- ロスト・スペラー 14 [無断転載禁止]©2ch.net
323 :創る名無しに見る名無し[sage]:2016/10/07(金) 18:16:29.58 ID:DmKzZm4S - 時は遡り、数針前の事……。
偶々エグゼラ市内に滞在していたワーロック・アイスロンは、魔力ラジオウェーブ放送で、 巨人魔法使いの出現を知り、急いで現場に駆け付けようとしていた。 所が、既に執行者達による包囲網が完成しており、接近は困難な状況。 為す術無く手を拱いていた所、彼はビシャラバンガが強行突破したのを目撃する。 後を追おうにも、ワーロックは荒事は得意ではないので、ビシャラバンガの真似は出来ない。 焦りを募らせながらも、執行者達の隙を窺って彷徨いていた彼は、奇妙な物に出会した。 ワーロックと同じく、ローブを着て包囲の外を右往左往している、見るからに怪しい大柄の人物。 それは小声で独り言を呟いている。 「エェー、参ッタナァ……。 コンナ囲マレテタラ、ドウ仕様モ無イジャン……。 僕ガ飛ベルカラッテ、押シ付ケテクレチャッテサァ……。 皆、寒イノガ嫌ナダケジャン……。 アー、モウ、本当ニ寒イノハ駄目ダッテ……」 「落ち着け、ヘリオクロス。 今更愚痴を零しても仕方無いだろう。 怪しまれるだけだぞ」 「ドウダッテ良イヨ……」 どう言う訳か、独り言には2つの声がある。
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324 :創る名無しに見る名無し[sage]:2016/10/07(金) 18:20:45.03 ID:DmKzZm4S - 真面な人間では無いと思いつつも、ワーロックは用心しながら近付いた。
もし反逆同盟の一員ならば、見過ごす訳には行かない。 ワーロックが声を掛けようとした矢先、彼に気付いたローブを着た怪しい物は、背を向けて逃げ出す。 「あっ、待て!」 足が悪いのか、蹌踉蹌踉(よろよろ)と頼り無い足取りで、今にも転びそう。 案の定、執行者達から離れた所で、ローブを着た怪しい物は前方に倒れ込む。 だが、怯まずに行き成り地面を掘り出した。 苦し紛れの行動かと思いきや、意外にも地面に体が埋まって行く。 地中に潜って逃げようと言うのかと、ワーロックは慌てて駆け寄り、怪しい人物を取り押さえる。 ローブの下に甲冑でも着ているかの様に、その背中は硬い。 「反逆同盟の者か!?」 ワーロックが問い詰めると、ローブの物は穴を掘り続けながら答える。 「チ、違ウ! 見逃シテクレェッ!」 「反逆同盟を知っているのか? 貴方は魔導師ではない?」 狼狽した声とは別に、落ち着いた声がワーロックの耳に入った。 戸惑いながらも、彼は答える。 「ああ、私は魔導師ではない。 独自に反逆同盟を追っている者だ。 後ろ暗い事が無いなら、逃げる必要は無い」 「『外道魔法使い』?」 「半分は」 それを聞いて、ローブを着た大柄な人物は、体を地面に半分程埋めた所で、動きを止めた。 止めただけで、顔を上げようとはしないが……。
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325 :創る名無しに見る名無し[sage]:2016/10/07(金) 18:23:58.47 ID:DmKzZm4S - ローブを着た人物の影が、怪しく伸びて人の形を取る。
「影」はワーロックに対して、口を利いた。 「名前を伺おう」 「……ラヴィゾール。 ワーロック・ラヴィゾール・アイスロン」 一時的にワーロックは身構えたが、これは魔法生命体だと察して、先ず名乗る。 影を操る魔法使いには、何人か心当たりがあった。 「『ラヴィゾール』のワーロック?」 影は彼の名に聞き覚えがあるのか、少し声を高くして反応した。 「私を知っているのか?」 「レノックさんから聞いた事がある。 新しい魔法使い、ワーロック!」 「レノック? 魔楽器演奏家の? そうすると、君は例の……」 「レノック」の名で、2人は互いに頷き合う。 魔楽器演奏家レノック・ダッバーディーは、ワーロック達とは別行動で反逆同盟と戦っている。 「私は『影<スキア>』……――いや、シャゾールだ。 レノックさんと一緒に、反逆同盟と戦っている。 『夜の人種<ナイト・レイス>』のシャゾール。 こっちの大きいのは『昆虫人<エントマントロポス>』のヘリオクロス」 2つの声が聞こえたのは、2人居たからなのだと、この時点でワーロックは初めて理解した。
