- ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第八部
49 :代理[sage]:2013/09/23(月) 18:58:55.21 ID:/hJiPncF - 623 : ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:07:05 ID:tFZwjNi.
すみせん、遅くなりました。投下します。 624 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:07:38 ID:tFZwjNi. ◇ ◇ ◇ ぱちぱちぱちぱち……―――(拍手の音) ◇ ◇ ◇
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50 :代理[sage]:2013/09/23(月) 18:59:25.80 ID:/hJiPncF - 625 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:08:36 ID:tFZwjNi.
「君たちには……人探しをしてもらいたい」 とろけそうになるほど甘い声。その声は一流音楽家が奏でるヴァイオリンよりも美しく響いた。 DIOは目前でうずくまる四人の男たちを眺める。誰もがぼんやりとした顔で、DIOの言葉に聞き惚れている。 「ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、花京院典明、モハメド・アヴドゥル……。 この四人を、君たちには探してもらいたい。いずれもこの私の野望を邪魔せんとする輩だ。 君たちには彼らを探し出し、このDIOのもとに連れてきてもらいたい。 生死は問わない……信頼する君たちなら必ずやり遂げてくれるだろう……。 さぁ、行くがいい……このDIOの忠実な部下たちよ……」 話が終わったのを合図にDIOは椅子から立ち上がり、男たちは深々と頭を下げる。 薄暗い室内をぼんやり照らすロウソクが、怪しげな影を男たちの頭に落とした。 よく見れば額に小指大の肉片がうごめいていることに気がつくだろう。DIOによる洗脳、”肉の芽”だ。 部屋の奥へとDIOが姿を消し、男たちも立ち上がる。その足取りはどことなくぎこちない。目つきも虚ろだ。 プログラミングが終わったばかりのロボットのような動きで彼らは建物をあとにする準備を始める。 一連の出来事を部屋の隅で眺めていた虹村形兆は、ゾッとしない気分だった。 これがDIO……! これが悪の帝王……ッ! 他人を踏みつけることなんぞなんとも思っていない。 喉が渇いたから喫茶店に入るような気軽な感じで、彼は人を人有らざるモノに変え、己のコマとする。 罪悪感がない……、人としての『タガ』が外れている……。その点では間違いなくDIOは人間を超越しているだろう。 何かをしようとするたびに悩み、苦しむ形兆なんかとは違って。 形兆の指先がビリビリと震えた。『格の違い』に恐怖を覚えたのは初めてのことだった。 震えをごまかすためにもう片方の手でギュッと腕を押さえつける。 隣に立ったヴァニラ・アイスに動揺を知られたくはなかった。 「行くぞ、虹村形兆。奴らに先を越されてはならん」 ヴァニラの声は無機質で、人工的で、カラッカラに乾いてるように聞こえた。 形兆が小さく頷くと、ヴァニラ・アイスは先に立って歩き始めた。 その背中を眺めながら、こいつの首筋に弾丸をブチ込めたらどれだけスカッとするだろう、と形兆は思う。 第五中連隊をそっくりそのまま投入。 三六〇度より一斉一点射撃。首元の爆弾を引火させ、上半身を根こそぎ吹き飛ばす……。 そんな夢みたいなことができたならば……。
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51 :代理[sage]:2013/09/23(月) 19:00:21.59 ID:/hJiPncF - 626 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:09:14 ID:tFZwjNi.
