- 【JWBL】日本女子プロ野球リーグ 8 [無断転載禁止]©2ch.net
541 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:29:47.77 ID:Sxo7yYJ4 - 上に覆い被さっている男が、一際情けない声をあげ痙攣する。
「早くない?」と言いそうになったのを、直前で飲み込んだ。 「お姉ちゃ〜ん」 「・・・」 「あれ、妹だっけ?」 「・・・どっちでもない」 「だって、私とセナは竿・・・」 「・・・それ以上言ったらぶつわよ」 「いや・・・もうぶたれてるし」 「あと・・・人の煙草盗るな」 と言いつつ、火を差し出してくれた。 煙を燻らせながら、隣の少女・・・紅葉セナの隣に座る。 「昨日会ったの?」 「あ、分かる?」 「・・・まあ」 吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れた後、どちらともなく話が始まった。 「でもね、早いの。とにかく。5分持てば良い方」 「・・・あっそ」 「昨日なんて3分だった」 カップラーメンか!と自分で自分にツッコミを入れる私、紫野シオンには最近生まれて初めて彼氏ができた。 しかも、その彼氏というのが以前にセナが付き合っていた男らしい。 「・・・アンタ、締まり良いって言われない?」 「いや、特には。セナは?」 「30分かかる事もザラだった」 「えっ、良いな〜」 「ちっとも良くない。あ、もしかしてあの男・・・」 「なになに?」
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542 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:30:16.79 ID:Sxo7yYJ4 - 「もうこの話はおしまい!いい?」
「う、うん・・・」 こう言われては、従うしかない。 どうも、セナとはあまり良い別れ方でなかったらしい。 「もう一本吸う?」 「うん」 肩を並べ、煙を燻らせる。 私もそうだったけど、セナも元々は吸っていなかったはずだ。 ・・・野球を辞めるまでは。 「やっぱり速いだけじゃダメかな・・・?」 私を見て、呟く。 「彼氏?」 「そっちの“早い”じゃなくて・・・野球の方」 「ああ・・・最近熱心に指導してる娘いるよね。この前も浜辺で熱血指導してたし。鈴花ちゃん・・・だっけ?」 「花鈴。来てたなら顔くらい見せなさいよ」 「いや・・・その時“アレ”だったから」 アレ。 つまりは喧嘩、抗争、決闘、もしくはそれに類する何か。 「・・・大概にしときなさいよ」 「あ、心配してくれるんだ。嬉しい」 「香典包むのが面倒臭いだけ。今日は持ってきてないんだ?」 紫野シオン、巷では《釘バットのシオン》と呼ばれている。 頼もしき(?)相棒だったのだが・・・ 「没収」 「警察?」 「うん。昨日まで私もお泊まり」 「そして今日は?」 「彼氏の部屋にお泊まり」
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543 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:30:40.24 ID:Sxo7yYJ4 - 「ただれた生活ね・・・」
「セナもね」 「私はシオンと違って法は・・・犯してるか」 煙草の箱を見て、溜め息をつく。 私もセナもまだ未成年。 「花鈴の前では吸わないようにしてるけど」 「やっぱプロ志望なの?」 「らしいわね・・・けど」 「実力?」 「いや、現時点でもそこそこはできるでしょ。もう少し制球が付けば、代表候補になるかもね」 「じゃあ、何で?」 「前にね、リーグの試合見に行ったのよ」 「バレなかった?」 私もそうだが、セナも(野球を辞めたとはいえ)女子野球界では名のしれた存在だ。 キツめの化粧をしてるのも、それが理由だったりする。 「マスクに帽子で変装したから問題無かったわ」 「じゃあ何で?審判と選手がデキてたりするの」 「それは前にあったらしいけど・・・問題は試合が終わった後よ」 審判と選手がデキているのも、それはそれで問題だと思うけど。 「サインとかするんでしょ?それくらいは良いんじゃない?」 「トラブルばっか発生するから中止になったみたい」 「ふーん・・・代わりに何かやってるの?」 「・・・ダンス」 「ダンス?」 「そう、勝利のダンス」 288 :その後のシオンとセナD:2016/01/17(日) 09:15:52.60 ID:RFvMJzTp「・・・うわ」 シオンのタブレットに写し出された動画>>2を見た私は、思わずそう呟いていた。 「これを毎試合?」 「うん」 「・・・キモ」 AKBか、これは。 「とりあえず、一度試合を見に行かせて考えさせようと思ってる」 「・・・うん。でもその前に」 「「逃げよう!」」 パトカーを遠目に見つけ、私達は走り出した。
