- ロスト・スペラー 15 [無断転載禁止]©2ch.net
149 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/01/11(水) 20:01:09.97 ID:JZc/LwOU - 老翁は声を抑えて小さく笑うと、遠い目をして答える。
「ある時、死期を悟った儂は、霊を残す事にした。 もし儂の子孫が生きておれば、溜め込んだ財宝と、秘伝の魔法を授けようと……」 「あの娘は違うのか? 本物でも偽者でも、どうでも良いと言うなら、尚の事、通さない理由が解らない」 「あれは儂の魔法を継いではくれんじゃろう」 「そっちが主眼な訳か」 「そう、魔法を継いでさえくれれば、偽者でも構わん。 逆に言うなら、仮令本物でも魔法を継いでくれんのでは……」 ヨハドは不思議と老翁と打ち解けていた。 彼は老翁の口振りから、何と無く事情を察して尋ねた。 「離婚の原因も『魔法』だったのか?」 「……あぁ、そうじゃよ。 やはり共通魔法使いと上手くやって行くのは難しかった」 「あの娘には本当に見込みが無いのか? 魔法の事を打ち明ければ、欲に目が眩んで、心変わりするかも知れないぞ」 「所詮は一時的な変心に過ぎん。 真の後継者に相応しいか否かは、儂が見極める」 老翁の話を聞いていると、少女には全く見込みが無い様に思われる。 だが、現実には老翁は少女を突き放そうとしない。 何故だろうと、ヨハドは引っ掛かりを覚えた。
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150 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/01/11(水) 20:03:32.31 ID:JZc/LwOU - 彼は少女や代論士が話したがらない事を、この老翁から知ろうと企む。
「あんた、あの娘とは、どこで知り合ったんだ?」 「あれの方から訪ねて来た。 恐らく、偶然洞窟を発見したんじゃろう」 「正か、『我が子孫』ってのは――」 「出任せじゃよ。 この洞窟に甚く興味を持った様じゃったんでな」 「……あんたを呼び出した、合言葉みたいなのも?」 「儂が教えた。 本当は合言葉なんぞ要らんのじゃが、素直な娘じゃな」 苦笑する老翁に、ヨハドは呆れた。 詰まり、少女は老翁に弄ばれているのだ。 彼は大きく溜め息を吐き、老翁に告げた。 「あの娘とて何時までも、あんたの遊びに付き合ってはくれないと思うぞ」 「解っておるよ。 しかし、あれが余りに寂しそうじゃったんでな」 洞窟で怪しい老人の誘いに乗る少女が、真面でない事はヨハドにも判る。 「悪徳」と言われる代論士を頼る所からも、家庭環境が良くないのか、当人に問題があるのか、 どちらかだろうと想像が付く。
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151 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/01/11(水) 20:05:30.74 ID:JZc/LwOU - 少女を憐れむ気持ちは解らないでも無いがと、眉を顰めるヨハドに、老翁は点(ぽつ)りと零した。
「生前の寂しかった儂の気持ちが、この様な愚行をさせておるのか……。 娘も……寂しい者同士、惹かれ合ったのかのう……」 やれやれとヨハドは再び溜め息を吐く。 「俺は『仕事』をしない方が良いか?」 その問いに老翁は答えなかった。 沈黙を肯定と見做した彼は、黙って静かに立ち去った。 少女は外道魔法を継ぎたいとは思わないだろう。 老翁の願いは叶わない――が、それこそが本当の願いなのかも知れない。 既に死した者に、寂しいも何も無いだろうが……。 自分は本職の祓い屋ではないのだから、擬似霊体の戯言に惑わされるのも悪い事ではない。 そんな気分になっていた。 洞窟から出たヨハドに、代論士が尋ねる。 「終わったのか?」 「……あれだな、俺の手には負えない奴だ」 ヨハドは恥を承知で嘘を吐いた。 この時は視線隠しが有り難かった。 夜でも視線隠しを外さない理由。 しかし、代論士はヨハドを疑う。 「本当か?」 「買い被るなよ。 だから言っただろう、『俺は葬儀屋じゃない』。 大人しく本職を頼っとけ」 ヨハドは淡々と吐き捨てた。 「あぁっ、言うなって!」 代論士は少女に、彼の事を本職だと紹介していたので、聞かれては不味いと俄かに焦る。
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152 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/01/11(水) 20:08:08.19 ID:JZc/LwOU - 少女も代論士も葬儀屋を頼りはしないだろう。
外道魔法が関わっているとなれば、魔導師会が動く。 序でに諸々の事が明るみに出て、他人の財産を横取りする計画は台無しだ。 「あんた、嘘を吐いてたな。 俺にも、あの娘にも。 前金は口止め料として受け取っておく」 ヨハドが冷徹に告げると、代論士は慌てて彼に追い縋った。 「お、おい、本当に、本当に駄目だったのか?」 「ああ」 「嫌に浅りと諦めるんだな……」 「無駄な事はしない主義だ」 「待て待て! あんたを紹介した俺の立場は、どうなる?」 「知らん。 見る目が無かったな」 「あんたの信用も落ちるぞ」 「言った筈だ、俺は『祓い屋』でも『何でも屋』でもない。 探偵に祓い屋の真似事をさせる方が、どうかしてる」 「もう仕事を回してやらんからな」 「そりゃ結構、願ったり叶ったりだ。 あんたの持って来る仕事は、どれも危なくて行けない」 脅し掛けても全く応えていないヨハドに、代論士は終に苛立ちを露にする。 「口の減らない奴め!」 「お互い様だろう、『悪徳屋<ヴァイル>』」 「あんたを信用した私が馬鹿だった!」 「心にも無い事を」 何年振りかの口論を懐かしみながら、ヨハドは去った。
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153 :創る名無しに見る名無し[sage]:2017/01/11(水) 20:09:20.51 ID:JZc/LwOU - その後、少女と老翁が、どうなったのか……。
ヨハドは何も知らない。 「悪徳」代論士は相変わらず、危ない仕事を持って来る。 「縁を切るんじゃなかったのか?」 「そんな事、言ったか?」 ヨハドに皮肉られても、代論士は涼しい顔で受け流す。 腐れ縁は中々切れないから腐れ縁なのだ。
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