続き今日もまた地震か。さすが地震大国日本ね。ま、私らには関係無いけどさ」 僕の隣に座っていた姉貴が人事のように言った。その口調があまりにも軽かったので僕は咎めた方が良いのかと思ったが、止めた。 彼女も大規模地震の被害者なのだ。正式名称兵庫県南部地震。両親が僕達を守ってくれなかったら姉貴も僕も助からなかったであろう天災。 もう15年も前の出来事になるけど、あの時の恐怖は忘れない。僕はまだ幼児だったから記憶に無いけれど、姉貴は既に物心が付いていたからその目で惨状を見ていたはずなのだ。そう言う意味では僕よりも地震の怖さを知っていると言える。 その証拠に、口調こそ軽いものの、姉貴の瞳には心配の色が浮かんでいる。心配なら声に出せば良いのに、相変わらず素直じゃない。見ず知らずの人間を心配できるのは良い所なのだけど。 「心配しなくても被害はそんなに大きくないって。日本人って地震に鈍感な節があるし元気に遊んでるんじゃないの? フィギュアが倒れたとかで嘆いてる人は居るだろうけどさ。逆に言えばその程度の被害でしょ?」 「理屈では解ってるのよ。でも、実際に見てみないと解らないじゃない。……って違うわよ! 別に私は心配とかしてる訳じゃないんだから勘違いしないでよね!?」 ……こう言うのもツンデレって言うのか? 僕には解らない。解らないけれど、姉貴が素直になるのはまだまだ先だと言うことだけは解った。 テレビでは芸人が寒いギャグを言っている。隣では姉貴が顔を真っ赤にして意味の成さない言葉を途切れ途切れに叫んでいる。 僕はため息を吐くと、それらの喧騒から逃れるように家を出た。ついでに買い物でもしておこう。 とりあえず、地震があったからおかずはコロッケに決定だ。さて他はどうしようか。 まだ見ぬ今日の夕食を夢想しながら、僕は夕日に照らされる街中を歩く。 Fin
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12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:30:33.55 ID:hPjhEPuw0 - 「時にキミ。これから時間とかあるかな?」
「何ですかその時代錯誤的なナンパ科白は。しかも『とか』って何。最近の若者は日本語の使い方を間違え過ぎでしょう。本当に嘆かわしい限りです」 「あんたもその若者の一人でしょうが」 そう言うと若林先輩は肩をすくめて苦笑した。動作が一々大袈裟なのは何とかならないのだろうか。ならないんだろうなぁ、何度言っても矯正の見込み無しだし。 少しずり下がってきたバッグを抱え直すと、僕は先輩に責めるような目を向ける。 「あのですね先輩。何度も言いますけど僕を待ち伏せるのは止めてくれませんか? いくら同じ部活の仲間で気が置けない間柄だと言っても、物陰から急に現れられると吃驚するんですよ。 部活後の疲れた脳にその刺激は大変危険です。どれぐらい危険かと言いますと、これが後20回も続くと精神力が無くなって気絶してしまうぐらい危険です。それ以前にストレスのせいで体調を崩してしまうかも知れません。ここだけの話、 僕は毎日胃薬を飲んでるんですよ。それも飛び切り苦いのを。誰のせいか解ってますよね?」 「はいはいそんじゃ頑張りなー。……え? いやいやあんたらののろけ話なんて聞いてないし、切るわよ。……っと、話終わったの?」 「聞けよオイ」 僕はがっくりと項垂れた。先輩は全く悪びれずにへらへらと笑っている。いっそ清々しいほどの笑顔で。ともすれば僕の器が小さいんじゃないかと言う錯覚まで感じてしまい、僕は頭を振ってその考えを捨てた。 悪いのは絶対的に若林先輩で、僕は完全に被害者なのだ。その事実を忘却して状況に流されるなど愚の骨頂である。 心中で揺れ動く針を固定していると、先輩は不意に真面目な顔を作って僕に問い掛けてきた。 「でもさ。何だかんだ言ってもあんたは私を拒否してないじゃないのよ。本当に嫌だったら私のことを無視すれば良いんだし、 それ以前に部活を止めちゃえば帰宅時間もかち合わないでしょうに。それか帰る道順を少し変更してみるとか」 「最後の方は完全に『逃げ』の方法ですよね。確かにそれは一時的な解決にはなるでしょうけど、言うなれば目を逸らしているだけじゃないですか。先輩から逃げるために部活を止めるなんて論外ですし、 道順を変更しても何故か待ち伏せされてますし。どうやってんですか本当に。僕の心が読めるんですか?」 「あぁ、それは簡単よ。あんたの持ち物に発信機を取り付けてるだけだから」 「犯罪じゃないですか。警察に突き出しましょうか?」 「冗談よ冗談。本当はね、あんたを四六時中監視している人間から――」 「それこそ犯罪です! れっきとしたストーカーじゃないですか! どこに居るんですか!?」 「嘘に決まってるじゃないの。こんなのも見破れないなんて……失望したわ」 「勝手に期待して勝手に失望しないでください。何で僕が悪いみたいな空気になってるんですか。間違ってます」 「要するに真実は闇の中ってことだわね。と言うかあんた、もう一つの方法を忘れてるのかしら。ある意味一番効果的なんだけど」 「先輩を無視する、ですか? それこそ話になりません。僕は無視やらシカトやら、 そう言った陰湿ないじめにありがちなものは嫌いなんですよ。先輩だって知っているでしょう? それに、先輩ほどしつこい人なら無視したところで何度でも絡んできそうですし」 「要するに甘んじて受け入れる、と。でもさ、やっぱりそれってあんたが私を受け入れていることになるんじゃないの? どうなのよそこんとこ」 いつもに増して絡んでくる先輩を見据えると、僕は断言する。
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13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:31:14.82 ID:hPjhEPuw0 - 「別に僕は先輩を否定している訳じゃ無いんですよ。ただ、その方法と言うか手段と言いますか、要するに待ち伏せ行為に頭を痛めている訳でして。一緒に帰りたいのならメールなり何なりで伝えてくれれば良いのに、どうしてわざわざ面倒な手段を選ぶのかと聞いているんです」
「そっちの方が面白いじゃん?」 「怒りますよ」 「ごめんなさい」 拳を振り上げると、先輩はすぐさま頭を下げた。 顔を上げてくださいと言うと、今度は上目遣いで僕を見つめてくる。 「あのね。勘違いしているようだから言うんだけど、私だって年頃の女の子なのよ。あんたが思ってるみたいに図太い神経を持ってる訳じゃないし、感情も鈍感じゃないのね? 普通に誘ってそれを断られたら正直耐えられないのよ。解る?」 「は、はぁ……」正直全く理解できなかったけどとりあえず頷いておく。「それで?」 「だから予防線を張ってるの。待ち伏せ行為と言うマイナスの予防線をね。それで誘って断られても、待ち伏せしてたから断られたんだと言う風に解釈できるように。どう? ここまで言えば解るんじゃないかしら?」 「解るって……」 「私が毎日あんたを待ち伏せてる、その理由よ。と言うか今私が答えを言っちゃったんだけど」 そう言うと先輩は照れくさそうに頬を赤くして微笑んだ。 僕は先輩の言葉をもう一度脳内で繰り返し、ようやく納得した。そして、納得した上で口を開く。 「あんたアホですか」 「アホ……!?」 先輩が驚愕しているのを尻目に、僕は言葉を続ける。 「そんなのは先輩の被害妄想じゃないですか。何ですか、僕はそんなに悪い奴だと思われてるんですか。先輩の誘いを無下にするような人間だと? 馬鹿馬鹿しい。自分で言うのも何ですが僕の心の広さは日本海より広いですよ。 それこそ先輩一人の頼みならある程度引き受けられますし、それ以前に僕が毎度毎度不平を垂れながらも貴方と一緒に帰っている時点で気付くべきでしょう。僕は貴方と帰ることに負の感情なんか抱いていませんし、 むしろ喜んでいると言うことを。そうでしょう? 僕は先輩が好きなんですよ」 「え、あ……?」 「何ですかその情けない顔は。そうですか、まだ信用なりませんか。それなら今ここで約束しましょう。いえ、契約。僕は特別な事情が無い限り帰路を先輩と共に歩く、と。ほら、これで満足ですか? 満足なら諸手を挙げて喜びなさい!」 「ふぇ……あ、うん。やったー」 「それじゃ帰りましょうか」 今までの雰囲気を無かったようにバッグを抱え直すと、先輩を引っ張って歩き出す。口論で思ったより時間を食い過ぎたせいか、とっくに日が落ちており、早く帰らないと事故やら事件やらに巻き込まれそうだったからだ。 ……と言うか僕は勢いに任せて何を言っちゃったんだろう。冷静になって考え直せば凄く恥ずかしい科白だったんじゃないか? できることならさっきのは無かったことにしたかったけど、そうは問屋が卸さない。案の定正気を取り戻した先輩がにやにやと笑いながら僕の脇腹を突いてくる。 「ねぇ、あんた。私のことが好きなんだって?」