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545 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:31:24.30 ID:Sxo7yYJ4 - 「・・・体力落ちたんじゃない?」
「・・・セナもね」 追っ手がいないのを確認し、ようやく足を止めた。 「無様ですね、先輩方」 「誰?」 自販機で買ったアク●リアスを飲んでいると、制服姿の女の子に声を掛けられた。 高校生くらいだろうか。 初めて見る顔だ。 「柊木美玲。花鈴のライバル、というのが一番分かりやすいかな」 「ふーん・・・」 私の疑問に答えてくれたのはセナだった。 確かに、スカートから覗く脚はスポーツをやっている人間のそれだった。 それに・・・何となくだが、初めて対戦した時のセナに雰囲気が似ている。 「やめて下さい。男で野球を止めたような人と一緒にされるなんて、あり得ません。屈辱です」 言葉使いこそ丁寧だが、軽蔑の気持ちを隠そうともしない。 「野球のバットではなく男の(中略)を選んだ挙げ句、みっともない三角関係で・・・モガッ!?」 「はいストップ」 なおも止まらない美玲の口に、空になったアク●リアスのペットボトルを突っ込む。 そして、私の隣を見るよう促した。 「うう・・・私だって・・・そんな事で辞めるなんて・・・」
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546 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:31:49.17 ID:Sxo7yYJ4 - 「ってゆーか・・・さっき突っ込んだペットボトル、明らかに口付けたやつですよね?」
「そうだっけ?」 やっとの事で泣き止んだセナに代わり、今後は美玲が涙目で口をぬぐっている。 「そうですよ!それに、わざわざ両隣で煙草吸うの止めてもらえます?」 「あ、一本吸う?」 「吸いません!嫌がらせですよね?完全に」 「「うん」」 二人の声がハモった。 「やっぱ、プロ志望なの?」 「私ですか?いえ、全く」 少し離れた所で口元を押さえた美玲がくぐもった声で返してきた。 「野球がすごく上手い女の子が近所にいたんですよ。中学までは男子と一緒にやってて」 ノートで煙草の煙を払いながら話し始める。 副流煙をモロに流し込まれ、思わずむせてしまった。 「ゴホッ・・・その娘、プロ入りしたの?」 「したにはしたんですけど、二年で・・・」 クビ、という事らしい。 「で、野球はどうするの?」 「辞めて私達みたいに毎日遊び歩く?」 「シオンだけでしょ?って私も似たようなものか・・・」 「その人が今度女の子だけのクラブチームの監督やるみたいで、大学からはそこでプレーさせて貰う予定です」 彼女が野球を辞めてなかった、という事に何故かホッとした。 高卒2年でクビなんて、下手したら私達のようにドロップアウトする人間が出てもおかしくない。
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547 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:32:10.37 ID:Sxo7yYJ4 - 「良い大学行って、良い会社入ってー、それから・・・って、ちょっと?」
「・・・シオン」 黙って頷く。 「は、離して下さい!」 「何かムカつく」 「うん」 後ろから拘束され、身動きできない美玲に近付く。 そして、煙草の煙を思い切り吹き掛けようした所で 「・・・何やってるんですか」 後ろから声がした。 「あ、花鈴ちゃん。煙草吸う?」 「吸いません」 「ちょっと!早く片付けて」 慌てて煙草を携帯灰皿に入れ、私にも促してきた。 「可愛い後輩に煙草の煙なんて吸わせられないわ」 「うん」 「・・・私の扱い酷くないですか?」
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548 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:32:59.54 ID:Sxo7yYJ4 - 「煙草を吸ってる若い女3人組がいるって、通りがかった人が言ってて・・・」
