- ロスト・スペラー 18
383 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/09(水) 19:28:39.99 ID:dVaEelHh - ラントロックは開き直って、事情を話した。
「俺達は、ある組織から逃げて来ました。 ……匿って下さい」 「この私が、お前達を匿わねばならぬ理由とは?」 黒衣の人物は嘲る様に言う。 彼女がウィローだとして、どうしてラントロック達を庇わなければならないのか? 今のラントロックには何も答えられない。 黒衣の人物は俄かに優しい声で囁く。 「何も答えられまい。 それは、お前の精神の卑劣(さも)しさが故だ。 父の縁を頼って来たのか?」 ラントロックの父ワーロックと、ウィローは知り合いだ。 父の知人であるウィローを頼りに来たと言えば話は済むのだが、父に反発して飛び出した自分が、 それを口にする訳には行かないと、ラントロックは意地を張っている。 しかし、他にウィローがラントロック達を庇うべき理由は思い浮かばない。 「……親父は関係ありません。 お礼はします」 そこで彼は取り引きを持ち掛けた。 黒衣の人物は又もラントロックを嘲笑する。 「フフッ、『礼』か……。 何をしてくれると言うのかな? 私が何かを期待している様に見えるのか?」
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384 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/09(水) 19:31:16.64 ID:dVaEelHh - 彼女の態度は、取り引きを受け付けない様だった。
ラントロックは困ったが、ここまで来て引き下がる訳にも行かず、勢いで申し出る。 「俺達に出来る事なら何でも……」 黒衣の人物は声を抑えて笑う。 「何でも? フフフ、『何でも』か……。 安易に、そんな事を言う物じゃないよ。 だけど、何でもしてくれると言うなら、して貰おうかな」 彼女は意味深に呟いて、ラントロック達を受け入れる。 「良かろう、上がれ」 ラントロックは振り返って、ヘルザ等を呼んだ。 「話は付いた! 皆、来てくれ!」 ラントロックは黒衣の人物に続いてウィローの住家に上がり、『玄関<エントランス>』で皆が来るのを待つ。 その後、ヘルザ、フテラ、ネーラの順に家に上がった。 狼犬達は庭に残って、銘々に寛ぎ始める。 物珍し気に家の中を見回すヘルザとフテラ。 ネーラは虚ろな瞳で浮いている。 黒衣の人物は無言で、ヘルザとフテラに近付いた。 そして、先ずヘルザに尋ねる。 「お前の名前は?」 「わ、私はヘルザ・ティンバーと言います!」 「何の魔法使い?」 「な、何の?」 「どんな魔法を使う?」
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385 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/05/09(水) 19:32:51.59 ID:dVaEelHh - ヘルザは未だ自分の魔法を見付けていない、未熟な魔法使いだ。
どんな魔法を使うかと訊ねられても、答える事が出来ない。 気圧されて口篭っている彼女を見兼ねて、ラントロックが代わりに説明する。 「彼女は未だ自分の魔法が判らないんだ。 唯、『共通魔法使いじゃない』って事しか」 黒衣の人物は帽子を少し押し上げて、ヘルザの瞳を見る。 ウィッチ・ハットの隙間から僅かに覗く目の周りの肌は、皺が深く、少なくとも若くはない事が判る。 「へぇ、そうなのかい……。 中々珍しい子だね」 次に彼女はフテラの腕を掴む。 「こっちは人間じゃないね」 「気安く触るなっ!」 フテラは反射的に手を振り払おうとしたが、どうした事か力が入らない。 「おっとっと、乱暴は無しだよ」 黒衣の人物がフテラの腕を握る手に力を込めると、フテラは脱力して座り込んでしまう。 「な、何をした……?」 彼女の疑問には答えず、黒衣の人物は腕を握る手に一層力を込めた。 いや、真実は逆だ。 黒衣の人物が力を込めているのではない。 フテラの力が抜けて行っている。 「痛い、止めろ!」 フテラの抗議を受けても、黒衣の人物の態度は変わらないが、ラントロックが横から口を挟む。 「止めて下さい」 そう言って、彼は黒衣の人物の腕を掴んだ。 ローブの上からの感触だが、それは枯れ枝の様な細く脆そうな腕だった。 少し力を込めれば、折れてしまいそうな……。
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