- 【エラー】どらさんの行方7【鈴木】 [無断転載禁止]©2ch.net
223 :ドラム缶B ◆P7KNUTc4/g []:2016/02/02(火) 19:19:01.15 ID:i+PuGUuc - >>197
「成仏しておくんなまし。」 そんな言葉が、今手放しているトレーニング器具に対し、俺の心の中で去来していた。 因みに、15kgのダンベルと、20kgのダンベルは、夢のせめてもの形見にと、残しておく事にした。 そして、その2つ以外の全てのトレーニング器具を破棄した俺は、家へ帰り着くや否や、 「参ったな。何もやることがねえや。」 と、つぶやいて、玄関に腰を下ろすと、その場でうずくまっていた。そしてその日は、 ただうずくまったままで、日が暮れてしまっていた。そう、その時の俺は、本当に何もやることを失ってしまい、 廃人その物であったと思う。だから俺は、このままで、トンビなどの野生動物に、 我が血肉や、内臓、果ては脳みそまでもを喰い漁って欲しいとさえ願っていた。しかし、未だに死ねぬ身のこの俺には、 その権利すら無かった。そして、その後日、俺は、丸永先生に下して頂いた診断結果を病院側に報告すると、 無事、完全な退院許可を頂く事に成功していた。が、それが良い事なのか、それとも悪い事なのかは、 その時の俺には、何もわからなかった。そして、時は少し流れ、俺は、ある日を迎えていた。 それは、そう、俺が登録した、卓球の全日本長野県予選の大会の日である。が、勿論俺は、 こんな身であるし、事前に清水さんに連絡を入れ、すでに大会を辞退している身であった。 だから、いくら俺がその日を迎えたところで、俺にはもはや、何も関係が無かった。 が、俺は、何故だろう。気付くと、その大会の会場へと、足を運んでしまっていた。 それは、俺が他にやる事が無かった故か、それとも、俺にまだ、卓球への未練がある故か、俺にさえわからない。 が、俺は、どうしてもその足を止める事が出来ずにいた。そして、俺が車にてその会場に到着すると、 そこには、やはり長野県中の猛者が一同に集う場とだけあってか、駐車場の空きスペースが無い程に、 車でごった返していた。だから俺は、これはとてもじゃないが会場に車を駐車することなど出来ないと、 近くの有料駐車場に車を止める事となった。そして、俺がいざ会場へと足を踏み入れると、 そこは、とても卓球をするだけとは思えない程の熱気で溢れていた。因みに、 どうやら俺の事をこの大会に誘った張本人でもある清水さんもまた、シニアの部の選手であるらしく、 この会場内にその姿が見て取れた。だから俺は、とりあえず清水さんに挨拶をすべく、 彼の元へと足を運ぶと、彼に様式的な挨拶を済ませる事となった。すると清水さんは、あろうことか、そんな俺に対し、 「鈴木さん。試合前には台が解禁になりますから、ウォーミングアップの相手になってください。」 と、一つ提案をした。が、ウォーミングアップの相手も何も、俺はもはや、この大会の出場者ですら無いし、 本来ならば、ラケットさえ持っていない身であった。が、本当に俺は、何を思ったのだろうか、 会場にさえ行けば、辞退した筈の大会にも、或いは出れるのではないかと、少し期待でもしていたのだろうか、 実を言うと、家を出る直前に、ラケットだけは持って行こうと決めていたのである。 だからそんな俺は、ラケットを持参していた。そして、ラケットを持っていた俺は、 厚かましくも、この大会の出場者ですら無いにも関わらず、清水さんと共にウォーミングアップをする事となった。 が、やはりそこは全日本予選の大会であり、その人数は、尋常じゃ無い物がある。だから、 ひとえにウォーミングアップと言えども、そこには、やはり清水さんと同じく、 本戦が始まる前に身体を温めておこうとしている人でごった返しており、故にその使用する卓球台は、 八人で一つの台を交代制で使うと言うような、滅茶苦茶な物があった。だから、俺も、 そして清水さんもまた、大して打てずに終わってしまっていた。そしていざ、開会式が終わり、 本戦が開始される事となった。すると、俺は呆然、立ち尽くしてしまっていた。 そう、ここは、たかが県予選と言えども、全日本を目指す猛者達の集いし場である。 だからその試合は、まだ一回戦目でしか無いと言うのに、明らかにレベルが違っていたのである。 だからこそ俺は、自身の余りの場違い感に、動けずにいたのである。しかし、そんな俺の身体とは裏腹、俺の心は、 「俺だって出来るんだ!」 と、負け惜しみの言葉を叫んでいた。しかし、いくら俺が心の中で強気に出たところで、俺は、 仮に当初の予定通り、この大会に出場していたとすれば、見るも無惨な結果になっていた事だろう。