「なにをしている、早く行くぞ」 「そう急かすんじゃあない。隊列行動は規律を守ってだ。俺に指図するのはやめてもらいたいね」 表面上は軽口を叩きながらでも、互いに警戒は全くといていない。 ヴァニラは隙あらば形兆を殺そうとしているし、形兆だって素直に殺される気はない。 まだここがDIOの目の届くところだから、ただその一点のみで二人は戦わずに済んでいる。 だが『ここ』からは違う。この扉を開け、GDS刑務所から出ればそこはもはや無法地帯だ……。 最後の扉を開くと強い日差しが差し込んできて、思わず目を瞑りそうになった。 目がなれると辺りの風景が一気に視界に飛び込んでくる。見れば先の四人は四方に散って、それぞれの方向へと向かっている。 同時に甲高い叫び声が聞こえ、つられて上を見上げれば一匹の鳥が上空高く舞っている。 側にも、上にも監視付きってことか。逃げ場なんてものはどこにも見当たらなかった。 ため息をひとつ吐くと、形兆はバッド・カンパニーを広げていく。 遅れないようヴァニラ・アイスについていきながら一人心の中で毒づいた。 (なぁ、億泰……なかなか狂ってやがるだろう? あれだけ嫌ったオヤジなのに、今俺はオヤジの代わりに仕事を引き継いでいるんだ。 皮肉なもんだ。殺したいほど憎んでいたはずなのに、そのオヤジの跡をそっくりそのままたどってやがる! この俺が! この俺がだぞ……!?) 吸い込んだ空気はベタベタと口周りで張り付いて、学ランの下で汗がシャツをぐっしょりと濡らした。 (だがな、俺は忘れてないからな…………! 諦めたわけでもない。必ず俺とお前の借りは返してやるから! だから見とけよ、億泰!) 形兆の足元で何人かの兵士たちが武器を構え直した。 金属がぶつかりあう、特有の重量感を持った音が響いた。それは戦いを予期させるような鈍い音。 兵士たちは知らない。この拳銃をこの先誰に向けることになるか。 ひょっとしたら顔も知らない若者かもしれない。戦いに明け暮れた歴戦の兵士かもしれない。 そしてもしかしたら……。渋い顔で形兆の隣を歩くヴァニラ・アイス。 彼にその武器を向けるときは、そう遠くないのかもしれない。
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52 :代理[sage]:2013/09/23(月) 19:00:52.51 ID:/hJiPncF - 627 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:10:02 ID:tFZwjNi.
◇ ◇ ◇ 散歩に付き合ってくれないか。そう言ったDIOの提案にヴォルペは黙って頷いた。 別に断る理由もないし、ちょうど暇をしていたところだった。 頷くヴォルペを見てDIOは笑みを深め、彼を地下へと誘った。二人はGDS刑務所内の地下へと続く階段を下っていく。 最初はコンクリートでできていた階段も下るに連れて砂や石が混ざり、ついには壁も足元も未整備のものへと変わっていた。 天井から滴る水滴が水たまりをあたりに作る。ゴツゴツした地面に足元を取られないようヴォルペは慎重に進んでいく。 DIOはどこか上機嫌で鼻歌交じりで先を進んでいた。さっきからやけにハイなようだとヴォルペは思った。 何かいいことでもあったのだろうか。 特別変わったことはなかったと思っていたが、思えばヴォルペはDIOのことをよく知らない。 好きな花も好みの歌も、出身も年齢も血液型も知らない。そもそも自分から誰かに興味を持ったことなんぞなかった。 足元が一段と荒れてきた。天井が低くなり、背が高いヴォルペは身をかがめながら進む。 頭をぶたないようにしながら、水溜りに足を突っ込まないようにするのはなかなか難しい。 進んではかがみ、よれては立ち止まる。DIOはなんでもないようにスイスイと進んでいく。 ヴォルペより一回り大きな体をしているというのに器用なものだった。 「君のスタンドは素晴らしいよ、ヴォルペ」 洞窟に入ってから一言も口を開かなかったDIOが突然そう言った。 返事をするどころでないヴォルペは言い返すこともできず、ただ頷く。この暗闇では頷いたところでわからないだろうけれども。 ともに足を止めることなく、進みながら話は続く。ヴォルペは黙って耳を傾けた。 「先の三人と一匹……チョコラータ、サーレー、スクアーロ、そしてペット・ショップのことだが……。 君のスタンドは最高だ。ほとんど再起不能当然だった彼らが今ではピンピンしている。 全くの無傷だ。本当に素晴らしいよ、ヴォルペ……!」 「……それは、どうも」 「確かにただ動けるようにするだけなら、この私にも可能だ。 首元に指先をつきたて、吸血鬼のエキスを流し込めばいい。そうすれば屍生人として彼らは再び動き出すだろう。 だがそうなってしまえば二度と陽の光を浴びることはできなくなる。 この狭い舞台で地下でしか動けない部下なんぞ、扱いづらいことこの上ないよ」 「…………」 「だが君は違う。君の能力は違う。私の真逆の能力そのものであり、だが隣り合わせのようによくなじむ! 過剰なエネルギーを流し込み、細胞を活性化させる。復元するのではなく、再生させるのだ。 いうならば体の内部を加速させているわけだ。一日ががりの傷を三秒で、一年がかりの怪我を三分で! 君は確かに生命を操っているよ、ヴォルペ! なんて素晴らしい! これ以上ないほど素晴らしい! 君は生命を与え、私は生命を奪う。君は万物を加速させ、私は世界を凍りつかせる。 コインの裏表のようだ! 素晴らしい引力だ! フフフ……! ヴォルペ、君は素晴らしいぞ! ヴォルペッ!」 DIOの喜びようはヴォルペを戸惑わせた。 話していくうちに喜びが増してきたのだろう。DIOはまるでクリスマスと正月が同時に来たようにはしゃぎだす。 だがヴォルペにはその喜びが理解は出来ても、共感はできなかった。 喜色満面のDIOを見つめながら、ヴォルペは何をそんなに喜ぶのだろうと考えていた。 自分はただ言われたとおり手当をしただけだ。 何も特別なことをしたわけではない。そもそもそんなにすごいというのなら、それは俺ではなくスタンドがすごいだけだ。 すごいのはむしろ君の方だ。そんな類まれなすべてを惹きつける、君の引力がすごいんだ。
