トップページ > 創作発表 > 2013年10月10日 > jQ2D6Xxu

書き込み順位&時間帯一覧

1 位/92 ID中時間01234567891011121314151617181920212223Total
書き込み数20292510000000000000000000075



使用した名前一覧書き込んだスレッド一覧
◆ew5bR2RQj.
叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj.
叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj.
叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj.
叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj.
叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj.
叶えたい願い-北岡秀一 ◆ew5bR2RQj.
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
多ジャンルバトルロワイアル Part.17

書き込みレス一覧

次へ>>
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
515 : ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:33:39.40 ID:jQ2D6Xxu
二ヶ月もお待たせして申し訳ありませんでした。
これより予約分の話を投下します。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
520 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:36:33.55 ID:jQ2D6Xxu
何処までも続く白。
天井も、壁も、床も存在しない、あらゆる常識から逸した空間。
しかしそこに立つこともできれば、歩くこともできた。
それを証明するように、黒い革製のブーツで白を踏み締める男が一人。
主を遊戯の最後の出演者の一人――――志々雄真実だ。

「ふぅ……」

シャリッ、と音が響く。
志々雄が手に持った林檎に齧り付いたのだ。
酸味と甘味が程よく調和した果汁が、心地良い食感と共に口腔内を広がる。
食事を始めたことに深い意味は無い。
強いて言うなら『腹が減っては戦はできぬ』という諺に従ったまでだ。
果実が腹を満たしていく中、志々雄はあの日の出来事を思い出していた。

あの日――――地獄の業火が全身を焼き尽くした日。
皮膚は溶け落ち、肉は爛れ、その身体は二度と見れぬ醜悪な姿へと変わった。
普通の人間なら間違いなく死んでいる。
下手人である維新の狗共ですらそう判断したが、志々雄は炎の中より生還した。
原初の時代から人間が恐れてきた炎ですら、幕末の悪鬼を殺すには至らなかった。
それどころか志々雄は炎を屈服させ、自由自在に操るまでになっていた。
あの日、自分が生還できた理由を考えたことがある。
そうして出した結論は、己の欲望が炎すらも上回ったからだった。
普通の人間であれば、全身を焼かれた時点で己の生を諦め、物言わぬ肉へと成り果てただろう。
だが、志々雄は肉体を業火に焼き尽くされても生を捨てなかった。
仲間すら危険視する巨大な欲望と政府への復讐心を滾らせ、志々雄は炎を喰らい尽くした。
だからこそ、今もここに立っている。
欲望という炎をその身に宿し、最後の戦場に立っている。

この場所は、V.V.が殺し合いの開催を宣言した空間。
それを意識したわけではないが、最後の戦場が全てが始まった場所というのは風情があって悪くない。
V.V.の説明によると、ここはラプラスの魔が作成した特殊な空間だそうだ。
生き残っているのは九人。
参加者の六十五人とその他の八人を加えると合計で七十三人。
殺し合いの参加者は、八分の一以下になるまで淘汰された。
志々雄が掲げた欲望の答えが、すぐ近くまで来ている。
残った八人を殺すだけで、全てが終わる。
そして、全てが始まるのだ。

扉が、開く。
白い空間内にぽつんと聳え立った木製の扉。
端から見れば奇妙であるが、もはやこの世界に常識など存在しない。
下品にならない程度の装飾が施され、黄金のドアノブが取り付けられている
成人男性の平均身長よりも僅かに高い長方形のそれは、この空間と第二会場を繋ぐ扉だった。

「……テメエかよ」

不服とでも言うように眉を顰める来訪者。
それでも敵愾心を剥き出しにし、左の目で鋭く志々雄を見据えていた。
コツン、コツンと足音が響く。
右の目が潰れているにも関わらず、その足運びに淀みはない。
志々雄の十メートル程手前に辿り着くと、来訪者は静かに足を止めた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
522 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:38:21.17 ID:jQ2D6Xxu
「それはこっちの台詞だぜ、ヴァン」

来訪者――――ヴァンを見て、同じように志々雄も吐き捨てた。

ヴァンと志々雄真実。
殺し合いの共演者である二人だが、その間に深い因縁は無い。
顔を合わせた回数も少なく、碌な会話も無かった。
強大な力を持つシャドームーンや狭間、幾度となく顔を合わせてきたクーガーに比べ、志々雄の中のヴァンに対する興味は薄い。
ヴァンも自身が首輪解除に利用されたことを知っていたが、わざわざ言及するつもりも無かった。

「最初に戦うなら、魔人皇か世紀王が良かったんだがな」
「もうV.V.は死んだ、殺し合いは終わったんだ」

気怠そうに溜息混じりの声でヴァンは告げる。

「あぁ? そんなもんとっくの昔に知ってるぜ、もう主催の連中は一人も残ってねぇ」
「なら、戦う理由は無いだろ」
「理由だと? ハッ、笑わせるなよ。
 男が、人間が、生物が戦うのに理由なんか要らねぇだろ。
 俺が戦いを止めると本気で思ってんのか?」
「……だろうな」

端から期待していなかったのか、ヴァンの語調にさしたる変化はない。
希薄な付き合いでも理解できるほど、志々雄の中にある闘争本能は明確なのだ。

「分かってんなら最初から聞くなよ」
「うるせえ」
「初っ端がアンタってのは些か不満だが、準備運動にはちょうどいいってもんだ」
「その言葉、そっくり返させてもらうぜ」

ヴァンにとって、全ての終着点とはカギ爪の男への復讐だ。
緑の人形も、黒の暴龍も、銀の月も、所詮は通過点に過ぎない。

「言ってくれるじゃねぇか」

軽口を叩きながら、腰に蓄えた剣に手を伸ばす志々雄。
合わせるように、ヴァンも蛮刀を構える。
もはやそこに言葉が介在する余地はない。
必要なのは、力のみだ。


――――カシャ、カシャ、カシャ、カシャ


闘争を遮るように響く足音。
これの正体については今更語る必要もない。
圧倒的な恐怖を以って、太古の時代から人間達を支配してきたゴルゴムの使者。
この殺し合いにおいても、多くの者に死と絶望を振り撒いてきた魔王。
世紀王・シャドームーン。

「くくっ、本命の御出座しってわけか」

だが、彼らに恐怖などない。
志々雄は薄く笑い、ヴァンは目を鋭く細める。
彼らにとってシャドームーンとは、己が倒すべき相手だからだ。
唯一の出入り口である木製の扉に視線を注ぎながら、それの登場を待ち構える二人。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
525 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:40:53.29 ID:jQ2D6Xxu
――――だが、魔王は彼らの想像を超えていた。

白に描かれる亀裂。
その両端に掛けられたのは銀の指。
天地が鳴動し、轟音が世界を揺り動かす。
雷鳴のような音と共に、亀裂は左右に広がり始めていた。

「おいおい」

呆れ混じりに苦笑する志々雄。
摩訶不思議には馴れたつもりだったが、目の前の出来事には驚くほか無かった。
一見するとどの異端も無秩序に見えるが、それらにはそれぞれのルールが存在する。
例えばこの白い空間は、木製の扉からしか出入りできない。
しかし、目の前の光景にはそれがない。
他の異端に存在するルールを無視し、全ての道理を自分に従わせようとしているのだ。
見る見るうちに亀裂は広がり、やがて半径一メートルほどの穴へと変わる。
そして、銀の月が戦場を照らした。

「随分とけったいな登場じゃねぇか」

最後に相対した時と比べ、シャドームーンが身に纏う威圧感は段違いに濃さを増している。
翠緑の薄い光が彼を包み込んでいるようにすら見えた。
実際に見えるわけではない。
シャドームーンから溢れる威圧感が、他者の視界にすら影響を及ぼしているのだ。
例えるのならば一流の剣客が身に纏う剣気。
銀の甲冑、緑の複眼、黒の突起、紅の魔剣。
姿形に変化はないが、中身は今までと別物だった。

「貴様の剣が私を呼び寄せたのだ」

シャドームーンが指差した先にあるのは、志々雄の操る魔剣・ヒノカグツチ。
創世王を取り込んだことで、シャドームーンが会得していた空間干渉能力はさらに増大している。
nのフィールドに侵入し、ヒノカグツチから漏れる魔力を辿ってここを探し当てたのだ。

「俺を探してたのか? 光栄だとても言うべきかね」
「一つ聞かせてもらおう」

志々雄の軽口を意に介さず、シャドームーンは言葉を放つ。

「主催の者共が全員死んだというのは本当か」

脳を直接鷲掴みにされるような低い声。
常人ならその場で卒倒しかねないが、志々雄は笑みを深くするだけだった。

「ああ、その通りだ。
 V.V.も、鷹野三四も、薔薇水晶も、ラプラスの魔も、ついでに武田観柳も死んだ。
 V.V.が殺しちまったから、雑兵一匹残ってねえだろうな」

質問の意図を理解し、狡猾に笑う志々雄。
彼の知る範囲では主催側の生き残りは一人もいない。
鷹野や観柳といった幹部はもちろん、雑用を担当していた下っ端も消滅した。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
527 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:42:33.22 ID:jQ2D6Xxu
「そうか、つまり貴様達と交わした仮初の協力は終わったわけだ」

シャドームーンと狭間が交わした契約の主な内容は二つ。
狭間がシャドームーンの首輪を解除することと、主催者の打倒にシャドームーンが協力すること。
これが果たされるまでは、互いに危害を加えることは禁じられていた。

だが、それは果たされた。

全ての首輪は解除され、主催陣営は全滅した。
つまり、契約は最終段階へと移行する。

「確か、V.V.をぶっ殺したらお前と決着を付けるんだったな」

蛮刀を一旦収め、懐からナイトのデッキを取り出すヴァン。
先の戦闘で力の出し惜しみが無意味と分かっているため、最初から全力を出す。
志々雄も同じようにリュウガのデッキを構えた。

「最終決戦ってわけか、面白くなってきたじゃねぇか」

カードデッキを前方に翳すと、両者の腰にVバックルが出現する。
この空間はミラーワールドに近い性質を持っているため、鏡面を介さずとも変身することができた。

「「変身!」」

掛け声と同時にデッキを装填。
幾重にも虚像が重なり、二人を漆黒の戦士へと変身させる。
ヴァンが変身したのは仮面ライダーナイト。
志々雄が変身したのは仮面ライダーリュウガ。
それぞれ幾つもの激闘を潜り抜け、最後の戦いに参加する資格を得た戦士だ。

「それじゃあ精々楽しませてもらうぜ、世紀王さんよ」
「私は世紀王を越えた、今は創世王だ」
「はっ、そうだったな!」

三人の戦士は同時に剣を抜いた。


  ☆ ☆ ☆


――――俺、子供嫌いなの知ってるでしょ?


北岡秀一がそれを自覚したのは何時の頃だっただろうか。
気が付いた時には、嫌いになっていたとしか覚えていない。
喧しいから、汚いから、暴力を振るってくるから、理由は簡単に列挙することができる。
しかし、今になって気付かされる。
本当の理由は別にあったことに。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
531 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:44:11.54 ID:jQ2D6Xxu
「……つかさちゃん」

子供が嫌いだった本当の理由は、どうやって接すればいいのか分からないからだ。
大人の相手をするのは簡単だ。
金か権力があれば、大抵の相手は尻尾を振ってくる。
容姿にも話術にも恵まれている北岡にとって、大人ほど扱いやすい存在はない。
だが、子供は相手となれば話は変わる。
大人は理屈で押さえ込むことができるが、子供はそうは行かない。
逆上したり、泣き喚いたり、感情を剥き出しにしてくる。
そうなってしまった場合、北岡にはどうすることもできない。
それでも大抵の状況は無視できるし、いざという時は由良吾郎が何とかしてくれた。
しかし今は吾郎も居なければ、無視できる状況でもない。
自分一人の力で、つかさと向き合わなければならなかった。

「私には何も無いんです、お姉ちゃんみたいな立派な夢も、何も……」

嘆きの言葉を漏らすつかさ。
そんな彼女の姿を見て、胸が締め付けられるように痛む。
他人のことなのに、耐えられない程の痛みが心を蝕む。
今すぐ何とかしなければ自分諸共壊れてしまいそうな、そんな痛みだった。

懸命に言葉を探す。
依頼人との打ち合わせでも、裁判の時でも、ここまで本気になったことはなかった。
今まで培ってきた知識と経験、それらを全て駆り出して必死に探す。
スーパー弁護士を名乗るのだから、それくらいは出来て当然のはずだ。

当然のはずなのに、言葉が出てこない。

スーパー弁護士の経験も肩書も、少女の為には何一つ役に立たない。
北岡秀一という存在は、どうしようもないほどに無力だった。

「お姉ちゃんやゆきちゃんと違って頭も良くない、こなちゃんやみなみちゃんと違って運動もできない……」
「ッ……そんなの、関係ないよ」

耳を引き千切って、そのまま逃げ出したい欲望に駆られる。
だが逃げ出せば自分が一生後悔するであろうことを、北岡は深く理解していた。

「五ェ門さんやジェレミアさんみたいに戦えない、錬金術もアイゼルさんみたいに上手く出来ない」

つかさと北岡が出会ったのは、殺し合いが始まってから数時間後だった。
別行動を取っていた時もあるが、殆どの時間を一緒に過ごしている。
時間に換算すればおよそ丸一日、つまりは二十四時間。
決して多いと呼べる時間ではないが、無碍にできるほど少なくもない。
つかさを慰める材料など幾らでも――――

「だから、私が代わりに死んでればよかったんだ」


「ふざけるな!!」


思考が吹っ飛んだ。

「つかさちゃんが代わりに死んでればよかっただって?
 俺を、俺達を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」

叫ぶ。
つかさが怯えるように見上げてくるが、そんなことは関係ない。
喉の奥から込み上げてくる言葉を我武者羅に叩き付ける。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
534 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:45:35.98 ID:jQ2D6Xxu
「五ェ門もジェレミアも、つかさちゃんにそんなことを言わせるために戦ったんじゃない!
 つかさちゃんのお姉さんや他の奴らだってそうだ!
 自分の代わりにつかさちゃんが死ねばよかったって、本気でそう思うのか!?」

今まで全く出てこなかった言葉が、激流のように溢れてくる。

「断言するけどそんなこと有り得ない、絶対だ!
 五ェ門は拙者がしっかりしていればって後悔するだろうし、ジェレミアもまた守れなかったって嘆き続けるに決まってる!
 つかさちゃんのお姉さん達だって、今のつかさちゃんみたいに挫けちゃうんじゃないのか!?」
「でも、私……何も、出来ないから……」

身体を震わせながら、搾り取るような掠れ声を上げるつかさ。
今まで飄々としていた北岡の豹変に驚いているのだろう。
しかし、それでも声を荒げずにはいられない。
つかさの放った言葉は、それほどまでに北岡秀一という人間の逆鱗を逆撫でしていた。

「つかさちゃんが何も出来ないだって? それこそ謙遜もいいところだよ!
 料理してくれたり、リフュールポットを作ってくれたり、他にも数え切れないくらい助けてもらってる!」
「でも、でも、あの時……ジェレミアさんにルルーシュ君のことを言わなければ!」

第二回放送前の総合病院のことだろう。
北岡とつかさは事前に打ち合わせをして、ルルーシュの一件を隠蔽しようとした。
だがジェレミアの懇願に打ち負け、彼女は独断で本当のことを話した。
それが原因でジェレミアと五ェ門が小競り合いを起こし、その影響で襲撃者の対応が遅れてしまった。

「逆だよ」
「え……?」
「つかさちゃんがあの時本当のことを言わなければ、きっと取り返しのつかないことになっていた」

仮にあの場面で取り繕うことができたとしても、公式サイトで参加者の動向を把握できた以上いつかは破綻していた。
そうなった場合、ジェレミアとは決裂していただろう。
そうならなかったとしても、不信感が仲間内に漂うことになる。
そのような空気の中、果たして狭間は他人を信用することができただろうか。

