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多甫 祈 ◆MJjxToab/g
【伝奇】東京ブリーチャーズ・弐【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net

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【伝奇】東京ブリーチャーズ・弐【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net
37 :多甫 祈 ◆MJjxToab/g [sage]:2017/03/12(日) 19:33:02.22 ID:yHZW3NuF
 激昂の果てに膨れ上がる、祈の妖気。
雑居ビルの屋上に立つ『東京ドミネーターズ』に今にも飛びかからんとする祈を押し留めたのはこんな言葉だった。
>「うちの若い者が失礼な事を言ってすみません! こう見えて見た目通りのロリなんでどうか寛大な心でお許しを!
 その言葉はノエルの声で形作られていた。
 なんでこんな奴らに謝るんだと、非難めいた目線をノエルへと向けた祈だが、
>つきましてはお近づきの印にナイスなニックネームを考えてやったから有難く拝命しやがることだな!」
 ノエルの閉じられた片目に、送られた合図に、その意味を理解する。
コトリバコ討伐に向かう前、留守番宣告を食らった祈がしょげていた時も、ノエルはそんな合図を送っていた。
そしてその後は橘音に猛抗議してくれたのだった。だから分かる。これが“任せてくれ”という合図だと。
 祈は小さく頷くと共に、頭がほんの少しだけ冷えたことを自覚する。
(御幸。あんたは最高の友達だよ)
 止めないでくれてありがとうと、祈はそう思う。
>「まずはそこのロリババア! 全身真っ黒でテディベアってことは正体熊?
>まあいいや、そのアンニュイな前髪は鬼○郎ヘアー、……いや、あれは出てるのが右だから逆鬼○郎ヘアーで決まり!」
 ノエルはレディ・ベアを皮切りに、ドミネーターズの面々へと次々にニックネームを授けていく。
>「だっ、誰が熊ですかしらっ!?『レディ・ベア』!テディベアではありませんことよ、イントネーションは合っていますけれど!」
>「下等な雪妖ごときが……!脳の代わりに、頭に雪が詰まっているのかしら!?」
 レディ・ベアなどはそれがなかなかに堪えたようで、律儀に言い返してきた。
見たか。聞いたか。これが『東京ブリーチャーズ』が誇る世界最高峰のノエリストが放つ渾身の挑発だ。
ノエルの挑発を耳で聞きながら、祈は僅かに前傾姿勢になり、足指に体重を乗せ、その時を待った。
そしてノエルが両手を天に掲げ、巨大な氷のブーメランを造りだし、
>「どっちにしてもその巨乳は偽物……というわけで偽乳特選隊だぁああああああああ!」
 そう言って投げ放つのが合図だった。
 祈は放たれた矢の如く疾駆する。目の端に、尾弐や品岡の動きを捉えながら。
 ブーメランが描く軌道とは逆側に回り、自分から一番近い店舗をよじ登って、
雑居ビルの壁を三角飛びの要領で蹴り上がり、換気扇や水道管などを足場にして、飛ぶように移動する。
人からはまるでスーパーボールが跳ねているようにすら見える速度で、雑居ビルの壁面を駆けあがっていく。
 かくして、――二秒半。あるいは三秒に満たぬ時間で、祈は彼女等、東京ドミネーターズの背後へと回り込むことに成功した。
 氷のブーメランに釣られたであろうドミネーターズの視線。
それに隠され、本命にすら映るであろう尾弐によるバス停の投擲。
更に、そこまで見ていない祈は知る由もないが、品岡の銃弾による仕込みもある。
それぞれが炸裂すれば、恐らくは勝ち目の一つ、否。一矢報いるだけの隙が生じるであろう、祈はそう考える。
狙うはドミネーターズの指揮を執っているであろうレディ・ベアだ。
彼女と言う組織の頭を潰すことで、“東京侵略など到底不可能である”とそう思わせなければならない。
 猫科の動物が狩りをする時のように、あるいは短距離走の選手のように身を低くし、走り出そうと構えた祈は、それを目撃する。
