- ロスト・スペラー 17 [無断転載禁止]©2ch.net
354 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/01/07(日) 17:57:32.81 ID:OBQ3v2eI - あけましておめでとうございます
今年もよろしくおねがいします
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355 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/01/07(日) 18:33:33.69 ID:OBQ3v2eI - 魔導師会法務執行部ジャダマル地区支部にて
内部調査班は治安維持部内に潜入している班員を通じて、エイムラクに働き掛ける。 「エイムラクさん、一寸良いかい?」 「どしたんで? 掃除の小母ちゃん」 「あんたを見込んで頼みがあるんだよ」 「へぇ、とにかく言ってみな」 エイムラクは堂々とした態度で、清掃員に扮した班員に応えた。 彼は班員の正体を知らない。 唯、長年清掃員として勤めているだけの、普通の小母さんだと思い込んでいる。 班員は内緒の噂話をする小母さんの如く、声を潜めて話し始める。 「この間ね、怪しい人を見掛けたのよ。 ベールを被って顔を隠した……」 「そりゃ大体の女は、そうじゃねぇか? 小母ちゃんだって、そうじゃねぇか」 ここはグラマー地方だ。 素顔の露出を避ける為に、ベールを被る女性は珍しくない。 男性でも砂嵐を防ぐ為に、フード付きのコートを着込んで、マスクやゴーグルを付ける。 見様によっては、街中怪しい人物だらけだ。 「それが本当に怪しいのよぉ。 何て言うか、窃々(こそこそ)してて。 人目を避ける感じで、独りでホテルに入って行ったの」 「旅行者か何かだろう……」 エイムラクは班員の話に取り合わなかった。 彼女の判断には主観的な要素が多く、個人的な印象の域を出ない。
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356 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/01/07(日) 18:36:22.28 ID:OBQ3v2eI - 勿論、班員の態度は偽りの物だ。
余り詳細を語ると、正体を怪しまれる。 飽くまで彼女は徒の清掃員。 「それだけじゃないの! その人はファラド先生の事務所に出入りしてる秘書と、密会してたのよ」 エイムラクは漸く興味を示した。 「ファラド先生ってぇと、中央運営委員の?」 「そう、そうなのよ! 怪しいでしょう?」 「密会……ねぇ」 彼は暫し思案して、浮かんだ疑問を口にする。 「何で、そこまで知ってんだい、小母ちゃん?」 「偶々よ、偶々、本当に偶々見掛けたんだから! 怪しい人を見付けたら、後を追ってみたくなるじゃない? そしたら何と!」 「そいつは偶々とは言わねえよ。 追跡したんじゃねえか」 演技で興奮気味に語る班員に、エイムラクは呆れ顔をした後、急に表情を引き締めた。 「危ねえ事は止してくんなよ。 好奇心で斃(くたば)っちまったら、悔やんでも悔やみ切れねえぞ」 「大丈夫よぉ〜! 小母さんの事、心配してくれてるの?」 「そんなんじゃねえ、素人が出張ると碌な事にならねえってんだ」 班員が茶化すと、エイムラクは外方を向いて照れ隠し。
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357 :創る名無しに見る名無し[sage]:2018/01/07(日) 18:40:38.93 ID:OBQ3v2eI - 少しの間を置いて、彼は話を元に戻した。
「……怪しい奴がファラドの秘書と会ってるってぇんだな? それで俺に何をしろってんで?」 班員は怯んだ振りをして、気不味そうに言う。 「そ、そんな大した事じゃないんだよ。 もしかしたら何かあるかもって、勘だよ、勘。 エイムラクさん、治安維持部の執行者だろう? 職務質問でもして……、何にも無ければ、それで良いんだしさ」 「気軽に言ってくれるねぇ。 職質も巡回も、程度って物があんだよ」 都市警察にも、魔導師会法務執行部にも、その活動が市民生活の妨げになってはならないと言う、 同様の規定がある。 頻繁に職務質問や巡回を行えば、市民は何事かと不安になる。 そして、日常生活の些細な「違反」さえも咎められるのではないかと、圧力と脅威を感じる物だ。 しかし、班員は正論で応えたエイムラクを笑う。 「へ〜、エイムラクさんの口から、そんな殊勝な言葉が聞けるなんてね〜。 何時も強引な遣り口で課長に注意されてるのに、一向に態度を改めたりしないじゃないか」 エイムラクは眉を顰めた。 「俺だって、誰でも彼でも取っ捕まえてる訳じゃねえ。 この目で確り見極めてんだ。 そいつが怪しい奴か、どうかをな」 自らの目元を指して、彼は主張する。 彼は彼なりの正義で動いているのだ。 だが、班員は余り信用していない様子で、浅りと話を片付ける。 「はい、はい。 無理にとは言えないよ。 変な話をして悪かったね」 「あ、あぁ」 去り行く班員を呆然と見送り、エイムラクは溜め息を吐いた。 「ファラドか……」
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