「それだけじゃない。
 もしつかさちゃんに会わなかったら、俺と五ェ門はきっと仲違いしてたと思う。
 つかさちゃんの正しさに、俺はずっと救われてきたんだ」

五ェ門と北岡はあらゆる意味で正反対の人間だった。
それでいて互いに頑固であり、そのまま進めば衝突は避け切れなかっただろう。
だが、そこにつかさが入ることで彼らは上手く纏まることができた。
つかさを通じて、彼らは分かり合うことができたのだ。

「大体……何も出来てないって言うなら俺の方だ」

ボソッと呟く。

「最初にデッキを盗られて、ようやく取り返したと思ったら浅倉には負けそうになって……。
 それで、つかさちゃんに重荷を背負わせた」

まるで懺悔をするように、頭を垂れながら北岡は言う。
大きな背中は老人のように丸まり、普段の余裕を含んだ態度は微塵もない。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
538 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:47:22.98 ID:jQ2D6Xxu
「これじゃあ何のために五ェ門が死んだか分からないじゃないか!
 本当に何も出来ないのは、一人じゃ何も出来ないのは俺の方――――」

そこまで言い掛けて、北岡の言葉は止まった。
目の前の光景に呆然としてしまったのだ。


「そんなこと……そんなことない!」


つかさが、泣いていた。


「北岡さんが何も出来てないなんて、そんなことあるわけない!」

嗚咽を漏らしながら北岡を見上げるつかさ。
その表情はこの世の終わりを嘆くかのように悲壮感に溢れている。

「北岡さんが居なかったら、私、きっとルルーシュ君を殺しちゃった罪悪感でどうしようもなくなってた」

つかさが初めて北岡に会ったのは、ルルーシュを殺害した直後だった。
恐慌状態に陥っていたため、まともに会話することもままならない。
その状況で浅倉が迫ってきていたため、北岡がいなければどうなっていたかは明白だろう。

「確かに今もルルーシュ君を殺しちゃったことはとても辛いです、それに、浅倉さんも……。
 でも、北岡さんが私にしなきゃいけないことを教えてくれたから、私はここまで来れたんです」

涙を制服の裾で拭い、つかさはゆっくりと立ち上がる。

「他にもいっぱいいっぱい、北岡さんに助けられてる
 だから自分が何も出来ないなんて、二度と言わないでください!」
 
そして、叫んだ。
その両瞳からは再び涙が溢れ、目は真っ赤に充血している。
彼女の表情はとても悲しみに満ちていて、同時に怒りが溢れていた。
あの呑気で穏やかなつかさが、北岡を相手に本気で怒っているのである。

「はぁ……はぁ……」

肩を上下させながら、つかさは深い深呼吸をする。
泣きながら叫んだため、一気に体力と酸素が不足してしまったのだろう。
無言の時間が続く。
つかさの迫力に気圧され、北岡は二の句を継げずにいた。

「あ、ご、ごめんなさい! 私……北岡さんにとても失礼なことを……」

だが、先に折れたのはつかさの方だった。
さっきまでの迫力は何処へ行ったのだと問いたくなるほどにあたふたし始め、何度も頭を下げている。
その姿は何処にでもいるような女子高生のものだった。

「こっちこそごめん、ちょっと弱音を吐いちゃったよ」

バツが悪そうに後頭部を掻き毟る北岡。
自嘲するように笑いながら、ぼんやりと虚空を見上げる。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
541 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:48:02.84 ID:jQ2D6Xxu
「つかさちゃんを励ますつもりだったんだけどなぁ……」
「ううん、たくさん励ましてもらいました、おかげで私、立ち上がれました」

対照的に朗らかな笑みを浮かべるつかさ。
その目は真っ赤に腫れていて、涙の跡が今も残っているけれど。
心が限界を向かえていたはずの少女は、いつの間にか己の脚で立ち上がっていた。

「ま……それなら良かったかな」

力なく笑う北岡。
どんな形であれ、つかさが立ち直ってくれたなら満足だ。

「そう思わないと、やってらんないよ」

つかさに聞こえないように小声で言う。
正直なことを言えば、今にも逃げ出したいほどに恥ずかしかった。
こんなところを誰かに見られたら、二度と立ち上がれないかもしれない。
北岡自身も気付かぬうちに心を病みつつあった。
彼は大人であり、ここに来る以前も死と隣り合わせの環境にいたためつかさに比べれば耐性はある。
それでも命の重みがゼロになるわけではない。
五ェ門やジェレミアの死、そしてつかさに二度目の殺人を犯させたこと。
これらの要因は、じわじわと北岡の心を擦り減らていたのだ。

「つかさちゃんさ、ジェレミアの仮面を貰ってたよね?」

しばらく無言が続いた後、唐突に北岡は問い掛ける。
つかさは首を傾げながらも「はい」と肯定し、デイパックの中からオレンジ色の仮面を取り出した。

「その仮面を持ってるのはいいけど、着けようとは思わないでね」
「どういう……ことですか?」
「仮面を被っても、その人にはなれないんだよ」

北岡の発言の意図を測りかねているのか、つかさは難しい表情をしている。

「どんなに取り繕ったって、結局のところ自分は自分なんだ
 つかさちゃんはジェレミアにはなれないし、お姉さんにもなれない
 それどころか仮面を着けていると、だんだん自分の顔が分からなくなっていくんだ」

仮面ライダーとして戦っていた当初、北岡は誰よりも強かった。
不意打ちや騙し打ち、一方的な遠距離攻撃などあらゆる戦法を駆使した。
しかし、誰一人として殺せなかった。
いつの間にか真司や蓮と馴れ合うようになり、王蛇やタイガに追い詰められることも増えてきた。
病気のせいだと言い聞かせてきたが、実際は違う。
きつく着けていたはずのゾルダの仮面が剥がれ、北岡秀一という人間に戻りつつあったのだ。

「最後には自分が本当にやりたいことをやるしかないんだ
 たった一つの命なんだから、出来もしない他人の真似をするなんて馬鹿のすることだよ」

湿った溜息を吐き、北岡はつかさの顔をゆっくりと見下ろした。

「それに他の人の真似なんかしなくたってさ、つかさちゃんは十分魅力的じゃない
 あのビーフシチュー、とっても美味しかったよ
 調理師になりたいんでしょ? 
 今のうちからあれが作れるなんて、将来は絶対三つ星シェフだね」

スーパー弁護士の俺が言うんだから絶対だよ、と付け加える。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
542 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:48:49.06 ID:jQ2D6Xxu
「そうですか? えへへ、嬉しいな」
「でも、八十点くらいかな」
「え、えぇ!? 何でですか?」
「俺はもうちょっと濃い目の味が好きなんだよ
 あ、そうだ。これが終わったら吾郎ちゃんに料理を習ってみたらどうよ?」
「えっと、どなたですか……?」
「あ、ごめん、まだ紹介してなかったね
 吾郎ちゃんは俺の秘書をやってくれてるんだ、料理も洗濯も掃除もボディガードもできちゃうスーパー秘書だよ
 俺の好みを知り尽くしてる吾郎ちゃんに教われば、つかさちゃんも俺好みの料理をマスターできると思うよ
 何なら俺直属のシェフでもやってみない? つかさちゃんなら歓迎するよ」
「え……えっと……考えておきます」

つかさは曖昧に笑いながら、視線を逸らすように下に向けた。

「こんな時にナンパですか? お熱いですねぇ」

と、ここで狙ったようなタイミングで新たに人物が登場する。

「クーガーさん!」

何よりも速さを信条とする粋でいなせな男、ストレイト・クーガー。
トレードマークだったサングラスは無くなり、制服は血に塗れているが、それでも彼は笑みを浮かべている。
とても意地の悪そうな、満面の笑みを。

「……何時から見てたのよ」
「さぁ、何時からでしょうねぇ」
「覗きは女の子に嫌われるよ? あ〜ヤラシイヤラシイ」
「三十路越えのおじさんが女子高生をナンパするのも相当ヤラシイと思いますよ?」
「お、おじさ……大体あれはナンパじゃないからね、つかさちゃんの料理が食べたいだけだよ」
「ほぉ〜、貴方にそこまで言わせるなら俺も食べてみたいですな、ってわけでつばささぁ〜ん!!」
「ええええ!? 今から料理ですか!?」

突然矛先を向けられたからか、つかさは慌てふためいている。
その姿にかつての陰りは存在しなかった。

――――彼女がとっくに忘れているかもしれない一つの事実。

些細だけれど、とても大事なきっかけ。
つかさが外国人に絡まれていたところを、こなたが助けた。
それが彼女達の馴れ初め。
この出会いを介して交流が始まり、こなた、つかさ、かがみ、みゆきの四人組が生まれた。
そこからさらに輪が広がり、今の彼女達の交友関係がある。
ゆたかが、みなみが、ひよりが、パティが、みさおが、あやのが、ゆいが、ななこが知り合ったのも。
ある意味では、この出来事が発端と言える。
この幸運があったからこそ、彼女達の星は輝き始めたのだ。
かがみやみゆきのように頭は良くないかもしれない、こなたやみなみのように運動は出来ないかもしれない。
しかし、つかさには人と人を結び合わせる力がある。
誰に対しても分け隔てなく接する力こそ、彼女が元来から持ちえる星だった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
547 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:49:39.75 ID:jQ2D6Xxu
「っと、何時までもこんなことはしてられませんね」

最初に切り出したのはクーガーだった。

「そうだな、そろそろどうするか決めないと」
「とりあえず伝えなければならないことがあります
 さっき立ち寄った部屋に、V.V.の死体がありました」

死体と聞き、つかさは僅かに肩を震わす。
殺し合いの首謀者たるV.V.の撃破は、北岡達にとっては本懐だったはずだ。
だが、既にそれが果たされているらしい。

「でも、殺し合いは終わってないよ」
「まだ黒幕が残っているか、あるいは主催者が居なくなっても殺し合いは止まらないのか……」
「どっちにしても、あの志々雄が戦いを止めるとは思わないけどね
 それに主催者が全滅したなら、またシャドームーンが敵に回ることになる」

事態は悪化し、一刻を争う状況になっている。
これより先、待ち構えているのは血に濡れた道。
戦わなければ生き残れない地獄だ。

「……つかさちゃん、話を聞いて欲しい」

ネクタイをきつく締め直しながら、北岡はつかさに向き直る。

「今まで散々助けてもらっといて難だけどさ
 これから俺達がやる戦いは、つかさちゃんが活躍できる場所じゃないと思う
 だから、出来るなら安全な場所に隠れていて欲しい」

王蛇やランスロットも強敵だったのは間違いない。
しかし、志々雄とシャドームーンは次元が違う。
主催者の恩恵を授かっている志々雄はもちろん、シャドームーンの強さは今更説明するまでもない。
これ以上つかさを危険に曝すことはできなかった。

「つかさちゃんが役に立たないってわけじゃないよ。でもつかさちゃんが活躍できるのは戦場じゃない」
「……ありがとうございます、こんな時にまで優しいんですね」

つかさに優しいと言われるのは二度目だ。
あの時も悪い気はしなかったが、今度はさらに忌避感が減っている。
五ェ門やつかさの影響でお人好しになってしまったのだろうか。

「でも、私も行きます」
「……本気?」

呆れ半分に北岡は尋ねる。

「はい、北岡さんの話を聞いて、私もやりたいことが見つかりました
 他の人の真似じゃない、私自身が本当にやりたいことです」

つかさの目からは危うさが消え、確固たる意思と覚悟が光っている。
その目を北岡は今までで二回見ていた。
浅倉を倒しに行く直前と、ランスロットとの戦闘の最中。
こうなった時のつかさが頑固で譲らないことを、北岡はよく理解している。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
550 :叶えたい願い-柊つかさ ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:50:42.88 ID:jQ2D6Xxu
「ま、そう言うと思ってたよ
 それにあの契約に従うなら、最終的に全員で戦わなきゃいけないみたいだからね
 だったら一人で隠れてるよりも、俺達と一緒に居た方が安全か」

シャドームーンと狭間が交わした契約によれば、最終的に生き残り全員とシャドームーンが戦わなければならない。
つかさが一人で逃げたところで、自分達が敗北すれば意味はない。
もはや自分達は一蓮托生と呼べる段階まで来ているのだ。

「じゃあそろそろ行きますか」

会話が終わったのを見計らい声を掛けるクーガー。
北岡とつかさは首肯すると、彼は素早い動きで部屋の出口へと向かった。

「なぁ、クーガー、一ついいか?」
「何です?」

廊下へと繰り出してしばらくした後、北岡はクーガーの隣に並ぶ。

「アルターだっけ、それの影響で長くないってホントなの?」

公式サイトへの侵入に成功した際、全ての参加者の経歴や動向を頭の中に叩き込んでおいた。
その中で気になったのが、クーガーの寿命が長くないという事実。
不治の病に侵されていた北岡にとって、同じような立場の人間が居たことは奇妙な繋がりを覚えさせた。

「ええ、色々と生き急いじまいましたからね」
「怖くないの?」
「怖い、ですか。今まで考えたこともなかったですね」

あっけらかんとした様子のクーガーに、北岡は疑問を抱く。
北岡の病は進行性のものだが、クーガーのアルターは使用しなければ寿命が削られることはない。
その気になれば、普通の人生を送ることもできただろう。

「怖いって言うなら、俺は死ぬことよりも何も出来ないことの方が怖い
 俺の速さを証明するためなら、命だって燃料にして走り続けますよ」

ニヤリと笑うクーガー。

「そっか」

そんな彼を見て、北岡は短く返事をした。


  ☆ ☆ ☆
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
554 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:51:59.29 ID:jQ2D6Xxu
――――GUARD VENT――――

虚空から現れたダークウイングはナイトと合体し、大きな黒翼へと姿を変える。
間髪入れずに黒翼を広げ、空中へ飛び上がるナイト。
直後、彼のいた場所を緑色の雷光が通過する。
シャドームーンが光線を発射し、すんでのところで空中に避難したのだ。
空中に逃げたナイトを狙おうと、左腕を上空へ翳すシャドームーン。
その瞬間を狙い、リュウガが迫る。
シャドームーンの左側面から忍び寄り、胴体へヒノカグツチを振るう。
間合いの外にある以上、サタンサーベルで受けることは不可能。
シャドームーンと云えど、その攻撃は甘んじて受け入れるしかない。

「無駄だ」

それは過去のシャドームーンならの話だった。
左腕を浅く曲げ、肘の備わった突起・エルボートリガーでヒノカグツチを受け止める。
たったそれだけの動作で、一流の剣客である志々雄の斬撃が受け止められる。
今のシャドームーンは世紀王ではなく創世王。
岩石すらも容易く砕くエルボートリガーは、今や鋼鉄すらも粉砕する凶器と化していた。
エルボートリガーだけではない。
強化装具・レッグトリガーも、万能眼球・マイティアイも、金属外皮・シルバーガードも、人工筋肉・フィルブローンも。
シャドームーンのありとあらゆる装備は、今までとは比較にならないほど力を上げている。

「チィッ!」

舌打ちするリュウガ。
身体を左方向に向けたシャドームーンが、右脚で膝蹴りを繰り出してきたのだ。
咄嗟に背後へと退避するが、完全に回避することは出来ない。
蹴りは腹部に掠り、それだけで彼を数メートル跳ね飛ばした。
その隙を突き、今度はナイトが攻勢に移る。
突撃槍・ウイングランサーを構え、空中から滑空するナイト。
勢いをつけたその一撃は、背後からシャドームーンの首筋を狙う。

「無駄だと言っている」

だが、その一撃はマイティアイに捕捉されていた。
シャドームーンは身体を反転させ、その勢いでサタンサーベルをウイングランサーの穂先に叩き付ける。
拮抗すらせずにナイトは弾き飛ばされ、宙を舞った。

ナイトとリュウガとシャドームーンの三つ巴になるはずだった戦闘。
しかし蓋を開ければ、シャドームーンの独壇場になっている。

――――TRICK VENT――――

空中で踏み止まったナイトは新たなカードを装填。
発動したのは無数の分身を作り出す能力・シャドウイリュージョン。
翼を生やしたナイトが次々と分裂し、上空からシャドームーンを取り囲む。
一見すると有利な状況だが、この分身は虚像であるため相手にダメージを与えることはできない。
そもそもシャドームーンはこの技を何度も見ているため、対処法など知り尽くしている。
両腕にキングストーンのエネルギーを供給し、光線として一斉に放射するシャドームーン。
以前と同様に多くの虚像を消滅させるため、光線は幾重にも拡散して放たれていた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
558 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:53:15.56 ID:jQ2D6Xxu
「ダークウイング!」

