- レトロファンタジーTRPG
270 :レイン ◆IiWdxl1r76 [sage]:2021/04/11(日) 23:18:56.19 ID:N2WA8drd - 深海に沈んだように意識は深い底へと落ちていく。
ああ、またこれか。諦念にも似た感情は高い壁にぶつかったようで。 しょせん自分はこの程度なんだと久々に思い知らされた。 もしかしたら……自分は大幹部に一生勝てないのでは? だけど諦めない。諦めるわけにはいかない。 魔王を倒すという果たしたい約束があるから。 何度でも、奴が待ってる場所へ手を伸ばすだけだ。 やがて意識は深淵から急上昇をはじめ――……。 「……はっ!」 目覚めた眼で見上げた空はいつもの快晴だった。 起き上がると仮面の騎士がどこ吹く風で佇んでいる。 対して、クロムとマグリットが不信を露にした態度でそこにいた。 原因は仮面の騎士の正体が分からないという、不審さが原因なのだろう。 剣呑な空気を断ち切るように、レインは起き上がって話はじめた。 気絶の影響で変身召喚はすでに解けている。 「いてて……風の大幹部の戦術は理解しました。 でも……俺の実力じゃそもそも次の大陸で通用するかどうか……」 仮面の騎士は沈黙を保ったままレインの方へちらと顔を向ける。 「……だからもう一回。もう一回やりませんか。 以前に貴方は俺に言いましたよね。可能な限り強くなってもらうと。 ならせめて、その手伝いはしてください。一人で剣の素振りでもしろって言うんですか?」 この手合わせ、レイン個人として到底納得がいくものではなかった。 何せ、試しも兼ねていたのに、一人無様に気を失ってしまったのだから。 凄い勢いで仮面の騎士に詰め寄ると、話を続ける。 「嫌とは言わせませんよ。極端な話、俺は貴方の正体なんてどうでもいい! 魔王を倒すためなら、どんな手段だって使うし、どんなことだってする覚悟です!」
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271 :レイン ◆IiWdxl1r76 [sage]:2021/04/11(日) 23:21:00.05 ID:N2WA8drd - 両者、しばしの沈黙。
その沈黙を破ったのは仮面の騎士だった。 「……なるほど。面白いな、君は。 今の君にとってサウスマナの魔物は脅威どころではなく危険でしかない。 だが確かに……私に勝つまで挑めばその限りではない。可能性は十分にある」 「ほ、本当ですか!?」 「手伝うのは構わない。だが以前に時間がないと語ったのも本当のことだ。世界にも……私自身にも。 そして私には正体を明かせない事情があった。ゆえに、このような形で干渉してしまった」 仮面の騎士は頭を下げた。 「君達に干渉した理由は……運命の導きを見たとでも言っておこう。 私は長い時間かけて世界中を巡ったが、遂に今の魔王城を見つけられなかった」 少し間を置いて話が続く。 「大幹部とはその長い時間の過程で運良く戦えたにすぎない。 だが、君達はどうだ。私より遥かに短時間で大幹部に遭遇している。 一度目は偶然かと疑ったが、今回で確信した……君達には"何か"があると」 レベル不足のまま大幹部に挑んで死なれるくらいなら、イースに留まった方が良いと。 そう考えて仮面の騎士は急な手合わせを始めたのだという。 しかし――正体を隠したままでは君の仲間が納得しないだろう、とレインの後方へ視線を送る。 未だ不信な目で仮面の騎士を見るクロムとマグリットを見て、確かに、とレインも呟いた。 仮面の騎士と何をするにしても、この問題が解決しない限り話は前に進まないだろう。 このまま攻略法を伝えて去ったとて、わだかまりが残るだけだ。 「"召喚の勇者"。君が魔王を倒すため何でもするというなら。 私も魔王城へ至るため、覚悟を決める」 仮面の騎士は自らの仮面に触れた。 そして、ベールに覆われていた顔がついに露になる。
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272 :レイン ◆IiWdxl1r76 [sage]:2021/04/11(日) 23:25:05.18 ID:N2WA8drd - 優男のようで精悍さを感じさせる顔立ち。
すこしつんつんした毬栗みたいな短めの黒髪。 総合的に言えば美形。アンナが喜びそうだな、と思った。 レインが勇者になった時、王城で見せられた"伝承の勇者"の肖像画にそっくりだ。 「私の名はアルス。君達には顔と名を明かすが、魔王軍にはなるべく悟られたくない。 もし名前を呼ぶことがあれば連中が名付けた『仮面の騎士』で頼みたい」 そう言って、アルスは静かに仮面を被り直した。 腕が震える。顔といい、名といい、1000年前に世界を救った勇者その人ではないか。 最初の勇者は魔を打ち払った後天界へ昇ったと聞く。これはお伽話にもある公然たる事実だ。 天界とは神々の住まう場所。物質世界から解放された彼に寿命など関係なかろう。 確証はないが確信した。アルスは間違いなくかつて世界を救った勇者だ。 「や、やはり貴方はあの"伝承の勇者"だったんですね……!」 「……そうだな。君達に隠し事をしても意味などない。 魔王の復活を許した私に、名乗る資格はないが……。 確かにかつて勇者と呼ばれていた。もう大昔の話になる」 仮面の騎士の肯定を得て、これで正体が確定した。 彼こそはかつて魔王を倒した本物の勇者、アルスなのだ。 現実味に欠けるような気もするが――この期に及んで嘘は言わないだろう。 「クロム、マグリット。悪いけれど俺は仮面の騎士を旅に同行させたい。 我儘だけど……俺は強くなりたい。この人に修行を手伝ってほしいんだ」 ダメもとでレインは頼んだ。不信感を抱いている二人のことだ。断られる気もする。 その場合、仮面の騎士は"風月飛竜"の攻略法だけ伝えて去ることになるだろう。 だが正体が判明した以上、レインは彼に聞きたいことも沢山あった――。 例えば、未だ謎多き『魔王』に関する情報などがそうだ。 【仮面の騎士:名前はアルス。正体は大昔の勇者。質問があれば答えます】 【レインの頼み:修行を手伝って貰いたいから仮面の騎士を旅に同行させたい】
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