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14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:31:29.30 ID:hPjhEPuw0 - 「何のことやらさっぱり解りませんね。先輩、どこかで頭でもぶつけたんですか?」
「いやいや私にそんなドジっ娘属性は無いわよ。さっきあんたが言ったんでしょう」 「僕には全く覚えがありませんね。空耳だったんじゃないですか。それか幻聴とか」 「照れるな照れるな。私は嬉しいぞ」 「照れてません。と言うか先輩、明日からは待ち伏せなんて真似止めてくれるんですよね?」 鬱陶しそうに手を振り回しながら問い掛けると、先輩は真面目な顔で頷いた。 「勿論。せっかくあんたと恋仲になれたんだから明日からは堂々待ち合わせして帰ることにするわよ」 その科白に違和感を覚えたのは僕だけでしょうか? 「あの、先輩。恋仲って何のことです?」 「ん? そりゃあんた決まってるじゃないのよ。私達は晴れて両想だと言うことが解ったんだからもう恋人でしょ」 「……と言うことは先輩は僕のことが好きだったんですか?」 「当たり前じゃないの。好きでもない男を毎日待ち伏せする奴は居ないでしょうに。あんたひょっとしてバカ?」 「……まぁ、薄々気付いてはいましたけどね。あっさりと話が進んでたので驚きました。ちなみに僕は馬鹿じゃありません」 つーか好きなんだったら告白ぐらいしてくれよと思う。僕だけが恥ずかしい科白を言って先輩は何もしないなんて不公平ではないのだろうか? 僕の心中を読んだのか、それとも顔色で思っていることがバレたのか。とにかく先輩ははにかむように微笑むとこう言うのだった。 「はいはい私はあんたのことが大好きですよっと。……これで満足かしら?」 うっわこれ結構恥ずかしいじゃんとか何とか一人で顔を赤くしている先輩。かなり適当な物言いだったけど、言葉の中に感情が籠もっているのは解ったので僕は一応満足した。と言うかこれって聞く方も結構恥ずかしいんですね。 とにかく、今の先輩の科白で僕達が真の意味で両想いであることが発覚したので、僕はこれからもよろしくの意味を込めて先輩の頬にキスを落としたのだった。 「にゃ……!?」 「これからもよろしくお願いしますね、先輩」 「う、うん。こちらこそよろしく……」 顔を真っ赤にして恥ずかしがる先輩に、僕は何だか新鮮な気分を味わっていた。 なるほどこれが付き合うと言うことなんですね、と一人納得していると先輩が背伸びをして僕の唇に自分のそれをぶつけてきたのは恥ずかしいので誰にも言わないでおこうと思いました。 Fin
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15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:33:50.38 ID:hPjhEPuw0 - 「先輩、先輩。先輩って運命の赤い糸とか信じてます?」
ある日、陽菜はそんなことを訊いてきた。 その時僕は彼女の手作り弁当を食べ終えて、幸せな気分のまま陽菜の膝枕でうとうとしていた所だったので、彼女が何を言ったのか正直解らなかった。反応らしい反応と言えば、セーラー服の裾から覗く陽菜の白いお腹に顔を近付けたぐらいだ。 彼女はくすぐったそうに笑うと、毎日ハンドクリームを塗ってるんですよ、と力説していた小さな手で僕の頭を撫でてくれる。 「先輩は運命の赤い糸って信じてます?」 そして、ご丁寧にもう一度言ってくれた。今度は僕もちゃんと聞こえたので、体を転がして正面から陽菜と視線を合わせる。その際、頭を撫でていた手が耳の裏を擦ったので、僕はあふんと変な声を上げてしまった。しまったと慌てて口を押さえたけど、時既に遅し。 笑い声がくすくすと頭上から降ってきて、閉じていた目を開くと、意外と顔が近いことに驚くよりも早く、彼女がにんまりと意地の悪い笑顔を作った。 「先輩にも可愛い所があるんですねぇ。耳の裏が弱いんですか? ちょこちょこ」 「えぇい茶化すな」 ピンポイントで突いてくる指を払うと、追撃を逃れるために起き上がる。突然起き上がったせいで一瞬目の前が真っ黒になったけど、そんなに長い時間横になっていた訳ではないから、すぐに景色を取り戻すことができた。数回頭を振って眠気を逃がす。 隣を見てみると、陽菜が名残惜しそうにさっきまで僕の頭を撫でていた手を見ていた。実を言うと僕も結構寂しいのだが、あえてそれは言わないことにする。面白がって人の弱点を突いてきた罰だ。 ……とは言え、寂しいと言う感情は本物なので、膝枕状態より幾分離れてしまった今の状況から少し近付くことにした。木製のベンチの上をずりずりと移動して、ついに僕は彼女の真横に到達する。隣を見ると、陽菜も僕を見ていて、目が合うとにっこりと笑ってくれた。 僕も笑って、彼女の膝の上に乗っている右手を、左手で握る。小さくて柔らかい手だ。陽菜の体温を身近に感じて、ほっこりする。 「先輩って、運命の赤い糸、信じます?」 三度目の質問。普段はのんびりしている彼女がこれだけ催促してくると言うことは、それだけ重要な問題なのだろう。のんびりしているのは僕がそう言う人間だからで、本当の陽菜は元気に走り回ってる姿が似合うとかは今は関係ない。 早く答えないと昼休みが終わってしまう。時間が無いのだ。 僕は数秒目を閉じて言葉を選ぶと、目の前に広がる青空を見ながら答えた。 「どの程度までを赤い糸って呼ぶのか解らないけど、僕はそう言うのは信じない人間だろうね。運命の出会いなら信じてるけど」 「運命の出会い……ですか。でもそれって赤い糸とどう違うんです?」 小動物のように小首を傾げる陽菜。そうだねぇと妙に間延びした返事をしながら、僕はさっきのお返しとばかりに右手を伸ばして彼女の頭を撫でる。すると、陽菜は嬉しそうに目を細めて僕の肩に頭を乗せてきた。 肩枕とでも言うべきか。解らないけど、僕は嬉しかった。 「例えば、僕はこうして陽菜と恋人として付き合っている訳だけど、普通はそんなことにはならなかったと思うんだ」 「どうしてです? やっぱり私じゃ先輩と釣り合わないってことですか? せ、先輩、私に飽きちゃったんですね……酷いですよぉ」 「違う違う。元々僕たちは地元での幼馴染だっただろ? 中学までは同じ学校に通ってた訳だ。でも僕は、そのまま地元の高校に上がろうとはせずに、こっちで一人暮らしを始めた。 その時点で僕たちの縁は一度切れたはずなんだ。それこそ普通の関係なら二度と会うことは無かったと思うけど」 「そんなの、解らないじゃないですか」 「いやいや解るんだよ。だって僕は一人暮らしをするとは言っても、どこの高校に行くとは親以外に誰にも言ってなかったんだから。陽菜だって入学式に顔を合わせるまでは僕がここに居るなんて知らなかっただろ?」 「まぁ、そうですね。先輩がどこに行ったのか、必死で調べたのにちっとも解らなかったですもん。先輩の両親も口が堅いから全然教えてくれませんでしたし」 「だから、僕たちがこうして再び出会えたのは、運命の出会いが存在するからなんだろうなぁって思ったんだよ」
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16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:35:30.58 ID:hPjhEPuw0 - 「……よく解りません」