ナイトの声が木霊する。
その掛け声で全てのナイトとダークウイングが分離し、迫り来るシャドービームは虚空へと消え去った。
落下しながらカードを抜き取ったナイト達は、一斉にそれをダークバイザーに読み込ませる。

――――NASTY VENT――――

空中を飛行していたダークウイング達が一斉に超音波を放つ。
それはまるで蝙蝠の群れの大合唱。
音と音が共鳴し合い、音波の波状攻撃となってシャドームーンを責め立てる。
分身に実体はないため物理攻撃を行うことはできない。
しかし音は物理的存在ではないため、トリックベントによる一斉攻撃が有効だった。

「貴様……!」

歩みを止めながら、左手で額を抑えるシャドームーン。
無数の分身により増強された音波攻撃は、進化したシャドームーンでも耐えることができない。
視界が潰れるほどではないが、割れるような頭痛に動くことができなかった。

――――FINAL VENT――――

切り札であるファイナルベントを一斉に発動するナイト達。
分身ではダメージを与えることができないが、本体を撹乱するための囮にはなる。
ウイングランサーを構えながら地上を駆け抜け、その背中とダークウイングが再び合体。
ダークウイングが漆黒のマントに姿を変えると同時に真上へ跳躍。
足元に向けたウイングランサーを軸にマントが渦を巻き、ナイト自身が回転する巨大な槍と化す。
槍はシャドームーンの四方八方を囲み、一斉に落下を始めた。

「シャドーフラッシュ!」

シャドームーンの全身を緑色の光が包み込み、膨張するかのごとく破裂する。
あらゆる特殊能力を無効にする影の閃光・シャドーフラッシュ。
身動きを封じられていても、シャドームーンが持つ手札は無数に存在するのだ。
奇跡の石の神秘に触れ、分身達は抵抗する間もなく消滅する。
大量に存在していたナイト達は、あっという間に全滅してしまった。
そう、全滅。
攻撃力を持たないはずのシャドーフラッシュで、彼を囲んでいた全てのナイトが消滅したのだ。

「上か」

シャドームーンの真上から急降下するナイト。
彼こそが本体であり本命、多くのミラーモンスターを屠ってきた必殺の一撃・飛翔斬が発動する。

「シャドーパンチ!」

シャドームーンの左拳に力が集中し、目を突き刺すような輝きを放つ。
その拳をアッパーカットの要領で上空に打ち付け、飛翔斬への対抗手段とした。
十数秒に及ぶ均衡状態。
勝利したのはシャドームーン。
敗北したナイトは、三十メートル以上も上へと跳ね上げられた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
561 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:54:15.52 ID:jQ2D6Xxu
「何度やっても無駄だ、もはや貴様らには万に一つの勝ち目もない」
「そいつはどうかな!」

シャドームーンが吐き捨てると、その背後からリュウガが姿を現す。
右手を弓なりに振り被ると、その手に握り締めた物体を勢いよく投擲した。
投擲された物体をマイティアイで分析、即座に結果を叩き出す。
半輪の形をした鈍い銀色の金属製物体。
シャドームーンもよく知っている、今まで自身を縛り付けていた忌々しい首輪だ。

「これでも喰らいな!」

リュウガがヒノカグツチを振るうと、その剣先から火炎が迸る。
火炎は真っ直ぐに首輪へ伸び、内部に蓄積された流体サクラダイトに引火。

大爆発が発生する。

爆炎と爆風がシャドームーンを呑み込み、その姿を黒煙の中へと隠す。
リュウガが投擲したのは銭形の首輪。
違反者を処刑するための物である以上、その威力は折り紙つきである。

「これで少しは弱ってるといいがな」

この程度でシャドームーンが死ぬとは思えない。
だが、ここまで小細工を弄して成果が無かったでは流石に笑えないだろう。


カシャ、カシャ、カシャ、カシャ


黒煙の中から現れるシャドームーン。
その鎧に刻まれた傷はたったの二箇所。
手甲に入った罅割れと、胸部の焼け焦げた亀裂。
あらゆるモンスターを葬った一撃も、参加者を縛り続けてきた枷も、創世王の前には無力だった。

「消えろ、哀れな贄よ」

キングストーンが明滅し、サタンサーベルの剣先に高密度のエネルギーが集中する。
シャドービームを発射する体勢であることは疑うまでもない。
リュウガは新たなカードを抜こうとするが、シャドームーンはそれよりも先に動いた。
ただしその行動は、光線の発射ではなく背後への後退。
直後、彼のいた場所を漆黒の双竜が噛み砕く。

「テメエは……」

戦線に復帰したナイトは、上空に出現した新たな闖入者を見て敵意を放つ。

「翠星石じゃねぇか」

漆黒の翼を生やした翠の人形を見て、リュウガは仮面の下でニヤリと笑った。


  ☆ ☆ ☆
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
565 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:55:20.54 ID:jQ2D6Xxu
結局のところ、翠星石に残された道は最初から一つしか無かった。
戦いたくない。
けれども、ひとりぼっちになりたくない。
周りに誰もいない状態で、翠星石は生きていくことができない。
蒼星石と、真紅と、水銀燈と、雛苺と、真司と、新一と、劉鳳と、皆と一緒にいたい。
だから、戦うしかない。
戦いたくないけれど、戦うしかない。
他の全員を殺して、最後の一人になって、願いを叶えるしかない。
そうすることでしか、奪われたものを取り返せない。
戦わなければ、生き残れない。

鏡の中に飛び込む。
nのフィールドから直接探した方が早いと思ったからだ。
しかしその判断とは裏腹に、彼女の足取りは遅い。
両足に鉄球の付いた枷を嵌められているかのように鈍重である。
いや、実際に彼女の足には枷が嵌っていた。
足だけではなく、腕にも、胴体にも、解除したはずの首にすら枷が嵌められている。
今の彼女は罪悪感という枷で雁字搦めにされていた。

身体がどうしようもなく重い。
一歩進むだけで、全身が軋むように痛む。
それは体の痛みではなく心の痛み。
かつてのつかさがそうだったように、精神が肉体に及ぼす影響は存在する。
身体が丈夫だろうと、巨大な力を持っていようと、心が限界を迎えてしまっては意味が無い。
今の翠星石にもはや動けるだけの活力はない。
彼女の心は死んでいた。
それでも、前に進むしかない。
涙を流しながら、重い身体を引き摺って、ひたすら前に進み続ける。
前に進まなければ、枷を外すことはできない。
前に進むことでしか、彼女の罪が精算されることはないのだ。

つかさのように誰かが傍にいれば、翠星石は復活の兆しを見せたかもしれない。
だが、彼女の傍には誰もいなかった。
手を伸ばしても、彼女の手を取る者はいない。
最後まで傍にいたはずの薔薇水晶すら、翠星石を拒絶して死んでいった。

「どうして……どうしてなんでですか……?」

薔薇水晶は自分を利用していた。
彼女は姉妹ではなく、ずっと自分を騙していた。
それに気付いた時、翠星石の心には深い悲しみと怒りが渦巻くようになった。
燃え盛るような怒りと、それ以上に押し寄せてくる悲しみ。
怒らなければいけないのに、どうしてか悲しみが止まらない。
壊れている心の中で、極大の怒りと悲しみが鬩ぎ合っている。
しばらく考え続けたが、やがて避けるように別の思い出へと目を背けた。

――――レディーは人前で涙を見せない、そうですよね、真紅?

かつて、真紅のローザミスティカを受け継いだ時に翠星石が放った言葉。
そう決意したのに、彼女はずっと泣き続けていた。
ミギーが死んだ時も、警察署を離れた後も、水銀燈やLが死んだ時も。
他にも至るところで翠星石は涙を抑えられなかった。
涙を見せないという約束さえ、翠星石は守ることができない。
一度気付いてしまうと、翠星石の中にある自己嫌悪は止まらなくなる。
傍にいたにも関わらず、蒼星石を死なせてしまった。
水銀燈の仇を取ると約束したはずなのに、未だにシャドームーンは生きている。
そして、真司を殺――――
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
569 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:56:14.45 ID:jQ2D6Xxu
「違う!」

周りで聞いている者など誰も居ないのに、翠星石は己の罪を否定する。
真司を殺したのはシャドームーンでなければならないのだ。

「違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 違う! 全部違うッ!!!!」

未だに仇を取れないのは、他の連中が邪魔をするせいだ。
蒼星石が殺されたのは、泉こなたが余計なことをしたせいだ。
涙が止まらないのは、こんな場所にいるせいだ。
全身に付いた枷を投げ捨てるかのごとく、翠星石は何度も何度も叫び続ける。
罪悪感が振り払われ、後に湧いてきたのは途方も無い憎悪。
シャドームーンも、狭間も、ヴァンも、北岡も、つかさも、上田も、クーガーも。
どいつもこいつも邪魔だ。
全員死ねばいい、私が殺してやる。
蔦で縛り付けて、両手両足を鋏でちょん切って、目ん玉を轍で貫いて、口から花弁を流し込んで、最後には翼から作った龍で噛み殺してやる。

「ヒヒ……ヒヒャ……イヒャハハハ……」

翠星石の顔が歪な笑顔に染まる。
その笑顔には、かつてのような快活さは微塵も無かった。


  ☆ ☆ ☆


「どういう風の吹き回しだ」
「……翠星石は決めたんです」

リュウガの傍に舞い降りた翠星石。
その黒翼を仕舞いながら、亡霊のように生気のない顔を上げる。

「日常を取り戻す……お前らを全員殺すって」
「それで?」

ヒノカグツチを構えたリュウガは、独白する翠星石に問い掛ける。
答える前にシャドームーンとナイトを一瞥し、光の消え失せた目で睨み付ける翠星石。
そうしてリュウガへと目線を戻し、淡々とした声で言い放った。

「だから……お前と契約するです」

契約の申し出を。

全員を殺し、願いを叶えると決めた翠星石。
そのためには一人で戦い続けるしかない。
最終的に生き残るのは一人だし、狭間達と力を合わせるなど論外である。
だが、一人だけ協力できる人間がいることに気付いた。
狭間やシャドームーンと敵対していて、それでいて優勝を目指している人間がいるではないか。

「テメエ、なに考えてやがる!」
「黙るです! テメーよりはまだコイツの方が信用できると思っただけですよ!」

怒鳴り声を上げるナイト。
契約の意味は分からないが、リュウガと手を結ぼうとしているのは伝わったようだ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
572 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:57:12.04 ID:jQ2D6Xxu
「それに……どうやらソイツはお前らを裏切ったようじゃないですか!
 ぷぷぷっ、いい気味です! そんな奴を信用するからこうなるんです!」

シャドームーンを指差しながら、翠星石はナイトを嘲笑する。
彼女は契約の詳しい概要を知らないため、シャドームーンが謀反を起こしたように見えているのだ。

「いいぜ、力を貸してやる」

そんなやり取りを傍観していたリュウガが、満足そうに宣言する。

「させるかよ!」

契約を妨害するため、ナイトとシャドームーンが同時に動く。
彼らを横目で見たリュウガは、デッキから新たなカードを引き抜いた。

――――SURVIVE――――

リュウガと翠星石を中心に、螺旋状の黒炎が竜巻のように巻き上がる。
炎の防壁に閉ざされ、彼らは立ち止まらざるを得なかった。

「協力できるのは他の連中が全滅するまでだぜ?」
「それで構わねーですよ。最後にはお前もぶっ殺してやるです」
「いい返事だ。それで契約ってのはお前の指輪に接吻するんだったか?」

黒炎が世界を閉ざす中、リュウガと翠星石は言葉を交わす。

「その必要は無ぇですよ。包帯お化けにキスされるなんざ怖気が走るです」
「そうかい、ならどうするんだ?」
「手を貸しやがれです」

翠星石の指示に従い、分厚いグローブに包まれた手を差し出すリュウガ。
差し出された手を小さな両手で触れる翠星石。
二人の手が鋭い深紅色の閃光に包まれる。

「終わったですよ」

いつの間にか閃光は消え、左手の薬指に黄金の薔薇を模した指輪が嵌められている。
これも水銀燈が所持していた力を奪う能力の応用だ。
相手に拒否する意思がなければ、正式な手順を省いて契約を結ぶことが可能になっていた。

そして、リュウガの身体に変化が発生した。
胸部の鎧に龍の貌が現れ、全身の装甲が鋭く尖っていく。
これ自体はサバイブによる変化だが、身体の底から溢れ出る力が前回とは比べものにならない
太陽に匹敵する力が宿るのを、リュウガははっきりと感じていた。

通常の契約は媒介(ミーディアム)となる人間が、人形に力を与えるものだ。
しかし、今回の契約は逆。
契約により繋がったパイプを利用し、翠星石が逆に力を送り込んでいるのだ。
キングストーンから溢れる余剰エネルギーを。
強すぎるその力は彼女に負荷を掛けていたため、志々雄という逃げ場を作ったのである。
さらに媒介を得たことで力の射出口は広がり、翠星石はより安全に大きな力を振るえるようになっていた。
志々雄はキングストーンの力を手に入れ、翠星石は多すぎる力を押し付けることができる。
契約という名に相応しいWin-Winな関係だ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
577 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:59:27.96 ID:jQ2D6Xxu
「これで契約成立ですね」

乾いた声でそう言いながら、リュウガの顔を見上げる翠星石。
何かに気付いたように瞳孔を見開き、縋るように小さな手を伸ばしてくる。
だが、すぐにその手は降ろされた。
一瞬だけ生気が戻ったように見えた瞳は、今は再び暗黒が閉ざしている。
あからさまに不可解な行動だが、そんなものリュウガには関係ない。
何度か掌を開閉し、グッと力強く握り締める。
その装甲は分厚さと鋭さを増したサバイブ形態のものだ。
いや、今の彼はサバイブすら越えている。
その全身はより純度の高い漆黒、その双眸は全てを威圧せんと煌めく深紅。
黒炎の幕が上がり、目の前に二人の敵が現れる。
創世王・シャドームーンと、仮面ライダーナイトに変身したヴァン。
ナイトもサバイブを発動したのか、銀色の装甲は鮮やかなメタリックブルーへと変わっていた。

「さぁ、第二局戦の開幕だ」

愉悦を噛み締めるように、志々雄は高らかに言い放つ。
宣言と同時に疾走するシャドームーン。
人工筋肉・フィルブローンにより瞬発力を利用し、あっという間にリュウガとの間合いを詰める。
即座にサタンサーベルを抜き、横一文字に斬りつけた。

「人間の力など、どこまで行っても無力なことを証明してやる」
「いつまでもデカい面してると痛い目に遭うぜ、王様よぉ!」

サタンサーベルをヒノカグツチで受け止める。
魔剣同士の激突は、周囲のものを全て吹き飛ばすほどの衝撃波を生み出す。
だが、シャドームーンもリュウガも不動。
ナイトが足を止めてしまう衝撃の中でも微動だにしない。

「ッッシャアアァァァ!!」

リュウガの全身が紅い光に包まれ、ヒノカグツチの刀身が灼熱の炎に覆われる。
次の瞬間、少しずつ拮抗が崩れ始めた。
ヒノカグツチの刃が、サタンサーベルを押し返していく。
刃から溢れる炎が、シャドームーンの鎧を焼いていく。
リュウガがシャドームーンを押しているのは明白である。
紅龍の影と契約した仮面ライダー・リュウガ。
選ばれた戦士の進化を促す切り札・サバイブ――烈火――。
所持者の力を大幅に上昇させる炎の魔剣・ヒノカグツチ。
あらゆる奇跡を現実とする太陽の輝石・キングストーン。
それらを操るのは、業火の底より蘇った幕末の悪鬼・志々雄真実。
異世界の神秘を貪欲に吸収し続けた志々雄は、創世王に匹敵する力をその掌に収めつつあった。

