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アルダガ ◆XorFujhzk6
【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】

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【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
29 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:24:13.04 ID:YaaHtDQO
アルダガとの膠着状態に矛を収めたシェリーは、星都で自身に起こった異変について語り始めた。
パトロンである陸軍少将の命令でセント・エーテリアへと潜入した彼女は、そこで不死者とは異なる『敵』と出会う。
先制攻撃で致死の矢を命中させたにも関わらず健在だったその敵は、指環の所持を仄めかす言葉を口にした。

指環の勇者以外に存在する、正体不明の指環保有者。
陸軍でも捕捉し切れていない、完全に情報不足の現状を打破すべく、彼女は独自に調査を続けに姿を消した。
『クーデターが起きるかも』という、実にきな臭い言葉を残して――

>「仕方ありません。結局、今の私達に出来る事をするしかないって事ですね。
 つまり……ひとまず、女王パンドラの元へ向かいましょう。
 黒蝶騎士が遭遇した第三者については……」

星都の位置について仮説を重ねていたシャルムは、諦めたようにかぶりを振った。

>「もしこちらを追ってくるとしたら……その時は私に考えがあります。
 まずは、全竜の神殿を目指しましょう。やりやすい地形があるといいんですが……」

「あのぅ……その『考え』というのは、昨晩のキャンプ魔改造のようなことですか?
 拙僧あんまり古代の遺産を弄り回すの良くないんじゃないかと……
 不死者のせいで発掘しきれてない有用資源もあることですし、できるだけ傷つけずに陛下にお返ししないと」

シャルムは有能な魔術師だが、その性向は些か未来の方を向きすぎているきらいがある。
新しく便利なものを作ることにかけては随一の才覚を持つ反面、古代の遺産に対するリスペクトがさらさらない。
壊してしまったらまた新しく作り直せばそれで良いという、合理性の塊のような女である。

もちろんその姿勢が現代の帝国の隆盛を支えているのは確かだ。
遺産などなくとも、人間は己の力だけで未来を切り開けるという主張を否定する気もない・
ただ、古代の女神を奉ずるアルダガとしては甚だ複雑な心境だった。

そして――たどり着いたキャンプ・グローイングコール。
そこでシャルムのとった追撃者対策に、アルダガは自身の願いが聞き届けられなかったことを知る。

>「私達を追ってきているのなら、今頃は穏やかな陽気に包まれているでしょうね。
 追ってきてなければ……この先は、見晴らしのいい道を通れますよ」

「出来るだけ傷つけないようにって言ったじゃないですかぁーーっ!」

シャルムの放った魔導弾は密林に炎の轍を残し、みるみるうちに火災が広がっていく。
気付けばキャンプの周囲は炎上する木々に囲まれ、もうもうと立ち込める黒煙が人工の太陽を覆った。

「あああ古代の遺産が消し炭に!女神様になんと言い訳をすれば……!」

頭を抱えるアルダガの祈りが届いてか届かずか、燃え広がる炎の舌はやがて消えることとなる。
自然の鎮火ではない。ある一点へ向けて吸い込まれていく炎の先に、一人の男がいた。

指環を掲げるその姿は、一見すれば星都に迷い込んだ浮浪者。
しかし、アルダガは男の顔を知っている。その背に担った大剣を知っている。
違えるはずもない、彼はアルダガやシェリーと肩を並べ、共に帝国の為に戦ってきた存在。

――黒竜騎士アルバート・ローレンス。
港町カルディアで行方不明となり、アルダガが指環の勇者たちと邂逅するきっかけとなった男。
帝国諜報部が総力を挙げて捜索しても死体の痕跡さえ見つけられなかったアルバートが、密林の向こうから姿を現した。

「あ、アルバート殿……?なぜ貴方が星都に……」

アルダガが慄然と零した問いに、アルバートは答えない。
シャルムが魔導拳銃を突きつけ、ようやく言葉を発したかと思えば、その内容はアルダガの理解を越えていた。
【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
30 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:25:01.45 ID:YaaHtDQO
(アルバート殿が古代エーテリアル世界の人間で、女王パンドラによって我々の世界に送り込まれていた……?
 そして我々の世界そのものが、エーテリアル世界の一部を虚無の竜が捏ね回して作ったまがい物……
 信じられませんっ!信じられるわけが!女神様の教えを根底から否定することとなります……!)