呟きに隣を見ると、彼女は難しい顔をしていた。そんなに考えさせるつもりは無かったし、内容も適当なことを言ってみただけなのだけど、それでも考えてしまうのは陽菜が几帳面な性格だからなのだろうか。 僕自身よく解っていないのだから、彼女に解る訳がない。感覚的な問題だし。陽菜の考え込んでいる顔は珍しいから、もうちょっと見ていたい気持ちもあるけれど、僕のせいで無駄に思考回路を使わせるのは気が引ける。 僕が話を切り上げようと口を開くと、それよりも先に陽菜が言葉を発した。 「今の先輩の説明だと、出会いも赤い糸も同じに思えるんですけど、どうして先輩は赤い糸は信じないんですか?」 ……おや。 まさかこの短時間で彼女なりの結論が出せるとは思わなかった。しかも、その上更に質問を重ねてくるとは。何度も同じ質問をしていた所から気になっていたけど、 どうやら陽菜にとってこの問題はかなり大きいらしい。僕は、彼女のトレードマークである赤いヘアバンドを外すと、少し茶色がかったセミロングの髪を指で梳き始める。 「運命の赤い糸って、要するに僕の足首だか小指だかに細い糸が結ばれてるってことだろ? それだったら何かしらの圧迫感を感じなきゃおかしいじゃないか。 今の所、僕はそんな圧迫感なんて感じてないからさ、赤い糸は信じられない」 まさかこんな説明で納得する訳が無い。勿論適当な理由付けだ。先も言ったけど、これはとても感覚的な問題だから、言葉で説明するのは難しいのだ。 何となく解ってる気がするのだけれど、人に話すとなると、途端に解らなくなる。 陽菜も納得し切れていないようで、長い睫毛に縁取られたくりくりとした瞳を揺らしている。 「そうですか? でも、こうすれば……」 彼女はそう言うと、いつも持ち歩いているポシェットから赤い毛糸を取り出した。突然どうしたのだろう。あやとりでも始めるのだろうか、と思っている間に陽菜は適当な長さに切った毛糸を自分の右手の小指に結び始めた。 それが終わると、今度は僕の左手の小指に、反対側の切れ端を結ぶ。自分の指に結ぶ時は、片手しか使えなかったから苦労していたようだけど、僕の時は両手を使えたからあっという間に結び終えてしまった。 「でも先輩、こうすれば私たちも赤い糸で結ばれてますよ?」 彼女はそう言うと、たった今毛糸で結んだばかりの、僕たちの小指を交互に指差した。試しに小指を曲げてみると、それに引っ張られて陽菜の右手が僕に近付いてくる。 「……なるほど。陽菜の考えでは運命の赤い糸は存在して、しかもそれを作るのは自分自身だってことか」 何となく彼女の言いたいことが解った気がして、勝手に口が動いていた。 すると、陽菜は正解です、と言って花のような笑顔を見せてくれた。 「運命は自分で切り拓くものですよ。だってそっちの方がロマンがありますし。私が今こうして先輩と一緒に居るのがその証明です!」 「うん?」 どういうことだろうか。 「先輩、先輩。先輩はさっき私たちが再会したのが偶然だって言いましたけど、実は違うんです。本当は、先輩がこの高校に進学したってことを、何十回も家を訪ねて先輩のお母さんから聞いたんですよ」 「……あー……」 それは知らなかった。と言うか、それはストーカーではないのだろうか。いやまぁいいのだけど。それだけ僕のことを好きだってことだろうし。……いやいやそこは問題じゃない。 一番の問題は、僕の理論が完全にひっくり返されたことだろう。大して思い入れは無いからどうなっても構わないけれど、運命の出会いそのものを否定されてしまった訳だから、それなりの衝撃はある。 僕は陽菜を見た。彼女はにっこりと笑っている。今まで全く気付かなかったけれど、彼女には運命を切り拓く力があるのか……。 「何か、凄いな。陽菜は凄い」
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17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:37:13.11 ID:hPjhEPuw0 - 「先輩も凄いですよ。だって、私が頑張れたのは全部先輩のおかげですから」
陽菜はそう言ってくれたけど、とてもじゃないけど僕は彼女ほど頑張れない。 こんなに凄い人を恋人にすることができた僕は、ひょっとすると凄い幸せ者なのかも知れない。 昼休み終了のベルが鳴る中、僕はそう思った。 Fin 去年はともかく今年書いたもの――特に三月以降に書いたものは横に長いものだらけだったことに気付いた 数は少ないからそういう意味では助かったかな
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19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>18ALLShortShort]:2010/04/26(月) 16:40:07.06 ID:hPjhEPuw0 - 「ねえねえのどかちゃん」
「ん」 久しぶりに唯と二人っきりで下校していると、何かを思いついたように唯が声をかけてきた。首に巻いてあるマフラーは私からのプレゼントかしら。 そろそろ春だし、もう必要は無いと思うけど、唯は寒がりだしもうしばらくは巻き続けそうね。それに、唯の宝物だって言ってたし。 自分のあげた物を宝物だと言われるのは、少しくすぐったいけどとても嬉しい。また何かをプレゼントしてあげようという気持ちになってくる。 「明日ってひま?」 「まぁ……今のところは暇よ」 ちょうど生徒会の仕事も終わったところだし、しばらくは何もすることがない。 「で、どこに行くの? 遊園地? それともショッピング? お泊りもいいわね」 明日の行動予定を訊くと、唯はぽかんとした表情になった。 「……すごいねのどかちゃん」 「なにがよ」 「どうして私の言いたいことがわかったの?」 「どうしてって……」 もう10年以上もずっと一緒にいたから大体のことは顔を見れば分かる。これも幼馴染の特権ね。 そう言ってやると、唯はさらに驚いた様子で私の顔を見つめてくる。ちょっと、顔が近いわよ。 「のどかちゃんって……」 「なによ」 「……ううん、なんでもないっ」 どうにも歯切れが悪い。この子にしては珍しい反応ね。 私の物珍しそうな視線を感じたのか、唯はあたふたと話を切り替えようとした。 「そ、それじゃ、明日は付き合ってくれるの?」 「えぇ」 どうせ家にいても何もすることがないし、それならこの子に付き合ったほうが楽しいだろうし、唯と一緒にいたら退屈なんてしないし、ね。 そう言ってやると、唯は満面の笑みでありがとうとお礼を言いながら、私に抱きついてきた。 「ちょっと、唯」 公衆の面前で抱きつかれるのはさすがに恥ずかしくて、唯を引き剥がそうとしたけど、ふわふわとした独特の匂いに包まれると、どうでもよくなってきた。 私が唯に甘いのは、これのせいなんでしょうね……。それに加えて、引き剥がしたときの泣きそうな顔を見たくないといった理由もあるか。 ま、一番の理由は―― 「えへへ〜」
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20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:41:16.56 ID:hPjhEPuw0 - 抱きついているときの唯の顔が本当に幸せそうだから、怒るに怒れないから、か……。
「はぁ……」 「ため息を吐くと幸せが逃げていくって、憂が言ってたよ?」 「誰のせいだと」 思ってるのよとは言えなかった。唯に罪は無いし、私が自分の甘さに嘆いているだけなんだから、自分のせいだ。 「だと?」 「……ううん、なんでもない」 「? 変なのどかちゃん」 そんな他愛も無いやり取りを繰り返していると、いつのまにかいつもの分かれ道に来ていた。 「それじゃ、のどかちゃん、明日忘れないでね?」 「はいはい、楽しみにしてるわよ」 「それじゃ、ばいば〜いっ」 「気をつけなさいよ」 タッタッタッ、と軽快なリズムで走り去る唯の背中を見送ってから、私も自分の家に帰ろうと足を動かす。 ――明日は、何を着ていこうかしら。 そして翌日。 たっぷりと1時間ほど迷い、ようやく着ていく服を決めて、唯の家に向かう。 まだ約束の時間じゃないけれど、特にやることが無いから家にお邪魔しようと思ったのだ。 ……別に、唯に会いたいとか思った訳じゃない、断じて違う。 「お邪魔します」 合鍵を使って玄関のドアを開けて、家に上がる。そのまま靴を脱ぎ、スリッパを履こうとすると、リビングから憂ちゃんが出てきた。 「あ、のどかさん。おはようございます」 「ええ。おはよう」 「今日は、どうしたんですか?」 「特に用は無いんだけど……。暇だったから来たのよ」 「そうですか。お姉ちゃんはまだ寝てると思いますけど……」 「それじゃ、私が起こしてくるわ」 「あ、はい。よろしくお願いします」 ぺこりと頭を下げる憂ちゃんに苦笑しながら、階段を上る。