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53 :代理[sage]:2013/09/23(月) 19:01:23.20 ID:/hJiPncF - 628 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:10:37 ID:tFZwjNi.
だが、それでもヴォルペはかすかにだが、『喜び』というものを感じていた。 だれかの役に立てたという達成感と満足感がヴォルペをすっぽり覆う。 それは初めての経験だった。こんなものが感情だというのなら、それも悪くないなと思える程だった。 「ところで」 ヴォルペの声は相変わらず乾いていたが、どこか和らげな感じだった。 先を進んでいたDIOだったがヴォルペの声に立ち止まると、彼が追いつくのを待った。 二人並ぶとゆっくり進みだす。道はだんだんと平坦になっていき、天井も3、4メートルほど高くなっていった。 「俺たちは今、どこに向かっているんだ?」 DIOはなんでもないといった感じで返事をする。 「どこでもないさ。強いて言うなら君の引力が向くがままにさ」 そしてそれに応えるかのように、前方から物音が響いてきた。 硬い金属をぶつけ合うような音だ。それは戦いの音。 DIOの顔に笑顔が広がる。今までの笑みとは違う、邪悪で凶暴な笑みだ。 ヴォルペはその横顔を黙ってじっと見つめていた。DIOの横顔からなにかをかぎ取るようにじっと……。
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54 :代理[sage]:2013/09/23(月) 19:01:59.04 ID:/hJiPncF - 629 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:11:18 ID:tFZwjNi.
◇ ◇ ◇ 洞窟。 光が刺さない地下深く、手に持った懐中電灯だけを便りに二人は歩いていく。 空条承太郎と川尻しのぶ、二つの足音がこだまする。天井は低い。承太郎が手を伸ばせば触れられそうなほどだ。 承太郎としのぶはぶどうが丘高校を後にし、空条邸に向かっていった。 承太郎は理由を言わなかった。黙ったまま車を走らせ、門のところで止めると彼はようやく口を開いた。 『アンタ、吸血鬼の存在を信じているか』 突然の質問にしのぶは何も答えられない。承太郎も答えを期待してたわけでなく、淡々と話を続けた。 承太郎が持つ支給品の中の一つに地下地図、というものがあったらしい。 この街全体に張り巡らされたような地下道は交通のためにしては不自然で、下水や浄水のためにしては大規模すぎる。 しかしもしも日中外に出られないようなものたちがいたならば……。吸血鬼と言われる怪物たちが本当に実在するならば……。 そこはこの地で一番の危険地帯に早変わりだ。 学校の周りも駅の周りも人気は少なく、情報捜索は空振りに終わった。 承太郎はこれ以上待つことは不可能と判断し、攻めることにしたのだ。 参加者名簿の中に吸血鬼と呼ばれる人種が何人もいると、承太郎は言った。 そしてそれ以上の怪物、柱の男たちと呼ばれる者もいるといった。 『俺は今から地下に踏み込み、片っ端からそういう奴らをぶちのめすつもりだ』 にわかには信じられない話だ。おとぎ話でももう少し信ぴょう性がある。しのぶは何も言えず黙っている。 だが無言のまま承太郎が車から降りようとしたとき、既にしのぶも助手席の扉を開いていた。 もはやなんでもアリだ。スタンド、人殺し、爆弾首輪。そんなものがあるのであれば吸血鬼だっているだろう。 それになにより、さっき決めたばかりではないか。 空条承太郎を止めてみせる。ならばしのぶには選択肢はない。承太郎が行くところがしのぶの行くところだ。 たとえそこがどれだけ危険な死地であろうとも。 しばらく歩くと天井が高くなり、あたりもうっすらとではあるが明るさを増した。 壁に生えるコケがかすかに光り、ところどころから飛び出た燭台にはロウソクが灯らされている。 薄明かりの中、二人は無言のまま歩く。ただひたすら歩く。 承太郎は憎むべき敵を探し、一切の気配を見逃すまいとして。しのぶはそんな彼の大きな背中を眺め、内なる決断を済ませて。
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55 :代理[sage]:2013/09/23(月) 19:02:29.74 ID:/hJiPncF - 630 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:12:07 ID:tFZwjNi.
