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ゾードン
遊佐司狼「神栖66町?」

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遊佐司狼「神栖66町?」
10 :ゾードン[sage]:2013/09/23(月) 15:55:53.27 ID:JLk2U8Kl
事の発端は二年前、真理亜が通っていた和貴園の夏季キャンプでの出来事だった。一班の仲間達と共に森に入っ
ていき、そこで『ミノシロモドキ』という 生き物を見つける。ミノシロモドキは国立国会図書館つくば館の端
末機械である。ミノシロモドキに記録されていた内容は真理亜を始めとする一般の皆の耳を 疑う内容だった。

 それは先史文明、今の時代になるまでの血塗られた歴史の数々だった。真理亜の時代に呼ばれる「呪力」は
元はPKと呼ばれ、世界各地でPKを持つ人間が現れ始め、 その数は全人口の0.3%に達した。PKを用いた犯罪が多発し
始め、PK能力者に対して人々は恐怖を抱き、やがて弾圧を加え始めた。やがてそれに政治的、思想的思惑が
複雑に絡み合い、全世界で大規模な戦争が勃発。その末に文明が崩壊したのだという。

 歴史はそれで終わらない。大規模な戦争の末、全世界の人口を全体の僅か2%程にまで激減させ、社会体制、文明は崩壊した。
そしてPK能力者と非能力者の争いは尚も 続いた。それから約500年に渡る「暗黒時代」が幕を開け、そこでも血と肉と屍で築か
れた歴史が紡がれた。この時代は「奴隷王朝の時代」と呼ばれた。

 奴隷王朝が終焉した後も能力者と非能力者の抗争が絶え間なく続き、ついにそれまで傍観者に徹してきた者達が解決に乗り出し、現代の
社会体制が築かれたと言われる。

 今の神栖66町があるのも傍観者であった者達がいたからこそだろう。

 「何とまぁ、凄い歴史っつーか。黒円卓の連中も大概だったがこれの前じゃあいつらも霞むわな」
遊佐司狼「神栖66町?」
11 :ゾードン[sage]:2013/09/23(月) 15:56:35.14 ID:JLk2U8Kl
 真理亜から語られた余りにも凄惨かつ血生臭い歴史の数々に司狼は思わず溜息を漏らす。

 「特に「奴隷王朝」だっけ? その時代の歴代皇帝はあいつらにも劣らない変態揃いときたかよ。まぁ、あんな凄ぇ力を操れりゃそれを試してみたくもなるわな。
けど能力を持ってない普通の人間殺しまくって何が楽しいのかね。凄い力振り回して『俺TUEEEEEEEE』してるだけじゃねえか」

 「暗黒時代」に存在した「神聖サクラ王朝」の歴代君主の暴虐非道ぶりは騎士団にも精通するものがある。この世界も大概まともな世界ではなさそうだ。

 「所でお前は何で神栖66町を離れて暮らしてんだ?」

 司狼は再度真理亜に尋ねる。真理亜が神栖66町を離れて暮らしている理由。大分前置きが長くなってしまったものの、夏季キャンプ
の時にミノシロモドキを捕まえ、ミノシロモドキに 記録されていた歴史を知ってしまったことは本来であれば処分の対象になってしまう所を
一班の仲間である朝比奈覚の祖母にして倫理委員会の委員長である朝比奈富子が不問にしてくれた。

 だが同じく一般の仲間である伊東守は精神面が不安定な上、呪力も弱く、いつ「処分」の対象にされるか分からなかった。

 「「処分」? 何か悪ィことでもしたのか?」
遊佐司狼「神栖66町?」
12 :ゾードン[sage]:2013/09/23(月) 15:57:40.57 ID:JLk2U8Kl
 「ううん。そういうわけじゃないんです」

 神栖66町で暮らしていく上で必要なのは「他人との協調性をとれる人間」、「問題を起こさない人間」、「呪力を使える人間」だ。これは何
かと言うと、呪力がない、若しくは弱かったり、 問題を起こしそうな子供は『不浄猫』により処分されてしまう。

 なぜこの程度のことで処分されるのかと言うと、精神面が不安定だったり、問題を起こす子供は「悪鬼」、或いは「業魔」となる可能性があるからだ。

 町の平穏を乱したりする異分子は子供の内から摘み取っている。現に守は二度も不浄猫に襲われてる。奇跡的に不浄猫を撃退した
翌日の朝に家を飛び出したのだ。 守のことが放っておけず、真理亜は守のそばにいるべく、神栖66町を去った。