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22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:41:40.99 ID:hPjhEPuw0 - ……本当に、よくできた子だわ。とてもじゃないけど、唯と血がつながってるとは思えない。
『コンコン』 「入るわよ」 一応、ノックをしてからドアを開ける。 部屋に入ると、まず床に脱ぎ散らかされた衣服類が目に入った。 続いてテーブルに目をやると、数冊の雑誌が乱雑に積まれ、その横には食べかけのスナック菓子がぽろぽろとこぼれている。 最後にベッドを見てみると、掛け布団を蹴散らして、ほとんどパジャマ一枚で寝ている唯。 「相変わらず寝相が悪い子ね……」 よく見ると、パジャマの裾の部分が捲れて、のっぺりとした白いおなかが見えている。 こんな状態で寝てたら風邪引いたりしそうなものだけど……。 そんな私の懸念を吹き飛ばすぐらいの勢いで、唯は幸せそうに寝息を立てている。 「ま、こんな日に風邪なんか引かれたら困るからね」 それよりもまずは唯を起こさないといけないわね、そろそろ朝食の時間だし。 カーテンを勢いよく開けて、太陽の光を部屋に入れる。 そして、相変わらず幸せそうに眠っている唯に手をかけて、 「起きなさい、唯!」 で。 それから数十分に渡る死闘を繰り広げ、ようやく唯を起こすことができた。 「んぅ……あ、のどかちゃん」 「おはよう」 肩で息をしながら朝の挨拶をする。どれだけ揺さぶっても叩いても起きないから体力だけ無駄に使っちゃったわよ……。 当の本人は私の苦労を知ってか知らずか――おそらく後者だろうけど、うぅんと伸びをしている。 「今日は、どうしたの?」 関節をゴキゴキと鳴らしながら、唯がそう訊いてくる。 「別に。約束の時間まで暇だったからお邪魔しに来ただけよ」 唯を起こすまでにもうだいぶ経ってしまったけど、まだまだ約束の時間にはならない。 「約束……あぁ、そうそう! のどかちゃん、今日どこに行こっか?」 テーブルから雑誌を数冊持ってきて、私に尋ねてくる。 ――って。
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23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>21まぁ当然]:2010/04/26(月) 16:42:53.68 ID:hPjhEPuw0 - 「あんた、まさかまだ決めてなかったの?」
「うん。のどかちゃんと一緒に決めようと思って」 「普通こういうのは誘った方が決めとくもんじゃないの?」 「へ? そうなの?」 「そういうものでしょ……まったく……」 頭が痛い。 こんなんで将来大丈夫かしら。付き合ってもすぐ愛想を尽かされそうで心配だわ……。 「だって、のどかちゃんとお出かけするんだから、一緒に決めたほうが楽しそうじゃない?」 「それはまぁ……確かに」 そうかもしれないけど。 「でしょ? だから一緒に決めよっ」 「はいはい」 二人並んでベッドに寝転んで、早速議論を始める。 「ここなんかどうかな?」 「それならこっちでしょ」 「いやいやこっちだよぉ」 議論はどんどん白熱し、結局、憂ちゃんが、朝ごはんだよと私たちを呼びに来てもまらなかった。 「いただきます」 「はいどうぞ」 きちんと手を合わせてからお箸に手をつける。作ってもらう人間でるからには当然の行為だ。 そんな私を見て、何も言わずにごはんを食べようとしていた唯は、慌てた様子で手を合わせる。 「いただきます」 「はい召し上がれ」 そんな唯を見て、憂ちゃんはにこにこと満面の笑みを浮かべた。 きちんと手を合わせてくれたことが嬉しいのかしら? 普段は何も言わずに食べるんだから、この子は……。 そのうち直させないといけないわね。 「もきゅもきゅ……それで、結局どこに行くんだっけ?」 「まだ決まってないでしょ」 「あ、そうだったね〜」
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24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:43:25.64 ID:hPjhEPuw0 - 「はぁ……」
「あの、何の話ですか?」 唯の記憶力の無さに呆れていると、憂ちゃんが恐る恐る話に入ってきた。 「えっと……実は」 「今日はのどかちゃんとお出かけするんだよ〜」 私が言おうと思って口を開いたのに、横から唯が楽しそうに答えてしまった。 ちょっと、人のセリフを盗るんじゃないわよ……。 そう思ったけど口には出さず、憂ちゃんの反応を待つ。 「あ、それでのどかさんが来てたんですか?」 「いや、それは関係無いわよ」 本当に、暇だったから来ただけだし。 「そうですか……。それで、昨日お姉ちゃんあんなにはしゃいでたんだ……」 「何のこと?」 「実は――」 興味を惹かれたから、詳しく聞こうとすると、唯があたふたと話に割り込んでくる。 「だ、だめだめ! のどかちゃんには関係ないよっ! 憂もそれは内緒だって言ったじゃない!」 「ご、ごめん……、お姉ちゃん……」 「気にしなくていいのよ。さ、詳しく教えて頂戴」 「え、えっと、あの……」 「憂、だめだよ? のどかちゃんには絶対教えないで!」 「あんたはちょっと黙ってなさい」 「むぅ……」 「さ、教えて頂戴?」 「だ、だめだよ、憂!」 「えっと、その」 「ふふ……」 ――慌てふためく唯と、困惑の表情を浮かべる憂ちゃんが微笑ましくて、いつの間にか私は頬を緩めてしまっていた。 その後、何度か唯をからかいながらごはんを食べ続けて、気が付いたら茶碗は空っぽでおなかもいっぱいになっていた。 「「ごちそうさまでした」」
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25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:43:42.38 ID:hPjhEPuw0 - 「おそまつさまでした」
自分の分の食器を流しまで持って行き、そのまま洗おうと思ったけど「あ、私がやっておきます」と憂ちゃんが申し出てくれたから、そのまま唯の部屋へと戻ることにした。 フローリングの床をゴロゴロと転がりながら、あいすあいすと呟いている唯を引っ張り上げて、そのまま三階へ上がる。 部屋のドアを開けるなり、すぐにまたベッドに飛び込む唯。危ないわよと言っても、えへへと笑うだけ。 私はそんな危ないことはせずに、普通に歩いて普通にベッドに横になった。 「今度こそ決めようねっ」 「はいはい。……それもいいけど、あんたそろそろ着替えなさいよ」 「ほぇ?」 「あんたその格好で外に出るつもりなの?」 そう言って唯が着ている寝巻きを指差す。外に出るにはあまりにもみすぼらしい格好だ。 これでこのまま行くなんて言い出したら私は即家に帰るわ。さすがに付き合いきれないし。 そんな私の無言の圧力を受けて、唯は慌てた様子で口を開いた。 「も、もちろん着替えるつもりだったよ?」 「へぇ……」 言いながら目がすっごい泳いでるのは気のせいかしら? ま、今日ぐらいは見逃してあげましょ。 「それじゃ、私が決めてる間に着替えなさい」 「あ、うん……ありがとう」 「何でお礼言うのよ」 「い、いや……なんとなく?」 「何よそれ……ふふ」 ついついおかしくなって笑ってしまう。 すると、唯はどうして笑われたのか解らずに、きょとんとした表情。 「何で笑うの〜?」 「何でもないわ。さっさと着替えなさい……ふふ」 「あ、また笑った!」 「気のせいよ」 ――結局、唯が着替え終わるまでずっと笑いっぱなしで、腹筋が痛くなった。
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26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:44:02.07 ID:hPjhEPuw0 - 「それじゃ、行ってくるね〜っ」