しのぶは諦める決断をした。 難しい判断だったがそうする勇気を持つことを、彼女は自分に決めた。 この先承太郎は何度も戦うだろう。 望まない相手に拳を振り上げる羽目になるだろう。自分を押し殺し、戦うべきでない相手と戦うことになるだろう。 しのぶにできることは『なにもない』。 なにもないとわかり、でもなにかせずにはいられない。そのためにまずは自分の身は自分で守ろうと思った。 戦う相手を救うことを、しのぶは諦めたのだ。今の彼女に、それはあまりに大きすぎたものだった。 彼女に救えるとしたらせいぜい一人ぐらいだろう。救えてたったひとり……承太郎、その人ぐらいなものだ。 だから承太郎が戦い始めたら彼女は逃げるつもりだ。 戦いを止めることは不可能だし、承太郎のそばにいたところで負担がますだけだ。 悲劇のヒロイン気取りでもうやめて、なんていうこともしない。 彼がどれだけ思いつめて、苦闘しているかはわかっているつもりだから。 大きく息を吸い込むと、砂の臭いに混じってタバコの匂いがした。 空条さんはいったい何を考えているのだろうか。一体彼には何が見えているのだろうか。 隣を歩いているというのにしのぶには承太郎の何もが、わからなかった。 頑張ったところで空回り。ただ励ましたいのに、力になりたいのに。 それなのにどうやったら力になれるかがわからない。 だけど、これ以外に、そしてこれ以上にできることは何もない。 それすらも欺瞞で、傲慢で、押し付けがましいおせっかいだ。 だから一緒にいたい。だけどそばにいたい。脇で立っていたい、寄り添っていたい。 何か一つだけでも秀でたものになりたかった。 しのぶは、心の底から『必要』とされたかったのだ。 今は無理でも……いつかはかならず……――― ―――そう、思っていた。
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56 :代理[sage]:2013/09/23(月) 19:03:11.04 ID:/hJiPncF - 631 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:13:04 ID:tFZwjNi.
