- ロスト・スペラー 17 [無断転載禁止]©2ch.net
94 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:29:08.51 ID:vjfG47A2 - ジラは再びマキリニテアトーに目を向けると、ローブのポケットに収めたメモ紙を取り出して、
彼に見せ付け、残る疑問を打付けた。 「ここにある『最終試験』とは何ですか? どうしてシャンリー班長は死ななければならなかったのですか?」 マキリニテアトーは表情を変えずに答える。 「文字通りの『最終試験』だ。 これより後は無い」 「だから、シャンリー班長は死んだと?」 信じられないと眉を顰めるジラに、彼は無言で頷くのみ。 ジラは激昂した。 「そんな馬鹿気た理由でっ!」 「魔法使いとは、そう言う物だ」 怒る彼女をマキリニテアトーは強い言葉で制する。 その勢いにジラは圧されて、思わず口を閉ざした。 マキリニテアトーは静かな、しかし、迫力に満ちた声で語る。 「予知魔法使いになるからには、予知を外してはならない。 外れる予知に意味は無いのだ。 それは最早、予知とは呼べない」 「だからって、死ななくても! 予知魔法使いに成れなかった位で!」 ジラは正論を吐く。 予知魔法使いに成れない事と、自殺する事には全く繋がりが無い。
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95 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:31:31.18 ID:vjfG47A2 - filler
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96 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:32:30.41 ID:vjfG47A2 - マキリニテアトーは彼女を小馬鹿にする様に、小さく笑った。
「予知魔法使いは本来長い時間を掛けて、『未来を見る目』を養う物だ。 気の遠くなる様な観察と考察の果てに、漸く僅かに未来を予感出来る様になる。 だが、リン・シャンリーが目指していた予知魔法使いは、そんな生易しい物ではない。 彼女は私を超越しようとしていた」 「超越!?」 驚愕するジラを睨み付けて、彼は続ける。 「予知魔法の究極は、未来を己が思う儘に導く。 そこで2人の予知魔法使いが搗ち合い、同時には適えられない相反する予言をしたら、 どうなると思う?」 ジラは数極思案して答えた。 「……どちらかは外れる……」 「そうだ。 何れかは敗れ、予知魔法使いの資格を失う。 予知の出来なくなった予知魔法使いは、死す他に無い」 「何故……?」 高が予知を外した位で、どうして死ななければならないのか、ジラには解らない。 「共通魔法使いには解らないか? 翼を失った鳥、脚を折った馬、牙を抜かれた虎の定めだ。 その命は魔法と共にあり、魔法失くして生きては行けない。 それが真の魔法使いなのだ」 マキリニテアトーの言葉を聞いても、彼女は納得出来なかったが、これ以上理由を問うても、 同じ事を言われるだけで無駄だろうと察した。
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97 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:35:01.88 ID:vjfG47A2 - 彼女は「魔法使い」とは、「そう言う物」だと仮定して、会話を続ける。
「シャンリー班長は『負けた』と言うんですか?」 マキリニテアトーは頷いた。 「そうだ」 「……誰に?」 「私に」 予想通りの答を返され、ジラは落ち込んだ気分になった。 シャンリーがマキリニテアトーを超越しようとしていたと聞いた時点で、そうだろうと思っていた。 シャンリーは全てを承知で、最終試験に臨んだのだ。 「貴方がシャンリー班長を殺した……」 「彼女は私を上回れなかった」 「貴方は何を予知したんですか?」 「私は『彼女は予知魔法使いに成れない』と予知した」 ジラは沈黙した。 マキリニテアトーの予知通り、シャンリーは予知魔法使いに成れずに死した。 シャンリーは予知魔法の有用性を認めていたが、それは命に代えても求める様な物だったのか、 そこまでの価値を彼女は見出していたのか、ジラには何も解らない。
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98 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:39:55.48 ID:vjfG47A2 - マキリニテアトーは弁解する様に、ジラに告げる。
「もし、彼女が見事に予知を成功させていたら、死んでいたのは私の方だった」 予知を外す予知魔法使いは、最早予知魔法使いではない。 それは彼も同じ事。 だが、本当に死ぬ積もりがあったのかと、ジラは疑った。 「その時は自殺でもする積もりだったんですか?」 シャンリーの様に。 「魔法を失い、存在価値が無くなれば、消えてしまう。 真の魔法使いとは、『魔法の使い』なのだ。 その命は魔法と共に在り、魔法失くして生きては行けない。 それが私達『旧い魔法使い<オールド・ウィザーズ>』」 同じ言葉を繰り返され、ジラは不快になって沈黙する。 彼女は未だ、「真の魔法使い」を知らない。 マキリニテアトーは両目を閉じ、溜め息を吐く。 「リン・シャンリーには期待していた。 私の魔法を継いで、この命を終わらせてくれる者だと。 ここは退屈で堪らない。 外れない予知も」 そして皆、口を閉ざしてしまう。 気不味い沈黙を破ったのは、クァイーダ。 「話は終わった? それなら帰りましょう」 彼女はジラに呼び掛けて、退出を促した。
