- ロスト・スペラー 20
415 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/08(水) 18:37:14.06 ID:vOey7H8J - 彼女はバニェスの目鼻口の無い顔を見詰めて、こう言った。
「唯、子が欲しいだけならば、その辺の物とでも良かろう。 私が子を呉れてやっても良いぞ」 バニェスは少し考えて、丁重に断る。 「……否、貴方の子が欲しい訳では無い……」 バーティは得意になって笑う。 「ホホホ、サティでなくては駄目なのだろう? 解っておる、解っておるよ」 彼女の訳知り顔に驚きながらも、バニェスは何故自分はサティでなくては駄目だと思うのか、 その理由を考えてみた。 しかし、直ぐには答が出そうに無い。 「……解らない。 何故、私はサティが良いと思うのか? これが愛なのか?」 バーティは今度は打って変わって真剣に、バニェスに言う。 「そうだよ、それが愛だ。 詰まり、そなたはサティを価値のある存在として認めている」 「……それは否定しない。 奴と共にして来た旅は、それなりに楽しかった。 奴の言う『感情』とやらは、未だ理解し切れていないが……」
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416 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/08(水) 18:38:03.65 ID:vOey7H8J - バニェスの反応にバーティは感慨深気に頷く。
「初心だな。 良い、良い。 幼子を見守る心境であるよ」 「初心とは何だ? 私が幼子だと?」 「初心とは物事を知らぬ様だ。 初めて愛を知るのだから、それは当然の事。 何等、恥じる事は無い」 「別に恥じてはいないが……」 困惑するバニェスに、バーティは告げた。 「とにかく『一緒に居たい』と思う気持ちが大事だ。 一緒に居て、楽しいだとか、嬉しいだとか、喜ばしいだとか、そう言う気持ちになるか?」 「ウーム……。 少なくとも不快では無いかな……」 バーティはバニェスを凝(じっ)と観察している。 それに気付いたバニェスは、不快感を声に表して言った。 「何なのだ?」 「いや、そなたは本当にサティとの子が欲しいのかと思ってな……」 彼女の疑問が、バニェスは解らない。 「何故、そう思うのだ?」
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417 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/08(水) 18:39:11.78 ID:vOey7H8J - バーティは真面目にバニェスに尋ねた。
「どうして彼女との子が欲しいと思ったのか、その経緯を教えてくれ」 「経緯と言われてもな……。 サティが日の見塔の一室に篭もり切りだったので、どうしたのかと思って訪ねに行ったのだ。 そうしたら、子を抱いているから離れられないと言う。 私は子を知らなかったので、子とは何かと聞けば、配下の様な物だと。 だから、私とサティとの子を配下に持とうと考えたのだ」 「配下に持って、どうする気だったのだ?」 「否、深い意味は無い。 どんな子が生まれるのか興味があった」 バーティは何度も頷きながら、バニェスの内心を推し量る。 「詰まり、子自体に然して興味は無かったのだな。 それではサティが頷かないのも解るよ」 「どう言う事だ?」 「そなたは本気で子が欲しかった訳では無いと言う事だ。 頑是無いかな、丸で愛玩物を欲しがる様だよ。 本気で子が欲しいと思うならば、子をも愛さなければならぬ。 何と無くでは駄目だ。 猛烈に欲して堪らぬと言う位でなくてはな」 「……そこまで強くは思っておらぬ……」 「では、諦め給え」 バニェスは子に対して、そこまでの熱情を持っていない。 バーティは冷淡に打ち捨て、呆れた様に溜め息を吐く。
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