アルダガの奉ずる女神は、『全てのヒトの母』とされる人類の始祖だ。
純人族はみな一人の女性を共通の祖先とし、子から注がれる信望と愛によって彼女は神となった。
女王蟻と働き蟻の関係がそうであるように、女神とヒトとの間には血縁という強固なつながりが存在している。
だからヒトは女神に奉仕するし、女神もまたヒトへ平等に愛を注ぐ……それが教皇庁が正式に公表している教義だ。

だが、アルバートの言葉が全て正しいのだとすれば。
アルダガたち現行世界の人類は、虚無の竜に呑まれたエーテリアル世界の属性がかつての姿を再現したもの。
女神が産み落としたわけではない。

       ・ ・ ・ 
(それじゃ、わたしたちが母と崇める女神は一体、何者――)

そこまで思考して、アルダガはメイスで自分の頭を打撃した。
銅鑼を鳴らしたような大音声が響き渡り、こめかみが破れて真っ赤な地が地面に滴った。

(……鵜呑みにしてはいけません。アルバート殿の語ったことが事実である証左はどこにもないのだから。
 拙僧は依然女神の子にして尖兵。捧げた愛に偽りはなく、故に拙僧の信心に揺らぎはありません)

そうだ。
今ここにアルバートが居る理由についてはまるで見当がつかないが、カルディアで津波に巻き込まれて頭を打ったのかもしれない。
黒騎士のアイデンティティであるブラックオリハルコンの鎧を失い、動揺が彼の心を支配していてもおかしくはない。
たとえば――そう。皇帝の信頼を失ったと感じた彼が、新たな拠り所として『女王』なる架空の存在を心の中に創り出し、
世界の成り立ちとかいう確かめようもないそれっぽい理屈を完成させている可能性だって十分にある。

そう考えると、なんだか腹が立ってきた。
黒騎士の至上命題とも言える護国の重責を放り出し、古代の密林で気楽な原始生活を送っていたアルバート。
彼が席を空けたせいで、他の黒騎士がどんなに苦労し、上層部がいかに混乱したことか。

>「何もかもを埋め尽くせ……『バリアル・メテオ』」

これ以上の会話は無用とばかりにアルバートが指環を掲げ、炎と大地の魔力が鳴動する。
空を覆わんばかりに出現した燃え盛る岩の礫が、流星の如くアルダガ達へと降り注いだ。
アルダガは懐から術符を四枚取り出し、自身と仲間達を囲うように四方へと投じる。

「凍える不幸、彼方の幸福。捧ぐは稀なる血、東より来たりし秘蹟の種。流転し、共鳴し、その双眸に天を座せ。
 女神の吐息よ、来たる礫を打ち払え――『エニエルイコン』」

術符同士を光の線が結び、奔った聖句が女神の祝福をその場に喚び起こす。
光の障壁がアルダガたちを覆い、礫から彼女を護った。

(そう、そうです、そうですとも!女神の加護はこうして確かに拙僧を護ってくれています。
 事実がどうであれ、いかなる過去があろうとも!いまこの場で拙僧の力となる信仰に相違はありません)

土埃を目眩ましとしたアルバートの奇襲をスレイブが迎撃し、剣士二人は切り結ぶ。
純粋な剣の技量ならば、両者の実力に大きな差はないとアルダガは感じた。
しかし、拮抗は長く続かない。
【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
31 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:25:27.47 ID:YaaHtDQO
>「剣術を……奪われただと……?」

スレイブの動きが途端に精彩を欠き、ついには剣を取り落としてしまう。
その不条理なる現象は、アルバートの意志によって引き起こされたものだった。

「虚無の指環……失われた属性を、そちらの世界に取り戻す力ですか……!」

だとすれば、アルダガがこのままアルバートと対峙し続けるのはまずい。
彼女の使う神術は、女神が子たちへ授けたもの――アルバートのいう『奪われし属性』に該当する。
一人で多数を相手にすることに特化したアルダガの術は、この状況で最もアルバートに与えてはならないもの。
帝国最強戦力を相手に、神術を使わず立ち回る必要があった。

