トップページ > ミステリー > 2011年02月15日 > ALjIih/N

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新・面白い叙述トリック考えた 2
629 :1/2[]:2011/02/15(火) 13:18:28 ID:ALjIih/N
初秋の夕闇の中を走る電車内は、帰宅途中の会社員や制服姿の学生達で混雑している。
私の隣では3歳くらいの小さな女の子がぐっすり眠っていて、愛らしい寝顔を周りの乗客に振りまいている。

今年の春に初めて上京してきた私は、故郷ではまず見ることの出来ない電車内の人の多さに、当初かなりの戸惑いを感じた。
元々小心者の私にとって、見知らぬ人達の視線が網の目のように張り巡らされた密閉空間に居ることは非常に苦痛だった。
自分が田舎者であるという劣等感がその苦痛に拍車をかけていたのたかもしれない。
しかし、人間の順応性とは恐れいったもので、今ではもう他人の視線に恐怖や不安を感じることはほとんどなくなり、都会の生活を
それなりに謳歌できるまでなった。もちろん、田舎に対する郷愁のような感情が時折心をかすめるけれど、日々の煩雑さが
そんな感情をすぐに覆い尽くし、薄めてしまう。

車窓を流れる決して途切れることのない街の灯りを見つめていると、いつの間にか目を覚ましていた隣の女の子がお母さんに向かって
甲高い声で話し始めた。

「ねえお母さん、なんでこのおねえちゃんは前のおじいちゃんに席をゆずってあげないの?」

その発言に驚いた私が女の子のほうをちらりと見ると、女の子ははっきりとした眼差しでこちらを見ている。
お母さんはバツが悪そうな感じで女の子に何か耳打ちしているが、女の子の視線は全く揺るがない。
電車内に響いたその声で、周りの乗客達は自分たちの電話や文庫本から目を離し、こちらの様子を興味津々に見つめ始めた。
新・面白い叙述トリック考えた 2
630 :2/2[]:2011/02/15(火) 13:19:32 ID:ALjIih/N
今まで築きあげてきた私の城は、彼らの視線によっていとも簡単に崩され、恐怖と不安の渦に私は飲み込まれた。
故郷の電車はいつも閑散としていて、このような事態に陥ることなど考えられなかった為、私は途方にくれて
どうすればいいのかわからなくなってしまった。
こんな衆目の状況では声なんて絶対にかけられない。寝たフリをしてしまおうか。いや、起きているのは一目瞭然だろう。
降りるフリをしてこの場を離れてしまおうか。いや、次の駅まではあと5分以上もある。
女の子と周りの乗客からの視線が容赦なく私に突き刺さる。心臓の鼓動が早くなり、動悸が荒くなっていくのがはっきりとわかる。
軽い混乱状態になってしまった私をよそに、前にいるもう一人の当事者は、こちらをちらりとも見ずに無表情のまま泰然自若としている。
しかし、その姿を見て私も少しずつ冷静になってきた。そうだ、周りのも乗客のみなさんも冷静になって私たちをよく見てほしい。
あなた方の前に立つこの人物が、席を必要とするほど足腰が弱っている老体であろうか。がっちりとした体格と日焼けの跡から、長い間
肉体労働を経験してきたことがはっきりとわかるだろう。
それに、年齢的にもどう見たって60は過ぎてないはずだ。田舎では周りに老人ばかり居たので、この辺の事には自信がある。
自分よりも元気そうな人に席を譲るなんて、そんな本末転倒な話はないはずだ。
周りのみなさん、どうかきっちり見極めてください。
そしてお願いですからもうこれ以上私の方を見ないでください!


次の駅に止まると私は逃げるように電車を降りた。つり革を握っていた手にじっとりと汗が滲んでいる。
これから東京で幸せな老後を送るためには、あの若い女性くらいの鈍感さか図太さが必要不可欠だと、私は改めて強く感じるとともに
乳母車で眠っていた女の子の私を見つめる優しい瞳を思い出して、少し心が暖かくなった気がした。


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