 自分達と異なる存在を排除する神栖66町の方針に抗うようにして守と共に逃亡したのだ。

 高々呪力が弱い程度のことが処分の対象とされてしまう神栖66町。全ては「悪鬼」、そして「業魔」を出さない為らしい。子供一人を消す
ことを日常茶飯事的に行っているのだとすれば 既にかなりの数の子供が「間引かれている」ということになる。
遊佐司狼「神栖66町?」
13 :ゾードン[sage]:2013/09/23(月) 15:59:14.26 ID:JLk2U8Kl
 「私はあのまま町の都合で死ぬなんて嫌でした。何の悪いこともしていない守が呪力が弱いだけで処分されるなんて納得がいきません」

 真理亜はそう言うと僅かに唇を噛みしめた。司狼から見た真理亜の目には微かな怒りが宿っていた。

 「あー、分かる分かる。ムラ社会の反吐が出る部分を残らず掻き集めて鍋で煮りゃこういう町が出来るんだろうよ。呪力っつー名前の調味料を加えれば出来上がり、と」

 軽い口調で返すものの、司狼自身も神栖66町に対する感情は最悪のそれだった。

 「いつか蓮にも言った言葉だけど、この国の悪い部分の集大成みたいな町だな。出る杭は打たれる、天才は孤独、ハブられる馬鹿、イジメカッコ悪い。ま、今更泣き言言っても
始まんねぇけどよ。ちったぁ痛い目に遭えば委員会の連中も納得するんじゃねぇか? 逃げてばっかなんて俺には性に合わねーからな。俺をその神栖66町に案内してくんねーか?」

 「え!? 行ってどうするんですか?」

 「決まってんだろ。委員会の連中に灸を据えてやんのさ」
遊佐司狼「神栖66町?」
14 :ゾードン[sage]:2013/09/23(月) 16:00:02.20 ID:JLk2U8Kl
 司狼自身、正義感の持ち主というわけではない。しかし厄介事、もめ事に首を突っ込みたがる生来の性分故、神栖66町のことについて
詳しく知れば知る程その町を引っ掻き回したく なった。反吐が出る程の全体主義、虫唾が走る程の村社会、異分子、異端者は容赦なく
排除。司狼自身の嫌いな物を全てぶち込んだような町。

 自分があの町で生まれたのだとしたら真っ先に処分の対象にされるだろう。そんなものはゴメンだし、お断りだ。

 「あの……、貴方は『呪力』を持っていないんですよね? だとしたら『攻撃抑制』も『愧死機構』もないってことになりますけど……」

 「『愧死機構』?」

 真理亜が『愧死機構』について教えてくれた。、あらかじめ人間の遺伝子に組み込まれている機構であり、同種である人間を攻撃しようとした際に作用する。 対人攻撃を脳が認識すると、
無意識のうちに呪力が発動し、眩暈・動悸などの警告発作が起こる。それでもなお警告を無視し攻撃を続行した場合には、強直の発作により死に至るという。

 「それがある限り連中は俺を殺せねぇってことだわな。なんだ、案外楽に終わりそうな仕事だぜ」
遊佐司狼「神栖66町?」
15 :ゾードン[sage]:2013/09/23(月) 16:00:38.59 ID:JLk2U8Kl
 そのような機構が作用すれば神栖66町の連中は司狼を呪力で攻撃できないということになる。今の司狼の力を考えれば適当に殴り込んでそれで終わりということになるだろう。

 諏訪原での戦いの際、騎士団の一人にして黒円卓の一員、ルサルカ=シュヴェーゲリンから奪い取った「血の伯爵夫人」がある限り司狼は聖遺物の使徒としての力がある。

 「ま、俺は呪力とかいうモンは持ってねぇけどよ。変わりにこんなことならできるぜ。来な、エリー」

 そう、ルサルカの体内にいる時、連れの女であるエリーこと本城恵梨依の魂と司狼は文字通り『融合』している。

 そして司狼の横にはエリーが『形成』されていく。

 「ん?、久々に外の空気吸った気分だよ。あ?よく寝た」


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