- ロスト・スペラー 21
53 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 19:59:28.62 ID:G3AU7B9E - スフィカは俯いた儘で、何も答えなかった。
ラントロックは怪訝な顔になって問う。 「……スフィカさん?」 「本当は、人間に成るのが怖いんだ。 本当に人間に成れるのかも。 もし、失敗したら、どう仕様か……。 そんな事ばかり考えてしまう」 深刻に悩む彼女に、ラントロックは言う。 「もし成れなくても大丈夫。 俺はスフィカさんを見捨てたりしないよ。 どこかで潜(ひっそ)りと暮らそう。 禁断の地みたいな、共通魔法使いの目の届かない所で、静かに暮らすんだ」 「有り難う、トロウィヤウィッチ」 スフィカに感謝されたラントロックは、少し困った顔をした。 「『トロウィヤウィッチ』じゃなくて……。 スフィカさんも俺を名前で呼んでくれないか? 俺は『ラントロック・アイスロン』だ。 『トロウィヤウィッチ』は魔法使いの名前、バーティフューラーは一族の名前。 俺自身はラントロック」 「ラントロック?」 「そう、ラントロック。 長いならラントで構わない」 「分かったよ、ラント」
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54 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 20:00:06.78 ID:G3AU7B9E - そんな話をして、スフィカは少し前向きな気持ちになれた。
その時、若い男女の2人組がラントロックに声を掛ける。 「や、ラントじゃないか!」 ラントロックは振り向いた。 女性の方には見覚えがある。 フィーゴ・ササンカだ。 着物姿のボルガ地方の伝統的な格好では無く、常夏の地に合わせた、露出の多い服を着ている。 暑ければ、それなりの格好をするのは当然の事だと、ラントロックは疑問に思わなかったが、 当のササンカにとっては大きな変化である。 ボルガ地方民はグラマー地方に次いで、肌を露出したがらない傾向にあり、特に伝統的な価値観を、 重視する人間は、その傾向が強い。 隠密魔法使いの集団は、その極地である。 ササンカは村を抜けた事で、外の文化に馴染んだのだ。 それは扨て置き、問題は男性の方である。 ラントロックは男性の方に見覚えが無かった。 しかし、彼の纏う魔力の流れは知っている。 「レノック……さん?」 「そうだよ、レノック・ダッバーディーだ。 何時もの姿じゃなくて悪かったね」 レノックは爽やかに笑い、ラントロックに問い掛けた。 「こんな所で何をしてるんだい? 隣の子は……」 彼はラントロックの隣のフードを被ったスフィカの顔を覗き込もうとする。
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55 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 20:01:03.83 ID:G3AU7B9E - ラントロックは慌てて彼を止めた。
「待ってくれ、レノックさん。 彼女は……」 レノックは小さく頷き、ラントロックに言う。 「ああ、分かっているよ。 彼女は人間じゃないね? 以前に言っていた、昆虫人の子かな?」 「あ、ああ」 全部お見通しと言う感じのレノックに、ラントロックは戸惑った。 ラントロックは禁断の地では家に篭もり勝ちだったので、レノックの事は余り知らないのだ。 小賢人と呼ばれるレノックは、旧い魔法使いの中でも、指折りの知恵者である。 暫しレノックの雰囲気に圧されていたラントロックだったが、彼は本来の目的を思い出した。 「そうだ、レノックさん、教えて欲しい事がある。 人間に成る方法を知らないか?」 そうラントロックに聞かれたレノックは、一瞬怪訝な顔をするも、直ぐに事情を理解する。 「成る程、彼女を人間にしたいと言う訳か……」 その通りだと、ラントロックは何度も頷く。 レノックは一度周囲を見回して、ラントロックとスフィカに言った。 「ここは少し目立つな。 人目に付かない所に行こう」 一同は街から離れて、人気の少ない遊泳禁止の浜辺に移動する。
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