- ロスト・スペラー 17 [無断転載禁止]©2ch.net
108 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/16(月) 19:51:40.89 ID:RD1Nz5w+ - 任務の性質上、ここで騒ぎを起こす訳には行かず、2人の親衛隊員は事の成り行きを見守った。
レクティータは馬車から降りて、人々と握手を始める。 こうやって身近な人物であると印象付け、親近感を持たせるのだ。 取り巻きの者達は、彼女の後方に控えており、襲撃を受ける心配は全くしていないかの様。 アドラートは群集に混じって、レクティータと接触出来る機会を待っていた。 ――レクティータの取り巻きの正体は、反逆同盟の者達である。 吸血鬼フェレトリ・カトー・プラーカと、予知魔法使いジャヴァニ・ダールミカ、狐獣人ヴェラの3体。 彼女等は魔力を遮断するローブを着て気配を消しているが、優れた魔法資質の持ち主が、 疑いの目を持って注意深く3人を観察すれば、魔力の流れが無い事を怪しいと感じるだろう。 八導師であるアドラートが、取り巻き達の不自然な装いに気付かない訳が無かった。 一方で、フェレトリとヴェラも、アドラートが徒者でない事を見抜いていた。 彼が纏う魔力の流れは、周りの人間と比較して、妙に整っている。 それは櫛で梳いた糸の様だ。 ヴェラはアドラートを警戒して、ジャヴァニに囁く。 「あいつ、変な感じ」 ジャヴァニが無言で頷くと、フェレトリも続いた。 「予知では何とある?」 彼女からは抑え切れない殺気が滲み出ている。 ジャヴァニは冷淡に答えた。 「安心して下さい。 何も起こりはしません」 だが、フェレトリは納得しない。 不満を露にした眼でジャヴァニを睨んでいる。 アドラートを脅威になるかも知れないと感じているのだ。
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109 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/16(月) 19:54:11.72 ID:RD1Nz5w+ - フェレトリは執拗にジャヴァニに同意を求めた。
「今ここで始末した方が良くはないか? どうにも嫌な予感がしてならぬ」 「私達は『協和会』の者として、この場に居ます。 迂闊な行動は取れません。 どうやって、これだけの人に気付かれず、始末すると言うのですか?」 「我が下僕を使う。 協和会を敵視する、不埒者の仕業と言う事にすれば良かろう」 「下手な工作は魔導師会に見破られてしまいます。 この『計画』が失敗したら、後が無くなると申し上げた筈」 反論するジャヴァニの口調が徐々に刺々しくなる。 それに応じて、フェレトリの口調も挑発的な物に変じた。 「後が無くなる等と大袈裟な。 この様な迫々(こせこせ)した計画が挫けた所で、何の問題があると言うのか?」 フェレトリはジャヴァニとは違い、この計画は遊びの様な物だと思っていた。 強大な力を持っているが故に、一々人心を掌握して撹乱を狙う真似が、迂遠に見えるのだ。 もし失敗しても、圧倒的な力で叩き潰せば良い。 マトラも同じ考えだろうと彼女は理解している。 小細工が必要になるのはジャヴァニが「弱者」だからと、フェレトリは軽蔑していた。 「マスターノートに逆らうな」 ジャヴァニは今まで他人に見せた事が無い、鬼気迫る表情と、低く重々しい声で、 フェレトリに忠告する。 何事かとフェレトリは目を見開き、硬直した。 「……その必死さに免じて、見過ごしてやろう」 彼女は気圧された事を覚られない様に、強がりの言葉を吐いて物見を決め込む。
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110 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/16(月) 19:58:08.31 ID:RD1Nz5w+ - アドラートがレクティータと握手をする瞬間が訪れる。
軽く手を握っただけで、直ぐに次の人に対応するべく、移動しようとしたレクティータの手を、 アドラートは強く握って止めた。 「ロード・レクティータ! 私を憶えていませんか?」 魔城事件で彼女とアドラートは対面している。 ここで「頷く」か、「惚ける」か、アドラートは見極めようとした。 レクティータはアドラートの目を真っ直ぐ見詰めた。 そして小首を傾げ、暫し思案する仕草を見せた後、真剣に言う。 「済みませんが、記憶にありません。 人違いでは?」 それと同時に、馬車に乗り込んでいた数名の黒服の男達が飛び出して来た。 危険を感じたアドラートはレクティータから手を離すが、視線は外さない。 黒服の男達は2人の間に割って入る。 「お爺さん、困りますよ」 彼等はアドラートを押し退けると、レクティータを庇う様に彼女の両脇を固めた。 群集との握手は続行される。 アドラートはレクティータを見詰め続けており、レクティータも視線が気になって仕方が無い様子。 黒服の男が体で視線を遮るも、彼女は握手が終わってからもアドラートを気に懸けていた。 馬車の中で黒服の男はレクティータに尋ねる。 「ロード・レクティータ。 あの老人とは知り合いですか?」 「いいえ、そんな筈は無いのですが……気に懸かります。 彼が嘘を言っている様には思えなかったので……」 「大方、どこかで偶々目が合ったのを誤解したのでしょう。 よくある事です。 お気になさらず」 彼は適当な事を言って、気にしない様に諭した。 「ええ……、そうですね」 レクティータは引っ掛かる物がありながら、助言通りに振り払う。
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