- 茨木敬くんの日常
379 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 06:47:08.19 ID:lzI7OGga - 翌日、山本サアヤは剛力組の本部屋敷を訪れた。
ビルの一室とかではなく、都会の真ん中に豪華な庭つきの和風家屋が建っている。 山本は開かれた大きな木の門を潜ると、友人宅を訪れたような顔で、組員に導かれて中へ入って行った。
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380 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 06:53:16.33 ID:lzI7OGga - 「わかったでおじゃる」
肘掛けつきの座椅子に座った剛力あやの組長は穏やかに言った。 「お前との契約を切るでおじゃる。これからはお前はただのアイドル……」 「アイドルは卒業しましたよ」 山本は姿勢よく正座し、笑顔で言った。 「これからはシンガーソングライターでやって行くつもりです」 「頑張るでおじゃるよ」 「ありがとうございます」 山本は丁寧に頭を下げた。
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381 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 07:05:29.55 ID:lzI7OGga - 「ひとつ教えてたもれ」
剛力組長は帰ろうとした山本の背中に声を掛けた。 「茨木敬はそんなに強いでおじゃるか?」 「……強い」 山本の笑顔が消えた。 「強い以上に、恐ろしいです。その得体の知れない恐ろしさが何よりの武器です」 「ほう。お前が恐ろしがるなんてことがあるとは……それは相当でおじゃるね」 「それで攻撃しようとした身体の動きを金縛りのように止められてしまう」 山本はアメリカ人のように大袈裟なジェスチャーで言った。 「あれを殺すのは誰にも無理だ」 「なるほど」 剛力組長は考え込むような顔をして、言った。 「ところで茨木組のヒットマンになって、お前がマロを殺しに来るなどということは……」 「茨木敬は平和を望んでいる」 山本は微笑んだ。 「放っておいてあげてください。あの人は何かされなければ害などない」
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382 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 07:07:54.74 ID:lzI7OGga - 帰り道、山本サアヤは自由な空気の中を歩いた。
空はよく晴れていて、風は涼しかった。 ふと可愛らしい店構えのケーキ屋さんが目にとまった。 「あの人、甘いものが好きなんだよな」
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383 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 07:17:59.09 ID:lzI7OGga - 「いらっしゃいませ〜」
ケーキ屋に入ると可愛らしい笑顔の女性の店員が、明るく言った。 黒いスーツに身を固めて男装をしているので、入って来たのがDTB48を引退したばかりの山本サアヤだとは気づいていないようだ。 ショーケースの中には目にも楽しい甘そうなお菓子がいっぱい並んでいる。 山本はビターチョコなどには目もくれず、女の子らしい『キラキラ☆フルーツスプラッシュ』という商品に目を止めた。 「あの人、こういうのが好きなんだよな」 顔を上げ、注文しようとしたところで背後の扉が乱暴に開けられた。 「あうっ……! ああおとぉっ!」 そんな声がして、山本が振り向くと、そこに剛力組の兵隊、坂本魔あやが拳銃を構えて立っていた。
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384 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 07:27:40.57 ID:lzI7OGga - 避けるのは簡単だった。
しかし、避ければ当たる位置に店員がいた。 店員は、しゃがみ込んでくれればいいものを、山本の後ろで固まってしまっていた。 「ん?」 山本は微笑み、坂本の顔を見つめながら、首を傾げた。 「なぜ?」 そしてゆっくりと店員の前から左へ身体をずらすため、山本が動こうとした瞬間、坂本は発砲した。 「ウキャーッ!」 猿のように咆哮しながら坂本は3発撃った。 銃弾は、山本の頬をかすめ、肩に当り、3発目が新造に命中した。
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385 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 07:39:32.96 ID:lzI7OGga - 警察が来た時、坂本魔あやはケーキ屋の床に座り込み、商品のケーキを貪り食っていた。
店員を拳銃で脅し、ショーケースから次々とケーキを出させると貪りつき、コーヒーも出させていた。 その横には綺麗な姿勢で床に倒れ、胸から血を流して死んでいる山本さあやの姿があった。 男装は解かれてあった。 警察の取り調べに坂本は素直に答えた。 自分は山本さあやの熱烈なファンだが、冷たくあしらわれたので殺した、拳銃はネットで手に入れた。 誰の命令でもなく、動機は怨恨だ、自分はヤクザなどではなく一般人だと言い張った。
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386 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 14:28:42.92 ID:lzI7OGga - 茨木が病院の霊安室に駆け込むと、中條が泣き崩れ、ヤーヤが茫然と立っていた。
山本サアヤは安らかな顔で死んでいた。 その顔に恐怖の痕跡はまったくなく、ただ少しだけ悔しそうだった。 「誰も死なせねぇって言ったろう……」 茨木は呟くと、主人公のとっけんを使った。 「山本サアヤ、生き返れ」
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387 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 14:30:23.06 ID:lzI7OGga - しかし山本は生き返らなかった。
「クロ!」 茨木は周囲を見回し、言った。 「どういうことだ!?」 あれだけいつも近くどこかにいたクロが、最近は姿を現した消していた。
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388 :創る名無しに見る名無し[sage]:2020/05/23(土) 14:33:23.97 ID:lzI7OGga - 「捕まった犯人は剛力組のチンピラよ」
中條が涙にびしょ濡れた顔を上げ、言った。 「やはりあの時、止めるべきだった」 茨木が悔しがる。 「私の、好きになった友達、みんな死ぬ……」 ヤーヤは崩れ落ち、その場に座り込んでしまった。
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