- ロスト・スペラー 20
421 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/10(金) 18:39:10.65 ID:0FnPa1Gn - 故にバニェスは首を横に振る。
「愛するか愛さないか、その位は自分で決めたい」 それに対し、サティは途端に冷たい声になって言う。 「では、貴方に子は預けられない」 彼女に断られても、バニェスは余り落胆しなかった。 どちらかと言うと、子を愛すると言う義務を押し付けられるよりは良いと、安心していた。 所詮その程度の物だったのだと、バニェスは自分を納得させる。 元より、この世界で己より大切な物がある訳が無いのだと。 「仕方が無い。 所でサティよ、その子は何時生まれるのだ?」 「私が十分に魔力を注ぎ終えたら」 「それは何時頃になるのかと聞いている」 「……もう20日程」 「長いな。 その間、私は退屈だ」 バニェスは今になって、バーティの言っていた事が少しだけ解った。 「……サティ、どうやら私は、お前を愛しているらしい」 「そうなの? どう愛しているの?」 サティの問にバニェスは答え倦ねる。
|
- ロスト・スペラー 20
422 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/10(金) 18:39:35.22 ID:0FnPa1Gn - 彼女を愛していると言うのは、決して嘘や冗談では無い。
だが、どう愛していると聞かれても、それは中々答え難い。 「……お前が居ないと、私は退屈だ」 「それが愛?」 「私は愛を尋ねて回った。 そうして得た情報を総合すると、やはり私は、お前の事を愛しているのだと思う」 「どの位?」 「どの位だと……!?」 サティの問にバニェスは真剣に考え込んだ。 「そ、そうだな……。 私は、やはり我が身が可愛いと思う。 しかし、お前は……。 ウーム、我が身より可愛いかと言うと、それは判らん。 しかし、しかし、そこらの有象無象共よりは確実に……」 「そう……」 少し残念そうな声の彼女に、バニェスは慌てる。 「な、何なのだ!? 何が不満なのだ! 私が1番ならば、お前は2番だ。 ……多分、恐らくな? この大伯爵にとって、我が身に次いで大事だと言うのだぞ!」
|
- ロスト・スペラー 20
423 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/10(金) 18:40:30.96 ID:0FnPa1Gn - サティは箱舟の中で小さく笑った。
バニェスは立腹して言う。 「何が可笑しい!!」 「いえ、貴方から、そんな言葉が聞けるとは思っていなくて……」 「ああ、そうだろう。 貴様は私より下位の存在だからな。 高位の物の寵愛を受けるのは、望外であろう!」 堂々と威張るバニェスが、サティには微笑ましく映っていた。 「でも、1番じゃないんだね……」 「それは貴様とて、そうであろう! 貴様は己の命より、大事な物があるのか!?」 「ある」 「それは何だ!?」 「魂の故郷である、このエティー。 そして私が生まれ育ったファイセアルスも」 「その為なら死ねると言うのか?」 「今まで、そうだった筈だよ。 だから、貴方とも戦った」 「そ、そうなのか……」 サティの淡々とした物言いに、バニェスは己が卑小な存在に思えた。
|