- TRPG系実験室 2
215 :山元 ◆Oz.F7tLMnc [sage]:2019/01/20(日) 22:43:17.87 ID:K546uJqo - 「とぉーーー☆☆」
自身の背丈とほぼ同じ長さの巨大な木剣。振り回しているのか。振り回されているのか。 とまれかくまれ、魔法少女テスカ☆トリポカはその小柄で剣を遮二無二叩きつける。 ロックバインは鈍重な動きで斬撃を躱し、岩肌に覆われた腕をぶつけて軌道を逸らす。 僅かにでも刀身の黒曜石が食い込み、剥離すれば、それはそのまま小型爆弾を設置されたも同義だ。 頭部に入った爆破の一撃は思いの外ダメージとなったらしく、ロックバインは防戦一方だった。 「へいへいピッチャービビってるぅー?甘えた逃げ方してるとフルスイングしちゃうよっ☆」 後退するロックバイン。追いすがるテスカ☆トリポカ。 カウンターでも受けようものなら一撃で肉片必至の偉丈夫相手に、テスカは半ばノーガードで肉薄する。 吸引したハーブによって暴力行為への忌避感や恐怖がぶっ飛んでいるのだ。 しかし敵もさる者、テスカの大振りな攻撃はなかなかロックバインを捉えられない。 さらに彼は着弾した箇所の岩肌を即座に自らパージすることで、爆破の威力を殺す術を身に着けていた。 相方のファイアスターターと違ってまったく喋らない男だが、戦士としての感性は彼女に劣らない。 「ちょっと!動くと当たらないでしょ!動くと当たらないでしょ!?」 『This was a triumph.I'm making a note here:HUGE SUCCESS.』 『テスカちゃん、気をつけるッピ!あいつ何かやろうとしてるッピ! ――と、ケツァルは言っている。ロックバインの念動出力ならば、反撃は容易なはずだ。 かくも防御一辺倒なのは、異能のリソースを別の作業に割り当てているからなのかもしれない』 「べつのさぎょうって!なに!?」 『それは分からないよ、レディ。第一種特異能力は魔力を使用しない。我々の感覚器で追跡は不可能だ』 メトロポリスで公式に認定されている一般的な異能には大別してふたつの種類がある。 ひとつは第一種特異能力。サイコキネシスやテレパスといったシンプルな、いわゆる超能力に分類される異能。 そして、伝統や儀礼要素の強い、『魔法』や『呪術』などを代表とする第二種特異能力。 ふたつの違いはその発動様式もさることながら、なにをパワーソースとするかによって決定付けられる。 環境に偏在する超常因子、すなわち魔力を利用する魔法とは違い、念動力は術者自身の持つカロリーを消費する。 そのため、異能がどこにどれだけの出力で働いているのか、外部から観測することが困難なのだ。 生れ出づるのは鬼か蛇か。伏せられたカードの裏面は、既に決定されている。 「テスカ知能が低いから先のことはわかんないけど、大体理解したよ☆ 何かしようとしてるなら、何かされる前に殺せばだいじょーぶ!」
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216 :山元 ◆Oz.F7tLMnc [sage]:2019/01/20(日) 22:43:40.74 ID:K546uJqo - テスカ単独であれば、防御に徹するロックバインを削り切ることは不可能だろう。
しかしこの場に居るヒーローは一人ではない。 ロックバインの集中力がテスカに向けられる中、影を渡るように静かに動く者がいる。 リジェネレイターだ。彼はロックバインの背後から組み付き、その首を締め上げていく。 >「もう戦うのは止せ。君の目的は分からないが、これ以上の戦闘で命の保証はしかねる」 「いいよリジェネレイター、そのままそのまま!顔は可哀想だからボディにするね!」 羽交い締めにされたロックバインの胴めがけて、テスカはマクアフティルを思い切りフルスイングした。 これだけ大きな隙が出来れば、仮にパージで爆破を防がれても、装甲の修復前に二発目を叩き込める。 鋭利な刃で肉を断ち、肋骨をこじ開けて脈打つ心臓を抜き取ればテスカの勝利だ。 太陽神への供物もゲットできて一石二鳥である。 >「…………!」 しかしテスカの刃が装甲を穿つ前に、リジェネレイターはロックバインの元から飛び退いた。 必殺の一撃をスウェーで避けられて、マクアフティルは虚しく空を斬る。 「あ、あれっ?どしたのリジェネレイター」 見れば、ロックバインの背中から槍のように突き出した岩の棘。 リジェネレイターは事前に反撃の気配を察知して、殺傷圏から脱出していたのだ。 『第一種異能の予兆を読んだのか。リジェネレイターでなければあれで死んでいた。 やはりロックバイン、単なる運び屋のヴィランというわけではないらしい』 「えぁっと☆……つまりどゆこと?」 『彼の実力は我々の想定よりも遥かに高い。 何か仕掛けてくるとすれば、それは致命の一撃になるということだよ、レディ』 「ちめいの……いちげき?」 『It's hard to overstate my satisfaction.』 『次はガチでヤバいのが来るってことだッピ!――と、ケツァルは言っている』 ロックバインが地割れを生成し、飛び退いたリジェネレイターが亀裂へ落下していく。 その視線は悲運に見舞われた己の着地点ではなく――空を見上げていた。 同様にテスカも横合いに視線を移す。 そして見た。大量の土砂が、高波の如く鎌首をもたげるその姿を!