「余所見してる暇があるですかッ!?」

ナイトの足元に被弾した羽が地面を抉る。
上空に飛翔した翠星石が、先の戦闘と同じように黒翼から羽の弾丸を射出しているのだ。
だが、今までとは威力も速度も量も違う。
契約により力が安定したことで、翠星石の能力はさらに強大さを増していた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
578 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 00:59:58.43 ID:jQ2D6Xxu
「ヒ〜ヒヒヒッ! 走れ走れです! 翠星石が見えなくなるところまで走るですよぉ!」

サバイブにより上昇した俊敏性を活かし、ナイトはひたすら走り続ける。
羽は彼の足取りを辿るように地面に突き刺さっているが、このまま逃走劇を続けても戦況が好転することはない。
彼女の羽に弾切れなどなく、その気になれば永遠に追い回すことすらできるからだ。
そもそも翠星石は四人掛かりで挑んでも歯が立たなかった相手。
ナイトサバイブに変身しているとはいえ、天と地ほどの実力差が存在するのは確かなのだ。
制空権を握られている状況では万に一つの勝ち目もない。
そう判断したナイトは、デッキから一枚のカードを引いた。

――――ADVENT――――

翠星石よりさらに頭上から現れたのは、両翼にホイールが備わった蒼色の蝙蝠・ダークレイダー。
サバイブの力によって、ダークウイングが進化した姿だ。
ダークレイダーは目にも留まらぬ速度で急降下し、ナイトが飛び乗るとその勢いのまま急上昇する。

「これで同じだな」
「けっ、自分も空を飛べるからって偉そうにすんじゃねぇですよ!」

翠星石の十指から伸びたのは大量の轍――――ではなく茨。
契約者を得たことで能力が強化され、細長かった轍は十分な太さと刺を持った茨へと姿を変えた。
れこそが本来の雛苺の力である。
風を切りながら直進する茨は、あっという間にナイトの間合いを侵略する。
ダークレイダーを絡め取って、地面に叩き付けるつもりなのだろう。

「偉そうにしてんのはお前だろ」

茨が絡み付こうとした瞬間、ダークレイダーは急加速する。
斜め上へと飛翔し、迫り来る茨を回避。
翠星石の頭上へと移動し、彼女に向けて真空の刃を飛ばす。

「……お前もッ、そういう戦い方ですか!」

苦々しく顔を歪め、額の上にバリアを張る翠星石。
真空の刃は障壁に突破できずに消えてしまう。
そのままもう片方の手を伸ばし、今度は薔薇の花弁の群れを吹雪のように飛ばした。
広範囲を一斉に埋め尽くす花弁ならば、ナイトを捉えられると踏んだのだ。
しかしその判断とは裏腹に、ダークレイダーは高速飛行で吹雪を迂回してしまう。
それも当然だ。
ダークレイダーの最高飛行速度は時速950kmであり、速度に限れば完全に翠星石を上回っていた。

―――SHOOT VENT――――

ナイトの左腕に装備されたダークバイザーツバイの両端が開き、弓のような形態と化す。
シュートベント・ダークアロー。
周囲のエネルギーを吸収し、光の矢を連射する射撃武器だ。

「飛び道具は趣味じゃないが、今だけは感謝しないとな!」

弓に充填された光の矢が連続発射され、さらにダークレイダーが真空の刃を飛ばす。
翠星石は咄嗟にバリアを展開するが、襲い来る衝撃は彼女の想像を越えていた。
ダークアローの3000APを実数値に換算すると150t。
さらに狭間のザンダインに匹敵する真空の刃が、全て同時に着弾したのだ。
ガラスが割れるように破片を散らしながら破られるバリア。
殺し切れなかった衝撃は翠星石を襲い、甲高い悲鳴を上げた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
582 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:01:54.82 ID:jQ2D6Xxu
「痛ってぇじゃねーですか、このぉ!!」

だが、この程度で翠星石は倒れない。
今の彼女は世紀王の力を有しており、バリアで相殺された攻撃は負傷のうちにも入らないだろう。
踏み止まった翠星石は、怒りを顕にしながら花弁と茨を繰り出した。

その後も似たような展開が続く。
翠星石の攻撃を避け、遠距離から射撃で反撃。
剣が主な武器であるナイトはヴァンと相性が良く、翠星石との実力差を経験で埋めていた。
バリアが無意味と判断した翠星石は回避に専念するが、速度で劣るため全ての攻撃を躱し切ることはできない。
しかし、キングストーンの余剰エネルギーによる防御がある。
これにより技の威力は削がれ、翠星石にまともなダメージを与えることができない。
互いに決め手が無いため、膠着状態に陥りつつあった。

「キャアァッ!!」

光の矢が翠星石の脇腹を掠る。
大した威力はないはずだが、彼女は攻撃が掠るだけでも悲鳴を上げていた。
痛みに馴れていないのか、攻撃されること自体が怖いのか。
どちらにしろ彼女の悲鳴を聞く度、ナイトの脳裏に言葉にできない不快感が過った。
今でこそ敵対しているが、彼女とは肩を並べて戦った仲だ。
成り行き上の共闘だったが、真司の死があるまでは同じ敵を見据える仲間だったのである。
それが今では互いの命を奪い合う敵同士になっている。
かつての仲間だったからといって、手加減をするほどナイトは甘くない。
しかし、不快感を払拭することはできなかった。

「胸糞悪ぃ……」

不快感を噛み殺しながら、ダークアローを発射するナイト。
飛び道具は専門外だが、ここに至るまで大きな失態を犯すことはなかった。
だが、それもここで終わる。
光の矢は翠星石の一メートル以上横をすり抜け、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。

「な、に……?」

ナイトが無意識に手加減したわけではない。
彼は右目を欠損していたため、単純に標準を定めるのに失敗したのだ。
飛び道具を扱う者にとって、目の異常は致命的な問題である。
かつてレイ・ラングレンの視力が低下した際、銃の命中率が大幅に落ちたのがいい例だ。
片目で馴れない飛び道具を扱い、空中を駆け回る翠星石を狙うこと自体がそもそも無謀だったのである。

訪れた好機を翠星石は逃さない。
庭師の如雨露を取り出し、内部に満ちた水をナイトへと降り注ぐ。
如雨露から放たれる水は本来なら微量だが、これもキングストーンと契約により大幅に性能が上がっている。
溢れ出た水は小規模の波となり、うねりを上げながらナイトへと襲い掛かった。
ダークレイダーと共に上空へ避難するナイト。
だが、次の瞬間には異常な速度で成長する植物の群れが彼の眼下に迫っていた。
地上に落下した水が複数の植物を生み出し、一斉にナイトへと襲い掛かったのだ。
水と植物による二段構えの攻撃。
押し上げてくる植物を躱すことができず、ナイトとダークレイダーは空に突き上げられる。
声を上げて笑う翠星石。
空中で回避行動を取れないナイトへと、彼女は更に花弁と黒羽を連射した。

――――BLAST VENT――――

ダークレイダーの両翼にあるホイールが高速回転し、そこから竜巻が発生する。
回避行動を取れないが、反撃なら可能だった。
発生した竜巻は羽や花弁を巻き込み、翠星石へと襲い掛かる。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
585 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage、どなたか新スレの用意をお願いします。]:2013/10/10(木) 01:02:55.37 ID:jQ2D6Xxu
「けち臭いことすんじゃねぇです!」

花弁や羽は一つ一つが非常に軽いため、竜巻で一斉に吹き飛ばすことが可能だ。
予想外の事態に面食らったものの、翠星石はバリアを展開して竜巻を防ぐ。
この程度の威力では、六つの賢者の石から織り成す防御壁を打ち破ることはできない。

それは、ナイトも理解していた。

「チェエエエエエス!!」

竜巻に乗じて翠星石に接近するナイト。
自らの展開したバリアに視界を遮られ、翠星石は直前までそれに気付くことができない。
ナイトはバリアを足場にして跳躍。
両手でダークブレードの柄を握り、上空からその剣撃を叩き付ける。
竜巻でバリアを消費してしまった以上、彼女に不意の一撃を避ける手段はない。
脳天を斬り付けられた彼女は、劈くような悲鳴を上げながら地上へ落下した。

そして、ナイトはさらに追撃を行う。
落下しながら装填したのは、ファイナルベントのカード。
地上に到達したダークレイダーはその姿をバイクへと変え、落下するナイトを座席に受け止めた。

「悪く思うなよ」

ダークレイダーの機首から青い光線が放射され、翠星石の動きを停止させる。
この光線で相手を拘束し、ダークレイダーで突貫する。
これこそがナイトサバイブのファイナルベント――――疾風斬。
かつての仲間を相手にこれを使うのは憚られたが、翠星石の殺意は本物であった。
手加減している余裕などない。

――――FINAL VENT――――

隕石のように降り注ぐ無数の火炎弾。
前方に視線を移すと、そこにあるのはブラックドラグランザーに騎乗するリュウガの姿。

「その人形を潰されたら俺が困るんだよ」

翠星石の危機を察知したリュウガがファイナルベントを発動したのだ。
龍の姿からバイクへと変形し、ナイトを轢き殺そうと駆け抜ける。
このまま翠星石を轢くことも可能だが、そうしたらリュウガを迎撃することができない。
リュウガサバイブのファイナルベント――――ドラゴンファイヤートルネード。
龍騎サバイブのドラゴンファイヤーストームに酷似しているが、その威力は大きく上回っている。
故にナイトは方向転換し、リュウガとの正面衝突を選んだ。

「バトルホッパーッ!」

続いて、シャドームーンも叫んだ。
この空間にバトルホッパーは存在しないが、それは何の障害にもならない。
シャドームーンが抉じ開けた穴から姿を現すバトルホッパー。
王の呼び付けとあらば、別の次元にいようと駆け付けるのが騎馬の役目だ。
駆け付けたバトルホッパーに飛び乗ると、シャドームーンはキングストーンのエネルギーを全身に巡らせる。
そのエネルギーはバトルホッパーすらも覆い尽くし、王と騎馬は翠緑の光の中で一体化した。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
589 :叶えたい願い-志々雄真実 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:04:57.45 ID:jQ2D6Xxu
疾風斬 vs ドラゴンファイヤートルネード vs バトルホッパー。

仮面ライダーの象徴たるバイクによる必殺技。
その頂点を決するための火蓋が切られようとしている。
勝利するのは蒼嵐の騎士か、黒炎の龍牙か、それとも仮面ライダーの宿敵である創世の王か。
ナイトのマントが翼のように広がり、ダークレイダーを包み込む。
ブラックドラグランザーの頭部が持ち上がり、石化効果のある火炎球を吐き出す。
シャドーチャージャーから雷光が迸り、シャドームーンとバトルホッパーは視認できないほどの輝きを放つ。


そして、三者は急加速。


音速をも超越した三つのバイクは一斉に衝突した――――

「――ッ!!」

車体が弾け飛ぶ。
激突による衝撃で大爆発が発生し、その余波で三者は宙に放り投げられる。
三種の絶技による決戦の勝者は――――いない。
しかし、敗者は一人だけいた。

「ぐああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

敗者の口から悲鳴が漏れる。
その正体は、仮面ライダーナイト――――ではなくヴァン。
激突の衝撃でダークレイダーは破壊され、ナイトのデッキも砕け散ってしまった。
彼を敗者に貶めた原因は二つ。
一つ目は火炎弾の妨害で速度が低下していたこと。
二つ目は単純な性能差によるものだ。
疾風斬のAPが8000なのに対し、ドラゴンファイヤートルネードのAPは10000。
それでも十分過ぎる値だが、この瞬間に限っては致命的な差に成り得た。

敗北したヴァンは炎に巻かれながら地面に墜落し、それでもなお地面を転がり続ける。
ようやく停止した時、彼の意識は完全に失われていた。
シャドームーンとリュウガも衝撃が抜けないのか、未だにその場を動くことができない。
そんな中、ぺたりと足音が鳴る。
ヴァンにトドメを刺そうと、翠星石が迫っていたのだ。

「ヒヒッ、いいザマです」

庭師の鋏を見せつけるように振り被る翠星石。
爆発の余波で肌や衣装が僅かに焦げているが、もはやそんなことは関係無かった。

「薔薇水晶の……薔薇水晶の――――」

呟いた言葉は本人の耳にすら届かない。
心の中で眠る蒼星石の魂が冷たくなった気がしたが、今の彼女には関係無かった。

「死ねですううううぅぅぅぅ――――ッ!!」

目を瞑り、翠星石は鋏を振り下ろす。
意識のないヴァンに、それを避ける術は無かった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
591 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:06:28.26 ID:jQ2D6Xxu
「――――衝撃の」


風が、吹く。


「ファーストブリットォォォォ――――ッ!!!!」

そよ風から一瞬で突風に成長した風は、翠星石の手元から鋏を蹴り飛ばした。
衝撃の余波で彼女は吹き飛ばされ、無様に地面を転がる。
だがすぐに立ち上がり、自らを蹴り飛ばした男の名を告げた。

「クーガーッ! またお前ですか」
「はい、俺です」

ストレイト・クーガー。
共闘し、敵対し、今もなお翠星石の前に立ち続ける男。

「翠星石の邪魔をしに来たですか」
「ええ、あなたが本当の自分を取り戻すまで、何度でも邪魔をし続けます」

自らの一回りも二回りも大きな男に見下ろされるが、今の翠星石に怯えはない。
クーガーが自分よりも圧倒的に弱いことを理解しているからである。
虚勢を張っているが、今のクーガーは血塗れだ。

「やめといた方がいいですよ、今のお前じゃ翠星石の邪魔なんて出来っこ無ぇです」
「俺を心配してくれるんですか? 嬉しいですねぇ」
「誰がお前なんかを心配するですか!」

忌々しげに睨み付けると、クーガーは朗らかに笑う。
この期に及んでどうしてクーガーは笑えるのか、翠星石は理解することができない。
彼の制服の左胸の部分には大きな穴が開いている。
そこに刻まれているは翠星石の罪の証。
今は塞がっているが、それでも痛々しい傷跡は残っていた。

「どうして、お前は怒らねぇですか」
「怒らないですか、なにか勘違いをしていませんか?」

クーガーの顔から笑みが消える。

「俺は怒ってますよ
 笑いながら誰かを殺そうとする奴に、怒りを抱かないわけがないでしょう」

カズマや劉鳳のように感情を剥き出しにしたわけではない。
しかし、彼らが激昂した時と同様に鉄のような威圧感がそこにはある。

「女性を怒鳴りつけるのは俺のプライドが許さない、だから顔には出さないようにしてるだけです」

かつて一度だけクーガーが同じ顔をしたことがあった。
自らの罪を自覚すらしていなかったシャナに対し、落とし前を付けようとした時だ。

「そ、そんな顔で翠星石を見るなです! お前が……お前が悪いんですッ!
 なんで、どうしてシャドームーンの味方になるですか! アイツは真司を殺したのにッ!!」

翠星石の身体から紅の閃光が迸る。
彼女の感情に呼応し、キングストーンの力が噴出したのだ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
594 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:08:34.41 ID:jQ2D6Xxu
「城戸を殺したのはシャドームーンじゃない、貴女です」
「黙れ! 真司を殺したのは翠星石じゃない! 翠星石が真司を殺したなんてことがあっちゃいけないんですッ!!」

翠星石の手から花弁による花吹雪が放射された。
今までとは桁違いの物量の花弁が宙を舞い、一斉に咲き乱れる。
だが、クーガーは既に別の場所に移動していた。

「死ね! 死んでしまえ! シャドームーンも! 狭間も! お前も!
 そうしたら皆は戻ってくるです! お前達が死ねば真司達は戻ってくるですッ!!」

如雨露から水を撒き散らし、クーガーが逃げた先に向かって津波を発生させる。
迫り来る津波を上空に跳躍して避難するクーガー。
その足元から大量の植物が伸び、彼の身体を瞬く間に呑み込んでいく。
上空にいたため回避行動が取れなかったのだろう。
後は植物で絞め殺してしまえばいい。

