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創る名無しに見る名無し
ロスト・スペラー 20

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ロスト・スペラー 20
266 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/03/20(水) 19:24:34.84 ID:sAVRLsEl
次の瞬間、ワーロックは周りが見えなくなり、暗い靄の中に閉じ込められる。

 「こ、これは!?」

バルマムスの魔法によって、空間を認識出来なくされたのだ。
只、バルマムスの姿だけが見えている。
見えないだけで、そこに空間はあるのかと思うのだが、壁や床の感覚も失われている。
これが物の存在を不確定にする、バルマムスの寓の魔法。
物事が明確でなくなり、曖昧になる。
そこに壁や床がある筈なのに、よく分からなくなる。
目の前に階段らしい物もあるのだが、上るのか下りるのかも判らない。
ワーロックはバルマムスを倒さなければ先に進む事は難しいと考えて、再び上を向いた。
しかし、バルマムスの姿は無い。

 「どこへ行った!?」

彼が慌てて左右を見ると、バルマムスは彼の背後で直立していた。

 「何を狼狽えている?
  どこにも行ってはおらんぞ」

 「お前がアストリブラか!」

 「今はバルマムスと呼んで貰おう」

バルマムスは目の前に居る筈だが、その声は四方八方から聞こえる。
ロスト・スペラー 20
267 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/03/20(水) 19:25:55.55 ID:sAVRLsEl
ワーロックは護身刀を構えて、バルマムスに向かって行こうとしたが、視界が揺れて足元が覚束無い。
護身刀に刻まれた魔法陣の効果か、護身刀だけは瞭(はっき)りと手に握る感触がある物の、
それ以外は全く駄目だ。
目を回した様に視界が回転している。
バルマムスは浮ら付く彼を嘲笑った。

 「ハハハ、どうした、どうした!?
  こっちだ、こっちだ!」

 (こんな時は、どうしたら……。
  レノックさん、力を借ります!)

ワーロックはコートのポケットを漁って、警笛を手に取る……が、警笛を持つ感触は浮わ浮わして、
本当に警笛なのか確信が持てない。
だが、ワーロックが警笛を入れたポケットには、他の物は何も入れていなかった筈なので、
これが警笛だとワーロックは信じた。
今の状況では、自分の記憶しか頼れないのだ。
そうして警笛を持った彼だが、次なる問題に襲われる。
警笛を正しく口に咥える事が出来ない……。
警笛は丸で、柔らかい球体の様で、目で確認しても毛玉か綿毛の塊の様。
何も彼もが浮わ浮わしている。
仕方が無いので、ワーロックは警笛を適当に口に挟んで吹いてみた。
音が鳴らなければ、警笛を転がして改めて吹く。

 「ギャハハハ、何をしている!!
  無駄、無駄!!」

バルマムスに笑われても気しない。
そんな調子で、やっと警笛を鳴らす事が出来る。
ロスト・スペラー 20
268 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/03/20(水) 19:27:16.51 ID:sAVRLsEl
耳を劈く様な高い音が鳴り響き、一瞬にして魔法は解け、ワーロックの視界が元に戻った。
暈やけて浮わ浮わしていた物は、全て元の輪郭と感触を取り戻す。
ワーロックはバルマムスを見た時と変わらず、階段の前で立ち尽くしていた。

 「ぐわーーーーっ!!!!」

蝙蝠のバルマムスは魔法の警笛の音に驚いて、情け無い声を上げ、無様にも真っ逆様に床に落ち、
背中を強打して悶える。
ワーロックはバルマムスが悪さを出来ない様に、直ぐに馬乗りになって、衝撃波の共通魔法を、
バルマムスの胸に叩き込んだ。

 「M1D7!!」

 「ギェッ!!」

強い衝撃が内臓を貫いて、バルマムスは気絶する。
その正体は、蝙蝠の怪物だった。
ワーロックは気絶したバルマムスを放置して、魔法の『蘭燈<ランタン>』を取り出すと、それを構えて、
真っ暗な地下へ続く階段を下りる。
階段を下り切って、地下室の扉を発見したワーロックは、警笛を咥えて扉を蹴破った。
そして同時に警笛を鳴らす。
消魂しい音が部屋中に鳴り響き、ディオンブラを手に待ち構えていたヴァールハイトは驚きの余り、
迎撃する事を忘れた。

 「もう逃げられないぞ!!
  この街の人々を自由にして貰う!!」

ワーロックは護身刀を右手に、蘭燈を左手に、ヴァールハイトに迫る。


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