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創る名無しに見る名無し
星新一っぽいショートショートを作るスレ5 [転載禁止]©2ch.net

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星新一っぽいショートショートを作るスレ5 [転載禁止]©2ch.net
143 :創る名無しに見る名無し[]:2017/04/28(金) 23:03:48.63 ID:08ckoT1W
鶴と亀
1/3

1羽の鶴と1匹の亀がいました。
 2匹はある池のほとりで出会いました。
亀がいつものように日光浴をしていると、鶴はやってきました。
真っ白で煌びやかな羽をまとい、颯爽と地に降り立ちました。亀は釘付けでした。
あっという間に恋に落ちた亀は目を丸くして鶴を見続けました。
夢中になりすぎて首の引っ込め方を忘れてしまうほどでした。鶴は上品に池の水を飲んでいます。
亀は思い切って話しかけてみることにしました。
 「ここの水、おいしいですよね。」
 「ええ、そうですね。あなたは?」
 「亀です。あなたは?」
 「鶴です。」
 2人は初めて会った気がしませんでした。好きな色、好きな食べ物、好きな音楽、好きな本何から何まで気が合います。
まさに運命の人だと2人は思いました。
 それからというものの、2人はいつも一緒にいました。一緒にスワンボートに乗って愛のことばを囁き合ったり、街へ出掛けて買い物したりしました。
 「この服本当に似合っているかい?なんだか首元がチクチクするや。」
 「よく似合っているわよ。貴方は誰よりもタートルネックが似合うわ。」
 それから2人は池の近くに家を建てました。
小さな一軒家でしたが、2人にとって大切な愛の巣でした。共に笑い、共に泣き、共に生きるすべての始まりでした。
 「いってきます。」
 「いってらっしゃい貴方。今日こそ遅刻しないで行けそうね。」
 「ああ、余裕を持って行動しないとな。」
 「じゃあ気をつけてね。途中でひっくり返らないようにね。」
 「分かってるさ。いってきます。」
 亀は亀の子タワシを作る工場で働いていました。
少ない給料ではありますが、鶴のために一生懸命働きました。一方鶴も内職を行い、家で旗を織っていました。こうして2人は貧しいながらも幸せな毎日を過ごしていきました。
 「ねえ貴方、もし私が死んだらどうします?」
 「きっと悲しむだろうな。君は千年、僕は万年生きるから残りの9000年を泣いて過ごすよ。」
 「そのときは、他に新しい人探してくださいな。」
 「そんな気になんかなれないよ。なあ、死んだときの話なんてやめよう。今の幸せだけ考えようじゃないか。」
 「それもそうね。」
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144 :創る名無しに見る名無し[]:2017/04/28(金) 23:05:49.51 ID:08ckoT1W
2/3

 鶴が死ぬなんて、気が遠くなるほど先のことだと思っていました。
しかし、それはあまりにも早く訪れました。
 「貴方……。私もうダメかも知れないわ。」
 「どうしてだい鶴。しっかりするんだ。君はまだ先が長いはずだ。」
 「もう、無理なのよ。生まれ変わったらまた貴方のところへ飛んでくるわ。」
 鶴の目はうつろになっていました。
 「まだ諦めちゃいけないよ。それに生まれ変わるなんて話、きっと嘘さ。ほら、昨日寝ないで折った千羽鶴だ。早く元気になってくれ。」
 「ありがとう、そしてごめんなさい。」
 「ごめんなさいとは、どういう意味なんだい?」
 「私、実は鶴じゃなくて白鳥だったの。」
 「何を馬鹿なことを言っているんだ。君はくちばしも黒いし、頭の先もなんか赤っぽいじゃないか。」
 鶴は何も言わずに立ち上がり、お湯で濡らした手ぬぐいで顔を拭きはじめました。
 「これは。どういうことなんだ鶴……。」
 亀の目の前に立っているのは、黄色いくちばし、真っ白な羽、紛れもなく白鳥でした。
 「ずっと黙っていてごめんなさい。昔から私は白鳥である自分にコンプレックスを抱き、少しでも美しく見せるために鶴のふりをしていたの。」
 「そうだったのか鶴。しかし白鳥だって十分美しいじゃないか。君が君である以上、僕は愛し続けるさ。」
 「でももう寿命なの。ずっと言うのが怖くて今日まで言えなかった。貴方を残してこの世を去ることを許してください。」
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145 :創る名無しに見る名無し[]:2017/04/28(金) 23:06:49.51 ID:08ckoT1W
3/3

「すぐに君のところへ行くさ。待っててくれ。」
 「すぐにって、貴方はあと9900年以上も生きなくちゃいけないのよ?」
 「生きる希望を見失ったら、なんだか体が動かなくなってきた。」
 「そんなわけないわ。貴方は私の分まで生きてください。」
 「この際だから言うよ、鶴。僕はスッポンなんだ……。」
 「……スッポン?嘘言わないでよ、貴方の甲羅には、れっきとした皺が入っているわ。」
 「タトゥーを入れてもらったんだ。昔スッポンである自分が惨めで、馬鹿にされないようにって。」
 「そんなまさか……。」
 鶴は自分が死に際まで追い込まれていることを忘れるくらい、驚きました。
 「少しでも強く見せるために、文字どおり嘘を背負って生きてきたんだ。今まで黙ってて悪かった。君に嫌われるのが怖くて言えなかったんだ。」
 「そんなこと気にしないわ。貴方が貴方である以上、愛し続けるわ。」
 「ありがとう。君に出会えて本当によかった。」
 少しずつ亀の喋りが遅くなっていった。
 「貴方、横になった方がいいわ。」
 「ああ、そうするよ。少し寒くなってきた。」
 「私もなんだか目が見えなくなってきたわ。」
 「一つ聞いていいかい?君は白鳥でよかった?」
 「もちろんよ。もし鶴だったら貴方のいない900年なんて耐えられなかったわ。貴方はスッポンでよかった?」
 「もちろんさ。もし亀だったら君のいない9000年なんて悪夢だった。」
 「貴方……。」
 「なんだい?」
 「愛しているわ。」
 「僕も愛しているよ。」
 そのとき、鶴がゆっくりと目を閉じて、二度と開けることはありませんでした。それを見届けるようにして亀も目を閉じて、それっきり固くなってしまいました。
 しかしきっと鶴と亀、いや白鳥とスッポンは幸せな最期を遂げたのでしょう。


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