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99 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:43:09.86 ID:vjfG47A2 - それに応じて徐に立ち上がったジラに、マキリニテアトーは言う。
「ジラ・アルベラ・レバルト。 予知魔法使いになる気は無いか?」 不意の問い掛けに、ジラは驚くと同時に激しい怒りを覚え、射殺す様な眼で彼を睨んだ。 シャンリーを死なせただけでは飽き足らず、新たな予知の犠牲者を求めているのかと。 しかし、マキリニテアトーは動揺しない。 「君は将来、組織内の重要な地位に就くだろう。 そして必ず、予知魔法を頼る。 それに応じるかは、私の機嫌次第だ。 どうだ、予知魔法使いにならないか? そうすれば――」 「行きましょう、クァイーダさん」 ジラは彼の話を聞き終えない内に、クァイーダと共に退出した。 だが、ジラの心には確りと先の言葉が刻まれた。 ――君は将来、組織内の重要な地位に就くだろう。 ――そして必ず、予知魔法を頼る。 マキリニテアトーの予知は外れない。 魔導師会にとっては、利用価値があるだろう。 シャンリーの様に彼の予知を有効活用すれば、重大な危機を未然に防げるかも知れない。 それでもジラは彼を頼りにはしないと決めた。 一時の感情で意地になるのは良くないと思いながらも、今は予知通りになって堪るかと言う、 反抗心の方が勝った。 後に心変わりするかも知れないが、今は感情の儘に振る舞いたかった。
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100 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:46:19.64 ID:vjfG47A2 - 沈黙して険しい顔をしているジラに、クァイーダは謝罪する。
「……御免なさい」 「何で謝るんです? 何を謝る事がありますか? 何か『私に』謝らなければならない事があるんですか?」 ジラは酷く不機嫌で、苛立った口調でクァイーダを責めた。 親衛隊の先輩後輩と言う間柄を弁えない、無礼な振る舞いと承知で、敢えて怒りを露にしていた。 クァイーダは静かに弁明する。 「シャンリーの事……。 私なら彼女を止められたかも知れない。 ……止めていたとしても、止められなかったかも知れないんだけど」 「でも、シャンリー班長が自分で決めた事なんでしょう? クァイーダさんはシャンリー班長とは、私より長い付き合いで、だから……」 全てを理解して、シャンリーの行動を止めなかったのではないのかと、ジラは言いたかった。 それならば、謝る必要は無い。 気分の悪い思いをさせたと言う事で謝っているなら、それは筋違いだと。 所が、クァイーダは意外な言葉を口にする。 「私は彼女の友人として、十分な役目を果たせなかったかも知れない。 シャンリーは外道魔法使いのマキリニテアトーに頼るより、自分が予知魔法使いになった方が、 確実だって言ってた。 彼の機嫌を伺って、気紛れに振り回される事も無くなるって。 私は当然、それを上に報告した……けど、回答は無かった……。 肯定も否定もされなかったと言う事は、『関知しない』と言う事。 私は私の判断で、彼女を止めなかった。 止めても良かったのに、そうしなかった」 今更そんな懺悔をされても困ると、ジラは首を横に振る。 「私に言われても……」 「御免なさい、どうしても告白せずには居られなかった」 クァイーダは俯いて黙り込む。 シャンリーが自殺した謎は解けたが、ジラの心には大きな痼が残る事となった。
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101 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/10/13(金) 19:50:02.78 ID:vjfG47A2 - 御存知
「存じる」は「知る」の謙譲語で、これに「御」を付けて尊敬語の意味で「御存じ」と言うのは、 現代国語的には間違いなのですが、歴史的には相当古くから使われている様です。 そこで尊敬語と謙譲語を区別する為に、尊敬語に限って「存知」を当てるのは、 個人的には良いと思います。 「存知」にも「知っている」、「理解している」の意味があり、然程違和感はありません。 「お披露目(お広め)」、「目出度い(愛で甚い)」、「数寄(好き)」、「出鱈目(出たら目)」、 「見栄」等と似た様な物だと思えば良いんじゃないでしょうか? 又、「知」の読みが「ぢ」になるのは、「下知(げぢ)」の例があります。 他、「下知(しもぢ)」、「文知(もんぢ)」等、固有名詞にも「知」を「ぢ」と読ませる例があります。 「知」の訓読みは「しる」、「しり」なので、「薄知(うすじ)り」、「生物知(なまものじ)り」、 「日知(ひじ)り」等、「し」に濁点が付いて「じ」になる例もあります。
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