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143 :創る名無しに見る名無し[]:2017/04/28(金) 23:03:48.63 ID:08ckoT1W - 鶴と亀
1/3 1羽の鶴と1匹の亀がいました。 2匹はある池のほとりで出会いました。 亀がいつものように日光浴をしていると、鶴はやってきました。 真っ白で煌びやかな羽をまとい、颯爽と地に降り立ちました。亀は釘付けでした。 あっという間に恋に落ちた亀は目を丸くして鶴を見続けました。 夢中になりすぎて首の引っ込め方を忘れてしまうほどでした。鶴は上品に池の水を飲んでいます。 亀は思い切って話しかけてみることにしました。 「ここの水、おいしいですよね。」 「ええ、そうですね。あなたは?」 「亀です。あなたは?」 「鶴です。」 2人は初めて会った気がしませんでした。好きな色、好きな食べ物、好きな音楽、好きな本何から何まで気が合います。 まさに運命の人だと2人は思いました。 それからというものの、2人はいつも一緒にいました。一緒にスワンボートに乗って愛のことばを囁き合ったり、街へ出掛けて買い物したりしました。 「この服本当に似合っているかい?なんだか首元がチクチクするや。」 「よく似合っているわよ。貴方は誰よりもタートルネックが似合うわ。」 それから2人は池の近くに家を建てました。 小さな一軒家でしたが、2人にとって大切な愛の巣でした。共に笑い、共に泣き、共に生きるすべての始まりでした。 「いってきます。」 「いってらっしゃい貴方。今日こそ遅刻しないで行けそうね。」 「ああ、余裕を持って行動しないとな。」 「じゃあ気をつけてね。途中でひっくり返らないようにね。」 「分かってるさ。いってきます。」 亀は亀の子タワシを作る工場で働いていました。 少ない給料ではありますが、鶴のために一生懸命働きました。一方鶴も内職を行い、家で旗を織っていました。こうして2人は貧しいながらも幸せな毎日を過ごしていきました。 「ねえ貴方、もし私が死んだらどうします?」 「きっと悲しむだろうな。君は千年、僕は万年生きるから残りの9000年を泣いて過ごすよ。」 「そのときは、他に新しい人探してくださいな。」 「そんな気になんかなれないよ。なあ、死んだときの話なんてやめよう。今の幸せだけ考えようじゃないか。」 「それもそうね。」
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144 :創る名無しに見る名無し[]:2017/04/28(金) 23:05:49.51 ID:08ckoT1W - 2/3
鶴が死ぬなんて、気が遠くなるほど先のことだと思っていました。 しかし、それはあまりにも早く訪れました。 「貴方……。私もうダメかも知れないわ。」 「どうしてだい鶴。しっかりするんだ。君はまだ先が長いはずだ。」 「もう、無理なのよ。生まれ変わったらまた貴方のところへ飛んでくるわ。」 鶴の目はうつろになっていました。 「まだ諦めちゃいけないよ。それに生まれ変わるなんて話、きっと嘘さ。ほら、昨日寝ないで折った千羽鶴だ。早く元気になってくれ。」 「ありがとう、そしてごめんなさい。」 「ごめんなさいとは、どういう意味なんだい?」 「私、実は鶴じゃなくて白鳥だったの。」 「何を馬鹿なことを言っているんだ。君はくちばしも黒いし、頭の先もなんか赤っぽいじゃないか。」 鶴は何も言わずに立ち上がり、お湯で濡らした手ぬぐいで顔を拭きはじめました。 「これは。どういうことなんだ鶴……。」 亀の目の前に立っているのは、黄色いくちばし、真っ白な羽、紛れもなく白鳥でした。 「ずっと黙っていてごめんなさい。昔から私は白鳥である自分にコンプレックスを抱き、少しでも美しく見せるために鶴のふりをしていたの。」 「そうだったのか鶴。しかし白鳥だって十分美しいじゃないか。君が君である以上、僕は愛し続けるさ。」 「でももう寿命なの。ずっと言うのが怖くて今日まで言えなかった。貴方を残してこの世を去ることを許してください。」
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145 :創る名無しに見る名無し[]:2017/04/28(金) 23:06:49.51 ID:08ckoT1W - 3/3
「すぐに君のところへ行くさ。待っててくれ。」 「すぐにって、貴方はあと9900年以上も生きなくちゃいけないのよ?」 「生きる希望を見失ったら、なんだか体が動かなくなってきた。」 「そんなわけないわ。貴方は私の分まで生きてください。」 「この際だから言うよ、鶴。僕はスッポンなんだ……。」 「……スッポン?嘘言わないでよ、貴方の甲羅には、れっきとした皺が入っているわ。」 「タトゥーを入れてもらったんだ。昔スッポンである自分が惨めで、馬鹿にされないようにって。」 「そんなまさか……。」 鶴は自分が死に際まで追い込まれていることを忘れるくらい、驚きました。 「少しでも強く見せるために、文字どおり嘘を背負って生きてきたんだ。今まで黙ってて悪かった。君に嫌われるのが怖くて言えなかったんだ。」 「そんなこと気にしないわ。貴方が貴方である以上、愛し続けるわ。」 「ありがとう。君に出会えて本当によかった。」 少しずつ亀の喋りが遅くなっていった。 「貴方、横になった方がいいわ。」 「ああ、そうするよ。少し寒くなってきた。」 「私もなんだか目が見えなくなってきたわ。」 「一つ聞いていいかい?君は白鳥でよかった?」 「もちろんよ。もし鶴だったら貴方のいない900年なんて耐えられなかったわ。貴方はスッポンでよかった?」 「もちろんさ。もし亀だったら君のいない9000年なんて悪夢だった。」 「貴方……。」 「なんだい?」 「愛しているわ。」 「僕も愛しているよ。」 そのとき、鶴がゆっくりと目を閉じて、二度と開けることはありませんでした。それを見届けるようにして亀も目を閉じて、それっきり固くなってしまいました。 しかしきっと鶴と亀、いや白鳥とスッポンは幸せな最期を遂げたのでしょう。
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