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224 :ドラム缶B ◆P7KNUTc4/g []:2016/02/02(火) 19:20:01.94 ID:i+PuGUuc - >>223
そんな事は、俺自身が一番身にしみて理解している。だから俺は、いたたまれない気持ちになってしまい、 せっかく会場まで来たにも関わらず、ろくに観戦もしないままで、逃げるように会場を後にしていた。 そして、家へと逃げ帰った俺は、おもむろに冷蔵庫を開けると、そこからウォッカを取り出し、 それに溺れる事となった。そして、そんな俺は、余りにもいたたまれない気持ちであり、 ウエイト板でくだを巻く事すら忘れてしまっていた。そして、あれからどれくらいの時間が過ぎただろうか。 そんな俺の元へと、なんともタイミングの良すぎる電話が入った。その電話は、同じ職場の阿部さんの物であり、 俺を駅伝や卓球に誘ったその人である。そして、そのタイミングの良い電話の内容とは、 「退院おめでとう。そろそろ職場復帰だよね?入院生活で身体もなまってるでしょう? だから、今度の卓球の練習会にでも顔を出してよ。卓球くらいなら出来るでしょ?」 だった。が、卓球くらいは出来るも何も、俺は、医師から全てのスポーツに対し、 前線復帰を諦めろと宣告されてしまった身である。だから俺は、阿部さんのその誘いに対し、 断るべきであった。が、辞退した大会に、それも、ラケットまで持参して赴いてしまうような、 未練がましい俺の事であり、俺は、阿部さんのその誘いを、断る事さえも出来なかった。 そしてその後日、俺は、本当に久しぶりとなる、体育協会の卓球練習に臨む事となった。 しかし、そんな俺は、緊張を隠せずにいた。そう、そんな俺は、清水さんとのウォーミングアップの時は、 余りの人混みに、不完全燃焼で終わってしまった為に、本格的に卓球を打つ事もまた、 本当に久しぶりだったのである。が、俺のそんな緊張とは裏腹、いざ打って見ると、 なんと以前のように打ててしまうのである。それに、卓球は、やはりつらいトレーニングなどと違い、 非常に楽しかった。だから俺は、卓球を打ちながら、心の中で、 「嗚呼、楽しいや…。こういうのって、なんかいいな…。」 と、つぶやいていた。だからだろうか。俺は、医師からスポーツの前線復帰を諦めろと言われたにも関わらず、 再び、卓球だけは手放したく無い衝動に駆られてしまっていた。そして、そうなった俺は、 その翌日以降、まだ休職中の身であるにも関わらず、小森さんの経営する卓球場を訪ねると、 そこで毎日のように卓球を打ち続ける事となった。そして、運動を始めた俺の身体は、 どうやら卓球程度の負荷であっても、例のマッスルメモリーが働くらしく、見る見るうちに筋肉で引き締まっていた。 そして、こうなると懸念されるのは、リンパと関節であるが、それら二つは、ありがたい事に、良好であった。 だから俺は、卓球なら出来ると確信し、涙がこぼれそうになる程に歓喜していた。 そう、それは、全てのスポーツの前線復帰を否定されてしまった俺に、たった一つだけ残された道であった。 そして俺は、もう道が一つなら迷う事も無いと、夢中でその道を駆け抜けていた。 そして俺は、夢中で駆け抜けるその道の道中で、ある攻撃型の女性選手と出会う事となった。因みにその女性の名は、 井上さんと言い、そしてなんと彼女は、全日本長野県予選の女性の部で優勝を飾る程の実力者であった。 だから俺は、今の自分の実力を知る為にも、彼女に試合を挑む事にした。すると、 その第一セット目は、見るも無惨な結果となり、俺は、彼女に対し手も足も出せないままで、 ただ打ち抜かれるだけに終わってしまった。が、それもその筈である。俺は、 すぐに帰ってしまったとは言え、全日本長野県予選の大会を、直接この目で観戦した身である。 そしてその大会には、攻撃型の選手は勿論の事、俺と同じ戦型である、カットマンも少なくなかった。 だから、いくら女性の部と言えども、彼女がその大会で優勝を飾ったと言う事は、そこに集った、 俺よりも遥かにベテランのカットマンさえも打ち抜いたと言う事である。だから、 今彼女と戦っている俺が、手も足も出せないでいるのは、半ば必然であった。が、ここで俺に、 ある考えが浮かんだ。そして、その考えとは、彼女がベテランのカットマンを相手に打ち抜く程の実力者であるならば、 もしかすると、セオリー通りに切るカットでは無く、切らないカットを主戦とした相手に戦われたならば、 カットは切れている物と言う先入観から、意表を突かれるのでは無いかと言う物であった。