「貴女は本気なんですね」

根本から消滅していく植物。
消滅したそれは光の粒子に変換され、その内側へと吸い込まれていく。
風が吹いている、と翠星石は思った。
植物が中程まで消えると、淡い虹色の光が周辺一帯を照らす。
その中心にいるのはストレイト・クーガー。
両脚だけではなく、全身が桃色の装甲で覆われている。
後藤との戦いでより鋭さを増し、己を貫くための進化したラディカル・グッドスピードの最終形態。

「なら俺も本気で行きます。全力で、全速力で貴女を止めます」

フォトンブリッツ。
己の命を燃やし、速さへと昇華させる力。
それを纏ったということは、クーガーが本気を出した証だった。


  ☆ ☆ ☆


「酷い……」

目の前の惨状を目の当たりにして思わず呟くつかさ。
クーガーが離脱した後、彼らが向かったのはヴァンの下だった。
ヴァンの負傷具合は遠目にも理解できたので、一刻も早い治療が必要だと考えたのだ。
だが、彼の状態は想像を絶するほどに酷い。
漆黒のタキシードは引き裂かれ、内側の傷から大量の血液が染み込んでいる。
左腕の関節はあらぬ方向へと曲がり、肋骨は皮膚を突き破って露出。
顔は血と火傷で真っ赤に染まり、片方だけになった眼球ももはや機能していないようだった。


「……ぅ……」
「喋らないでください! すぐに治しますから!」

ヴァンが何かを伝えようとするが、顎の骨が砕けているせいで呻き声にしかならない。
それでも顎を動かそうとするヴァンを制止し、つかさはリフュールポットを使った。

「……すいません」

リフュールポットは全快させるまでは至らなかったが、普通に会話できる程度には彼を回復させた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
599 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:11:28.37 ID:jQ2D6Xxu
「えぇーっと……」
「俺は北岡秀一、こっちは柊つかさちゃんだよ」
「俺はヴァン、今は無職のヴァンで通ってる」

今更過ぎる自己紹介だが、ここに至るまで彼らはまともな会話を何一つしていないのだ。

「何があったか教えてくれないかな?」
「……あの人形と志々雄が組んで、俺がアイツらに負けた。それでナイトのデッキがぶっ壊れた」
「ナイトのデッキが……予想以上にまずいことになってるな。
 つかさちゃん、やるなら早めの方がいいんじゃない?」

戦況が想像以上に悪化していることを知り、北岡は臍を噛む。
ナイトのデッキが破壊され、狭間はまだここに来ていない。
こちらの戦力がクーガーと北岡しか居ないにも関わらず、敵はシャドームーンと志々雄と翠星石の三人。
質でも量でも大きく劣っていると言わざるを得ない。

「アンタ、ここは危ないから早く逃げた方がいい」

上半身を起こしながら、ヴァンはつかさに目を向ける。
敵の力はあまりに強大であり、彼女のような一般人がいるのは危険極まりない。
その判断の下、ヴァンは撤退を進言する。

「それは出来ません、私にはやりたいことがありますから」

だが、つかさは自分から残る道を選んだ。

「そうか」

それだけ言うと、ヴァンは眠たそうに目を擦る。

「なら、さっさと行ってこい」
「はい! 行ってきます!」

自らのやりたいことに向かって走って行くつかさ。
その背中を見送りながら、ヴァンはウェンディのことを思い出していた。
旅の途中から彼女と同行するようになり、いつの間にか世界の命運を賭ける騒動に巻き込まれていた。
彼女に戦う力は無いが、それでも何かをしようと懸命に動き続けていた。
そんなところをつかさと重ね合わせたのだろうか。

「おたくさ」

哀れむような声色で語り掛けてきたのは北岡だ。
まだ居たのかと言おうとして、強烈な眠気に遮られる。

「いいの?」

主語も述語もない、あまりに不明瞭な問い。

「いいから、さっさと行けよ」

だが、ヴァンにはその質問の意図は伝わっていた。
気怠げに返事をすると、北岡は哀れむような視線を送りながら走り去っていく。
その背中を見送ろうとして、身体は崩れ落ちる。
起こした上半身は血の海に沈み、全身から零れ落ちるように力が抜けていく。
ヴァンはあまりに血を流しすぎた。
リフュールポットは外傷を治すことはできても、漏れ出た血液の生成まではできなかった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
605 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:14:38.06 ID:jQ2D6Xxu
「エレ――……」

身体に力は入らず、指一本すら動かない。
どうしようもないほどに眠い。
かつて死と直面した時は途方もない恐怖を感じたが、今はただただ眠いだけである。
大切な花嫁の名前を呟こうとして、ヴァンの意識は微睡むように堕ちて行った。


  ☆ ☆ ☆


散布される花弁や羽がクーガーの機動力を削ぎ、茨や津波が彼の背中を追う。
更に黒竜の顎や植物が上下から襲い掛かる。
一人で数人分の力を操る翠星石は、今や誰よりも多彩な能力を操ることができた。
攻撃も、防御も、補助も、今の彼女に勝る手数を持つ者はいない。

「翠星石さん! 貴女は確かに色々なものを持っている!
 情熱も! 気品も! 優しさも! だが、しかし、足りないものが一つだけある!
 それは速さだ! 貴女には圧倒的に速さが足りないッ!
 貴女は確かに強い! だが速さが無ければその強さに無意味!
 どれだけ多彩で強力だとしても、当たらなければ意味は無いぃぃぃぃ――――ッ!!!!」
 
だが、それらはクーガーには通用しなかった。
翠星石がどれだけ多彩な能力を持っていても、クーガーの速さの前には意味が無い。
花弁や羽が機動力を奪ったところで、彼の速さには誰も追い付けない。
茨や津波が背中を追ったとしても、最速の前ではあまりに遅すぎる。
黒竜の顎や植物が上下から襲ったとして、見てから避けることなど余裕だ。

「なんで、どうして当たらないですか!」

最速で避けてしまえば、防御など必要ない。
クーガーの全速力の前に、翠星石は完全に翻弄されていた。

「クーガーさん!」

攻撃の合間を縫って現れたのは、つかさと北岡の二人。
彼らの姿を視認した翠星石の顔が憎々しいと言わんばかりに歪んでいく。

「お前ら……よくものこのこと翠星石の前に顔を見せれたですね」

翠星石の全身を覆っているのは紅の光。
つまりはキングストーンの光であり、シャドームーンと同等の威圧感を放っているのだ。
Cの世界に刻まれたゴルゴムへの根源的な恐怖が、つかさと北岡の身体を震わす。

「ぷっ、お前ら震えてるじゃねーですか
 怖いなら引っ込んでやがれです、そしたらこいつを殺すまでは生かしといてやるですよ」

それに気付いた翠星石は笑いを堪えるように口元を抑える。
つかさや北岡の実力など高が知れており、本気になれば彼らの殺害などあまりにも容易い。
蟻と象が対峙しているようなものだ。
端から勝負になっていない、そもそも視界にすら映ってないのである。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
608 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage 新スレありがとうございました]:2013/10/10(木) 01:17:34.48 ID:jQ2D6Xxu
「……翠星石は引っ込んでろって言ってるですよ、聞こえなかったですか?」

なのに、つかさも北岡も退こうとしない。
戦う力のない人間のはずなのに、彼らは翠星石を見上げている。
震えはいつの間にか止まっていて、その目には確固たる力強さが宿っていた。

「翠星石ちゃんとお話がしたくてここに来たの」

翠星石の目を見ながら、つかさは宣言する。
その表情からは一欠片の恐怖も感じられない。
北岡やジェレミアの後ろに隠れていた少女と同一人物なのだろうか。
ひしひしと伝わってくる覚悟は、まるでシャドームーンと対峙する真司のようだった。

「そんな顔で翠星石を見るなですッ!!!」

翠星石は目を閉じ、代わりに広げた黒翼から大量の羽を射出した。

――――GUARD VENT――――

「やっぱこうなるよね」

素早く変身したゾルダは、巨大な盾・ギガアーマーを掲げてつかさを庇う。
肉厚の盾を突破することができず、突き刺さった羽は全て地面に舞い落ちた。

「攻撃は俺が全部防ぐから、つかさちゃんは翠星石との話に集中して」

ここに向かう道中、北岡はつかさの『本当にやりたいこと』について尋ねた。
その結果飛び出てきたのは、翠星石と話をすること。
最初は正気かと疑った。
今の翠星石が説得に応じるとは思えなかったからだ。
しかし彼女が一度決めたことであるし、クーガーの目的も翠星石の説得だった。
彼だけに任せておくのも心配であり、北岡も翠星石の説得に参加することにしたのだ。

「翠星石ちゃん……辛かったよね」

花弁や羽が降り注ぐ中、つかさは翠星石との対話を続ける。
恐怖がないといえば嘘になるかもしれないが、目の前にあるゾルダの背中は彼女の心からそれを拭い去っていた。

「そんなつもりは無かったのに、城戸さんを殺しちゃって」
「黙れです……」
「味方が誰もいなくなっちゃって、それで――――」
「黙れと言ってるです!!」

上空から無数の茨が伸び、絡み付いて槍と化す。
だがマグナバイザーから大量のエネルギー弾が迸り、茨は中程から真っ二つに折れた。

「知った風な口を聞くなです! 私のことを何も知らない癖に……」
「分かるよ、だって私も同じだから」

翠星石の動きが止まる。

「私も、人を殺しちゃったから」

つかさの言葉が信じられなかったのか、翠星石の表情が驚愕に染まっていく。
しかししばらくするとそれは愉悦へと変わり、くつくつと嫌らしく笑い出した。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
613 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage 容量ぎりぎりまでこちらで投下します]:2013/10/10(木) 01:19:08.94 ID:jQ2D6Xxu
「こなたといいみなみといい、やっぱりお前らは人殺しの仲間ですね」
「お前、またそんなこと言って!」
「北岡さん、大丈夫ですから」

降り注ぐ言葉に北岡が怒りを見せるが、つかさがそれを宥める。

「聖人君子を気取るつもりですか〜?
 でも無駄ですよ! お前が人殺しをしたっていう罪からは逃れられないです!」
「……逃げるつもりはないよ」
「え?」
「私がルルーシュ君と浅倉さんを殺したことは、これから一生背負っていくよ」

翠星石の暴言に臆することなく、つかさは自らの言葉を述べ続けていく。

「ひ、開き直るつもりですか!?」
「開き直ってるように見えちゃうかな、けど……これが誰かの命を奪った人の責任だと思う」
「責任……?」
「私もルルーシュ君を殺した後にとっても辛くなって、私なんか居なくなればいいって思った
 でもそんな私にも出来ることがあって、必要としてくれた人がいたから、だからここまで来ることが出来たの」
「な、何が言いたいですか……お前は!」

翠星石の語調が微かに弱くなっている。
つかさの言い知れぬ迫力に気圧されつつあるのだ。
 
「だから、翠星石ちゃんも自棄にならないで」
「お、お前は翠星石が自棄になってると言いたいんですか!?」
「うん、今の翠星石ちゃんは自棄になってる
 北岡さんに会ったばかりの時や、さっきまでの私みたいに」
「馬鹿にするなです! 翠星石は自棄になんかなってない!!」

激昂した翠星石は庭師の鋏を現出させ、つかさへと急降下する。
ゾルダが即座に盾で庇ってくるが、本当の狙いは鋏による接近戦ではない。
盾の隙間からもう一方の手を伸ばし、茨で串刺しにすることだ。

「させません」

伸ばした手が押さえつけられる。
いつの間にか横に来ていたクーガーが、翠星石の細い腕を握り締めていた。

「離しやがれです」
「そうやってムキになるのは、貴女も自覚してるからなんじゃないですか?」
「ッ、うるさいです!!」

全方位に向けて花弁を散布する翠星石。
ゾルダの盾では庇いきれない範囲の攻撃だったが、クーガーがつかさを素早く回収したことで事なきを得た。
だが、その間に翠星石は再び飛翔してしまう。

「お前らは敵ですッ! 翠星石の邪魔をするなら敵ですッ! だから殺してやるですッ!!」

喚き散らしながら、翠星石は無作為に羽を撒き散らす。
標準は滅茶苦茶であり、まるで子供が物に当たり散らしているようである。
それでも尽きることのない弾幕は脅威そのもので、攻撃が止むまでクーガーもゾルダもひたすらに走り続ける他なかった。
そうして一分が経過した頃だろうか。
ようやく弾幕は止み、音が止まった世界では翠星石の吐息だけが響いていた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
615 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sagehttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1381335043/]:2013/10/10(木) 01:20:44.87 ID:jQ2D6Xxu
「そこまで俺達が敵に見えますか」

問い掛けたのはクーガーだった。
仮面に覆われて表情は見えないが、その声色は寂しげである。

「当たり前です! 翠星石を攻撃するお前らが敵じゃないわけないです!」

翠星石の顔は憤怒で歪み、敵愾心に満ち満ちている。
そこにかつての面影は無かった。

「今の貴女は自分が自分で無くなってしまうくらい、感情が壊れそうになってしまってるんですね」
「そんな哀れむような言い方はやめろです!」
「なら、俺がその感情を受け止めます」

クーガーはその場に制止すると、上空にいる翠星石を見据えるように正面を向く。

「怒りも、悲しみも、憎しみも、貴女の全ては俺が全部受け止めます
 その間俺達は攻撃しません、だから思いっ切りぶつけてください」

そうして、両腕を広げた。

 ☆ ☆ ☆


リュウガとシャドームーンの二人は戦い続けていた。
互いに負った傷は浅くないが、その程度で彼らが剣を収めることはない。
リュウガは体の香で傷を回復し、シャドームーンも傷の修復は始まっている。
剣と剣が衝突し、火炎と雷撃が火花を散らす。
創世王・シャドームーンの力は強大だが、リュウガが所持品から得ている恩恵は計り知れないものがある。
防御や速度ではシャドームーンに劣るかもしれないが、力と剣に関してリュウガが引けを取ることはなかった。

上から振り下ろされるサタンサーベルを身体の軸を逸らして回避。
即座に右腕に力を込め、裏拳で弾き飛ばす。
それでシャドームーンが体勢を崩したのを見逃さず、リュウガは袈裟懸けに斬り付ける。
だが、その斬撃をシャドームーンは力任せに掴み取った。

「簡単には討ち取らせてくれないようだな」
「貴様のような下賎な者に、この私が討ち取られると思うか?」
「下賎とは言ってくれるじゃねえか」
「人間どもから追い剥ぎを続ける貴様など、道端に転がる浮浪者にも等しいだろう」
「はんっ、弱い奴から全てを奪い取るのは当然だろ」

シャドームーンの掌を炎が焼き、白煙が立ち込め始める。

「なら……こいつはどうだ?」

ヒノカグツチの刀身が強烈な紅い閃光を放つ。
呼応するように炎が猛りを上げ、刀身に纏わりついていく。

「壱の秘剣――――焔霊!」

灼熱の炎を纏った斬撃は、シャドームーンの掌を斬り裂いた。
くぐもった声を上げ、たたらを踏むシャドームーン。
飛翔斬で罅割れていた装甲が砕け、人工筋肉・フィルブローンを燃やす。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
622 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sagehttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1381335043/]:2013/10/10(木) 01:21:53.83 ID:jQ2D6Xxu
「貴様のその光……キングストーンのものだな」

左腕の炎は未だ消えていないにも関わらず、シャドームーンは問う。
今の一撃を受けて、リュウガがキングストーンの恩恵を受けていることを確信したからだ。

「その通りだ、愉しく使わせてもらってるぜ」
「創世王といい人形といい貴様といい、何処までも私を侮辱しないと気が済まないようだな」
「だったら取り返してみたらどうだよ!」

ヒノカグツチを構え、突進するリュウガ。
胴体を狙った炎の一閃を、シャドームーンはサタンサーベルで受け止める。

「認めねばなるまい、剣の腕前においては創世王となった今でも貴様に劣ると」
「なら、とっとと死ねよ」
「だが、私の力は剣だけではない」

シャドームーンの全身が翠緑の光を纏う。
光量は先程のリュウガを凌駕しており、莫大なエネルギーが全身を駆け巡っているのだと推察できた。
そのエネルギーがシャドームーンの身体の中心、シャドーチャージャーへと集中する。