「気を付けてね〜っ」 「夕方までには帰るわ」 「お姉ちゃんを、お願いしますね」 「任せなさい」 わざわざ見送りに出てくれた憂ちゃんの視線を背中に感じながら、私は唯と肩を並べて歩き出す。 現在時刻は10時を少し過ぎたぐらい。時間はまだまだたっぷりとある。 「のどかちゃん、まずはどこに行くの?」 「さぁ?」 「……へ?」 「だって、私決めてないもの」 「えぇ〜? なにそれ〜」 唯は不満そうに唇を尖らせ、そう不平を零した。 「何よ、文句あるの?」 「大有りだよぉ」 「言ってご覧なさい」 「のどかちゃん、私が着替えてる間に決めとくって言ってたじゃん〜」 「そんなこと言ってないわよ」 「言ったよ!」 「私が言ったのは、私が決めてる間に着替えなさいってだけよ?」 そう教えてあげると、唯はきょとんとなる。 「あ、あれ? そうだったっけ?」 「そうよ」 「そっかぁ……」 一旦は納得したみたいだけど、しばらくするとまた眉間に皺を寄せて、何かを考え始めた。 考えるのもいいけど、無駄に時間を消費するのは勿体無いから、とりあえず唯をなだめることにする。 「それじゃ、こう考えるのはどうかしら」 唯が私の話に耳を傾けているのを確認して、話し続ける。 「何も考えていないと考えるんじゃなく、自由に動き回れると考えるの。こうすればむしろ楽しそうじゃない?」 「それいいね〜!」
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27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:44:50.96 ID:hPjhEPuw0 - そう言ってあげると、唯はすぐに機嫌を直し、それならあそこに行こうと近くのぬいぐるみ屋さんに直行した。
「ちょ、待ちなさい……唯!」 まったく、こういうときだけは素早いんだから……。 ため息を吐きながら、私は唯を追いかけて店へと向かう。 私がお店に入ったときには、すでに唯が店内の注目を浴びていた。 それもそのはず、唯はそんなものどうやって持っているのかと問い質したいぐらいの数のぬいぐるみを体で抱えていた。 現時点でその数は、3……4……いや、数えるのも馬鹿らしい。とにかく、常人では不可能な数を持っているということは理解できた。 店にいる大半の人が、そんな唯を物珍しそうに眺めている。そりゃそうでしょうね。こんなことができる子はそうそういないだろうし。 そんなことを考えていると、唯がようやく私に気付いたみたい。 「あ、のどかちゃん!」 ぬいぐるみを抱えながら、小走りでこちらに向かってくる唯。 ちょっと、そんな状態で走ったりしたら―― 「きゃっ」 危惧したとおり、床に伸びているコードのひとつに足を引っ掛けて、唯はこけてしまった。 その瞬間、唯が抱えていた全てのぬいぐるみが宙に舞う。 唯を起こそうかと足を前に踏み出していた私は、咄嗟に考え直し、ぬいぐるみの回収を行うことにした。 まずは全体を見回して、ぬいぐるみの大きさと滞空時間を見極める。 次に、比較的低い位置に浮いているふたつの小さなぬいぐるみを両手でぎゅっと握り締める。 それと同時に、もう地面すれすれのぬいぐるみを足で天井まで蹴り上げておく。 そこでほっと一息吐いたのも束の間、すぐに次のぬいぐるみを捕りに行く。 ここから少し離れたところに、少し大きめのぬいぐるみが4つ固まって落下しているのが見えた。結構シビアだ。 頼むから間に合って……! 余裕が無い。すぐに走り出す。その際、踵で何かを蹴ってしまった気がするけど、気にしていられない。少し腰を落として両腕を伸ばすと、腕に確かな重みが加わった。回収成功。 もう後は大丈夫。最初に蹴り上げたくまのぬいぐるみを両腕のスペースに入れられるように準備をしておく。 くまはゆっくりと落ちてきて、両腕と頭に重みが――ん? 頭? ちょうど目の前にあった鏡を見てみると、私の頭の上にうさぎのぬいぐるみが乗っていた。 ……あぁ、これがさっき踵で蹴り上げたぬいぐるみか。そう認識して、後ろを振り返ると―― 「……」 今度は私が店内の注目を浴びていた。それも、唯のときと負けず劣らずな好奇の目で見られている。
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28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:45:28.56 ID:hPjhEPuw0 - 「……っ」
その視線を肌で感じて、急に恥ずかしい気持ちになる。相手は見知らぬ人なのに、その視線が物凄く痛い。 ――こんなの耐えられない。 「唯!」 「へ? ……きゃっ」 未だ床にへたり込んでる唯を強引に立ち上げて、逃げるようにお店を出る。 唯がぶつくさ文句を言ってきたけど、無視する。元はといえばあんたのせいでしょだなんて、八つ当たりかしら……。 「はぁ……、まったく、とんでもない目に遭ったわよ」 とんでもない量の注目を浴びてしまい、たまらなくなって逃げるようにお店を出たのがついさっきのこと。 表面上は普段と変わらないように努めているけど、内心のドキドキは止まらない。 何しろ、あんなに大勢の注目を浴びたのは初めてだったのだ。生徒会の人間であるから、注目されるのは慣れてたつもりだったけど、それが思い上がりだったことに気付かされた。 学校で注目されるときは、数が少ないかかなり離れてるときだからまだ大丈夫だったけど、さっきのは……。 近くで複数の好奇の目に晒されるのがこんなにキツいなんて知らなかったわよ……。 「もぉ〜、どうして急にお店出ちゃうの?」 「あ、あんな空気に耐えられるわけ無いでしょ」 そういえば、唯も同じように見られてたわね……。 それなのに、全然気にしてないみたい。どうしてかしら。 「唯。あんたどうしてそんなに平然としてられるのよ?」 「どういうこと?」 「あんただってやたら注目浴びてたじゃない。それなのに全然気にしてないみたいだけど」 「うん、気にしてないよ」 「そうそ……へ?」 「だから、そんなの気にしないってば」 唯は何を当たり前のことをといった顔でそんなことを言った。 「ほ、本当に気にしてないの?」 「そうだよ」 「理由は?」 「理由って、そうだねぇ……」 うぅんと、腕組みをして考え出す唯。いや、そこまで真面目に考えなくてもいいんだけど……。
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29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[容量少ない割りに改行大杉だろ……]:2010/04/26(月) 16:46:34.07 ID:hPjhEPuw0 - そう思ったけど、途中で邪魔するのもよくないと思い、口には出さなかった。
そして、長い時間――実際には秒針が数回回っただけだけど――が経ち、唯はようやく考えをまとめられたのか顔を上げた。 「うんとね……」 唯は、言葉を選びながらゆっくりと話し出す。 「その、のどかちゃんは周りの人の視線が嫌だったみたいだけど、私はどうも思ってなかったんだ」 「どうして?」 「だって、他人でしかないんだもん。気にすることなんてないよ」 「他人?」 「うん、他人。例えば家族とか友達に変な目で見られたら嫌だけど、知らない人に見られたってなんとも思わないよ」 「そういうものかしら……」 「そうだよ!」 唯にそう断言されると、まだ完全には納得できないけど、それでも幾分か楽に考えられるようにはなった。 「ん、そうね」 ところどころ唯の性格が出てるけど、確かに納得できる理由ね。……少し、自意識過剰気味だったのかもしれない。反省。 それにしても、まさか唯に諭される日がくるとは思わなかった。私の知らない間にすっかり成長しちゃって……。 嬉しいけど、少し寂しいわね。これが親の気持ちなのかしら。 「唯」 ちょっと恥ずかしいけど、感謝の気持ちを込めて唯にご褒美をあげることにする。 「ちょっと顔をこっちに向けて」 「? うん……」 不思議そうにしながらも、言われたとおりにする唯。この辺の素直さは今も昔も変わってない。 「これでいい?」 「いいわよ。それじゃ、目を閉じて少し顔を上げなさい」 またしても言われたとおりにする唯。少しは怪しまないと、その辺の男に騙されるわよ? まぁ、この素直さが唯の魅力なんだろうけど……。 一応、周囲を確認しておく。こんなところを見られたら、いくら他人だからといってもかなり恥ずかしいからね。 よし、誰もいないわね。それじゃ―― 「いくわよ」 唯の前髪をかき上げると、ふわりとしたシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐった。少ししゃがんで唯と身長を合わせる。 そして、そのまま体を前に動かして、露出したかわいらしいおでこに、そっと唇を押し付けた。