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326 :創る名無しに見る名無し[sage]:2016/10/07(金) 18:29:16.68 ID:DmKzZm4S - ローブを着た大柄な人物は、徐に体を起こしてワーロックに向き直ると、フードを剥いで顔を見せる。
暗緑色に美しく輝く堅牢な表皮は黄金虫の類に特有の物で、頭には立派な角が生えていた。 成る程、昆虫人だとワーロックは納得する。 「甲虫(かぶとむし)?」 「イ、イエ、『糞虫<ダング・ビートル>』デス……」 「あっ……、はい」 糞虫と聞いて、ワーロックは半歩引いた。 ヘリオクロスは小声で言い訳する。 「ダ、大丈夫デス……。 獣糞ヲ常食シテイル訳デハアリマセン。 エェト、ソノ、臭ワナイデショウ?」 確かに、ヘリオクロスは土臭いが、それだけだ。 互いに顔を合わせた3人(?)は、各々の事情を説明し合う。 先ず、シャゾールが目的を明かした。 「私達は巨人魔法使いが現れたと聞いて、様子を見に駆け付けた。 詰まり、偵察だ」 「止めに来た訳ではない?」 ワーロックが質すと、シャゾールは声を落とす。 「そこまでの戦力は、私達には無い。 巨人の相手は無理だ」 「強そうなのになぁ……」 ワーロックはヘリオクロスの巨体に目を遣る。
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327 :創る名無しに見る名無し[sage]:2016/10/07(金) 18:33:09.28 ID:DmKzZm4S - ヘリオクロスは慌てて否定した。
「無理デス!! 僕ニハ特殊ナ能力ナンテ無インデスカラ! 魔法モ使エナイノニ!」 「誰も『戦え』とは言ってないよ……」 ワーロックは彼を宥めると、今度は自分の目的を明かす。 「私も巨人魔法使いが現れたと聞いて、駆け付けたんだ。 君達と同じで、最初は様子を見るだけの積もりだったんだけど……。 私の知り合いが、魔導師会の包囲の中に、強引に入って行ってしまった。 何とか彼を助けたいと思っている」 「悪いが、貴方の力にはなれそうにない」 シャゾールは悩む素振りも無く、謝罪した。 どうしても2人は厄介事を避けたい様だった。 ワーロックは暫し思案して、交渉を始める。 「戦わなくて良いから、魔導師会の包囲を抜けるのに、協力してくれないか?」 「駄目だ。 私達は人に姿を晒せない。 魔導師会の者には尚の事」 シャゾールは頑なに協力を拒んだ。 その気持ちは、ワーロックにも理解出来る。
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328 :創る名無しに見る名無し[sage]:2016/10/07(金) 18:34:43.07 ID:DmKzZm4S - 影人間のシャゾールも、昆虫人のヘリオクロスも、共通魔法の常識では計れない物なので、
理解を得る事が難しいのだ。 魔導師会の目に留まれば、取り敢えず身柄を拘束されて、詰問されるだろう。 シャゾールの反応に、ワーロックは頷いて、そうした事情も考慮に入れている事を示す。 「人前に出る必要は無い。 私を包囲の中に入れてくれるだけで良い」 シャゾールとヘリオクロスは顔を見合わせた。 その後、ヘリオクロスがワーロックに告げる。 「空カラハ無理デスヨ……。 撃チ落トサレタクナイデス」 「空からは無理かも知れない。 でも、地下なら?」 シャゾールとヘリオクロスは再び顔を見合わせた。 少し間を置いて、シャゾールが言う。 「魔導師に覚られない様にするには、それなりに深く潜らないと行けない。 相応に時間を喰うぞ」 「地下には下水管が通っている筈だ。 そこを通れば。 所々崩落しているかも知れないが、地中を掘り進むよりは早いだろう」 「地上ニ出ナクテモ良イナラ、僕ハ別ニ構イマセンヨ」 ヘリオクロスが前向きな言葉を口にしたので、シャゾールも思慮の末に頷いた。 「魔導師に感付かれたら、直ぐに撤退する。 それでも構わないか?」 「ああ、構わない」 3人は頷き合って、行動を開始する。
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