- 洋 楽 は い つ 終 わ っ た の ?5
133 :名盤さん[]:2020/03/26(木) 01:19:03.29 ID:FZTZLK21 - 芸術 まったくもって無駄であるーーそれよりみごとに、また迅速にやって
のける機械がこれにとってかわったのだから。 「芸術」の定義が蒙る動揺は、二つの側面において進行する。一方では、そ れを享受する層の飛躍的な増大という現象があり、また他方、増大した享受 者たちの趣味に見合った芸術品の質的な低下、及び量産の可能性という事態 がある。いってみれば、それまで芸術品と思われていたものに酷似した芸術 まがいの生産物があたりに氾濫し、軽薄な複製のごとき類似品の群によっ て、本物の姿が見きわめがたくなってしまったのだ。事実、オペレッタの方 がオペラより気軽に楽しめるし、文豪の手になる本格的な小説よりも新聞の 連載小説の方がはるかにわかりやすいに違いない。 ここで重要なのは、本物よりもそれに酷似した模造品が大量に生産され消費 されてゆくという文化的な状況のもとで、その定義にとどまらずあり方その ものまでが曖昧になってゆく「芸術」を、社会全般があからさまに無視し、 それについて語ることをやめたわけではなく、かえって、かつてないほどの 饒舌さで、誰もがこの語彙を口にしていたという点である。初期の産業社会 が可能にした複製技術と大衆化現象とを介して、「芸術」ははじめて普遍的 な話題となったのである。「芸術」の定義に自足しきっていた時代ではな く、模造品の氾濫による定義の動揺が起ったときに、「芸術」は芸術の物語 を持つに至ったのだといってもよい。本来の意味での芸術とは 無縁の生活をいとなんでいる連中までがこの語彙をたやすく口にし、誰に頼 まれたわけでもないのにその未来の姿を語ってみせたりする説話論的な磁場 の成立こそがここでの真の問題なのだ。
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