「柱の男、カーズ……か」 「え?」 「アンタは逃げろ」 突然立ち止まった承太郎がポツリとつぶやいた。しのぶには何が何だかわからなかった。 次の瞬間、承太郎の姿が消え、凄まじい轟音が響いた。 しのぶは音にたじろぎながらも反射的にその場に伏せる。ぱらぱらと音を立て、頭上から崩れた砂が落ちてきた。 衝撃が収まるのを待ち、こわごわと顔を上げる。 目を凝らすと十数メートル先に承太郎の背中が見えた。そしてその脇に立つスタンドと……さらに奥に男の影が一つ。 その男は怪我でもしているのか、しのぶと同じように地面にうずくまっていた。背は高く、肩幅も大きい大柄な男だ。 黒いターバンのようなものを頭に巻き、冒険家風にマントを身につけている。 近くにはついさっきまでかぶっていたと思われる山高帽が転がっていた。 状況から察するに、承太郎がその男に攻撃を仕掛けたらしい。突然姿が消えたように見えたのは、彼のスタンド能力だろう。 「川尻さん、もう一度言う。死にたくなかったら逃げろ」 しのぶのほうを振り返りもせず、承太郎は今度ははっきりとした声でそう言った。 承太郎のもとへ駆け寄ろとしかけたしのぶはその言葉に足を止める。 それは拒否の言葉ではあったが、拒絶ではない。 承太郎がほんとうにしのぶのことを思ってなかったら何も言わず、そのまま戦い続けていただろう。 しのぶの脳裏に学校での出来事が古い映画を観るように、思い出される。 駆け寄るしのぶ、突き立てられたナイフ。薄笑いを浮かべた髭面の男。ガラス玉のような承太郎の目……。 ここで彼の言葉を無視するのは簡単だ。近くに駆け寄って、手を広げてもう戦うのはよして、と叫べばいい。 だがそれで何になるというのだ? しのぶは悩んだ末に、逃げることにした。 それは承太郎を困らせることになっても、改心させることにはならないだろう。 本当に承太郎を止めたいのであれば今は動く時でない。自分勝手な馬鹿なことをすべきでないと、しのぶは学んだのだ。 だがそれでも……やはり胸が痛んだ。 承太郎に独り戦いを任せること苦しさ、戦う相手にも家族がいるのではという哀れみ。 それでもそれらすべてを飲み込むと、しのぶは元来た道を走り出す。最後に承太郎にむかって、大声で言葉を残しながら。 「空条邸で待ってますからッ! 二時間でも、三時間でも……どれだけ待たされようとも待ってますからッ!」 636 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:18:10 ID:tFZwjNi. すみません、抜けがありました。 >>631と>>632の間です。 承太郎は動かない。返事もせず、頷きもしなかった。 足早に去る音を背にしながら、ただ目の前の男をにらみ続ける。 しのぶの足音がすっかり消え去った頃になって、ようやく地に伏せていた男が立ち上がった。 直角に曲がっていた足首も。あらぬ方向にひん曲がっていた首も。 一向に気にする様子もなく淡々と立ち上がると、服の埃を払ってみせた。
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57 :代理[sage]:2013/09/23(月) 20:07:35.85 ID:/hJiPncF - 632 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:14:11 ID:tFZwjNi.
そして…………―――また、轟音。 カーズの体が車にはねられたように吹き飛び、何度も洞窟の壁に叩きつけられる。 バウンドを繰り返し、天井まで達し……放り投げられたおもちゃのように落ちてくる。 当然のように位置を変えた承太郎はそれを黙って見ていた。今まで違ったのはその腕に真っ赤な線が走っていること。 時を止め終えたほんのゼロコンマの瞬間に、カーズの指先が承太郎の腕の肉をえぐり飛ばしたのだ。 音を立てて、承太郎の腕から血が滴り落ちる。傷は深くもないが、浅くもない。 二度の衝撃を終えて、両者はにらみ合う。 ゆらりと立ち上がったカーズの顔には憤怒の表情が張り付いている。承太郎は変わらず、機械のように無表情だ。 泥だらけになった自分の姿を一瞥し、カーズは苦々しく言った。 「貴様、何者だ……」 「てめェには関係ないことだ。これから俺にぶちのめされる、お前にはな……」 ―――……殺してやる これほどの屈辱は未だかつて味わったことがなかった。 ダメージはない。が、餌の餌、家畜当然かそれ以下の存在である人間にこうも弄ばされいいようにやられて、カーズのプライドはズタズタだった。 スラァァァ……と薄い氷をひっかくような音を立て、カーズの腕から刃が飛び出した。承太郎もスタンドを構え直し、戦いに備える。 最初から全力全開……最強のスタンド使いと最強の究極生命体のぶつかり合い。この戦いは長くは続かないだろう。 薄暗がりの中、影が動いた。そして……三度轟音が、そして今までよりさらに凄まじい轟音が、洞窟を震わせるように響いた。
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58 :代理[sage]:2013/09/23(月) 20:08:06.43 ID:/hJiPncF - 633 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:14:47 ID:tFZwjNi.