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217 :山元 ◆Oz.F7tLMnc [sage]:2019/01/20(日) 22:44:03.50 ID:K546uJqo - 「ガチでヤバいのが来たぁーーー!?」
『この攻撃範囲、ファイアスターターも巻き込まれるぞ。彼らは仲間ではないのか?』 「どーでもいいよそんなの☆あの岩雪崩どうにかしないとっ!」 テスカ自身が退避するという意味では難しい話ではない。 彼女には射程2kmを誇る移動魔法『レイラインステップ』がある。 適当な高台や、それこそ内地の安全地帯まで一気に飛ぶことも可能だ。 他のヒーローはどうだろうか。 足場を自在に作り出せるザ・ヒューズは案外自分でどうにかするかもしれない。 女の戦いでボコボコにされていたが元気そうなので放っておいても大丈夫だろう。 彼女と共にファイアスターターの対処に当たっているもうひとりのヒーロー、 元殺人ロボットという異例の経歴を持つ『14』は、現着用のドローンを乗り捨てている。 本体の機動力は未知数だが、ドローンを呼び戻して離脱するだけの時間的猶予はあるまい。 なんか怖いおばさんに目をつけられてるっぽいし。 何より、リジェネレイター。 彼は今、ロックバインの生み出した地割れに挟まっている。 これはもう間違いなく間に合わない。捨て置けば確実に、雪崩に飲まれて代が一つ替わるだろう。 そして、テスカ自身の個人的な都合として、橋を壊させるわけにはいかなかった。 橋の先、アウターストリートにはセーラ・山元の通う学校がある。 通学に使っているこの橋が損壊すれば、学校へ行くためにものすごい遠回りをしなければならない。 始業に間に合わせるには、一時間早起きしないといけないのだ。 それは……困る。すこぶる困る!!!! 「ケッちゃん!コアちゃん!あの雪崩、止めるよ!」 『具体的な手段を問おう』 「レイラインアクセスで、片っ端から全部飲み込む☆」 『無理だよレディ、君の力のキャパシティを超えている。あの雪崩が全部で何千何万トンあると思うね? あれを全て地脈に落とすとなれば、地獄の大釜よりも巨大な直径で門を開かねばなるまい』 「無理っていうのはねコアちゃん、嘘つきの言葉なんだよ! 昔の人は言いました。為せば成る、わりと結構なんとかなる。限界を超えるために魔法があるんだ☆」 『我々の力をどう使おうと君の自由だが……相応の対価はもらうよレディ。 要求は生きた人間から抜き取った心臓だ』 「用意出来なかったときは?」 『豚の肩ロースとかでも良い』 「おいしいもんね、肩ロース」
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218 :山元 ◆Oz.F7tLMnc [sage]:2019/01/20(日) 22:44:23.96 ID:K546uJqo - かくして交渉は成立し、魔法少女は宙を舞う。
迫りくる土砂の波濤へ立ち向かうその姿は、紛うことなきヒーロー! 彼女はマクアフティルに魔力を込め、自身の立つ橋に思い切り突き立てた。 「地脈に通じる門よ、そのあぎとを開け!『レイラインアクセス』!」 瞬間、橋を構成するアスファルトを巨大な亀裂が縦断した。 怪物の顎のごとく開いたその向こうは、地脈へ通じる亜空間。 ロックバインの操る泥雪崩がこちらの道路に叩きつけられる瞬間、 吸い寄せられるように地脈の門へと飲み込まれていく。 「うぐぐぐぐぐぐぐ……☆」 大規模な魔法の行使に、テスカ自身にも凄まじい負荷が発生した。 第二種特異能力は環境に満ちる魔力を使用するため、理論上はガス欠になることはない。 しかし魔力に方向性を与え、使役するには一度術者の肉体を通して魔力を取り込む必要がある。 過電流を流した電子回路が時に焼け付きを起こすように、テスカの肉体もまた高圧の魔力に晒されていた。 紫電が衣装を焦がし、フリル代わりの鷲の羽根が何本も抜け飛んでいく。 そして、限界に挑んだ大規模魔法行使は、雪崩の終息という形で終わりを迎える。 飲み込み来れなかった土砂が橋をたわませるが、足場の崩壊だけはなんとか免れた。 地脈の門を閉じ、魔法を終了させたテスカは、疲労困憊といった様子で膝をついた。 素顔を覆い隠す石仮面が、半分近く煙と化して消えている。変身の維持が困難になっているのだ。 「あっ……危ない危ない☆」 テスカが石仮面を一撫ですると、霧散していた魔力が再収束して元の形に戻る。 この辺りには協会の観測用ドローンも飛んでいる。正体を露呈するわけにはいかない。 「リジェネレイター、生きてるぅー?ロボットちゃんもー」 味方の生存確認をしながら、テスカはポケットからパイプを取り出した。 魔力を消費しすぎたせいでトランスが切れかけている。 ケツァルとコアトルの声も今はもう聞こえない。 再び薬草を燃した煙を吸わなければ、まともに魔法を行使することはできないだろう。 「………………!」 パイプの吸口に唇を着けた瞬間、地面から隆起した棘がテスカを襲った。 身を隠していたロックバインによる奇襲だ。 間一髪回避が間に合い、彼女は串刺しの憂き目こそ免れたが、しかし。 「やばっ、パイプが――!」 テスカ☆トリポカの魔法の源となる鷲を模したパイプが手から弾き飛ばされ、瓦礫の中を転がっていく。 急ぎ拾わんと駆けるテスカを、再び姿を現したロックバインが阻んだ。 「……ぴ、ピーンチ☆」 今のテスカは、魔法少女ではなくただの一般魔法使いだ。 ヴィランを相手にして一般人が生き残れるほど、このメトロポリスは甘くはない。
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219 :山元 ◆Oz.F7tLMnc [sage]:2019/01/20(日) 22:44:38.05 ID:K546uJqo - 【レイラインアクセスで泥雪崩を飲み込み、橋とヒーロー達を保護。
使い果たした魔力の補充に必要なパイプは遠く離れた場所に落下】
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