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31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>30本文に使う余裕が無い]:2010/04/26(月) 16:48:01.37 ID:hPjhEPuw0 - ――唯の体が、びくりと震える。
しばらくして、唯から離れると、予想通り唯はあたふたとし始めた。顔を真っ赤にしちゃって、初々しい反応ね。 「ど、どうして……?」 「ふふ、感謝の気持ちよ」 理解はできないだろうけど、それでいい。私からの友情を少しでも感じてくれたらそれで充分だから。 唯の右手を左手で優しく握って、歩き出す。 「これからも、私の友達でいてね」 「うんっ」 ――顔は前に向けたままだったけど、唯が隣でにっこりと笑ったのが気配で解った。 永遠の友情を誓い合った私たちは現在、喫茶店に来ている。少し早いお昼ご飯といったところだ。 私はあんまりおなかが空いてなかったのだけれど、唯が食べたい食べたいと駄々をこねだしたから、仕方なく近くに見えたこのお店に入った。 ――のが30分前で、未だに注文した料理が届かない。 「うぅ……おなか空いたよぅ……」 「もうちょっとでくるから我慢しなさい」 これは何度も繰り返した会話。もうちょっとがいつくるのかも解らない。 我ながら無責任だとは思うけど、こればっかりはしょうがない。気休めでも言わないと唯が本当にダウンしてしまうわ。 いつになったらこの地獄から解放されるのかしら。さすがに私も疲れてきたわよ……。 もう諦めようかと思った、その時。 「お待たせしました」 ――神の声が聞こえた。 その声に反応して、壁にしなだりかかっていた唯が目覚めた。 次々とテーブルに置かれる料理を、片っ端から平らげていく。 「……以上になります。ご注文はこれでよろしいでしょうか?」 「はい」 「それでは、ごゆっくりお召し上がりください」 注文した人間はゆっくり食べる気が無いのだけれど、そう言ってお店の人は出て行った。 後に残されたのは、ガツガツと行儀悪く料理を食べている唯と、それを傍観している私だけ。 ……本当によく食べる。もうこれで6品目じゃないかしら。見てるだけでおなかがいっぱいになるわよ……。 「唯、あんたどれだけ注文したの?」
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33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:49:43.50 ID:hPjhEPuw0 - 「もきゅもきゅ……ひゅうにふぃひゃらひょ」
「頼むから全部食べてから喋って。聞き取れないから」 私がそういうと、唯は一気に口の中のものを呑み込もうとして―― 「げほっげほっ」 盛大にむせた。 「ちょ、ちょっと、大丈夫?」 言いながらテーブルに置いてあった水を唯に飲ませる。 「ゆっくり飲みなさいよ? ……そうそう」 「ごくごく――ぷはぁっ」 「大丈夫?」 「うん。ありがとうのどかちゃん」 唯の表情が安定したのを確認して、水を戻す。 「で、何品注文したの?」 「う〜んと……20品ぐらいかなぁ?」 「…………あんた、馬鹿?」 どこの世界に20品も注文する女子高生がいるのよ……。 「どうして馬鹿なの?」 「20品も食べられるわけ無いでしょ!?」 思わずテーブルを打って大声で叫んでしまう。……ここが個室でよかった。 「大丈夫だよ〜。まだまだ食べられるもん」 「ほんとかしら……」 疑わしい。いくら唯がいっぱい食べる子だとしても、さすがに20品は無理だと思うわ……。 「うぅ……ほんとだってば! ここの料理は本当においしいんだもん! ……そうだ、のどかちゃんも食べてみなよ」 「え!?」 「ほらほら、あ〜ん」 そう言ってスプーンをこちらに突き出す唯。これ、間接キス――ってそうじゃない! 「い、いいわよそんな。私はまだおなか空いてないし」 「遠慮しないの! 食べてみたら分かるからっ」 さらにグイグイと突き出してくる唯。そんなに突き出したら……。 「ああもう! 食べればいいんでしょ食べれば!」
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35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:51:22.40 ID:hPjhEPuw0 - ヤケクソ気味にそう叫んで、スプーンをぱくりと咥える。
「もきゅもきゅ……あ、おいし」 「でしょ? これで私の気持ちも分かるよね?」 「そ、そうね……。これは無意識に食べてしまうわ」 「でしょ? じゃあ二人で食べよっ」 「それはいいけど……全部は食べられないと思うわよ?」 「大丈夫だよ! 絶対残さないから!」 断言する唯を疑わしく思いながらも、料理に手をつける。 ――結局、全部食べてもまだ足りず、最終的にはおかわりまでしてしまった。 「おなかいっぱいだね〜」 「そうね」 まさかごはんを3杯もおかわりしてしまうとは思わなかった。 おかげでまた体重計に乗るのが怖くなったし、財布も薄くなっちゃったわよ……。 おいしかったから許すけど。 「次はどこに行こっか?」 「そうねぇ……」 左手首を裏返して、腕時計を見てみる。現在時刻は12時少し前。思ったより長い時間お店にいたみたいだ。 今の時間だとどこもお昼休憩に入ってるだろうし、遊べるようなところが無さそうね……。 「とりあえず、公園にでも行ってみる?」 「公園?」 「そう、公園」 ここから少し遠いけど、きれいな桜が咲いてる所がある。 まだ満開にはなってないだろうけど、それでも雰囲気ぐらいは感じられるだろう。 そう説明すると、唯は瞳をキラキラさせて子供っぽくはしゃぎ始めた。 「それ、いいね! 早く行こうよっ」 「解ったから、少し落ち着きなさい」 肩を押さえてそう言っても、唯は落ち着くどころか早く行きたいとウズウズしてる様子だ。 はぁ……。これじゃ、完全に子供じゃない……。 「もう我慢できない!」
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36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:52:20.08 ID:hPjhEPuw0 - 「あ、ちょっと……!」
言うや否や、唯は私の左手を引っ張って、勝手に歩き出してしまった。 「こら、唯、ちょっと、待ちなさいって」 「聞こえないよ〜」 唯はわざとらしくそうおどけて、さらに歩くスピードを速くする。というか、これは―― 「唯! 危ないから走らないの!」 これで怪我とかしちゃったらどうするつもりなのよ、まったく……。 「ちょっとゆ――」 「着いたよ〜っ」 「――へ?」 走ってる最中は安全を考えるので精一杯だったから、どれだけ走ったかなんて解らなかった。 だけど、目の前の光景は間違いなく目的地である公園のもので、わたしは開きかけた口を中途半端に閉じてしまう。 「あそこのベンチが空いてるよ。座ろっ」 「え、えぇ……」 唯に引っ張られるままにベンチへと向かう。 「どっこいしょ」 「おっさんか」 まぁ、確かに疲れてるのは解るけどね。私も結構きついし。 「きれいだね〜」 「そうね」 予想通りまだ満開にはなってないけど、それでも八分咲きぐらいかしら。むしろこれぐらいのほうがきれいかもしれない。 しばらくその光景に見とれていると、左肩にぽすんと重みが落ちてきた。 「……?」 何かしらと思い、首を捻ってみると―― 「すやすや」 そこには、私の肩で気持ちよさそうに寝息を立てている唯がいた。 「あらあら……」 確かに、おなかいっぱい食べた後で急に走ったりしたら疲れるわよね……。 おまけに太陽がぽかぽかとしてて気持ちいいなんて条件まで加わってるんだし、お昼寝するのにに最適な環境だし。 「ふふ……かわいいんだから」
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- お ま え ら 行 き つ け の サ イ ト は ?
