- ロスト・スペラー 20
409 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/06(月) 21:01:10.91 ID:P0miyObd - バニェスは意味深で思わせ振りな事を言うだけのフィッグに、苛立ち始めた。
「誰に?」 「さて、誰だったかな……? 遠い昔の事だ。 嘗ての私は過去を振り返る事をしなかった。 あの頃は気にも掛けず、笑い飛ばしていたが……。 今なら何と無く解る気がする」 「それで、結局何なのだ!? 貴様は何が言いたい!」 「私達は既に愛を知っている……と言う事だ。 バニェス、貴様にとって価値のある物は何だ? 失いたくない物、存在を認められる物。 私にとって、それはマクナク公だった。 ……否、違うな。 マクナク公は私にとって永遠の存在だった。 決して失われる事の無い、揺るぎ無き偉大な存在。 それに認められる事で、自分も又、永遠の一部になろうとしたのか……」 丸で話が解らないと、バニェスは切り捨てる。 「一体どうしたのだ? マクナク公に捨てられて、精神が壊れたのか?」 「ああ、私の精神は一度破壊された。 そして目覚めた、生まれ変わったと言うべきなのかも知れない。 私は愛せる物を探したいと思う。 今までは存在価値を認められる事ばかりに、心が向いていた。 今度は、自分が存在価値を認める物を見付ける」
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410 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/06(月) 21:02:11.22 ID:P0miyObd - フィッグはバニェスには解らない物が解っていた。
それがバニェスには気に入らないので、何とか理解しようとする。 「愛とは存在価値を認める事ならば……。 結局、貴様はマクナク公を愛していたのか、いなかったのか? どちらなのだ?」 「愛される為に愛していた……と言うべきだろうか? しかし、それは真実の愛では無い。 恐らく、嘗ての私はマクナク公を超える物が現れれば、そちらに靡いた事だろう。 それこそ下等な連中と同様に。 愛と言っても、その程度の物だったのだ」 「……今は違うのか?」 「どうかな……? マクナク公を敬愛する気持ちは変わらない。 だが、昔の様に絶対的な物を仰ぐ気持ちでは無い」 「新たな『絶対的な物』を探しているのか? 今度こそ揺るがぬ物を」 「そうかも知れんし、そうでは無いかも知れん。 一つ言える事は、能力の強弱は本質では無いと思っている」 「貴様の言う事は解らん……。 丸で掴み所の無い、幻の様だ」 「……私は未だ真に愛すべき物を見付けていない。 それは愛を知らないのと、同じ事なのかも知れん……」 「何だ、真面目に聞いて損したぞ。 結局、貴様にも解らんのだな」 時間の無駄だったなと、バニェスは全身の羽毛を寝かせて落胆した。 フィッグは申し訳無さそうに言う。 「気を持たせる様な事を言って悪かったな」
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411 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/05/06(月) 21:03:00.26 ID:P0miyObd - 余りにフィッグが素直だったので、バニェスは気味悪がった。
「謝るな、気色悪い。 何時も貴様は強気だったではないか……」 「能力を失ってしまえば、私の実態とは、この程度の物だと言う事だ」 「能力を取り戻せる様に、サティに進言してやろうか?」 「……否、恐らく能力を取り戻しても変わらない。 もし能力が戻っても……。 そうなったらエティーを離れて、私は旅に出るよ」 「どこへ行くんだ?」 「どこへでも無い。 愛を探しに行く」 愛とは何なのか、バニェスは恐ろしくなった。 フィッグは確実にバニェスより愛を知っていて、愛に近付きたいと思い、愛を求めている。 自分もフィッグの様になるのかと思うと、愛を知らない儘の方が、良いのではと思い始めた。 フィッグはバニェスに言う。 「愛を見付けたら、貴様にも教えるよ。 これが私の愛だと、胸を張って言える物を」 バニェスは何も答えられなかった。 普通なら、楽しみにしているとか、或いは、見付かる訳が無いとか、皮肉を交えて揶揄う所だが、 そんな気にはなれなかった。 同じ世界に、同程度の能力を持って生まれた物が、ここまで変わってしまったのだ。 バニェスはフィッグの事を全くの無関係と切り捨てられない。 「……結局の所、貴様も愛を知らぬのならば、他に知っている物を探す事にしよう」 そう言ってバニェスはフィッグの元を去った。
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