- 新・面白い叙述トリック考えた 2
630 :2/2[]:2011/02/15(火) 13:19:32 ID:ALjIih/N - 今まで築きあげてきた私の城は、彼らの視線によっていとも簡単に崩され、恐怖と不安の渦に私は飲み込まれた。
故郷の電車はいつも閑散としていて、このような事態に陥ることなど考えられなかった為、私は途方にくれて どうすればいいのかわからなくなってしまった。 こんな衆目の状況では声なんて絶対にかけられない。寝たフリをしてしまおうか。いや、起きているのは一目瞭然だろう。 降りるフリをしてこの場を離れてしまおうか。いや、次の駅まではあと5分以上もある。 女の子と周りの乗客からの視線が容赦なく私に突き刺さる。心臓の鼓動が早くなり、動悸が荒くなっていくのがはっきりとわかる。 軽い混乱状態になってしまった私をよそに、前にいるもう一人の当事者は、こちらをちらりとも見ずに無表情のまま泰然自若としている。 しかし、その姿を見て私も少しずつ冷静になってきた。そうだ、周りのも乗客のみなさんも冷静になって私たちをよく見てほしい。 あなた方の前に立つこの人物が、席を必要とするほど足腰が弱っている老体であろうか。がっちりとした体格と日焼けの跡から、長い間 肉体労働を経験してきたことがはっきりとわかるだろう。 それに、年齢的にもどう見たって60は過ぎてないはずだ。田舎では周りに老人ばかり居たので、この辺の事には自信がある。 自分よりも元気そうな人に席を譲るなんて、そんな本末転倒な話はないはずだ。 周りのみなさん、どうかきっちり見極めてください。 そしてお願いですからもうこれ以上私の方を見ないでください! 次の駅に止まると私は逃げるように電車を降りた。つり革を握っていた手にじっとりと汗が滲んでいる。 これから東京で幸せな老後を送るためには、あの若い女性くらいの鈍感さか図太さが必要不可欠だと、私は改めて強く感じるとともに 乳母車で眠っていた女の子の私を見つめる優しい瞳を思い出して、少し心が暖かくなった気がした。
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