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:53:14.69 ID:hPjhEPuw0 - 2ch
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37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:53:22.49 ID:hPjhEPuw0 - 唯の頭を撫でてあげる。ふわふわとした、唯独特の髪の毛だ。
人差し指で、唯のほっぺたを突いてみる。ぷにぷにと弾力があり、気持ちいい。 ふと、唯のほっぺたを食べたくなった。もちろん字面そのままの意味じゃない。 周りを見てみる。お昼どきだからか、人がまったくいない。これなら、誰かに見られる心配も無い……か。 「そ、それじゃ――」 いつになく高鳴る心臓を抑えつけて、唯の無防備なほっぺたに唇を触れさせる。 ……数十秒ほどそのままでいて、ようやく唇を離した。まだやわらかい感触が残っている。 「まったく……唯がかわいくて無防備なのがいけないのよ?」 誰に言うでもなく言い訳して、再び頭をベンチの背もたれに乗せる。 ――私も、一眠りすることにしよう……。 「ん……」 ほっぺたをぷにぷにされるような感覚に身を捩る。目を開けると、空は夕焼けに赤く染まっていた。 「あ、起きた」 「ん?」 頭上から降ってくる声に視線を動かしてみると、にこにこ笑いながら私を見つめている唯と目が合った。 「何よ?」 「えへへ、なんでもないよ〜」 首の後ろには心地良いやわらかさ。唯の膝枕なんて何年ぶりかしらね……。 私が動かないのに気を良くしたのか、唯は頭を優しく撫でてくる。 「ちょっと、唯」 「いいからいいから」 さすがに動こうとすると、唯はそんなことを言って私の体を押さえつける。 ……いや、何がいいのよ。 そう突っ込もうとしたタイミングで、唯が頭を撫でるのを再開した。 そのせいで、ふにゃぁなんて気の抜けた声が出そうになって、慌てて口を閉じた。 「こら、唯」 「のどかちゃん、気持ちいい?」 「別に、気持ちよくなんか……」 ないわよと続けようとして、唯の笑顔を見て考え直す。
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39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:54:26.39 ID:hPjhEPuw0 - この子は、いつも素直だ。笑うときも泣くときも、感情を素直に表す。だから、毎日を楽しく過ごせるんでしょうね。
それに比べ、私はどうだろう。 生徒会の人間として自分を律し、常に冷静沈着であろうとする。感情は決して表に出さず、ただ与えられた仕事を遂行するだけ。 そんな生き方が楽しい訳がない。日々ストレスと胃の痛みに悩まされている。 でも、そんな私も唯一楽しいときがある。家族や友人と過ごしているときだ。 とりわけ、唯と二人っきりでいるときが一番楽しい。なぜかしら? 長らく考えていた問だけど、ようやく答えが解った気がする。 要するに、雰囲気が違うのだ。誰だって少なからず嘘を吐いたりするけど、この子はそんなことをしない。 常に素直な感情をぶつけてくるから、私も本当の姿、ありのままの自分で相手をできる。 こんなにいい子はそうそういないわよね……。昔から今まで、変わらずに私の友達を続けてくれている、大好きな子。 周りから見たら、唯が私に縋り付いて、私がしょうがなく相手をしているように見えるのだろうけど、実際は真逆だ。 私は、唯に助けられている。一度だけじゃなく何度も、何度も。唯がいなくなったら、きっと私は私でなくなってしまうだろう。 「ありがとね」 自然と、感謝の気持ちを口に出せた。これは紛れも無い私の本心だ。本当に、唯には感謝してる。 唯を見てみると、なんだか不思議そうにぽかんとしている。何か私変なこと言ったかしら? ……そういえば、唯にありがとうと言ったのはこれが初めてだったかしら。今まではなんだか照れくさくて言えなかったけど……。 唯は未だにぽかんとしてる。こら、何か言いなさいよ。私が恥ずかしいじゃないの。 そう思ったら。 「のどかちゃ〜ん!」 「きゃあっ!?」 突然、唯が私に飛びかかってきた。いや、ベンチに座ってたから表現がおかしいけれど、それぐらいの勢いがあったということだ。 そのまま私の体を両腕で包み込んで、唯はさらに頬擦りまでしてきた。かなりくすぐったい。 「ちょっと、どうしたのよ」 「のどかちゃん気持ちいい〜」 「聞いてないし……」 ほんと、この子は何にでも抱きついてくるんだから……。 それが、この子なりの愛情表現だということは十二分に理解してるつもりだけど、それでもやっぱり恥ずかしい。 唯に抱きつかれると、なんだか心臓がどきどきしちゃうのよね……。おまけに顔も赤くなっちゃうし、何なのかしら、これ。 ……いや、本当は解ってる。私だってもう高校生なんだから、この症状がつまりどういうことなのか。 つまり、私は唯に"恋"をしているのだろう。おそらく、出会った時から今まで、ずっと。
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41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:55:24.24 ID:hPjhEPuw0 - 別段おかしいことはない。だって、唯はこんなに魅力的な子なんだから、好きになって当たり前だ。
私以外にも、唯の虜にされている人はたくさんいる。特に、唯と同じパートをやってる1年生の子は、まさに恋する乙女状態ね。 普段は唯に対してキツイけど、唯が困ったことになったら誰よりも心配している。文化祭の件でよく解ったわ。 そういう意味では、私はあんまり心配しないけど、それは唯のことがどうでもいいからじゃない。ここだけは、誤解されると困るわよ。 私は、唯のことを信用している。風邪を引いたときも、唯なら大丈夫と信じて疑わなかったし、その予想も当たっていた。 心配していないと言うと、少し嫌な感じに聞こえるかもしれないけど、それは唯を心の底から信用しているからだ。 そういう意味では、私が一番唯のことを理解しているはずだ。これは自身を持って言える。 ――それじゃ、唯から見た私はどうなのだろう。 少なくとも、嫌われてはいないとは思う。わざわざ嫌いな人を遊びに誘う人間はいないだろうし。 そうなると、私のことを好きなのかと思うと、それがよくわからない。 私のことを好きとは言うけど、他の人、特に軽音部の皆にも同じようなことを言ってるし……。 唯のことは大抵理解しているつもりだけど、さすがにこればっかりは解らない。心を読むなんてエスパーでもないと無理だ。 未だに抱擁を続けている唯の顔を、ちらりと見てみる。とても幸せそうな顔。その、大好きな唯の笑顔を見て、私は決心した。 ――告白しよう。 もう私ばっかり考えるのは嫌になってきた。唯にも私と同じか、それ以上は考えてもらわないと気が済まないわ。 失敗したときのことは考えなくてもいい。そんなので関係が崩れるほど私たちの付き合いは短くない。 「唯、ちょっと立ちなさい」 「へ? う、うん……」 命令すると、少し不思議そうにしながらも、素直に立ち上がる唯。 「どうしたの?」 「えっと、その……」 歯切れが悪い私を、唯は珍しそうに見つめている。それはそうでしょうね。多分こんな私は始めて見るだろうし。 なかなか本題に入らない私に痺れを切らしたのか、唯がずいと前に出てきた。 「のどかちゃん?」 「な、何よ」 「何をそんなに緊張してるのか分からないけど、もう少しリラックスしたほうがいいよ?」 そう指摘されてようやく、体がガチガチに固まっていることに気付いた。どれだけ緊張してたのよ、私……。 緊張を解すにはだらけきった唯の姿を思い浮かべることにしている。夏、床に薄着で寝そべって、あいすを食べている唯。 「ふふ……」 思わず笑ってしまった私を、唯はどうしたんだろうと不思議そうに見ている。おかげさまで緊張は解けたわ。
