- ロスト・スペラー 7
455 :創る名無しに見る名無し[sage]:2014/01/29(水) 19:10:29.76 ID:iL+53+E9 - ジラは驚きの余り、両目を見開いて硬直し、一言も発せない。
フーカークンは薄ら笑いを浮かべて、肉の椅子に腰掛けている。 「お客人、どうぞ」 使用人の2人は、生気の無い顔で、立ち尽くしている。 「サラサ様、ジルベルテ様、お掛けになって下さい」 誰も正気ではない。 サティはジラの手を引いて、呼び掛けた。 「取り敢えず、ここから出ましょう!」 「あっ、ああ、分かった!」 彼女は漸く、正気を取り戻す。 粘液で濡れた床に足を取られそうになりながらも、2人は食堂の入り口へ。 だが、当然ながら扉も肉色に変わって、固く閉ざされていた。 「どうするの!?」 「打ち破るしか無いでしょう!! ジラさん、魔力石を! 補助を頼みます!」 2人は以心伝心で、共通魔法の呪文を描き、唱える。
|
- ロスト・スペラー 7
456 :創る名無しに見る名無し[sage]:2014/01/29(水) 19:13:20.08 ID:iL+53+E9 - それは『合唱<コーラス>』と言う技術。
合唱は独唱では克服が難しい、呪文の構造上の欠点を、補う意味が強い。 複数人で呪文本来の効果以上の物を引き出す。 それが合唱。 ジラが魔力石から魔力を引き出し、サティが主文を完成させる。 「CK1D7!!」 威力を高めた爆破魔法が、肉の扉を跡形も無く消し飛ばした。 焦げた断面からは、赤く濃い液体が流れ出す。 錆の臭いに、サティとジラは顔を顰めた。 幻覚ではない……。 壊した扉から見える風景は、やはり臓物の様。 食堂だけでなく、屋敷全体が変貌したのだ。 ジラは食堂から出る時、1度だけ振り返った。 驚く様子も慌てる様子も無く、唯々惚けて微笑んでいるフーカークン。 蝋人形の様に、直立して不動の2人の使用人。 「ジラさん」 「ええ」 落ち着いた声でサティに名を呼ばれ、ジラは向き直る。 彼等は助からない。 肉体ではなく、心が死んでいるのだ。
|
- ロスト・スペラー 7
457 :創る名無しに見る名無し[sage]:2014/01/29(水) 19:15:44.99 ID:iL+53+E9 - 2階の中央ホールに飛び出した2人は、互いの顔を見合う。
ジラは恐怖と困惑の色を浮かべ、サティは鋭い瞳で宙を睨む。 「どうなってるの、これ……? 何をどうしたら、こんな風になるの?」 「どの様な術かは分かりません。 でも、これだけは言えます……。 私達は既に、化け物の腹の中なのです!」 その言葉にジラは総毛立つ。 「脱出しよう、サティ。 こんな所には1極だって居られない」 しかし、サティは頷かなかった。 「私は3階に向かいます」 「何で!?」 「恐らくは、そこが中枢。 脳か心臓に当たる部分」 「叩きに行く積もり? 危険過ぎる!」 ジラは懸命に制止した。 こんな時だと言うのに、冷静なのか無謀なのか、サティの考えは読めない。
|