ノエルが力を振り絞って放った氷のブーメランが、白き女の造りだした同質のブーメランによって儚く砕かれる様を。
尾弐の投擲したバス停が人狼に容易く受け止められ、品岡が仕込んだ圧縮された車の弾丸すらも、
赤マントの内側に、暗闇の彼方へと消えてしまった。
 そして自らは、レディ・ベアの瞳と目を合わせてしまう。
【伝奇】東京ブリーチャーズ・弐【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.net
38 :多甫 祈 ◆MJjxToab/g [sage]:2017/03/12(日) 19:41:55.87 ID:yHZW3NuF
>「怒りに任せて突進とは――無謀、無知、無策の極致ですわね!」
 ギザ歯を剥き出しにして笑み、黒いツインテールを揺らしながら、ゆるりと祈へと振り返るレディ・ベア。
その片瞳に浮かぶ黄の光を見た瞬間、天地が逆転したのかと思う程の強烈な眩暈を祈は覚えた。
――祈がどれほど足が速かろうとも、光の速度で放たれる攻撃を避けることはできない。
 祈が、自分が倒れている事に気付いたのは、雑居ビル屋上の床があまりに顔に近い場所にあり、
頬に鈍い痛みを覚えたからだった。
眩暈によって平衡感覚を失った体は、体重や力の配分がめちゃくちゃになり、横向けに倒れてしまったのである。
 ぐるぐると回る視界。体を波に揺さぶられるような錯覚。
恐らくは橘音と同様の、目から放つ幻術の類を掛けられたのだと祈は察するが、時既に、遅過ぎた。
 歩み寄ってくるレディ・ベアを視点も定まらぬまま祈は見上げるしかない。
「なに、しやがっ……」
 祈の言葉を遮るように、レディ・ベアが口を開く。
>「貴方、言いましたわね……人が死んだと。――それがどうかしまして?」
 レディ・ベアは本当に、『その程度のことがどうしたのか』とでも言いたげな口調で言う。
「それがどうかしたかって、お前っ……!」
 強烈な眩暈が頭を襲っているのに、レディ・ベアの声は良く通って聞こえた。
そういう術なのかもしれなかった。祈の逆鱗を逆撫でするその言葉は、次々紡がれていく。
>「言ったはずですわよ?わたくしたちは『宣戦布告に来た』と。それはつまり、戦争をしに来たということ」
>「戦争で人が死ぬのは、当然のことではなくて?」
「勝手な、こと、言うな……」
 これはドミネーターズを名乗る者達が勝手に始め、それを戦争と称しているに過ぎない。
そんなものに無関係な人々を巻き込んで、挙句死ぬのが当然などと言って良い道理など、どこにあるものか。
 祈は拳をきつく握り、足に力を込め、なんとか立ち上がろうとするが、
しかし天も地も分からず、世界が揺れるように感じられる今、
それは生まれたての仔馬が立ち上がろうとしているような覚束ないものにしかならず。
どうにか四つん這いのような恰好までは持っていったものの、
腕の力が再びがくりと力が抜けて、無様に転がることになる。
「くそっ……くそッ!」
 地面にただ、倒れ伏す。
祈にできるのは精々、レディ・ベアを恨めし気に睨むことだけだった。
 レディ・ベアはそんな祈を見て何を思っただろうか。祈を見下ろしたまま淡々と言葉を重ねていく。
その言葉の数々は、従属するならばこれ以上余計な犠牲者を出さないと言う、“悪魔の囁き”と。
今回はは見逃してやるという、“慈悲の皮を被った気まぐれ”と。
言外に、逆らうならばもっと犠牲者を出すぞと脅迫し、選択肢を潰しておきながらも、
敢えて従属か抵抗かを選ぶだけの猶予を与えると言う、“底意地の悪さ”と。
そして大部分は『妖怪大統領』への“陶酔”で構成されていた。
 レディ・ベアは両手を広げ、妖怪大統領への賛美の声を上げる。
>「では――ごきげんよう、東京ブリーチャーズの皆さん!」
 そうしてレディ・ベアは楽し気に全てを語り終えると、踵を返して、祈の前から去っていく。
きっとかの女は言葉を違えないだろう。
恐らくは彼女が崇拝する妖怪大統領が掲げる『支配』の為に、