>『飽和攻撃で一気に片を付けるぞ……奴にこれ以上、力を奪う機会を与えるな』
>『任せときな!』

長期戦は分が悪いと判断したジャンとスレイブが、共に最大火力の広範囲殲滅魔法を放つ。
全方位から襲い来る風の刃を受けきったアルバートの技量は恐るべきものだが、既に連携は完成していた。

>「派手にぶちかますぜ……『クラン・マラン』!」

ジャンが召喚した水の巨大質量は、まともに受ければ骨さえ残らず砕け散る高圧の瀑布。
風の刃に足止めされていたアルバートは退避することさえままならず滝の餌食となった。
おそるべき水圧は地面を地盤ごと抉り取り、地形を変えるほどの威力がたった一人の男へと収束。
大型の竜でも耐えられずバラバラになるであろう極大の水魔法だったが――

「うそでしょ……」

水属性を吸収しきり、枯れ池となった底に五体満足で立つアルバートの姿に、アルダガは動揺を隠せなかった。
膝を付くことさえしないアルバートは、それまでの浮浪者同然の襤褸切れ姿ではなく、甲冑を身に纏っている。
――ブラックオリハルコンの対極とでも言うかのような、純白の鎧。
それは、単純な防御力の向上とは別に、『黒騎士』というかつての自分への決別を示しているかのようだった。

>「あいつの吸収は魔法なら限界はねえってことか……接近するぞ、アクア!」

アルバートはどういう理屈かふわりと宙に浮かび上がる。おそらくは吸収した風の魔法だ。
魔法は効果なしと見たジャンがその身に生やした翼で飛翔し、アルバートと空中での格闘戦を演じる。
風と翼、竜爪と魔剣が交差し、剣戟の衝撃が大気を弾く圧力が地上にまで届く。

ジャンが咆哮――カルディアで受けたものよりも遥かに強力なウォークライがアルバートを襲う。
アルバートは涼しい顔でそれを魔剣に吸わせ、意趣返しとばかりにジャンへと咆哮を叩きつける。
ジャンの身を覆っていた竜の鱗と翼が風前の灯火の如く消し飛んだ。

>「その咆哮も俺たちのものだ!偉大な戦士が修練の果てに生み出した奥義……貴様らが使っていいものではないッ!」
>「お前が作ったもんでもねえだろッ!」

両雄は再び激突し、リーチで勝るアルバートが魔剣を薙ぎ払う。
オークの胴さえも一撃のもとに両断する致死の斬閃は、しかしジャンを捉えられない。
彼は指環の力で潜行し、アルバートの足元をくぐり抜けて背後へと回っていた。
岩よりも鋼よりも何よりも硬く硬く硬く握り締められたジャンの拳が、振り向くアルバートの頬を強かに殴りつけた。

(相討ち――!?)

うなりをつけて振るわれたジャンの豪腕は確かにアルバートを打撃した。
そして、ほぼ同時にアルバートの魔剣もまた弧を描き、ジャンの横腹を刳り斬っていた。
臓物が溢れていないことから傷は腹膜にまで達してはいないようだが、夥しい血がジャンの腹から滴り落ちる。
致命傷一歩手前の深手にも関わらず、ジャンは獰猛に口端を上げた。

>「へへっ……父ちゃんから習ったパンチは効いただろ?こいつは虚無でも吸い込めるもんじゃねえ」
【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
32 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:26:19.44 ID:YaaHtDQO
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【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
33 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:26:37.51 ID:YaaHtDQO
魔法はおろか剣術さえも奪い取る難攻不落のアルバートに対し、ジャンの見出した活路。
それは、旧世界から伝えられてこなかった、無軌道で新しい発想の技術を用いること。
長い時間をかけて洗練されてきた戦術ほど、アルバートはそこに旧世界とのつながりを見出して奪い取る。
ジャンがいまやって見せたように、ある意味合理性を欠いた思いつきの技ならば、アルバートに届かせることができる。

(しかし……拙僧に、それができるでしょうか)

思い出すのは、シャルムとのやり取り。
追跡者を迎撃する策として焦土戦術を選んだ彼女に、アルダガは否定的だった。
その行為は、古代の女神を信仰するアルダガの価値観と真っ向から反するものだからだ。

女神への信仰とは、すなわち祖先――古代の民への信仰に等しい。
世界開闢のときから変わることなく受け継がれ続けてきた女神の教えは、アルダガの精神の礎とも言えるもの。
アルバートに対峙するため、古い教えを脱却することは……女神への背信とならないだろうか。
アルダガだけでなく、大陸に生きる多くの民を支えてきた教えを、自分は否定してしまえるのか。