◇ ◇ ◇ 「スター・プラチナッ!」 「KWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 カーズが感じたのは強烈な違和感だった。 目の前の男は自分を知っている。柱の男の性質を、光の流法を……波紋使いでもないのに、完璧に対応しカーズの攻撃をさばいていく。 カーズの体に直接触れることは決してしない。輝彩滑刀に対しては刃をはねのけるように側面をたたいている。 数度の交戦を経て、大きく距離を取る。承太郎も無理には追わず、一度互いに呼吸を整える。 気に入らないな、とカーズは思った。その余裕が、強さが、すべてを見透かしたようなスカした視線が! 全てがッ! 気に食わんッ!! 大地を強く蹴りあげ、跳躍。狭い洞窟であることを最大限に利用する。 天井まで上昇、今度は天井を蹴り加速。壁を蹴り、進路を変更。また床に戻り、そして上昇……。 人間には決してできない、超三次元的な動き! あまりのスピードにカーズの影がぶれてみえるほどだ! 「刻まれて、死ねェェェエエ―――ッ!」 「オラオラオラオラオラオラッ!」 だが、やはりだ。それでも承太郎は完璧に対応してみせた。 上から切りかかっても、下から切り上げても、右から真っ二つにしてやらんと振り上げても、左からます切りにしようと振り下ろしても。 スピードと破壊力では間違いなくカーズが上だ。体力も、耐久力も、地の利もカーズが上。 だがしかし精密性という一点のみで! 悔しいが認めるしかない……ッ! 承太郎の体に細い切り傷が無数に広がっていく。その先の一歩が踏み込めない。 承太郎の超人的な集中力と、スター・プラチナの能力がそれをさせない。 カーズの刃を揺らし、折らんばかりに振り下ろされるスター・プラチナの攻撃に柱の男は認識を改める。 こいつは……強い。波紋使いとは違った次元でコイツは……このカーズの脅威となる男だ、と。 そしてなにより……ッ! 「……スター・プラチナ・ザ・ワールド」 そう承太郎がつぶやき、カーズの世界が一変する。 つい今の今まで、目の前にいたはずの影が消える。と同時に、ほんのゼロコンマ秒のズレもなく、体の側面に強い衝撃。 きりもみ回転をしながら洞窟の壁に叩きつけられる。 あまりの衝撃にそれだけでは収まらず、バウンドを繰り返し、何度か壁と床を揺らしてやっとカーズの体は止まった。
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59 :代理[sage]:2013/09/23(月) 20:08:37.56 ID:/hJiPncF - 634 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:15:50 ID:tFZwjNi.
そう、この謎の能力……。 人形使いに会うのは初めてではない。この舞台ではじめにあった人間もそれらしき能力をもっていた。 が、コイツはタダの人形使いではない……ッ! なにかそれ以上の恐ろしい……凄まじいなにかを、秘めているッ! (そうでなければこのカーズが、こうまでも苦戦するはずがなかろうが……ッ! たかが人間相手に……忌々しいッ!) 体についた砂埃を払い落とし、立ち上がる。形としてはこればかりを繰り返している。 攻めるカーズ、迎え撃つ承太郎。互いにダメージはほとんどない。 なんどもカウンターをくらっているカーズだが、柱の男の耐久力、回復力がそれを補ってくれている。 承太郎も決して無理をしない慎重な立ち回りだ。じっと隙を伺い、待ち続けている。 互いを牽制しあうような時間が続き、小競り合いが二度三度。 焦れるような戦いが何度も続いた。このままでは決定打にかけ、いつまでたっても戦いは終わらないだろう。 二人にできることといえば待ち続けることだけだった。 集中力を途切らせることなく、何かこの状況を打破してくれるような「何か」をひたすら待つことだけ……! 「オラァ!」 「ふんッ!」 長い交戦の終わり際、二人はここぞとばかりに踏み込んだ。だがそれも有効打にはならない。 キィィン……と甲高い金属音が響き、カーズの刃をスター・プラチナが蹴り飛ばす。 よろめき体制が崩れたところを追撃するも、柱の男特有の柔軟さがそれをなんなく躱しきる。 顎先をかすめた蹴りをさけ、カーズは大きく飛び下がる。承太郎はスタンドを呼び戻し、また戦いに備える。 その時だった。 その金属音が止まないうちに、近づく一つの足音。そしてその場にそぐわぬ、乾いた拍手の音。 パチパチパチパチ…………。承太郎の動きが思わず止まる。一歩踏み出したところでカーズは何事かとあたりを見渡した。 二人の視線が向いた先から人影が浮かび上がってくる。 薄明かりの中出てきたのは……黄金に輝くド派手な衣装、筋骨隆々のたくましい肉体、傍らに立つスタンド。 張り詰めていた空気がさらに殺伐としたものに変わる。 承太郎の体から目には見えない、だが強烈な怒りの感情が熱となって一斉に吹き出した。 「…………DIOッ!」 「ンン〜〜、ご機嫌じゃないかァ、承・太・郎ォォ………? ンン? しばらく見ないあいだに随分と老け込んだじゃないかァ……。 それともこのDIOに会うのは『数年』ぶりかな?」
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60 :代理[sage]:2013/09/23(月) 20:09:08.16 ID:/hJiPncF - 635 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:16:45 ID:tFZwjNi.
