- ロスト・スペラー 19
35 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/07/13(金) 19:35:05.79 ID:kQfXW7/J - 給仕が引き下がったのを見て、レノックは更に言った。
「偽らざる本心を伝えれば、分かってくれるさ。 君の息子なんだから」 数極の間を置いて、ワーロックは俯き加減で頷いた。 「そうですね……。 どの道、これは避け得ない事なのかも知れません」 リベラやコバルトゥスがラントロックを説得したとして、それが即ワーロックとの和解と、 結び付く訳では無い。 ワーロックとラントロックは改めて一対一で話し合い、父子の蟠りを解消しなければならない。 一度はリベラとコバルトゥスにラントロックの連れ戻しを頼んだワーロックだったが、実の所、 人に仲立ちをして貰って仲直りをする事が、本当に「正しい」のか、彼は悩んでいた。 逆に、ラントロックからは「自分から仲直りする気が無い、情け無い男」だと思われはしないか? 「立派な父親でありたい」と言う欲目が、ワーロックの心を迷わせていた。 直前まで、リベラとコバルトゥスを呼ぼうと思っていたワーロックだったが、レノックの余計な一言で、 彼は心変わりを起こした。 「私が行きます。 これも父親の務め」 仮令拒絶されようとも、自らが行かなければならないと、ワーロックは責任感で自分を追い込んだ。 「良い結果になる事を願っているよ」 レノックは満足気に頷き、無責任にワーロックを煽る。 彼も結果の成否を知っている訳では無いし、こうした方が和解が上手く行き易いと言う、 可能性や確率の計算をしている訳でも無い。 唯ワーロックの心を読み取って、彼に後悔の無い様にさせているだけだ。
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36 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/07/13(金) 19:39:04.74 ID:kQfXW7/J - それからワーロックは単独でソーダ山脈を越えて、キーン半島の魔女の森へと向かった。
リベラとコバルトゥスにも連絡はしたが、2人は遅れて到着する事になる。 道中、ワーロックの心は晴れなかった。 拒絶される事への恐れが、度々彼に悪夢を見させた。 悪い結果の予見は、彼の自信を徐々に奪って行き、魔女の森へ着く頃には、失敗しても良いから、 思いの限りを伝えようとだけ覚悟していた。 ワーロックが魔女の森に入ると、狼犬達が彼を出迎える。 ワーロックと狼犬達は顔見知りなので、然程警戒されずに通り抜けられる。 ウィローの住家を見た彼は、愈々息子と再会するのだと思い、緊張して来た。 第一声は何を言ったら良いのか、何度も頭の中で繰り返して来た事に、不安を持ち始める。 本当に誤解無く伝えられるのか、今となっては単なる成否よりも、中途半端に終わる事の方が、 何倍も恐ろしい。 正しく自分の考えを伝えて、それでも拒絶されたら仕方が無かったと諦める事も出来るが、 誤解で話を打ち切られると遣り切れない。 何度も呼吸を整えて、ワーロックはウィローの住家に近付く。 その時、元から暗かった森が一層暗くなって、闇に覆われた。 「ム、貴様は確か……」 ワーロックの後からウィローの住家に近付く3つの人影。 1体は悪魔伯爵のフェレトリ・カトー・プラーカ。 「何だ、普通の人間じゃないか」 もう1体は獣人テリア。 最後の1体は昆虫人スフィカ。 ワーロックはロッドを構えて、臨戦態勢に入る。
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37 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/07/13(金) 19:43:18.86 ID:kQfXW7/J - フェレトリは彼を正面に捉えた儘、テリアを横目で見遣り、忠告する。
「奴を侮るな。 雑魚と見せ掛けて、得体の知れぬ男だ」 魔城での戦いから、フェレトリはワーロックを強く警戒していた。 「そこまで警戒する程かぁ?」 テリアの方は彼と面識こそある物の、その時の記憶は頭から抜けている。 直接戦った訳では無いので、印象が薄いのだ。 昼行性のスフィカは暗闇では動きが鈍るので、大人しく様子を見ている。 この3体が何の目的で現れたのか知らないが、知人と息子を危険な目には遭わせられないと、 ワーロックは自ら仕掛けた。 (先手必勝!) ロッドで空を薙ぎ払えば、その軌道に沿って、見えない刃が伸びる。 「ミラクル・カッターッ!!!!」 必殺の掛け声と同時、一瞬の内に、3体は両断された。 フェレトリが死なない事は判っていたが、他の2体と同時に相手する余裕は無かったので、 一撃で仕留めなければならなかった。 真面な生き物であれば、即死した筈である。 真っ二つにされて崩れ落ちたテリアとスフィカを、フェレトリは見下して嘲笑する。 「フン、愚か者共め……! 侮るなと忠告してやったばかりであろうに」 彼女の肉体は血液で構成されているので、幾ら傷付けても効果は無い。 多くの悪魔と同じく、その本質は精霊体にある。 「他人の事を言ってる場合じゃないぞ!」 それでも一対一であれば勝てる可能性は高いと、ワーロックは勇んで告げた。
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