- 【チャイナ・パニック2】海棠的故事
141 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 05:00:26.71 ID:9Aik73B7 - 「そういえば、ぼくのおばあちゃんって誰?」
ユージンはメイファンに聞いた。 「知るかボケ」と的確な答えが返って来た。 母のララは捨て子、父のハオは勘当息子。ユージンはルーツの失われた自分を、まぁ、どーでもいっか、と思った。
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142 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 05:07:25.94 ID:9Aik73B7 - チェンナをランが抱っこし、椿と並んで歩き、四人は二つの身体で歩いて海まで向かった。
徒歩で10分もかからない距離を、二人はわざとのようにゆっくりと歩いた。 晩春の風が下から吹き上がって来る。 椿は風に乱される髪を押さえながら「生きてるね」と言った。 ランは頷きながら「壮絶にな」と返した。
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143 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 05:08:44.76 ID:9Aik73B7 - 「お前に抱っこされるのも悪くないな」
メイファンは少し眠そうな、しかし機嫌のいい声でランに言った。
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144 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 05:19:50.01 ID:9Aik73B7 - 10分ほどで海へは着いた。崖の上を海と呼ぶならば、だが。
ここから泳ぎに海へ入るためには、30mほどの杣道を下ればある狭い砂浜まで行くか、あるいはここから飛び込むかである。 兄弟達は小さい頃からここから飛んでいた。もちろん母親のララは知らない。 しかし今日は少し寒すぎた。椿が自分の身体を抱いて震えている。 ランは寒くなかった、透明の『気』の鎧を着ているので。 チェンナも寒くなかった。メイファンが何も言わず黒い『気』の鎧を着せて、危険からも寒さからも四歳の小さなチェンナを守っていた。
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145 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 05:25:45.44 ID:9Aik73B7 - 何も言わないが寒そうにしている椿の後ろからランは近づいた。
「寒いか?」 「さっむい……」椿は振り返らずに身体を寒そうに動かしながら答えた。 「じゃあ……」 「うん、ラン兄ィ……」 ランが後ろから腕を伸ばしはじめ、抱き締めてやろうとした時、椿が言った。 「ユゥ兄ィ返して?」 ランの腕がぴたりと止まった。
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146 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 05:35:26.41 ID:9Aik73B7 - ユージンが身体の中に入れば、椿も金色の『気』の鎧に守られ、寒くなくなる。
「そっか、それがいいな」ランは少し残念そうに言った。 「なんだと思ったの?」不思議そうに椿が振り返る。 問答無用にランは後ろから椿を抱き締めた。 「これでも寒くはないだろ?」 あっ、と驚いたような声をひとつ漏らしてから、椿は笑った。 「本当だ」 「でもこれじゃ泳げないから、後でユージン返す」 「……うん」 「その前に、少し話をしよう」 「うん!」 「楽しい話じゃなくて悪い。お前、学校行かないの、なんで?」 「あ……」椿は微かに逃げるような動作をした。
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147 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 05:48:32.27 ID:9Aik73B7 - ユージンがランの口を借りて喋った。
「椿、もしかしてぼくが出たら学校行きたくなっちゃってない? 学校行きたくないのは、実は勉強嫌いなぼくの……」 「ユゥ兄ィ、うざい」椿は遮った。「学校行きたくないのは、純粋にあたしの意思だから」 「なんで?」ランが聞いた。「いじめ?」 椿は首を横に振った。 「楽しくないの?」 椿はさっきよりは弱いが、また首を横に振った。 ランは椿を捕まえたまま、優しい声で言った。 「椿が答えたくなかったら答えなくていい。でもオレ、心配なんだ。理由を教えてくれ」 すると椿は、弱々しい声で間を置いて答えた。 「あたし、何も出来ないからだよ」 「そんなことは……」 「何も出来ないの」 「いや、椿……」 「何も出来ないの、ラン兄ィがいないと」
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148 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 06:12:15.81 ID:9Aik73B7 - 「え」ランは意外だったのか声を詰まらせた。「オレのせい?」
椿はゆっくり大きく頷いた。 「ん。そっか」ランは優しく言った。「じゃ、オレが帰って来たからもう学校行けるな?」 「行かない」 「どうして?」 「……すぐまた日本に行っちゃうでしょ」 「当たり前だ!」ユージンが口を挟んだ。「ラン兄ィは日本でトップの格闘家になって、これから世界に挑戦……」 「うるさい」椿が低い声で言った。 「椿」ランが抱き締めている腕に力を込めた。「オレと一緒に日本、行こ」 「えっ」 「椿を連れて行きたい」 「中国人の転入生はいじめられるぞ!」ユージンがまた口を挟む。「日本語も喋れないし、不安がいっぱい!」 椿はユージンを無視してランに言葉を返そうとして、しかし黙っていた。 「こっちに好きな奴でもいるの?」とランが聞く。 「好きな……ひと?」 「うん」 「……いるよ」 「なんて奴?」 椿はランの腕を振りほどくと、後ろを向いたまま言った。 「ミーミー(秘密)!」 そしてそのまま崖のほうへ走り出し、飛び込みの姿勢に入った。 「バカ!」 ランは急いでその腕を掴んで引き止める。 『気』の鎧を着ずに春の冷たい海へ飛び込んでいたら、心臓が止まってもおかしくはなかった。
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149 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 06:32:17.57 ID:9Aik73B7 - 「あ……あたし……!」崖っぷちで振り返った椿は動転していた。「ユゥ兄ィが……もう、入ってると……勘違い……」
「まったく」ランは厳しい口調で叱った。「お前が死んだらオレも死ぬぞ!」 その言葉に椿は少し落ち着き、嬉しそうに微笑んだ。 「さ、口を開けて」 崖の上を温い春風が吹き抜けた。ランに言われるまま、椿が口を開く。 ランは椿の肩を両手で優しく掴むと、そこへ大きく開けた口を近づけて行く。 なんで唇、触れないかなぁ、とユージンは思う。 椿の小さな口から温かい吐息が入り込んで来るほとの距離なのに、唇どうしは決して触れ合わない。 自分がこのままここから出て行かなかったらどうなるんだろうなぁ。 単に何もなく、不思議そうに一旦離れちゃうんだろうなぁ、とユージンは思いながら、ランの胸から這い出すと、椿の口へ向けて飛び出した。 飛び出す時、ランがタイミングよく舌をカタパルトのように使ったので、勢いがつきすぎて、椿の喉に突き刺さるように入った。
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- ふみえさんはいつも突然4
611 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/11/23(土) 11:23:24.11 ID:9Aik73B7 - しかし和菓子屋の娘だからといって和菓子に精通しているとは限らないのだ。
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