- ロスト・スペラー 18
423 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/21(月) 18:44:03.90 ID:kFBGvruk - それから何度も血の獣が襲って来たが、ウィローが悉く返り討ちにした。
次第にラントロックも慣れて、襲撃を一々恐れなくなった。 (この儘、無事に結界を張れるのか?) だが、順調な中でもラントロックは安心出来なかった。 フェレトリが手を拱いて見ているだけの訳が無いと思っているのだ。 その予感は現実になった。 「どうかな、偽りの月の片割れよ。 多少は消耗したか?」 フェレトリの挑発的な言動にも、ウィローは無反応だ。 言い返す余裕も無いのかと、ラントロックは彼女を心配した。 「猟犬共で禿(ち)び禿(ち)び削るのも飽きて来たな。 貴様も雑魚を追い散らしてばかりでは、面白く無かろう。 どれ、もう少し骨のある奴を用意してやろうか」 獣の気配が消えたかと思うと、今度は熊の様な一回り大きな獣が現れる。 それも1体や2体では無い。 「ウィローさん……」 ラントロックが不安気な声を出すと、ウィローは重々しく口を開いた。 「一寸、今度は厳しいかも。 ……御免ね」 何故謝るのかと、ラントロックは衝撃を受ける。
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424 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/21(月) 18:46:09.43 ID:kFBGvruk - やはり守られてばかりでは行けないと、彼は気を強く持ち直した。
(俺にも何か出来る事は……) 新たに生み出された血の巨獣は、巨体を揺らしてラントロック目掛けて突進する。 ウィローは光線で巨獣を迎撃するが、一瞬では仕留め切れない。 ラントロックは咄嗟の判断で、ウィローの背後に回った。 約5極の間、光線を浴びせ続けられて、漸く巨獣は消滅する。 しかし、倒した所で無意味なのだ。 血の獣は実体を持たないので、魔力の供給を受ければ復活する。 フェレトリの強大な能力を以ってすれば、完全復活も10極程度で十分。 対するウィローの消耗は激しいし、巨獣も1体だけではない。 凌ぎ切れなくなるのは目に見えている。 ラントロックは覚悟を決めて、ウィローに樹液の入った器を差し出した。 「ウィローさん、俺が化け物を何とかします」 「正気!? 奴に魅了は効かないよ」 「やってみなくちゃ分からないでしょう。 それに、今の俺は足手纏いにしかならない。 どう仕様も無くなったら、降参します。 元々奴の狙いは俺達なんですから」 ラントロックは最後には降伏すれば良いと甘く考えていたが、ウィローは違った。 高位の悪魔貴族は約束を守る律儀な所はあるが、決して感情的にならない訳では無い。 ラントロック等が降伏しても、腹の虫が治まらなければ、殺されてしまうかも知れない。 「でも……!」 「他に手は無いでしょう!」 彼の言う通り、ウィローに妙案は無い。
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425 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/21(月) 18:48:16.39 ID:kFBGvruk - 彼女は仕方無く樹液の入った器を受け取り、従った。
「解った、死なないで」 ウィローにとってラントロックは他人では無い。 知人の息子であり、その死を見たくはないと思うのは、当然の感情だ。 仮令、悪魔であっても。 「勿論」 力強く応えるラントロックに、ウィローは彼の父親であるワーロックの俤を見た。 (口先では否定しても、血は争えない。 魂は受け継がれるのね) 魔法資質が有ろうと、使う魔法が違おうと、心の形は似通ってしまうのだ。 ウィローから少し距離を取るラントロックの耳に、フェレトリの声が響く。 「どうした、トロウィヤウィッチ。 観念したのか? そなたの相手は後でしてやる。 大人しくしておれ」 フェレトリは脅威にならないラントロックを無視して、ウィローを集中して仕留めに掛かる。 「そうは行かない!」 ラントロックはウィローの明かりに近付こうとする巨獣に向かって行った。 巨獣は彼の事等、全く眼中に無い様で、明かりだけを真っ直ぐ睨んでいる。
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