- ロスト・スペラー 18
419 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/20(日) 18:14:02.50 ID:g9gELg2X - 懸命に思考する彼に、声を掛ける者があった。
「あら、あんたもモールの樹の下に避難しに来たのかい? 中々勘が良いんだねぇ」 それは魔女ウィロー。 発光している彼女を見て、ラントロックは驚く。 「うわ、眩しっ!? どうなってんですか、それは?」 ウィローがラントロックに近付くと、彼女の纏う光を厭う様に、血の霧が引いて行った。 「単なる光の魔法だよ」 旧い魔法使いと言う物は、基本的に自分の魔法以外の魔法は使いたがらない物である。 「使役魔法」使いであるウィローが、「光の魔法」を使っている事が、ラントロックには不思議だった。 「使役魔法使いって言ったのは?」 彼は「光を使役している」のかと予想したが、そうでは無い。 ウィローの使役魔法の本質は、光の明滅を用いた精神操作。 薄暗い森の中に住んでいるのも、魔法の効果をより高める為だ。 暗黒の中にある者を明かりで誘導してやれば、その通りに進む事しか出来なくなる。 しかし、彼女は素直にラントロックに事実を伝えようとしなかった。 「理屈さえ判っていれば、他の魔法も使えるのよ。 私は『儀術士<ウィッチ>』だから」 それは嘘では無い。 ウィローには魔法とは別に、儀式的な呪術の心得もある。 そう説明しつつ彼女は、木の幹に巻き付けられている、樹液の入った容器を手に取った。 「それ、どうするんです?」 「新たに結界を張って、奴を封じる。 手伝っとくれ」 ラントロックはウィローに差し出された容器を受け取る。 この状況で拒否する選択は無かった。
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420 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/20(日) 18:16:05.34 ID:g9gELg2X - ウィローはラントロックに指示する。
「その樹液を垂らしながら、私の後に付いて来なさい。 使い切らない様に、少しずつ、少しずつだよ。 だからって、途切れさせても行けない」 ラントロックは頷き、フェレトリを威嚇する様に周囲を照らしながら移動するウィローの後を歩く。 モールの樹液を地面に垂らしつつ。 当然、それを見逃すフェレトリでは無かった。 「小賢しい事を考えておるな?」 風の唸りにも似た、彼女の恐ろしい声が響く。 四方八方から反響して聞こえる声に、恐怖心を揺さ振られるラントロックを、ウィローは禁(いさ)めた。 「恐れるな。 私が側に居る限り、手出しはさせない」 ウィローの強気な言葉にも、ラントロックは安心は出来なかったが、怯えを隠す為に強がった。 「誰が恐れてるってんですか……」 それを聞いた彼女は小さく笑って一言。 「なら良いんだけどね」 血の霧は明かりを避ける様に、ウィローに道を譲る。 ラントロックは周囲に広がる赤黒い闇を警戒しながら、彼女の後に続く。
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421 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/20(日) 18:18:29.00 ID:g9gELg2X - ウィローはモールの木から、近くのモールの木まで歩く。
そこで樹液を補充して、又違うモールの木を目指す。 (思った通りだ、モールの木で結界を作ってあるんだ!) モールの木は屋敷を囲う様に配置してあるのだと、ラントロックは察した。 しかし、彼でも解る事が、フェレトリに解らない訳が無い。 「成る程、そう言う事をする訳か……。 残念ながら、見過ごしてはやれぬなぁ」 フェレトリは血を集めて数体の獣を造り、ウィロー等に差し向けた。 「行けぃ、我が下僕よ」 犬に似た獣の荒い息遣いと唸り声に、ラントロックは狼狽して身を竦める。 「だから、心配するなと」 ウィローが呆れた風に言った途端、獣が地を駆ける音がする。 ラントロックは音源を顧みた。 瞬間、赤黒い猟犬の様な怪物が、彼に躍り掛かる。 (噛まれる!) 身を守ろうとする彼だったが、その必要は無かった。 直径1手の光線が静かに走り、猟犬を貫いたのだ。 光を浴びた猟犬は、瞬く間に霧に紛れて消える。 「こんな化け物なら何体召喚しようが、見ての通りだよ。 あんたは黙って私に付いて来なさい」 ウィローは強気に言って、ラントロックを安心させる。
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