>「穿て、『バニシングエッジ』」

逡巡は身体を硬直させ、アルダガはその場を動くことができない。
ジャンに殴られ、怒気を放つアルバートが魔剣から全てを消滅させる極大の魔法を放つその瞬間さえも。
彼女は女神に背くことを恐れ、ただ迫り来る死を受け入れるほかなかった。

>「来るぞ! 鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」「――ストームソーサリー!」

ティターニアとジュリアンが二人がかりで結界を張り、叩きつけられる死の光条をしのぐ。
しかし光の瀑布の勢いが衰えることはなく、次第に障壁を押しのけはじめた。

「……え、『エニエルイコン』!」

はっと顔を上げたアルダガも弾かれるように防御の神術を再び行使するが、焼け石に水を垂らすように掻き消える。
ジュリアンの編み出した最高位防御呪文も、ブラッシュアップを重ねられてるとはいえ、属性を束ねた魔法に違いはない。
少しずつではあるが、アルバートの持つ指環が『鏡の世界』の術式を紐解き、奪いつつあるのがアルダガにもわかった。
遠からず、魔法障壁は意味を失い、虚無の閃光がアルダガたちを呑み込むだろう。

>「そんな……どうにかならないのか……!?」

ジリ貧の八方塞がりに、諦めが胸中に鎌首をもたげ始めたそのとき。
アルダガの知る誰でもない、新たな声が聞こえた。

>「――四星守護結界」

それぞれ異なる四つの声が響くと同時、四重の結界がアルダガ達を囲う。
一つ一つが戦略級の障壁呪文にも等しい四種の結界とバニシングエッジが激突し、相殺。
威力を吸収し切って砕け散る結界の破片の向こうに、四つの影が見えた。

「古代都市の守護聖獣……!?」

アルダガは直接対面したことがあるわけではないが、資料としてその存在を知っている。
他ならぬアルバートが元老院に送った報告書の中にも、イグニス山脈で出会った守護聖獣についての記述があった。
指環の勇者たちがこれまでの旅路で時に対峙し、時に共闘した聖獣達が、加勢に現れたのだ。

>「お前たちもこちらの世界の存在だろう? どうしてそいつらの味方をする?
 よもや情にほだされたのではないだろうな?」

>「ええ、エルピスの記憶操作が解け全てを思い出しました――確かに私たちはこちらの世界の存在。
 だけどそれが何だというのでしょう。今や幾星霜との時をウェントゥスと共に過ごしたあの街こそが故郷――」

援軍の存在にアルバートは眉を立てる。
その至極まっとうな問いに、風の守護聖獣ケツァクウァトルは悪びれもせず答える。
古代のしがらみなど無関係に、『今』彼女の過ごす街と人々を護ると――
【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
34 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:28:43.49 ID:YaaHtDQO
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【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
35 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:29:35.84 ID:YaaHtDQO
その言葉に、アルダガは電撃の奔るような感覚をおぼえた。
ずっと探していた答えにようやくたどり着いたような、快い熱が腹の底から湧き上がってくる。
アルバートの植え付けた女神への不信、教えを否定することへの罪悪、何より自分自身がどうすべきかという迷妄。
その全てに、納得のいく答えが一つ、見つかった。眼の前に横たわった闇霧を切り裂いて、光が差し込んだ。

「……シアンス殿、拙僧は古代から受け継がれてきた教えを遵守し、古代の法術を使ってこれまで戦い抜いてきました。
 だから、古代の遺産に頼らないあなたの信念に賛同はできません」

>『人間の進化と繁栄は、人間の手によってもたらされるべきです。古代文明の遺産に頼るなど、主席魔術師の名折れです』

晩餐会の場でシャルムが語った信条が、ずっと頭の中に引っ掛かっていた。
女神の教えを逸脱し、前人未到の道を己の足で進まんとする彼女を理解できず、常に困惑が頭にあった。
そして、星都で再会したアルバートという古代の代弁者――言うなれば、古代そのものとの戦い。
旧い教えを守り続けてきた彼女は迷い、ついに足を止めてしまった。
真に守るべきものが何か、わからなくなってしまったのだ。