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42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:56:04.18 ID:hPjhEPuw0 - 「ありがとね」
「? う、うん……」 突然感謝されて頭のてっぺんにクエスチョンマークが浮かんでいる唯。ぽかんとした顔もまたかわい……って、そうじゃなくて。 余計な考えを振り払い、最後に一度大きく深呼吸をして、口を開く。 「わ、私は……」 「うん」 心臓はさっきからバクバク鳴ってるし、顔も真っ赤になっている。辺りが暗くなってて、それらが唯に伝わることが無いのが幸いか。 「私は、唯のことが大好きなのよ!!!!!!!!!!!!」 ……ついに、ついに言ってしまった。私の本当の気持ち。これを言ったからには、もう後戻りできない。 唯はというと、まさか告白されるとは思ってなかったのか、ぽかんとしている。 「えっと……それって」 「何回も言わせないでよ」 ここでようやく、言葉の意味を理解したのだろう。唯は今更ながらあたふたとしだした。 でも、それだけ。答えてくれる気配は、まだない。 「で?」 「はひぃ!?」 「どうなの? 唯の気持ちは? 私への返事は?」 「そ、それはその……保留ということに」 「させないわ!」 逃げようとする唯の肩をガッチリと掴んで私の方を向かせる。 「うぅ……」 「じぃ〜」 目を逸らそうとする唯を、じっと見つめる。そのまましばらく経つと、やがて、観念したように口を開いた。 「わ、わたしも……のどかちゃんのことが……大好きだよっ」 はにかんだように、そう答えてくれる唯。その愛しい笑顔を見て、私の何かがプチンと切れた。 ――もう、我慢できない。 「唯……」 「な、何……むぐっ」
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43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 16:56:48.87 ID:hPjhEPuw0 - 何かを言おうとしていたその口に、私の唇を押し付ける。……あぁ、なんて甘いのだろう。
初めはジタバタと暴れていた唯だけど、しばらくすると目を閉じて私の腰に両腕を回してきた。 それを嬉しく思い、私も目を閉じて、さらに深く唯を感じる―― 「――ぷはっ」 「の、のどかちゃん……」 「うん?」 たっぷりと唯の唇を味わってから離れると、唯は潤んだ瞳で私を見つめていた。 「ど、どうして……?」 「ふふ、ちょっとした愛情表現よ」 あぁ、少し前に似たような会話を交わしたなぁ……と思いながら、唯に説明する。 額へのキスは友情の印で、頬は厚意、そして唇は愛情……と、今日一日のキスの意味を教えてあげる。 「ほっぺにちゅうなんていつしたの?」 「あ」 そうだ……頬へのキスは唯が寝てる間にしたんだった……。 「ね、ね、いつしたの?」 「え、えっと、その、実は……」 しどろもどろに説明すると、唯はにんまりと笑って、私に飛びかかってきた。 「のどかちゃ〜んっ!!!」 「きゃあ!?」 ――その後、キスの嵐を全身に浴びせられたのは言うまでもない。 Fin
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44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[]:2010/04/26(月) 17:01:32.79 ID:hPjhEPuw0 - 校舎を出て岐路に着こうとした僕を阻むように雨が降り出してきたため、意識せずともため息が漏れてしまったのは仕方が無いと言えるだろう。
天気予報では晴れ時々曇りの降水確率零だったため傘は持ってきていないし、余分な隙間など無い鞄の中に無理やり折り畳み傘を詰め込むほど愚かな人間では、僕は無いため、雨を凌ぐ手段は持ち合わせていない。 周りを見てみると、当然と言うかやはりと言うか、僕と同じく傘を持っていない人間が一様に曇天を見上げ、陰鬱そうな表情から重いため息を吐いていた。 中には学生鞄を簡単な傘代わりにして走る生徒も居るが、あれでは体を襲う雨を防ぐことはできないし、最悪、鞄の中に入っている教科書類が使い物にならなくなるため、実行する人間は少ない。 次の日に風邪を引くのが確定している手段を取るよりは、多少の時間を犠牲にしてでも雨が止むのを待ったほうが良いと言う考えだろう。賢明な判断だ。 用事があって向こうの校舎からこちら側へと渡ってくる必要がある生徒は災難だっただろう。雨で髪の毛から服まで全身びしょ濡れになるし、季節は夏なのでポロシャツが透けて肌が丸見えになってしまう。 男子は大して恥ずかしがる様子は見せないが、問題は女子だ。まさか高校生にもなって下着を着けていない女子生徒は居ないだろうから局部が見えることは無いだろうが、 逆に言えばその下着がくっきりと浮かび上がっているのである。色や形だけでなく、細かい所の柄まで確認できてしまい、それを見た男子生徒が不自然に目を逸らす。 思春期男子にとって、今の状況は目に毒であるらしい。僕には解らないが。 夢にまで見た下着天国に内心ドキドキしながら雨で濡れた女子を観察していると、そのうちの一人が涙目で僕を見上げてきた。 スリッパを見る限り新入生であるらしい彼女は、何かを言いたそうに口をもごもごと動かしていたが、結局何も言わずに僕から逃げるように校舎に入っていった。 逃げる彼女を視線で追いかけると、雨で濡れたスリッパが災いしたのか、それとも注意力が不足していたのか、階段の一歩手前で盛大に転んでいた。 転んだ勢いでスカートが捲くれ上がり、その下に隠されていたピンク色の可愛らしいショーツが露わになる。 彼女は慌てて立ち上がると、制服に付いた埃を払おうともせずぐるりと周囲を見回した。どうやら目撃者が居ないか心配しているらしい。 幸いにも彼女が転んだ所を目撃したのは僕一人だけだったので、彼女の視線が僕を捉えるのを待って軽く会釈をした。 すると彼女は顔を真っ赤に染め上げるとふいっと僕から目を逸らし、今度こそ確実に僕の視界から消え去ったのだった。 彼女の挙動には若干以上の違和感があったが、特別気になると言う訳でもないのでこの件についてはとりあえず保留することにした。 顔は憶えたし、一年生であることも確実なのだからいつでも探り当てることはできるだろう。その時もまた逃げられたら困るが。 雨脚は全く弱まる様子が無い。掃除やら用事やらで残っていた生徒の内、何人かの女子が「入れてあげようか?」と相合傘を提案してくれたが、僕はその悉くを断った。 その度に悲しそうな顔をするのだが、彼女達はすぐに明るい笑顔を浮かべると、「また明日ね!」と言って帰るのだ。何故か周囲の男子生徒が僕を睨んでいるが、原因は解らない。 原因不明の敵意ほどやり難いものは無いので、僕は目を閉じて彼らの視線をシャットアウトした。 目を閉じても雨が地面を叩く音は聞こえてくるし、独特の匂いも鼻孔をくすぐるが、男子生徒達の敵意は感じられない。もう少し集中すれば気配を肌で感じることもできるのだが、わざわざ痛いものを感じる必要は無いだろう。
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