- ロスト・スペラー 16 [無断転載禁止]©2ch.net
227 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/07/02(日) 20:18:27.51 ID:dN3un7yf - 一週後には、エグゼラの狐は片言で他人と会話出来るまでになっていた。
「トロイヤイッチ、ボス、ボス! テリア、ママ!」 「確かに、俺は『上司<ボス>』だけど……。 丁(ちゃん)と解ってるのかい?」 無邪気に燥(はしゃ)ぐエグゼラの狐だが、言葉の意味まで理解しているのかと、ラントロックは訝る。 テリアは真顔で頷いた。 「してるよ。 その証拠に『良い子』だろう?」 「ネーラさんやフテラさんに会わせても大丈夫?」 一瞬、テリアの表情が固まる。 その後に彼女は動揺を露に言い訳した。 「や、や、や、未だ時間が欲しいかなぁ……。 何をするか分からない所があるし……」 判り易いなとラントロックは呆れる。 テリアより立場が上で何かと目障りなネーラとフテラに就いて、陰口でも叩いていたのだろうと。 彼はエグゼラの狐に目を向けて、それと無く尋ねた。 「『ネーラ』は知ってる?」 「ネーラ、魚、臭い、臭い、水の中!」 エグゼラの狐は笑顔で答える。 「あっ、馬鹿っ!」 テリアは慌てて制するが、吐いた言葉は戻らない。
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228 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/07/02(日) 20:19:52.38 ID:dN3un7yf - ラントロックは続けて尋ねた。
「『フテラ』さんは?」 「フテラ、鳥、鳥、ピーピーうるさい、鳥頭!」 エグゼラの狐の返しは見事に悪口だらけで、ラントロックは苦笑い。 気不味くなって俯いたテリアに対し、彼は言う。 「……余り変な事を教えない様に」 「わ、分かってるよ……」 人前に出せる様になるには、もう少し時間が掛かりそうだと、ラントロックは思った。 服を着て2本の足で歩ける様になった時点で、約束は果たせているのだが……。 今の儘では口が災いの元になり兼ねない。 「もう1週間あれば、人前に出せる様になるかな?」 「あ、ああ! 任せて!」 テリアは気を取り直し、胸を張った。 そんなに心配する事は無いだろうと、この時のラントロックは楽観していた。
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229 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/07/02(日) 20:21:32.73 ID:dN3un7yf - 所が、ここからテリアに異変が表れ始める。
テリアはエグゼラの狐に付きっ切りになり、姿を現さなくなったのだ。 教育熱心だなと呑気に考えていたラントロックだったが、次第に心配になって来る。 そんな時、B3Fの現リーダーのフテラが、ラントロックに問い掛けた。 「テリアの奴は、最近姿を見ないけど……。 未だエグゼラの狐に構っているのか?」 「そうだと思う」 「……厄介な事になっていなければ良いが」 何時もなら傍観を決め込むフテラが、珍しくテリアの事を心配する。 それがラントロックの心に引っ掛かった。 「厄介な事って?」 「エグゼラの狐には奇妙な能力があった。 トロウィヤウィッチも見た筈だ」 「力が抜けるって言う、あの?」 テリアとエグゼラの狐は1回だけ戦っている。 その時にテリアはエグゼラの狐に力負けした。 単純な腕力で勝っているにも拘らず。 詰まりは、腕力の差を覆すだけの能力があると言う事。 テリアとエグゼラの狐の親密振りからして、今敵対する事は無いとラントロックは踏んでいた。 いや、そもそも敵対すると予想していなかった。 テリアがエグゼラの狐の教育を始めて、未だ2週間経っていない。 危機感を抱くべき状況なのか、テリアを信じて任せるか……。 「……一寸、見に行って来るよ」 ラントロックは一言断って、地下室に向かった。
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