「シャドービーム!」

シャドーチャージャーから放たれる光の奔流。
全身から収集されたエネルギーは、極太の光線となってリュウガの身体を襲い掛かった。
咄嗟にヒノカグツチで防御するリュウガだが、何十メートルも押し込まれた末に爆発の中に呑み込まれる。
普通の人間であれば、今の爆発で跡形もなく消滅しているだろう。
しかし、シャドームーンは警戒を解かない。
相手がキングストーンの恩恵を受けている以上、何が起こるか分からないからだ。
そしてその予想は当たっていた。
爆煙の奥から紅の眼光が煌き、煙を飛散させて姿を現したからだ。

「生きていたか」

装甲に破損や欠損が見られるが、リュウガが致命傷を負っている様子はない。
翠星石のようにキングストーンのエネルギーを防御に回し、シャドービームを相殺したのだ。

「『しゃどーびーむ』ってのは如何程の物かと思ったが、言うほどでも無いな」
「フッ、どうだろうな」

シャドームーンが一笑すると同時に、リュウガの身体に異変が起こる。
鏡が砕けるような音が響き、サバイブが解除されてしまったのだ。

「エネルギーが尽きたようだな、その姿に戻った貴様に勝ちはない」

サバイブで互角だったのなら、通常形態での勝ち目は薄い。
それは曲げようもない事実だろう。
同盟を結んだ翠星石の助力も期待できない今、リュウガは窮地に落ちっている。

「……そろそろ潮時か」

それでも動じることなく、リュウガは背後に視線を配りながら不敵に呟いた。


  ☆ ☆ ☆


「お前、なに言ってるですか……?」

クーガーの放った言葉の意味を最初は理解することができなかった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
629 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:23:40.79 ID:jQ2D6Xxu
「おい! そんな約束勝手にするなよ」

抗議の声を上げたのはゾルダだ。
彼の背後で隠れていたつかさも、不安そうにクーガーを見ている。
だがクーガーは彼らに振り向かず、翠星石を見上げ続けていた。

「クーガー……私を馬鹿にしているですか?」

クーガーの言ったことを要約すれば、つまりは自分が攻撃を受け続けるということだ。
今の翠星石を相手にして、手加減をしている余裕があるのか。
クーガーは何度か攻撃を仕掛けてきたが、全てが容易く弾かれている。
攻撃しないのではなく、出来ないの間違いではないか。

「立場が分かってるですか? 
 今のお前は私より弱い、翠星石が上でクーガーが下です」
「そう思うなら、攻撃してみればいいじゃないですか」
「ッ! いい加減にしろですッ!」

挑発の返答に翠星石が放ったのは、黒翼から発射される無数の羽だった。
自動小銃にも匹敵する勢いで放たれた黒羽が、立ち尽くすクーガーへと降り注いでいく。
単調な攻撃ゆえ、彼の速さならば回避は容易。
しかし。

「ぐっ……!」

彼は降り注ぐ羽を避けなかった。
装甲は紙のように裂け、無数の弾痕が刻まれていく。

「おおおおおお前、なんで避けないですか!?」
「だから言ったじゃないですか、貴女の全てを受け止めると」

装甲の裂け目から血が滲み、足元へと滴り落ちる。
フォトンブリッツはあくまで加速装置であり、防具としての機能は薄いのだ。

「いいです、分かりました、お前がその気なら翠星石は――――」

苛立ちを隠すように翠星石は手を翳す。
その先にいるのはクーガーではなく、ゾルダとつかさ。

「翠星石さんッ!!」

ゾルダが盾を掲げるよりも早く、クーガーの怒号が響き渡る。
その声に怖気づき、翠星石の手が止まった。

「俺が受け止めると言ったんです、狙うなら俺にしなさい」
「お、お、お前! 誰に向かって命令してるですか!」
「貴女にお願いしてるんです」

今のクーガーは翠星石よりも弱い。
そのはずなのに、全身が竦んでしまう。
つかさの時もそうだった。
自分より弱いはずのに、どうして震えが止まらないのか。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
632 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:25:20.54 ID:jQ2D6Xxu
「すいません、北岡さん、つかささん、ここは腹を括ってもらえませんかね」
「出来ないよ、さっきから何考えてるのさ」
「翠星石さんに今の俺達は敵に見えてしまってます
 攻撃してくる奴が敵なら、俺達から攻撃しなければいい、それだけの話です」

そう言うと、クーガーは翠星石へと向き直る。
ゾルダが抗議の声を上げ続けているが、クーガーが返事をする素振りは見えなかった。

「どうしました? 攻撃しないんですか?」

クーガーの方に手を翳し、手から薔薇の花弁を噴射しようとする。
しようとして、手がガタガタと震え出す。
喉の奥から不快感が込み上げ、全身が悪寒に支配される。
そうして脳裏に蘇ってきたのは、クーガーを刺し殺してしまった時の感触だった。

「今ので確信しました」
「な、何をです……?」
「貴女には他人を傷つける覚悟はあっても、他人を殺す覚悟はない」

翠星石が攻撃が止んだのを契機に、クーガーは言葉を紡ぎ続ける。

「貴女は本気のつもりだったんでしょう、でもいざとなると手が止まってしまう、命を奪うことが怖いんです」
「そんなことない、私は真司達のためにお前らを殺さなきゃいけないんです!」
「いい加減、目を醒ましなさい!」

クーガーの叫びが、翠星石に叩き付けられる。

「今の貴女は城戸達のために戦ってるんじゃない
 城戸達のせいにして、周りに八つ当たりしているだけだ!」

ズドン、とハンマーで殴られたような衝撃が襲う。
今の今まで大嫌いな戦闘を続けてきたのは、真司達を蘇らせるという大義名分があったからだ。

「ご家族や仲間を失って、さらに自分で城戸を殺してしまって、貴女の心の痛みはよく分かります
 それでも、痛みに立ち向かおうとする貴女は立派でした
 しかし今の貴女は痛みから逃げて、自棄になって、憂さを晴らしているだけじゃないですか!」

それを否定された。
その上で真司達を自らの憂さ晴らしの言い訳にしていると言われた。
今の翠星石を侮辱するのに、これ以上の言葉はないだろう。

「城戸を殺したことの責任が無いと俺は言いました、それは今も変わらない
 でもその事実から貴女が逃げてたら、あまりにも浮かばれないじゃないですか
 貴女の中にある城戸の思い出が、全部辛いものになってしまう」
 
それなのに反論の言葉が出てこない。

「俺はあの時、心を強く持ってくださいと言いました
 心の強さがあれば、俺が傍にいなくても正しい道を選んでくれると思ったからです」

頭が空っぽになって、何も考えることができない。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
635 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:26:54.80 ID:jQ2D6Xxu
「でも違った。貴女は戦う強さを手に入れた代わりに、心はずっと弱くなってしまった」
「翠星石が、弱い……?」
「ええ、今の貴女はつかささんよりも弱い」

比較されたことを疎ましく思い、翠星石はつかさを睨み付ける。
彼女はゾルダの後ろに隠れながら、相変わらず真司と同じ目付きで翠星石を見上げている。
こんな足手まといよりも、翠星石の方が弱いというのか。

「翠星石ちゃん、もうやめようよ」

自分よりずっと強い存在を前にしているにも関わらず、つかさは逃げ出そうとしない。
殺されてしまうかもしれないのに、どうして前を向いていられるのか。

「誰かを殺しちゃったことを引き摺りながら、皆がいない日常を生きていくのはとっても辛いよ」

つかさと翠星石は非常に似ている。
互いに自分の意志ではなかったが、同行者を殺してしまった。
そこからさらに多くの者との死別を体験し、心を摩耗させてきた。

「私も本当は嫌だけど、でも死んじゃった人は嫌だって思うことも出来ないから
 皆のことを忘れないでいるのが、ここまで生きてきた私達に出来ることなんじゃないかな」

唯一違ったのは、周りで励ましてくれる人間の有無。
つかさには北岡や五ェ門がいたが、翠星石には誰もいなかった。
クーガーとは早々に離別してしまい、薔薇水晶やV.V.は彼女を利用するだけだった。

「私にだって出来たんだから、翠星石ちゃんにもきっと出来るよ」

ニコリと笑い掛けてくるつかさ。
自分だって辛いはずなのに、他人のことを気に掛けている。
これが心の強さだとでも言うのか。

「翠星石さん、もう終わりにしましょう」

違う。

「今の貴女は弱くなってしまった、しかしまた強くなることはできる
 強さを、誇りを、意地を取り戻してください!」

「うるさい!!」

違う違う違う違う違う。
翠星石が弱いわけがない。
姉妹を失い、大事な人を失い、ようやく身につけた強さ。
この強さを以って、奇跡を願うことが生き残った翠星石の義務だ。
庭師の鋏を現出し、クーガーの懐へ飛び込む。

「……」

鋏はクーガーの胸部から数センチの手前で停止。
あと少し押し込めば、奇跡に一歩近付くことができる。

「やれるものならやってみなさい、殺す覚悟があるなら出来るはずです」

その少しが埋まらない。
手に汗が滲み、鋏の柄がべったりと濡れる。
馴染んでいたはずの武器だったのに、まるで錆び付いた鉄屑を握っているようだった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
642 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:29:11.18 ID:jQ2D6Xxu
「もう十分でしょう」

全身の震えが止まらない。
身体は暖まっているはずなのに、氷の中にいるように寒い。

「貴女は城戸や水銀燈さんを思って戦い続けました
 方法は間違っていましたが、それでも貴女の頑張りは認めてくれますよ」

クーガーの掌が翠星石の肩に乗る。

「そろそろ自分を許してあげてもいいんじゃないですか?」

肩がじんわりと暖かくなる。
無骨な装甲に包まれているのに、クーガーの手は暖かい。
身体の力が抜けていく。

「戻ってきてください」

カラン、と音がした。
庭師の鋏が、足元に落ちていた。

「う……あぁ……」

両腕を伸ばし、クーガーの身体にしがみつく。
すると、背中に手が回されるのが分かった。
全身がクーガーに包み込まれ、身体が火照るように暖かくなっていく。

「ごめんなさい……ごめんなさいです……あああぁぁぁ……」
「おかえりなさい」

クーガーの胸の中で嗚咽を漏らし続ける翠星石。
そんな彼女の身体を、クーガーは慈しむように抱き締めた。

「翠星石ちゃん」

聞こえてくる声に振り向くと、そこにいたのはつかさだった。

「突然こんなこと言われて困るかもしれないけど、私と友達になってくれないかな」
「友、達……?」
「うん、皆のことを忘れないって言ったけど、やっぱり一人だと寂しくなっちゃう時もあるから
 翠星石ちゃんが友達になってくれたら嬉しいなって思ったんだ」

友達。
思い返してみれば、今の今まで翠星石に友達は居なかった。
薔薇乙女の姉妹はもちろん、ジュンやのりもどちらかといえば家族だ。
長い年月を生きてきたが、友達と呼べる存在はいなかった。

「クーガー……つかさ……お前達は薔薇水晶みたいに裏切らないですか?」

だが、薔薇水晶の一件が尾を引いている。
味方のふりをして弱味に付け込んできた偽りの姉妹。
彼女が最期に放った大嫌いという言葉は、楔のように翠星石の心に突き刺さっていた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
649 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:32:12.02 ID:jQ2D6Xxu
「もちろん裏切ったりなんてしませんよ、でも薔薇水晶さんのことを悪く言うのはちょっと悲しいですねぇ」
「ど、どうしてですか……? 薔薇水晶は私を裏切ってたですよ」
「でも俺達を敵に回ちまうくらい、薔薇水晶さんのこと好きだったんだろ?」

翠星石の脳裏に蘇ってきたのは、あまりにも少ない薔薇水晶との思い出。
それは苦いものばかりである。
薄暗い部屋の中で、家族や仲間を失った絶望に浸っていた。
真司を殺してしまったことへの悔恨と、一人になってしまった悲しみに支配されていた。
しかし、薔薇水晶が傍に居てくれた。
薔薇水晶が身体を抱き締めてくれたから、絶望に押し潰されずにいたのではないか。

「たった一回嫌いって言われただけで諦めるなんて、貴女らしくもない」

騙されていたのかもしれない、裏切られたのかもしれない。
それでもずっと一緒に居てくれた薔薇水晶のことを、確かに翠星石は好いていた。

「大体俺なんか、みのりさんにアプローチしてもあしらわれてばかりですよ
 ねぇ、北岡さん?」
「そこで俺に振るの? ……まぁいいけどさ
 俺みたいなスーパー弁護士の誘いを四十一回も断る人だっているし、一回嫌われた程度でくよくよするのは勿体無いと思うよ」

かつてつかさを侮辱することで言い争いに発展してしまった北岡。
そんな彼が自分の擁護をしてくれたことが、翠星石には意外に感じられた。

「……薔薇水晶……ばら……すいしょう……うう……あああぁぁぁぁ……」

怒りや憎しみが消え、改めて薔薇水晶の死を受け止める。
そうして胸の内に去来したのは深い悲しみ。
大事な家族がまた一人死んでしまった、もう二度とあの温もりは戻ってこない。
会話することも、抱擁することもできない。
大嫌いと言った理由すら問い質すことができない。

「あれ、私……また……泣いて」
「泣いていいんですよ」
「でも、人前で泣いたら、真紅との約束が……」
「俺が全部許します、だから貴女は今、泣いていいんです」

もう我慢できなかった。
喉の奥から嗚咽が漏れ、両の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
今まで抱えていた感情が涙となって流れていく。

「ぐっ……うあ……ああああ……ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

声を押さえることができない。
恥も外見もなくクーガーにしがみつき、わんわんと大声で泣き叫んだ。
零れ落ちた涙が彼のアルターを濡らしていく。
そんな翠星石の頭を、クーガーは優しく撫で始める。
全身の震えは、いつの間にか止まっていた。

「一件落着ってところですかねぇ」

翠星石の頭を撫で続けながら、クーガーは肩の荷が降りたというように胸を撫で下ろす。

「それでいいんじゃないかな、にしてもおたくは遠回りが好きだね、見てるこっちが冷や冷やしたよ」
「遠回りしようが俺の速さなら結果は同じです」
「うわ、キザな奴」

翠星石をようやく取り戻すことができたからか、クーガーの声は弾んでいる。
つかさの目尻にも涙が浮かび、ゾルダも仮面の下で自嘲気味に笑う。
三者三様の反応であったが、誰もが翠星石の帰還を喜んでいた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
654 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:33:54.43 ID:jQ2D6Xxu
.