「って、私も?」 コーヒーを口にする。 花鈴を加えた私達4人はマッ●へ移動していた。 もちろん禁煙席だ。 「ダメだよ、美玲。先輩達みたいになっちゃ」 「「(´・ω・`)」」 「いや、私は単に襲われて・・・」 「まあ、冗談はさておき・・・今日は報告したい事がありまして」 「妙にスッキリした顔してるわね。男でも出来たの?」 「美玲は黙ってて。で、どうしたの?言い辛い話なら、コイツら追い返すけど」 ・・・酷すぎ。 「いえ、大丈夫です」 「痛かった?」 「・・・シオン、それ以上はコーヒー代(100円)自腹よ」 「いや・・・今、30円しか持ってないんだけど」 少なっ!と3人の声がハモる。 「もういい。続けて」 「あ、はい。私、プロ入りを目指さない事にしました」 一点の曇りもない、清々しい笑顔だ。 「だから、美玲ちゃん。プロで対決できなくて、ごめんなさい」 「え?でも・・・」 「あ、私・・・表向きはプロ志望って事になっています」 「(リーグと)学校との関係ね」 頭の上に疑問符を浮かべる私に対し、セナは分かっていたようだった。 でも、トライアウトはどうするのだろうか? 「とりあえず、直前で足傷めた事にする予定で・・・」
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549 :名無しさん@実況は実況板で[]:2016/07/08(金) 12:33:22.67 ID:Sxo7yYJ4 - 「前に試合観に行くってメールしたきりだよね」
「実はその前に、グッズショップがあるって聞いてたので行ってみて・・・」 「選手の抱き枕カバーでも売ってた?」 「ある訳無いでしょ、そんなの」 「そうですよ、年末の国際展示場じゃないんですから・・・」 私の発した下らない冗談に、セナと美玲が呆れる。 ・・・ところが。 「いや・・・実は、ありました」 「「「嘘っ!?」」」 買う人、いるのだろうか。 「それはそれで問題かもしれませんけど、それ以外のグッズは結構まともでした」 「レプリカとか?」 「はい。後はガイドブックにタオル、色紙にストラップもありましたね。ですけど・・・」 花鈴の声が暗い口調になる。 「突然、カメラの音がしたんですよ。カシャ、じゃなくてカシャカシャカシャカシャカシャカシャって連続で」 「連写モードってやつ?」 「おそらくは。私が音のした方を振り返ると、ピッチピッチのレプリカを着た人がこちらに一眼レフを向けてて」 「抗議したの?」 「しましたよ。でも、キミはプロ入りするんだから別に良いでしょ?って完全に開き直って・・・」 「店の人は?」 「いましたけど、見て見ぬフリで」 何それ、最低。 「確かに制服姿のまま行った私も悪かったのかもしれませんけど・・・」 「いや、学校帰りなら普通でしょ」 「試合は観たの?」 「さすがにそんな気にはなれなくて・・・」 「うん、正解。行ったら確実にローアングルの写真撮られてたわね」 そういった写真がどのような事に使われるかは、少なくとも私とセナは分かっている。
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550 :名無しさん@実況は実況板で[sage]:2016/07/08(金) 12:39:20.44 ID:Sxo7yYJ4 - 「だったらさ、花鈴も一緒のチームに来ない?」
「そうね、私もそれが良いと思う」 美玲の誘いにセナが同調する。 「お気持ちは嬉しいんですけど、実は他のクラブチームから誘われてて・・・」 「そっか、残念」 「で、実はセナ先輩の事・・・お話ししちゃいまして」 途端にセナが罰の悪そうな顔になる。 繰り返すが、私もセナも女子野球の世界では結構有名だ。 「花鈴?」 「ごめんなさい・・・でも、できれば私もセナ先輩と一緒に」 「あ、ズルい。じゃあ、私はシオン先輩を手土産にします」 「え、でも・・・うん」 迷ったが、セナの嬉しそうな顔を見て心を決めた。 男と煙草、そしてプロリーグに別れを告げ、再び野球を始める事にした。 私もセナも、アルバイトをしながら練習する日々を送っている。 来月、セナと花鈴がいるチームとの試合がある。 美玲はともかく、私はまだ万全ではないかもしれない。 でも、再びセナと対戦できる事が嬉しかった。 その後のシオンとセナ 〜完〜 【補足】 シオン・・・紫野シオン。「シオンとセナ」に登場する女性投手。 連載が中止になったので、その後どうなったかは不明。 速球に自信を持ってるが、カーブも投げられる。 セナ・・・紅葉セナ。「シオンとセナ」に登場する女性スラッガー。 連載が中止になったので、その後どうなったかは不明。 名家のお嬢様らしい。
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