- NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」part218 [無断転載禁止]©2ch.net
554 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2017/03/21(火) 01:29:36.80 ID:/uPcWZRA - 人質交換に馳せ参じた今回の石川数正はめ以子の見合い相手
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557 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2017/03/21(火) 13:44:18.19 ID:/uPcWZRA - 「阿呆やない」ぐつぐつ煮たつカレー鍋を前にして、そうつぶやくのがもはや習慣と化してゐた。
週に何度ライスカレーを作るのであらうか。 もはやそのことそのものがあほうの所業であることに疑ひはなかったが お富士本人だけがそのことに気づかずにゐた。 息子を亡くしてより二年の歳月が流れようとしてゐる。 その流れに抗ふやうに必死にカレーを煮てきた。 カレーを作らずにはをられなかったのだ。カレーだけにはとどまらぬ。 あらゆるものを煮、焼き、揚げてきたのがこの女である。 その姿をカレーの女神と称する者もかつてゐた。 五尺七寸ほどの体格を大きく使ひ、むんずと杓子を持ち上げて鍋をかきまぜる。 ある意味では神々しかった。
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558 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2017/03/21(火) 13:58:27.06 ID:/uPcWZRA - 一心不乱なその姿を陰から眺めてゐた權太は「あほか」と、つぶやいた。
「夫はもう帰って来ぬかもしれぬのだぞ」「阿呆やない」とお富士。 聞こえていたのかと気まづくなったがどうやら独り言らしい。 權太はつゐにこの日ずっと気にかかってゐた事を訊く決心をした。 「お富士なぜそんなにカレーばかりなのか」 言はずとしれた事、そんな顔でただただお富士は權太の顔をまじまじとみるばかりである。 再び訊く「なぜカレーばかりなのだ」 「夫はな匂ひにつられてかえってくるん」 權太は訊いたことを後悔した。お富士のそのけなげさにでは勿論ない。 ただただその○しか彼女の心の内に持ち合わせてはゐない、 その阿呆さ加減に後悔の念が沸いてきたのである。 カレーごときで夫が帰ってくるものか。
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559 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2017/03/21(火) 14:14:15.45 ID:/uPcWZRA - 「お富士さん、今日もまた煮てゐるのかい」蔵介が顔をのぞかせ挨拶代わりに聞いた。
カレーの女神はまたしてもその夫を吸い寄せることはかなはなかった。 集ってくるのは○地の仲間ばかりである。 「あかん」突如お富士は肌身離さず持ち歩いていた夫の手紙を氣にしだした。 「カレーの汁が夫の手紙に跳んでしもた」 權太はあきれた。 「あほか支度の時ぐらひ、大事な手紙は余所にやっとかなあかんやろ」 「せやけど」大きな女が大きな聲をあげて泣き出した。 阿呆の佛は聲をあげて泣く。所構はず聲をあげて泣くのがこの女の習いである。
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560 :名無しさん@お腹いっぱい。[sage]:2017/03/21(火) 14:25:17.08 ID:/uPcWZRA - 「またあほや言ふんやろ。もうえんねん。泣かしたってくれたってええやろ。」
「まだ何も言ふてへんで」蔵介はすぐさま返した。この女を泣かしたままにしておいては手がつけられぬ。 しかし、次に權太が発した言葉は蔵介の努力を無にするものであった。 「ああ、あほやあほや。付き合ふてられへん。飯つくるか、泣くかどっちかにしいや。」 聲をあげて泣いていたお富士は次の刹那には怒りの様を露はに權太に向かひ合ってゐた。まことに忙しい女である。
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