戦争と称して、また多くの被害を出す。人から生活を、幸せを奪う。それは許されざることだ。
この妖怪は、危険だ。必ず倒さなくては。
 その後ろ姿を定まらぬ視線で追いながら、祈は言う。
「おまえっ、は……必ずあたしが……」
 赤マントに吸い込まれて、レディ・ベアの姿が掻き消える。
どうやらそのマントの内側は別のどこかへと繋がっているらしく、
残されたドミネーターズのメンバーも、赤マントの広げたマントを潜ると跡形もなくこの場から消えてしまった。
赤マント自身も、また。
それに伴って、祈を包む世界が回っているような、体を揺らされているような感覚が徐々に消えていく。
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39 :多甫 祈 ◆MJjxToab/g [sage]:2017/03/12(日) 19:49:22.62 ID:yHZW3NuF
 悔しさに歯噛みし、ようやく感覚がほぼ正常と言えるまでに戻った頃。
>「……立てますか?」
 気付けば、橘音が祈の傍らに立っていて、右手を差し伸べている。
他のブリーチャーズの面々も雑居ビルの屋上へと上がって来ていた。
「……うん。ありがと」
 いつまでもみっともなく倒れている姿を仲間達に晒す訳にもいかないので、
祈は橘音の右手を掴んで立ち上がる。
立ち眩みがしたように僅かにふらついたものの、今度はどうにか立ち上がることができた。
>「どうやら……お目溢しをしてもらえた、ということのようですね。ラッキーでした、アハハ……」
 ブリーチャーズを見渡しながら、橘音。
>「東京ドミネーターズ……また、厄介な相手が現れたものですね」
>「彼らへの対策や今後のボクらの方針については、また後日相談しましょう。とりあえずは、ミッション・コンプリートです」
 ミッションコンプリート。今日の任務は全て終了し、災厄は去った。
その言葉を聞いても、今日に限っては何ら嬉しさはなかった。項垂れたままの祈に、橘音は声を掛ける。
>「悔しいですか?祈ちゃん」
「……うん」
 祈は頷く。何もできなかった。止められなかった。
 誰の仇も討てず、ドミネーターズがこれから出すであろう被害を未然に防げなかった。
そして、仲間達は命を危険に晒しながら自分と一緒に戦ってくれた筈だというのに、
一矢報いることすらできず無様に転がっていた。申し訳なくて、情けなくて、悔しくて、堪らなかった。
>「それなら、その気持ちを決して忘れないように。大切に胸の中に抱いて、次の機会に――彼らにぶつけてあげなさい」
>「それが、コトリバコの呪詛によって亡くなった人々の。そして……コトリバコそのものの救いにもなるのですから」
 祈はこくりと、無言で小さく頷く。
>「……これ。あげます」
 そんな祈を見かねてか、橘音はマントの内側から枯れた木の枝の端を思わせる何かを取り出して祈に見せた。
祈が、それがなんであるかわからずにいると、橘音がその正体を語った。
>「ハッカイのコトリバコの中に入っていた、赤子の指です。リンフォンに吸い込まれる直前にくすねておきました」
「指……」
 軽く言ってのける橘音だが、だとすれば、恐るべき早業だった。
コトリバコの指を失敬するとなれば、ハッカイが付喪神として顕現し、寄木細工が開く僅かな間を狙うしかない。
その瞬間を見逃さず、祈の目にも留まらぬ速さで盗んで見せたというのだ。
しかもリンフォンの門の一番近くにいたはずの橘音は、地獄の烈風に誰よりも晒されていた筈である。
その中でくすねたと言うのだろうか。それともぎりぎりまで門の裏にでも隠れていたのだろうか。
だがそのどちらであれ、困難であったことに違いはなく、流石は狐面探偵、那須野橘音と言った所であろう。
 橘音は消しゴム程の大きさの小箱を取り出すと、コトリバコの指を中に納め、祈に差し出した。
>「これだけなら、キミの身体に害はありません。コトリバコを想うなら、持っているといいでしょう」
>「想いに境界や限界はありません。キミの優しい気持ちが――いつか、コトリバコに真の安らかな眠りを齎すことができるように」
 祈はそれを両手で受け取る。
