- ロスト・スペラー 20
424 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/11(土) 18:23:09.34 ID:CYlFr8c1 - サティはバニェスの心境の変化を、それと無く察していた。
バニェスはサティに負けて後、3度目のエティー訪問では、エティーの慣習に合わせる柔軟さを、 見せていた。 バニェスは他の高位貴族とは違うのだ。 自分の領地を持ちたいと言う独立心も、より大きな力を得る方法を探ろうとするのも、凡そ、 このデーモテールの物とは思えない。 これまでバニェスはサティと共に旅をして、彼女に理解を示したり、諭そうとしたりした。 バニェスが自分を愛していると言うのも、嘘では無いのだろうとサティは思う。 「本当に、本当に私の子供が欲しい?」 サティの問い掛けに、バニェスは自信の無い声で答える。 「欲しい。 嫌だと言うなら、無理を言う積もりは無いが……」 「今の私が、こうして大事に抱えている様に、貴方も私との子を大事にしてくれる?」 「ああ。 愛する事が出来るかは分からないが、どの様な子が生まれるか見届けたい」 「そうじゃないの、バニェス。 貴方が愛を注げば、生まれて来る子は、その愛の形に沿った物になる。 それが、この世界なの」 「愛を注ぐ?」 「貴方は、どんな子が欲しいの?」 サティに問われたバニェスは、一所懸命に考えた。
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425 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/11(土) 18:24:32.39 ID:CYlFr8c1 - もし生まれるとしたら、どんな子が良いか等、バニェスは考えていなかった。
「分からない……。 但、従順な従僕を欲していた訳では無い事だけは確かだ……」 「そうなの?」 「私は純粋に、お前と私の性質を併せ持った子を望む。 力の大きさは問題にしない。 それが、どうやって生きるのか、どの様な生を選ぶのか、唯それを知りたい」 それを聞いたサティは、自分が目的を持って子を生もうとしている事が、悪い事の様に思えて来た。 望む儘の性質の子が生まれるからこそ、バニェスの態度の方が、真に子の為を思う親としては、 正しいのでは無いかと。 そもそもサティはデーモテールの混沌の海を渡れるだけの、能力を持った存在を生みたかった。 彼女は我が子を、エティーを他の世界と結ぶ、定期便にしたかった。 その為には、余計な心は持たない方が良く、使命に忠実であるべきだと思っていた。 「……バニェス、もし今抱いている子が無事に生まれたら……。 私は貴方に新しい命を託そうと思う。 私の分身となる命を」 「良いのか? 私は生まれて来た子を愛せるかも分からないのに?」 「屹度、大丈夫。 そう信じてる。 私と貴方の子だから」 サティの信じると言う台詞に、バニェスは弱かった。
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426 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/11(土) 18:24:58.26 ID:CYlFr8c1 - バニェスは小声で唸り、心変わりした理由を問う。
「何故、急に考えを変えたのだ?」 「貴方は私を愛していると言ってくれた」 「それだけの事で? 「どうしたの? 怖くなった? 取り消すなら良いよ。 少し残念だけど」 何の気無しにサティが言った事を、バニェスは挑発と受け取って意地を張った。 「何が怖い物か! 見縊ってくれるな! 約束だぞ、違えるなよ! お前は私に子を預けるのだ!!」 「ええ、私達の子をお願いね」 サティは優しく言ったが、本当はバニェスは不安だった。 自分が真面に子を生めるのか、失敗したらサティに失望されるのでは無いか……。 勢いでも何でも受けると言った以上は、止めたいとは言えない。 サティはバニェスに助言する。 「どんな子にするか、どんな子が良いのか、今から考えておいて。 中々決められないとか、不安な事があるなら、ウェイルさんとかバーティに聞くと良いよ。 私も良い子が生まれる様に協力する」 正直な所、バニェスには彼女の助言が有り難かった。 しかし、高位貴族の自尊心が邪魔をして、素直に礼を言えない。 「心配は無用だ。 この大伯爵の子なのだから、立派な子になるに決まっていよう!」 バニェスは強がって見栄を張る。 それをサティは微笑ましく思うのだった。
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