- ロスト・スペラー 20
108 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/01/27(日) 18:09:19.29 ID:ySJPY9IH - スルトの計画を聞かされたサタナルキクリティアは詰まらなそうな顔で言う。
「話は終わりか?」 自分の予知は外れないのだと彼は自分に言い聞かせて、心の平静を保った。 「ああ」 「何故、私に話した?」 「それが予知魔法使いの義務なのだ。 私が予知魔法使いであり続ける為には、予知の正しさを知る者が居なくてはならない。 事が終わった後で、全て計画通りだと言われも困ろう?」 「それは確かに。 しかし、私は思うのだ。 その話こそ私を欺く為の嘘では無いか? 真実だと言う保証が、どこにある?」 サタナルキクリティアの疑問に対するスルトの答えは、実に堂々とした物だった。 「どこにも無いが、信じて貰わねばならぬ。 私はマトラ様に指揮権を委ねられている」 だが、サタナルキクリティアは人差し指を立て、嫌らしい笑みを浮かべる。 「投資詐欺の話を知っているか? 詐欺師が『大豆<ファナハバ>』の先物相場を利用して、金持ちに投資詐欺の話を持ち掛けた。 私は市場の裏情報を知っている。 1000万MG預けてくれれば、1週間後に倍にして返すと。 騙された人物は警察に、詐欺師の予想が5日連続で的中したので信じてしまったと語った。 警察が調べた所、同じ様な被害者が他に10人は居た。 詐欺師は一体どうやって予言を的中させたのだろうか?」 ※:大豆に相当する作物。 ダード、ダド豆、ファナ豆とも言う。 豆には他に、ハバ豆、バガ豆、野豆、黒豆、鞘豆等がある。 豆を表す一般名詞は「ハバ」。
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109 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/01/27(日) 18:10:43.04 ID:ySJPY9IH - スルトは眉を顰めて答える。
「先物相場は上がるか下がるかだ。 どちらか判らなくても、2人に声を掛けて、1人には上がる、もう1人には下がると言えば、 どちらかは当たる。 確実に2日連続で当てたいなら、同じ調子で4人に声を掛ければ、1人が残る。 10人相手に5日連続で当て続けるには、320人が必要だ」 「逆に言えば、320人に声を掛ければ、10人は確実に騙せるな」 「私も同じ事をしようとしていると言いたいのか?」 それは余りにも予知魔法使いを馬鹿にしていると、彼は憤った。 サタナルキクリティアは声を抑えて笑う。 「くっくっく、悪かったよ。 冗談だ、冗談。 お前の指示に逆らおうと言う気は初めから無い。 少し揶揄ってみただけだ。 予知魔法使いなのだから、その位は解っていた筈だな?」 「予知は言う程、万能でも完璧でも無い。 ……今の所は」 「頼り無いな。 そんな事では困るぞ。 お前の指揮に従うと言う事は、お前に命を預けているのだからな」 「ああ、解っている。 私に任せておけば、何も間違いは無い」 スルトは自信を持って言ったが、サタナルキクリティアが彼を見る目は酷く冷めていた。
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110 :創る名無しに見る名無し[sage]:2019/01/27(日) 18:11:58.70 ID:ySJPY9IH - 魔導師会は順調に準備を進めて、明朝を決戦の時と決めていた。
既に準備は整っており、反逆同盟からの不意の襲撃にも対応出来る様にしている。 魔導師達は夜も寝ずの番を立て、心構えは戦闘状態だった。 事が起こったのは、真夜中の北の時。 その頃、レノックも親衛隊と共に寝ずの番をしていた。 親衛隊員は予てより気になる事があって尋ねる。 「レノック殿、お休みになっては如何ですか?」 「いや、平気だよ」 「……何時、お休みになっています?」 「何時も休んでいるけど? 今だって休んでいる様な物じゃないか」 今一つ噛み合わない回答をするレノックに、親衛隊員は一拍置いて強い口調で言った。 「私が聞いているのは、『眠らなくて大丈夫ですか?』と言う事です。 ここ数日、私はレノック殿が眠っている所を見ていません」 「ははは、何を今更。 僕は一度だって、君達に眠っている姿を見せた事は無いぞ」 「えっ」 レノックの言う通り、これまでも親衛隊員は彼が眠っている所を見た事が無かった。 しかし、宿に泊まったりしていれば、その間は休んでいる物と思うのが普通だ。
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