今日は良く涙が出る日だな、なんてことを思いながら。
祈の両目からはボロボロと涙が零れた。
誰も救われない、誰も救えない戦いだった。
そのことに胸が潰れそうになっていたが、その言葉で少しだけ、救われた気がしたのだった。
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40 :多甫 祈 ◆MJjxToab/g [sage]:2017/03/12(日) 20:01:48.77 ID:yHZW3NuF
 その夜。仲間たちと別れてアパートへと帰った祈は、荷物を置いて先に風呂に入ることにした。
洗面所で、穴あきのボロボロになったパーカーを脱いで、散々迷った末に捨てることに決めた後、
ようやく妖力を込めて品岡から渡された、腕輪状の札を引き千切る。
 すると術を施された時と同じように下半身の感覚が消え失せて、それが戻る頃には、
ショートパンツの中に“あったもの”がちゃんとなくなっている感触があり、――深く、安堵する。
 シャワーを浴び、石鹸を含ませたスポンジで今日の汚れを落とす。
体の様々な所が痛んだが、暖かい湯を張った湯船に浸かると、それが少し和らぐ気がした。
 風呂から上がって、体をタオルで拭く。ラフな格好に着替え、髪をタオルで拭いながら廊下に出ると、
居間の扉から明かりが漏れていて、祖母が帰ってきていることに気付いた。
祈が風呂に入っている間に帰ってきたのだろう。居間の扉を開けると、祖母は夕食を作り始めているところだった。
 祖母は祈が風呂から上がったと見るや、今日の一件をどこで知ったのか、
鬼のような形相でなんて無茶をしたのかと祈を叱ったし、その頭を小突いた。
 しこたまターボババアに叱られ、暫くの後、祈は少し遅い夕飯にありついた。
肉が少なくジャガイモが多めの肉じゃがと、大麦の入ったご飯。
それにトマトやレタスなどが入った簡単なサラダが添えられていた。
 濃い味の筈なのにあまり味のしない夕飯を終え、歯を磨きいた後、
祈は自分の部屋へと戻った。畳の張られた小さな部屋だ。
その奥に畳まれた布団を敷いて、横になる。学習机の上には、小さな寄木細工が見えた。
 橘音は、想いに境界や限界はないと、そう言ってくれた。
 だとするなら。
 祈は起き上がり、コトリバコの指が収まった寄木細工を手に取った。
それを両手に持ち、胸元に抱き寄せると、両眼を閉じた。
「みんなが安らかに眠れますように」
 コトリバコ。地獄の責め苦に遭う赤子らが、そして彼らに殺された人々の魂が安らかに眠れるように。
ドミネーターズの被害に遭った人々の傷が早く癒えるように。ただ祈った。滅ぼされた八尺様の事も忘れずに。
 祈は寄木細工を枕元に置くと、部屋の電気を消し、布団を肩までかぶった。
今日は色んなことがありすぎて、心も体も疲れ果てている。
これから起こり得る戦いに備える為にも、寝て、体を休めなければならないのだった。
 不安は尽きない。いくら東京ドミネーターズを倒すなどと威勢の良いことを言った所で、
祈は妖怪の中では力のある方ではないし、事実、今日はそのドミネーターズに手も足も出なかった。
こんな自分が果たして、東京ドミネーターズの野望を阻めるのか。人々を守りきれるのだろうか。
無力感が胸を占め、強くなりたい、そう願う。
(こんな時、誰かに手を握って貰えたら心強いのかな)
 ふと、自分の傍にいない両親を思い描いた。顔もおぼろげな両親は、
記憶の中で祈に優しく微笑んでいる。
 次いで思い浮かぶのは、ブリーチャーズの面々の顔だった。
柔らかい笑みを浮かべたノエルや、ぶっきらぼうで頼もしい尾弐、色眼鏡を掛けたうさんくさい品岡。
そして狐面の探偵。その素顔を祈は知らないが、口元を見るに、優しげな顔をしている気がする。
そう言えばコトリバコに狙われてたけど、結局橘音は女の人なんだろうか。
それともやっぱり男の人なんだろうか。聞きそびれちゃったな。そんなことを考えながら祈は、
いつの間にか眠りに落ちている。


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