「命よりも大切にしてきた教えを、拙僧は裏切れません。拙僧の存在自体を否定することになるからです。
 ですが……全てを古代に帰そうとするアルバート殿の考えにも、賛同するつもりはありません」

右手に握ったメイスを掲げ、その先にアルバートを捉える。
俯いていた顔を上げ、逸らしていた目を真っ直ぐ前へ向けて、彼女は自分のたどり着いた答えを放つ。

「拙僧は――わたし達は。教えを守るために生きているのではなく、生きるために教えを守っているのですから。
 我々が生きているのは古代ではなく"いま"です。わたしは、いまを守るために戦います」

>「……まあいい。全員まとめて叩きのめすまでだ。この虚無の指輪がある以上お前たちに勝ち目はない」

守護聖獣との問答に見切りをつけたアルバートは、レーヴァテインを構えて臨戦態勢をとる。

「確かに虚無の指環は強力です。属性を奪い取る力は、まさに指環の勇者の天敵とも言えるでしょう。
 ……しかしアルバート殿、貴方はいっときでも勇者たちと共に旅をして、まだ気付いていないのですか?」

再び全てを消し飛ばさんとするその姿に相対して、アルダガは不敵に笑って見せた。

「ティターニア・グリム・ドリームフォレストが、ジャン・ジャック・ジャクソンが。
 ――たかだか勝ち目がない"程度のこと"で諦めるはずがないと」

>「黒板摩擦地獄(ブラックボードキィキィ)――高音質(ハイレゾナンス)!」
【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
36 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:30:47.62 ID:YaaHtDQO
まったくの前振りなくおもむろにティターニアのはなった魔法がアルバートを直撃する。
鳥肌が立つような不快な不協和音を直接脳味噌に叩き込む凶悪無比な幻聴術だ。

>「どうだ、こんな魔法は旧世界にはなかっただろう!」
>「貴様――! そんなふざけた技があってたまるか……!」

古代人が考えつくはずもない――思いついても誰もやらなかったであろう嫌がらせ特化の魔法。
純粋培養の古代人であるアルバートにはてきめんに効果を表し、彼は不快に顔を歪めてもがき苦しんでいる。
敵ながらなんとも気の毒な状態であるが、アルダガは構わずアルバートの方へと踏み出した。

「エーテリアル世界だの虚無の竜だのは置いておいて、拙僧からも言いたいことがあります。
 古代の民ではなく、アルバート殿、貴方へ言っておきたいことです」

彼女はメイスを掲げる。高く高く振り上げたその柄は、凄まじい握力によって軋む音を立てた。

「――手紙の一つもよこさず、どこをほっつき歩いてたんですかぁぁぁぁっ!!」

怒声と共に音を割って打ち下ろされたメイスが、地面を衝撃だけで爆発させた。

「拙僧や黒騎士、陛下たちがどれほど心配したとっ……!国民たちが、どれほど不安になったとっ……!!
 古代の記憶が甦った?本当は女王に仕えていた?そんな言い訳より、まず言うべき言葉があるでしょう!!」

間一髪でメイスの直撃を回避したアルバートに、気炎を吐きながら追いすがるアルダガ。
棍術もへったくれもなく幼子のように振り回されるメイスの、一撃一撃が余波で周囲の草や木の葉を塵に変える。
頭の中で響き渡る騒音に苦しみながらもアルバートは大剣で反撃するが、純粋な質量差でメイスに押され気味だ。

「昔のことを思い出したら、それまで貴方が誓ってきた陛下への忠誠や、拙僧たちと共に帝国を守ってきた日々は、
 全部なかったことになるんですかっ!?そんなわけがないでしょう!そんなことは、拙僧が許しません!!
 あなたはアルバート・ローレンス、黒竜騎士です。古代の民である以前に、帝国に生きる民の一人です!!」

完全にお説教モードに入ったアルダガは、奇しくも彼女のパトロンである聖女の言動と瓜二つであった。
神殿に務める人はみんなこうなる。説教気質は空気感染するのだ。
【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
37 :アルダガ ◆XorFujhzk6 [sage]:2018/05/20(日) 02:31:04.60 ID:YaaHtDQO
【色々悩んだ末に吹っ切れる。それはそれとして黒騎士放り出したアルバートにマジ説教しつつ折檻】


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