- ロスト・スペラー 7
94 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/09/23(月) 20:38:56.51 ID:pY1S+q5p - サティは個人宛の手紙の中に、魔導師オーラファン・ダンバイールの名があるのを見た。
度々プラネッタに手紙を寄越す、顔も態度も男前な紳士だ。 噂話を好まないサティの耳にも、その名が入る程の人物である。 何でもグラマー地方東部の出身で、19歳で魔法学校上級課程を修了した秀才だとか。 当然魔導師になり、運営部に就職した後は、実力か伝手か知らないが、最短コースで出世。 未だ30歳にもならない若さで、運営委員会に推薦される様な立場だと言う。 その件は本人が辞退したとの事で、真相は知れないが、そうした噂が立つ程の人物なのだ。 実際に対面した際、こう言う表現は好ましくないが、他の男とは『格<ランク>』が違うと、 サティは認めざるを得なかった。 言っては何だが、この男ならプラネッタと釣り合うのではないかと、サティは思う。 『逆』ではない。 旧暦の王制が現代まで続いていたなら、プラネッタの様な人こそ、王妃になるのではないか? 彼女は半ば本気で、そう信じている。 サティがプラネッタの様な生き方を真似ようとしても、数日と持たず、抑圧で体調を崩して倒れるか、 発狂してしまうだろう。 さぞ名のある家の子女に違い無いと、サティは過去にプラネッタの出自を尋ねたのだが、 生まれはティナー市の一代医の家で、育ちもティナー地方の北東端に近い田舎だと、答えられた。 他の身内にも権威のあった者は無く、魔導師だったと言う事すら無い。 そうした背景を知れば、プラネッタ・フィーアは一体何者だろうかと、空恐ろしくもなる。 クゥワーヴァは名家だが、母も姉も(当然自身も)プラネッタ程の優麗さは無い。 加えて、喜びを殆ど表に出さない翳りの様な物が、より彼女の美しさを引き立たせている。
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95 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/09/23(月) 20:43:09.81 ID:pY1S+q5p - サティがプラネッタに近付く男に、今一つ好い印象を持たないのは、その『翳り』にある。
サティはプラネッタの中に、末妹のレムナの影を見ていた。 レムナは名家に生まれながら、魔法資質が低く、知恵の回る子でもなかったので、 必然的に大人しく控え目な性格になった。 ……そうならざるを得なかったと言うべきだろうか? 対してプラネッタは魔法資質ではサティに比肩し、魔法学校を主席で卒業した程の、 才能の持ち主である。 能力的には正反対でありながら、どこか雰囲気が似ている、プラネッタとレムナ。 それは何らかの負い目の様な物があるからだろうと、サティは感付いていた。 表向きは完璧なプラネッタも、陰では悩みを抱えているのだ。 その悩みが何かは知れないが、これが「重大な問題」。 微笑を絶やさぬプラネッタが、時折油断したかの様に見せる、憂いを帯びた表情は、 誰も知らない彼女の神聖な部分を、垣間見た気分にさせる。 だが、果たして並の男に、プラネッタの影を晴らす事が出来るだろうか? どうしたのかと尋ねても、無理に取り繕う事はせず、諦めた様な顔で「何でも無い」と、 優しく微笑まれたら、それ以上は何も言えなくなる。 それは彼女が独身を貫いている事と、無関係ではあるまい。 そうした態度が、プラネッタが抱える闇の深さを感じさせ、彼女を見詰める男達の、 庇護欲を掻き立てるのだ。
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96 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/09/23(月) 20:45:26.59 ID:pY1S+q5p - 熱心に恋文を送っているが、その中で一体どれだけの男が、本気でプラネッタを幸せにしようと、
考えているのか? オーラファンの様な男子は、サティの通っていた魔法学校にも居た。 故に、彼女はオーラファンを信用し切れない。 サティは一応名家の子女である。 彼女の性格を承知で近付こうとする男は、決まって容姿と才能に恵まれ、自信に溢れる、 女子に人気の紳士的な――そう、「オーラファンの様な男子」だった。 女子の扱いを心得ているが故に、誰にも同じ手が通用すると思っている間抜け。 しかし、表向き紳士振っていても、人としての器は知れている。 誰も彼もサティが一睨すれば、爽やかな笑みは、忽ち苦笑に変わり、真面に会話もせず、 引き下がって、以後は距離を置く。 女はアクセサリーではない。 綺麗だから側に置きたい等と言う、好い加減な願望は聞けない。 未だサティも知らない、プラネッタの闇を聞かされても、本気で一途に愛を注げるのか? それを受け止める事が出来るのか? オーラファンは経歴だけなら、申し分無い男だろう。 だが、それだけでは駄目なのだ。 サティの心境は、宛ら小姑の様であった。
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