- ロスト・スペラー 20
260 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/03/18(月) 19:08:20.68 ID:nZDF9voD - 侮辱されたと感じた彼はワーロックに血の魔法を掛ける事にした。
旧い魔法使いや悪魔にとって、格下に侮辱される事は耐え難い。 これが未だ多対一なら逃げる言い訳も立つが、無能1人に恐れを成したとあっては己の恥。 策略があるなら見抜かなければならないが、それが判らないと言うのも恥。 罠かも知れないと感じていても、やらなければならない。 そう言う風に運命付けられている。 それが旧い魔法使いの宿命にして宿痾なのだ。 「後悔するなよ!」 ヴァールハイトは自らの血液を魔力に反応させた。 (来る!) ワーロックは自分の体の中で血液が反応するのを感じる。 否、実際には感じていない。 それが判る程、彼の魔法資質は鋭敏では無い。 そう錯覚しているだけだ。 しかし、錯覚が実際の感覚と重なっていれば、そこには何の違いも無い。 そしてワーロックは自らの意識が、魔力によって改変されて行くのを感じる。 ヴァールハイトはワーロックに告げた。 「私は敵では無い。 お前は私を信頼している。 私に隠し事は出来ない。 何を企んでいるのか、洗い浚い吐いてくれ」 信頼を刷り込んでいるのだ。
|
- ロスト・スペラー 20
261 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/03/18(月) 19:09:29.06 ID:nZDF9voD - ワーロックはヴァールハイトの目を見詰めた儘、少しも動かなかった。
自らの内を巡る魔力が、意識を塗り替えて行く瞬間を静かに観察する。 それは自分を客観的に見る、第二の自分が居るかの様に。 彼の劣った魔法資質が、ヴァールハイトの魔力の流れを掌握する。 「私は敵では無い。 お前は私を信頼している。 私に隠し事は出来ない……」 ワーロックはヴァールハイトの言葉を繰り返した。 その言葉はヴァールハイトに返って行き、彼に同じ言葉を繰り返させる。 「私は敵では無い。 お前は私を信頼している……」 2人は互いの目を真剣に見詰め合って、どちらも逸らそうとしない。 傍目には、どちらが魔法に掛かっているか判らない。 先に動きを見せたのはワーロックだった。 彼は口の端に笑みを浮かべる。 ヴァールハイトは焦りを感じる。 「何故、効かない……? お前は何者だ? 魔導師会の者か、それとも旧い魔法使いか!?」 「どちらでも無い。 私は新しい魔法使い」 堂々と答えたワーロックに、彼は動揺して蒼褪める。
|
- ロスト・スペラー 20
262 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/03/18(月) 19:11:28.36 ID:nZDF9voD - 強大な悪魔が実力を隠して潜伏していたのかと、ヴァールハイトは考えた。
「新しい……? 歴史上、最も新しい魔法は共通魔法だ。 お前は悪魔なのか?」 「違う。 私は一般的な『新人類<シーヒャント>』……の中でも、劣った能力の者。 他の多くの新人類と同じく、肉の体を持ち、悪魔としての自覚は無い存在」 淡々と答えるワーロックが不気味で、ヴァールハイトは混乱する。 「それでも、お前が徒者で無い事は判る。 新しい魔法使いとは何なのだ? お前の様な存在が、未だ地上には居ると言うのか?」 「分からない。 もしかしたら、居るかも知れない。 唯一大陸に暮らす2億以上の人間の中に、私の様な存在が居ないとは限らない」 余りにワーロックが正直に答えるので、彼は自分の魔法が効いているのかと少し期待した。 「……私の魔法が効いているのか?」 「私の魔法は効いている」 その返答で絶対に効いていないと、ヴァールハイトは確信させられる。 だが、ワーロックの様子が奇怪しいのは事実だ。 ヴァールハイトは改めて質問した。 「お前は何を企んでいる?」
|