――――FINAL VENT――――












上空から降り注ぐ漆黒の炎。
誰もが油断していたため、一瞬の反応に遅れてしまう。
ゾルダはつかさを庇うように押し倒し、クーガーは翠星石を遠くへと投げる。
出来たのはたったそれだけ。
地上に到達した炎は固体となり、クーガーの下半身を封印した。

「ハァァァァ……」

そうして、右脚に黒炎を纏ったリュウガが急降下を始める。
龍騎と同じ名前を冠するリュウガの必殺技――――ドラゴンライダーキック。

「がああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

下半身を封じられたクーガーに避ける術はなく、ドラゴンライダーキックは胴体へと直撃。
装甲が砕け、渇いた破損音が響き渡る。
翠星石達が呆然と見守る中、クーガーの身体は黒炎に焼かれながら放物線を描く。
地面に激突してもなお衝撃を殺し切れず、サッカーボールのように何度も地面を跳ねた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
662 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:36:00.18 ID:jQ2D6Xxu
「外したか」

ようやく停止したクーガーを傍目に捉えながら、リュウガは不満気に呟く。
その視線の先にいたのは、その場に立ち尽くす翠星石だった。

「なんで、お前が、クーガーを……」
「全員を殺す、最初にそう言っただろ」
「でも、だって」
「俺が本当に殺したかったのは、クーガーじゃなくてお前だがな」

リュウガはシャドームーンと戦っていたのではないのか。
背後に視線を移すと、そこではサタンサーベルに絡み付いた鎖を引き千切っているシャドームーンの姿があった。
この鎖の正体はバブルルート。
絡み付いた相手の武器の能力を打ち消す、武器殺しと呼ばれる“狩人”フリアグネの宝具の一つである。
三村の支給品だった物だが、今の今まで使う機会が無かったのだ。

「お前から供給される分の力じゃ足りねぇ、だからキングストーンを寄越せ」
「そんなことで、私を襲ったですか……?」
「それ以上の理由がいるのかよ」

呆けた様子でいる翠星石に対し、リュウガは冷酷な態度を崩さない。
そもそもリュウガにとって、翠星石の価値は中にある賢者の石しか無かった。
最初に翠星石が姿を現した際、即座に殺害してキングストーンとローザミスティカを奪おうとした。
だが同盟を持ち掛けられたため、利用できるまでは利用する方針に転換したのである。

「離れろ!」

立ち上がったゾルダがマグナバイザーの引き金を引いた。

「こっちは俺に任せて、翠星石はつかさちゃんとクーガーを!」
「え、でも」
「早く!」

ゾルダの叫びが通じたのか、翠星石は倒れているつかさと一緒にクーガーの下へと走った。

「アンタが相手か、どうやら絶対的な実力差ってのを理解してないようだな」

二人のライダーが睨み合う中、リュウガの身体に異変が起こる。
左手に嵌っていた契約の指輪が消失したのだ。
翠星石が志々雄を拒絶したことで、契約が破棄になったのである。

「どうやら愛想を尽かされたようだな」

挑発してくるゾルダに対し、リュウガは仮面の下でふてぶてしく笑みを浮かべた。


☆ ☆ ☆


「クーガーさん、しっかりしてください!」

涙ぐみながらクーガーの名を叫ぶつかさ。
胴体の装甲に巨大な穴が空き、そこから波紋のように亀裂が広がっている。
そして、穴の先には何もない。
ドラゴンライダーキックはクーガーの胴体を貫通し、その傷口すらも灼熱の炎で焼いていた。
傷口からは煙が立ち込め、焼け焦げた臓器を隠す。
焼くと蹴るによる同時攻撃は、クーガーの身体に致死の傷を刻み付けていた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
667 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:37:23.27 ID:jQ2D6Xxu
「クーガー……どうして……」

クーガーの死を目前にして、翠星石は放心している。
ようやく信用できるようになったのに、どうしてこんなことになってしまうのか。
劉鳳や、新一や、真司のように、翠星石の前から居なくなってしまうのか。

「そうだ、まだリフュールポットが……」
「その必要は……ありません」

クーガーのデイパックには、つかさが錬成したリフュールポットが残っている。
それを取り出して治療しようとしたが、掠れる声でクーガーが制止した。

「俺の身体のことは俺が一番分かります……もう長くありません」

腹部に穴が空いているのだ。
リフュールポットの回復力でどうにかなるものではないだろう。

「クーガー……? クーガー! クーガー! 死んじゃ嫌です!」

クーガーがまだ会話できることに気付き、必死に呼び掛けを始める翠星石。
先程まで泣いていたというのに、その目にはまた涙が浮かんでいる。
困った人だと呟きながら、クーガーはその頭に掌を乗せた。

「私は、クーガーが居なかったら何も出来ない、弱いままです、だから逝っちゃ嫌です!」
「なに言ってるんですか、翠星石さんは強い方ですよ」
「そんなこと、ない! 私は弱い……」
「貴女は俺を殺さなかった、つまりは殺さない覚悟があったということじゃないですか」

クーガーを殺さなかったということは、つまり奇跡に縋るのを諦めたということ。
家族の死や己の罪と向き合う覚悟を決めたということである。

「今の貴女なら、もう俺が居なくても大丈夫です
 貴女はもう一人じゃないんですから、何とかなりますよ」

翠星石が振り返ると、そこには必死に涙を堪えているつかさが立っている。
奥の方ではリュウガを相手に奮闘するゾルダ――――北岡の姿もあった。

「でも、本当なら私が死んでるはずだったじゃないですか……!」

リュウガが元々狙っていたのは翠星石だった。
翠星石が傍にいなければ、そもそも翠星石が騒動を起こさなければ。
クーガーの命が潰えることは無かっただろう。
翠星石を庇って、また誰かが犠牲になろうとしているのだ。

「なぁに、男が女性を守るのは当然のことですよ、それで死ねるのなら本望です」

だというのに、クーガーは笑っている。
もうすぐ死んでしまうというのに、心の底から満足だと言いたげに笑っている。

「二人も女の人に見守られて死ねるなんて、俺は幸せものです」

そう言った直後、クーガーは三人ですねと訂正する。
何のことか分からなかったが、大切なことだというのは伝わってきた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.16
668 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:38:37.28 ID:jQ2D6Xxu
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1381335043/

たくさんの支援をありがとうございます。
これ以降は新スレにて投下します。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
9 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:42:48.25 ID:jQ2D6Xxu
「それに……まだ俺の命は残ってる」

ゆっくりと立ち上がるクーガー。

「せっかくこうして残ってるんだ、最期の一滴まで使わないと勿体無い」
「何を、何をする気です、クーガー?」
「拳や剣ならともかく、このストレイト・クーガーが蹴りで負けるってのは我慢できねえ」

カズマが拳に絶対の自信を持っているように、クーガーも己の脚に絶対の自信を持っている。
そのクーガーが蹴りで死ぬなど、自らの誇りが許さない。
だから、蹴り返す。
既に生命は風前の灯火、今にも付きてしまいそうな蝋燭と同じだ。
それでも微かに残っているのなら、派手に燃やし尽くすのがストレイト・クーガーの生き様である。

「志々雄の野郎は翠星石が絶対にぶっ飛ばすから、お前はもう休んでろです!」
「そいつは出来ない相談だ、これは俺の我儘だ、やりたいからやるんだ」

視線の先にいるのは、リュウガ――――志々雄真実の姿。
今にも燃え尽きしまいそうだというのに、その双眸は仇敵の姿をハッキリと写している。
身体は死に掛けていても、心はまだ死んでいない。
精神が肉体に及ぼす影響は確かに存在する。
腹に風穴が空こうと、ストレイト・クーガーは己の脚で立ち上がることができた。

「意地があるんですよ、男には」

周囲に散らばる茨や植物、花弁や羽が粒子化し、クーガーの身体に吸収されていく。
クーガーの全身が七色に輝き、砕けた装甲が見る見るうちに修復していった。
己のエゴを貫く力、アルターによる最期の輝き。
流線型の装甲を纏ったクーガーは、クラウチングスタートの体勢を取る。

「受けろよ、俺達の速さを」

踵と背中のブースターを同時に始動。
背中からエネルギーを噴出しながら、両脚で地面を蹴り上げる。
その走りは第一歩目から常に最高速。
あまりの速度に衝撃波を生み出し、それすらも彼方へと置き去りにする。
速さを証明するために、僅かに残った命という燃料すらも振り絞り。
クーガーは音よりも、光よりも、誰よりも速く走る。

「受けてやるよ、お前の速さを」

ゾルダの相手をドラグブラッカーに押し付け、志々雄は天高くへとヒノカグツチを掲げる。
クーガーが全力で仕掛けてくるのなら、志々雄が全力で迎え撃つのも必然。
ヒノカグツチの全発火能力を開放し、深紅色の刀身を紅蓮の炎で燃やす。
炎神の炎は周辺の酸素を燃焼させ、やがて轟々と音を立てながら渦を巻き始めた。

志々雄が剣を振り降ろす。
クーガーが蹴りを繰り出す。
タイミングは寸分の狂いもなく同時。

「終 の 秘 剣 ・ 火 産 霊 神 !!!!」
「瞬殺のファイナルブリットオオオオオオオォォォォォォォォォ――――――――ッ!!!!」

剣と脚が衝突する。
炎と衝撃波がぶつかり合う。
極限まで辿り着いた技同士の衝突は、その他の者を遠ざけるように爆風を巻き起こす。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
14 :叶えたい願い-ストレイト・クーガー ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:45:29.27 ID:jQ2D6Xxu
「フフ……ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

仮面の奥から志々雄の哄笑が木霊する。
ヒノカグツチから吹き荒れる炎により、クーガーの肉体が炎に侵食され始めたことに気付いたのだ。
火産霊神とは相手を炎で焼くのではなく、相手を炎に変えていく技。
だが、この剣はそれすらも超越した。
元来の火産霊神とは違い、この技は全てを炎へと変える。
焼けることも溶けることも許さず、塵や炭も残さず、相手の全てを炎へと突き落とす。
ここに来て、志々雄は究極の秘剣を完成させたのだ。
名付けるのならば、この魔剣に習って『火之迦具土』とでもするべきだろうか。
最速すらも凌駕した炎は、クーガーのありとあらゆる全てを上塗りしていった。

「もう……何もいらない……」

炎の中から声が聞こえる。

「身体も命も全部くれてやる」

肉体が焼失したはずなのに、クーガーの声が聞こえる。

「だから寄越せ……速さを!」

炎の奥が七色に煌きを放つ。
呼応するように炎が揺らぎ始め、やがて煌きの中へと吸収されていく。
志々雄がそれに気付いた時にはもう遅い。
吸い込まれた炎は光の外周を覆うように装甲を形成し、やがて人型のシルエットを完成させた。
そのシルエットが誰かなど、今更語るまでもない。
最速の男・ストレイト・クーガー。

「アルターを進化させやがったのか……!」

ここに来て、彼のアルターは更なる進化を遂げた。
金属から炎へと変化した装甲。
それを身に纏い――――否、今の彼はアルターそのものだ。
彼の肉体はアルターに変換され、炎の魔人としてクーガーはこの世界に存在している。
己の全てを代償に、クーガーは限界を越えたのだ。

「すいませんねェ田村さん、でも一緒に通行料を払ったんだ、特等席でお見せしますよ、文化の真髄をッ!!」

ヒノカグツチの刀身を蹴り、上空へ跳び上がるクーガー。
空中で宙返りをし、足先を志々雄に向ける。
地上で燻っていた炎が舞い上がり、紅色の龍に変化。
龍は荒れ狂うようにクーガーの回りを旋回した後、彼の背後から炎を吹き掛ける。
炎のエネルギーを受けたクーガーは、一気に急降下した。

「これが俺達の速さだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!!!!!!」

そうして、脚と剣は再び衝突する。


 ☆ ☆ ☆
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
19 :叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:47:55.46 ID:jQ2D6Xxu
「ケホッ、ケホッ、どうなったです……?」

目を擦りながら翠星石は呟く。
煙が舞っているため、まともに目を開けることすらままならない。
つかさと共に見届けようとしたが、爆発が発生したせいで結末までは分からなかったのだ。

「ありがとう、翠星石ちゃん」
「こ、このくらい翠星石ならお茶の子さいさいです!」

爆発の規模は凄まじく、数十メートル以上離れたところまで余波が飛んできた。
翠星石がバリアを張っていなければ、二人とも吹き飛ばされていただろう。
つかさが感謝の意を示すと、翠星石は恥ずかしそうにそっぽを向く。

「つかさちゃん、大丈夫だった?」

煙の中から現れたのはゾルダだ。
ドラグブラッカーがミラーワールドに避難したため、つかさの安否を確認しに来たのだ。

「はい、翠星石ちゃんに助けてもらいました」
「そっか、一応礼は言っておくよ」
「お前に感謝されても嬉しくねーですよ」
「やな奴。で、あっちはどうなったの?」

クーガーと志々雄が大技同士で衝突したのだから、互いに無事で済むわけがない。
煙の中を寂しげに見つける翠星石。
クーガーは衝突の以前から致命傷を負っていた。
その状態で自らの肉体をアルターに変換し、志々雄と衝突したのだ。
クーガーの命は燃え尽きた。
彼は最後の一滴まで命を振り絞り、速さの先へと旅立っていったのだ。

「ありがとうです」

クーガーが全力で向き合ってくれなければ、自分は決定的な間違いを犯すところだった。
それを自覚しているからこそ、翠星石は感謝の言葉を口にする。

「後は翠星石が頑張るから、お前は天国でのんびりしてろです」

クーガーの死は堪えられないほどに悲しいが、今はそれに浸っていられる状況ではない。
翠星石にはまだやらなければならないことが残されている。
泣くのは全てが終わってからだ。

「あれは……あいつの持ってた剣か?」

煙が流れていき、遠くまで見渡せるようになる。
そうして視界に飛び込んできたのは、地面に突き刺さった深紅色の剣。
志々雄が操っていた魔剣・ヒノカグツチだ。
クーガーに蹴り飛ばされた結果、あそこに突き刺さったのだろう。
それはつまり志々雄が押し負けたという証である。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
22 :叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:49:11.36 ID:jQ2D6Xxu
「あの包帯お化け、死にやがったですか」
「だろうね、これで残ってるのは――――」



「勝手に殺すなよ」



煙の中から声が響く。
その瞬間、周囲の炎が一気に膨張するように猛り始める。
まるで主の生還を喜ぶように、炎は歓喜の産声を上げている。
そして煙が破裂するように散開し、中から現れたのは影の戦士。
仮面ライダーリュウガ・志々雄真実。

「なん、で……」

両腕の手甲は砕け散り、胸部の装甲に大きな穴が空き、強化スーツの至るところが破けている。
デッキにすら罅が入っているが、それでも志々雄真実は生き残った。
クーガーの決死の一撃を受けて尚、志々雄は健在であった。

「理由なんか一つしか無えだろ。俺が強くて、アイツが弱かった。それだけだ」
「ふざけんなです! クーガーは弱くなんかない、負けたのはお前です!」
「生き残ったのは俺だ。死んだ奴は勝者になれねぇ」

クーガーの命を賭した特攻でも志々雄を殺せなかった。
その事実はクーガーの死が無駄死にだと嘲っているようで、翠星石は許容することができなかった。

「お前は私がぶっ倒すです、元はといえば翠星石がお前に手を貸したのが全ての原因、だからこれは翠星石の責任です」

静かに怒りを燃やす翠星石。
ゾルダもつかさを背後へと移動させ、マグナバイザーの銃口を向ける。
一触即発の状況。
誰かが動けば、それが新たな抗争の合図になるのだろう。
一秒、二秒、十秒と経過して、動く者が現れる。

「……揺れてる?」

それは、この空間だった。

空間内がまるで地震が起こったかのように震動している。
その強さは生半可ではなく、つかさはその場に座り込んでしまう。
それでも震動は衰えることなく、時間を重ねるごとに増していく。
唸るような轟音が耳を支配した頃には、ゾルダですらも立っていることができなくなっていた。

「ッ……これは?」

全ての者が辺りを見回す中、轟音の中に奇妙な音が混じり始める。
それに真っ先に反応したのはゾルダだった。
というよりは、ゾルダ以外は反応することができなかった。
志々雄は音の意味を理解できず、翠星石やつかさの耳にはそもそも聞こえていない。
それもそうだろう。
この音の正体を知っているのは、この中でゾルダだけなのだから。
不快感と警戒心を煽られる耳鳴りのような音。
ゾルダと志々雄のみに届いた音の正体は、ミラーモンスターが出現した時の合図だ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
27 :叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:51:33.10 ID:jQ2D6Xxu
「なにあれ!?」

天上を指差しながらつかさが叫ぶ。
それに応じて全員が上を向くと、そこには奇妙な物体が浮いていた。

大きさはおよそ一メートルほどだろうか。
完璧な比率の立方体であり、六面全てが鏡張りになっている。
しかしその鏡面は、絵の具をぶち撒けたような混色が渦巻いていた。
立方体の正体はゾルダにも分からなかったが、混色の正体はこの場にいる全員が知っている。
nのフィールドへの入り口が繋がっている時のものだ。

「身体が……引っ張られる!?」

しばらく立方体を見上げていると、ゾルダは自身がそれに引っ張られてることに気付いた。
重力に逆らって、ゾルダの身体が浮き上がっていく。
つかさと翠星石は無事だが、横を見ると志々雄の姿が同じ高さにある。
地上に戻ろうとしても、身体が浮き上がる方が圧倒的に早い。
見る見るうちにゾルダと志々雄は立方体に近付いていき、やがてその中へと吸い込まれていった。

「北岡さんと志々雄さんが消えちゃった」

二人が居なくなると震動は次第に小さくなり、天上に浮いていた立方体も姿を消している。
何が起きたのか理解できず、つかさは首を傾げるばかりだ。
翠星石もnのフィールドに吸い込まれたのか等と呟いているが、真実に辿り着くことはできない。
分かっているのは、この場で戦えるのが翠星石だけということ。
そして――――