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225 :ドラム缶B ◆P7KNUTc4/g []:2016/02/02(火) 19:20:51.23 ID:i+PuGUuc - >>224
だから俺は、その第二セットの初っぱなから、敢えて切らない、ナックルカットを連発していた。 すると、俺のその目論見は見事的中し、井上さんは、俺の切れていないカットに対し、 オーバーミスを連発していた。そして、そんな彼女は、俺のそのカットに対し、ただ、 「わからん!」 と、ツッコミを入れると、苦笑いを浮かべていた。そして、目論見の成功した俺は、 見るも無惨な第一セットとは裏腹、見事第二セットを取るに至った。そして、こうなれば後は、 俺のアドバンテージである。が、やはり長野県予選優勝の肩書きは伊達じゃないらしく、 俺は、続く第三セットも取り、先に二ゲームを先取するも、最終的には、セット数二対三で、 井上さんに敗北を喫する事となった。そして、そんな彼女は、やはり最後まで、 「わからん。」 と、ぼやいていた。が、いくら負けたとは言え、俺が彼女とフルゲームにまでもつれ込ませた事実は事実であり、そんな俺の噂は、 「あの井上さんをフルゲームまで追い詰めた強い初心者カットマンがいる!」 として、瞬く間に広がる事となった。そしてそれは、それから数日後の事。俺は、 その日も小森さんの経営する卓球場へと足を運んでいた。すると俺は、そこの敷居をまたぐや否や、ある年配の女性に、 「待っていた。やっと会えた。」 と、本当に突然、声をかけられる事となった。が、余りに突然の出来事に、俺は、失礼にも、 「は?」 と、返す事しか出来なかった。すると、その年配の女性は、ようやく俺に事情を説明し始めた。 そんな彼女が言うには、井上さんを追い詰めたカットマンである俺の噂は、すでに有名であるらしく、 そして、そんなカットマンである俺と、彼女の子供でもある中学生を試合させたいらしかった。 因みにその中学生は、中学生の市内大会で準優勝に輝く程の実力者であり、そして、 彼が決勝で負けた相手の戦型はと言うと、何を隠そう、カットマンだったのである。 だから、来たる県大会の為にも、ここは一つ、俺に手ほどきをして欲しいらしい。 が、手ほどきも何も、俺は、その中学生の彼よりも、遥かに卓球歴の短い選手でしか無い。 だから本来であるならば、俺の事を待ち望んだ彼女には悪いが、俺は、そのような要望には、 応えられる筈が無い。しかし、この俺は、普段から乗せられやすい性格である為、 彼女が俺を強いカットマンと認識している事実が嬉しかった事も重なり、その要望に応える事に決めていた。 そして、いざ俺とその中学生が、まずは力量を計る為に、ゲーム練習をすると、彼は、 カットを攻撃で打ち抜く、いわゆるカット打ち以前の段階であり、俺のサーブに対するレシーブですら、 ままならないのが現状であった。だからそのゲーム練習は、カットマン対攻撃型選手と言うよりも、 ただ俺がサービスエースを奪い、後は軽くカットをして流すと言った感じであった。 そしてその結果、俺は、その中学生相手に、何の危なげも無しに、セット数三対0で、勝利する事となった。 が、それでは、その中学生のカットマン対策の練習も何も、あったものでは無い。
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226 :ドラム缶B ◆P7KNUTc4/g []:2016/02/02(火) 19:21:32.29 ID:i+PuGUuc - 再び楽しい楽しい卓球編に戻ったんだからなんとか言えや
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