「最後に残ったのは貴様か」

創世王・シャドームーンは未だに健在だということ。

「つかさ、私の後ろに隠れてるです」

カシャ、カシャとレッグトリガーが上下する足音は、多くの者に絶対的な恐怖を刻み付けてきた。
一般人であるつかさは尚更であり、身体を震わしながら翠星石の背後に隠れる。

「断言してやる、今の貴様が一人で私に勝てる可能性は万に一つもない」

五つのローザミスティカとキングストーンの力を得た翠星石は、本来なら最強の名を欲しいがままにするはずだった。
しかし、今のシャドームーンは創世王の力を我が物にしている。
世紀王と創世王では格が違う。
一度は埋まったはずの力量差が、今は再び開いてしまったのである。

「黙りやがれです」
「ここまで来て力の差すら理解できなくなったか
 キングストーンの力に耐えられず、とうとう頭が触れてしまったようだな」
「んなわけねえです。お前こそ頭がおかしくなったですか?」

シャドームーンの顔を見上げ、翠星石は嘲るように喉を鳴らす。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
33 :叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:53:37.77 ID:jQ2D6Xxu
「お前と私の実力差なんざ百も承知ですよ、それでも翠星石はお前を倒さなきゃいけないんです」
「倒せると思うのか?」
「倒せる倒せないじゃない、倒すんです!
 お前をこのまま放っておけば、きっと全部の世界をぶっ壊しちまうです
 私の世界も、真司の世界も、クーガーや劉鳳の世界も、新一の世界も、つかさの世界も
 そんなの絶対に許さない! お前はここで私が止めるです!」

シャドームーンと翠星石の実力差は明確だが、それはあまりに些末な問題である。
ここでシャドームーンを止められなければ、全ての世界がゴルゴムの支配する地獄に変わるだろう。
ジュンやのりのような罪のない人達が終わりのない苦痛を味わい続けることになる。
そんなことが許されていいはずがない。
彼らを守るためならば、翠星石はシャドームーンと戦う覚悟があった。

「それに、今の翠星石は一人じゃないです」
「なに?」
「私には友達が出来たです……初めての友達です」

背後のつかさに目配せする翠星石。
長い生涯の中、つかさは初めて出来た友達だ。
つかさやその友人達を散々侮辱したのに、一方的に傷つけたのに、つかさは翠星石のことを許してくれた。
そして、初めての友達になってくれた。

「ならば貴様を殺した後で、その娘も地獄に送ってやろう」
「ふざけたこと抜かすのもいい加減にしろですキュウリ野郎。つかさは絶対に私が守るですよ
 もし指一本でもつかさに触れようとしたら、その時は私がお前をぶっ殺してやるですッ!!」

大事な友達を守るためならば、翠星石はシャドームーンを殺す覚悟があった。

「フッ、いいだろう」

シャドームーンがサタンサーベルを構える。
翠星石も庭師の如雨露を取り出し、シャドームーンの翠緑の複眼を睨み上げた。
互いの殺気が交錯し、空気が張り詰めていく。
そして、互いに武器を振り上げた瞬間。

「待てよ」

遠くから、男の声が響いた。


  ☆ ☆ ☆


気が付いた時、北岡と志々雄は白い空間に立っていた。
空間内にあるのは二人の影と空に浮かぶ立方体だけ。
傍に居たはずの翠星石やつかさも、唯一の出入り口だった木製の扉もない。
シャドームーンが抉じ開けた穴や戦闘の痕跡もなく、果てしない白が広がるばかりである。
何が起きたのか理解できず、額に皺を寄せる北岡。
しかし、この空間の正体には薄々感づいていた。
この肌を刺すような空気は、元の世界で自分達が戦い続けてきたミラーワールドのものだ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
35 :叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:54:54.93 ID:jQ2D6Xxu
「ここが『みらーわーるど』か、殺伐としてて俺好みの場所だ」

志々雄も正体に気付いたのか、興味深そうに辺りを見回している。
ミラーワールドは鏡写しの世界であり、全ての物体が現実と反転している。
だが元の空間が何も無かったため、大きな変化は見当たらなかった。

「で、これはおたくの仕業なわけ?」
「いや、いくら俺でもここまで大それたことは”まだ”出来ないさ」

理解不能な状況に追いやられたにも関わらず、志々雄は楽しそうに笑っている。
その態度から浅倉が連想され、北岡は不愉快そうに顔を歪めた。

「だが、この原因ならもう検討が付いてるぜ。おそらくアンタもじゃねえか?」
「……多分だけどね」

ずっと考えていた可能性だった。
最初に気付いたのは、名簿に東條の名前を確認した時。
死んだはずの彼の名前を見て、北岡はふと疑問を覚えた。

――――ライダーバトルはまだ有効なのではないかと。

東條――――タイガは脱落したはずなのに、どうして殺し合いに参加しているのか。
デッキが支給されていない可能性も考えたが、後にタイガに変身していたことが判明している。
他にもシザース、インペラーといった脱落者が復活しており、さらに神崎士郎の奥の手だったオーディンも主催が掌握している。
奪い取ったにしては、手が込み過ぎているのだ。
ここで脳裏を過った可能性。
もしかしたら、ライダーバトルそのものを主催が乗っ取ったのではないか。
考えれば考えるほど、この可能性は北岡の中で膨らんでいく。

そして、この可能性は正解だった。
バトルロワイアルの影に隠れて、もう一つのバトルロワイアルが進行していた。
十三人の仮面ライダー同士による殺し合い。
カードデッキが支給された表向きの理由は、誰にでも優勝の可能性を持たせるためだ。
特殊な才能や経験が無くても強大な力を身に纏えるカードデッキは、参加者間の差を埋めるのに絶好の道具だった。
だが、表があれば裏がある。
カードデッキが支給された理由はもう一つあった。


六十四人の消滅と引き換えに、あらゆる願いを叶える自在法・【バトルロワイアル】
これによって殺し合いは管理されていたが、物事には想定外の事態が付き纏うものだ。
自在法が打ち破られ、願いを叶えられなくなってしまうかもしれない。
そういった事態に陥った時の対策として、V.V.は予備の手段を用意していた。
それこそがカードデッキであり、これらが支給された裏の理由である。
他のライダーが全滅した時、最後に残ったライダーは願いを叶えることができる。
奇跡を起こすための手段として、V.V.はカードデッキを支給していたのだ。
主催側がオーディンに加えてガイとライアを保有していたため、本来ならばライダーが最後の一人まで減ることはない。
万が一の事態が起こった場合のみ、これらのデッキを解放する予定だった。
しかし、物語は想定外の方向に進んだ。
鷹野がオーディンを持ち出し、V.V.と観柳がガイとライアに変身した。
予期せぬ形で全てのライダーが盤上に上ることになったのだ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
38 :叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:55:53.89 ID:jQ2D6Xxu
「あの鏡は最後の戦いに邪魔が入らないよう、ミラーワールドの中に俺達を隔離したって所だろうな」

白い空間内に突如として現れた立方体の名はコアミラー。
ミラーワールドの力の源であり、謂わば核のようなものである。
今に至るまで、コアミラーはラプラスの魔が作った空間に安置されていた。
だが彼の死で空間が不安定になったところで、クーガーと志々雄の衝突が時空間を大きく歪めた。
その結果、コアミラーはライダー達のいる場所へと辿り着くことができたのだ。

そもそも何故V.V.はカードデッキを選んだのか。
その理由はそれらの技術の根底に兄弟愛があったからだ。
ミラーワールドが開かれた理由は、神崎士郎が神崎優衣を救うために他ならない。
たった一人の妹を救うために全てを犠牲にする覚悟をもった士郎に対し、V.V.は深い共感を覚えた。
兄弟愛を最も美しい関係と考えるV.V.にとって、士郎はとても安心できる存在だった。
だが、士郎は最終的に妹を救うことを断念した。
V.V.は不満を覚えたが、それも士郎の選んだ道だろう。
これにより彼の世界とミラーワールドの関係は途絶え、ミラーワールドは放置されることとなった。
それをV.V.が再利用し、バトルロワイアルの中に組み込んだのだ。

「もう俺達以外にライダーは居ないようだな」
「つまりは俺かアンタ、生き残った方が最後の一人ってことだな」

北岡秀一――――仮面ライダーゾルダ。
志々雄真実――――仮面ライダーリュウガ。
生き残ったどちらかが己の欲望を満たすことができる。
この戦いはそういうものだ。

「戦いを降りたはずの俺が残っちゃうなんて、何の因果だろうねえ」
「そのまま脱落しても構わないぜ」
「いや、悪いけど、遠慮しておくよ」

困ったように溜息を吐き、北岡――――ゾルダは志々雄――――リュウガへと向き直る。

「ライダー同士の戦いとかは関係なしに、お前は倒したいと思ってたからね」
「アンタに怨みを買う真似をした覚えはないんだがな」
「ランスロットの件、忘れたとは言わせないよ」
「あの死に損ないの復讐ってか、随分と仲間思いじゃねえか」
「復讐? 馬鹿言うなよ、嫌いな奴のためにわざわざそんなことしないさ」

出会った当初からジェレミアは生きることを諦めていた。
そんな奴に背中を預けられないと叫んだが、彼が聞き入れることはなかった。
生き残るために戦うと言って、最後は勝手に死んでいった。
つかさを悲しませないと言ったのに、彼女を動けなくなるくらい悲しませた。
そんなジェレミアが、ゾルダはずっと気に入らなかった。

「馬鹿だよね、アイツ。死んだら終わりだってのにさ」
「アンタとは気が合いそうだな、命を投げ捨てるのは阿呆のすることだぜ」
「ジェレミアも、五ェ門も、城戸も、次元も、蒼嶋も、ヴァンも、クーガーも……
 どいつもこいつも馬鹿ばっかりだよ、命を何だと思ってるのさ」

自分の命以上に大切な物などない。
命とはたった一つの宝であり、どんな欲望もこれを対価とすることはできない。
金も、権力も、女も、命があるからこそ価値を持つ。
それを分かっていない奴は、命を対価にしてしまう奴は、どうしようもないほどに馬鹿なのだ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
43 :叶えたい願い-翠星石 ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 01:59:14.00 ID:jQ2D6Xxu
「でも、俺やお前よりはマシな人間だ」

だが、その馬鹿は少しだけ眩しかった。

「いや、お前とも比べられたくないかな。正真正銘のクズのお前とはね」

多ジャンルバトルロワイアルのホームページにより、ゾルダは志々雄の情報を得ている。
そこに書き連ねられていた数々の悪行を見て、ゾルダは吐き気を覚えた。
弱肉強食を理由に人々を蹂躙する志々雄は、正真正銘の悪党である。

「お前が願いを叶えたら世界は滅茶苦茶になる、だから俺は死ぬわけにはいかない」
「アンタも弱肉強食の理に納得できない口か、聡明に見えたがどうやら買い被りだったようだな」
「いや、この世は弱肉強食だと思うよ。だから俺達みたいのがいるんだ」

ゾルダの言葉の真意を計りかねているのか、リュウガは言葉を返さない。

「弁護士ってのは弱い奴の味方なんだよ」

マグナバイザーの銃口をリュウガへと向ける。

「ああ、明治時代にはまだ弁護士って居なかったっけ」
「似たようなのはいたさ」
「そう。お前に今度会ったら言おうと思ってたんだけどさ、二十八にもなって世界征服とか恥ずかしくないの?」
「いい年してスーパー弁護士を名乗ってる爺には言われたくないな」
「俺より百年以上も昔の土人がなに言ってるのさ
「そういやお前を倒したい理由を言ってなかったよね。一言で言うとな、気に入らないんだよ、お前」
「ハンッ、テメエにどう思われようが興味はねえが、その程度の力でこの俺に勝てるつもりか?」
「お前こそ、そんなにボロボロで大丈夫なの?」

リュウガの全身はクーガーの一撃で大きく傷付いている。
一方でゾルダの負傷は皆無に等しく、戦闘を始める前から大きな差が付いていた。

「テメエを相手にするのはちょうどいいハンデだと思ったが、そう言うならこいつを使わせてもらうぜ」

デッキから一枚のカードを抜き取るリュウガ。
そのまま見せつけるように掲げると、彼の周囲を疾風が吹き始める。
彼の手にあるのは、ナイトが所持していた疾風のサバイブカード。
ナイトのデッキが破壊された際に失敬していたのである。
変化した召喚器にカードを放り込むと、リュウガを覆うように竜巻が発生。
それが収まった時には、リュウガは再びサバイブ形態へと進化していた。

「もう一度聞いてやる。お前如きの力でこの志々雄真実に勝てるつもりか?」

刺のように鋭利な装甲を纏い、リュウガは言い放つ。
ヒノカグツチは無くとも、禍々しいまでの実力は健在だった。

「そのつもりだよ」

リュウガとの実力差など百も承知である。
だからこそ、ふてぶてしく笑う。
力で負けている上に気持ちでも負ければ、それこそ完全に勝ち目は無くなってしまう。
今でこそ落ちぶれてしまったが、ライダーバトルが始まった頃のゾルダは他のライダーを圧倒していた。
あの頃のゾルダに戻ることができれば、リュウガを撃破することができるかもしれない。
だから、今だけは仮面を被る。
ゾルダの仮面をきつく被り、目の前のライダーと戦う。

「ならその過剰過ぎる自信ごと斬り殺してやるよ」

最後のライダーバトルが幕を開ける。
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
47 :叶えたい願い-ヴァン ◆ew5bR2RQj. [sage]:2013/10/10(木) 02:01:08.78 ID:jQ2D6Xxu
  ☆ ☆ ☆


気が付いた時、男は教会の中に居た。
石造りの堅牢な建築であり、眩い太陽すらも屋根が遮っている。
壇上へと敷かれた赤い絨毯の上に男は立っていて、隣には純白のドレスを着た女がいた。
誰なんだろうと考えるが、思い出すことはできない。
気まずくなって顔を逸らすと、周囲に配置された長椅子が目に入った
一定間隔で配置されているそれには何人かの人達が座っている。
壇上から見て手前の席に座っているのは、夫婦と思われる一組の男女。
長い金髪に和装の男と、寄り添うように座っている短髪の女だ。
絨毯を挟んで隣の椅子に座っているのは、和服を着た十代と思われる姉弟。
姉の方はもう大人だが、逆に弟はまだまだ子供である。
面倒臭そうに座っている弟を、姉が宥めているのが印象的だった。
彼らの後ろの椅子では、二人組の青年が談笑している。
友人なのだろうか、二人はとても仲が良さそうだった。
そして、一番後ろには男と女が一人ずつ座っている。
一人は立派な髭を蓄えた中年の男性。
もう一人は明るい黄緑色の長髪をした若い女だった。

ここに来て、彼は結婚式の途中だったことを思い出す。
自分は新郎で、隣にいる女は新婦。
女が着ていたのはウェディングドレスで、椅子に座っている人達は来賓だ。
世界一愛していて、何よりも夢中な女。
そんな女と、自分は結婚する。
幸せの絶頂にいる自分達は、これから永遠の愛を誓い合うのだ。

女の歩調に合わせて、ゆっくりとヴァージンロードを歩いていく。
すると椅子に腰掛けていた人達が一斉に拍手を始める。
無数の拍手が贈られる中、男と女は壇上へと歩き続ける。
周囲の人々は何処かで会ったような気がしたが、ハッキリと思い出すことはできない。
会ったことがあるという認識だけが、ぼんやりと頭の中を渦巻いていた。

ついに壇上へと辿り着く。
身体をくるりと返し、座席を見渡せるように立つ。
後は互いの指輪を交換し、誓いのキスをするだけだ。
薬指に嵌めていた指輪を外した男は、隣にいる女と向き合う。
次へ>>

※このページは、『2ちゃんねる』の書き込みを基に自動生成したものです。オリジナルはリンク先の2ちゃんねるの書き込みです。
※このサイトでオリジナルの書き込みについては対応できません。
※何か問題のある場合はメールをしてください。対応します。