返事はなく、代わりに拳が飛んできた。いくつにも増え重なった拳が、壁のようにDIOめがけて迫ってくる。 手洗い歓迎というわけだ……ッ! DIOは軽いウォーミングアップだとつぶやくと、自らもスタンドを出現させた。 「ザ・ワールド!」 その音は拳と拳がぶつかり合う音にしてはあまりに殺気立ったものだった。 刃物と刃物をぶつけ合うように鋭く、甲高い音が洞窟中に響く。それも無数に……そして同時と聞き間違うほど素早い間隔で! 承太郎とDIOはスタンド越しに火花を散らす。 パワーA、スピードAのスタンドのぶつかり合いは凄まじく、衝撃で洞窟全体がビリビリと震えた。 突きが徐々に早くなっていく……。DIOの顔から余裕の笑みが消えた。承太郎は奥歯を噛み、鼓舞するように叫びを上げる。 だが! 「KUWAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」 この時を待っていた……ッ! そう言わんばかりの迅速な行動だった。 屈辱ではある。たかが人間相手に苦戦し、突然現れた邪魔者に助けられた形で隙を付くことになった。 だがカーズにとってもはやそんなことはどうでもいいことだった! プライド、過程、こだわり……そんなもののために勝利を犠牲にするほどカーズは甘くないッ! 目的を遂行し、そのためにはどんな手であろうと迷わず実行するッ! そう、これが真の戦闘だ! カーズにとってはそれがなによりもの真理ッ! 「その命、刈り取ってくれよォォオ―――――ッ!! KUWAAAAAAAAA!」 正面から真っ向勝負の二人に対し、真横から超速で接近。 狭い洞窟内に逃げ場はない。上下、左右。いずれに避けようとも、カーズのスピードを持ってすれば腕か足、あるいは両方共もっていかれる……ッ! 魚を下ろすかの如くッ! ただ包丁を振るうようにッ! カーズの鋭い刃が承太郎とDIOに襲いかかるッ! ―――その瞬間! ……またも世界が止まった。 「「スター・プラチナ・『ザ・ワールド』ッ!」」 二人は迫り来る刃を前に、示し合わせたように同時に動いた。 ともに止まった時の世界で、DIOは左に、承太郎は右に。 たとえ柱の男といえど、止まった時の世界では『喰らう』ことは不可能だ。 DIOはそうとは知らず、承太郎はそれを知っていて。ともに最大速度でカーズめがけて拳を振るう。
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- ジョジョの奇妙なバトルロワイアル3rd第八部
61 :代理[sage]:2013/09/23(月) 20:09:38.94 ID:/hJiPncF - 637 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:18:37 ID:tFZwjNi.
右からザ・ワールド、左からスター・プラチナ。左右からのすさまじい衝撃が一秒の狂いもなく、カーズの体内に圧縮されていく。 すべてが止まった世界でなお、その凄まじいエネルギーは暴走し、カーズの体を変形させていく。 極限までしなやかな骨は折れ、ゴムのように柔軟な皮膚ですら突き破られる。空気配給菅に押し込まれたわけでもないのにカーズの体はぺちゃんこに変わっていく。 「承太郎、貴様ッ!」 「オラオラオラオラオラオラァ!」 そして、ともに対処しなければならない共通の敵がいたとしても。 この二人が手を組むことは不可能だ。たとえそれが一時、一秒であったとしても。 時が動き出すほんのコンマゼロ秒前、体制を立て直した二人が激突する。 拳の嵐、蹴りの応酬。DIOの右肩が大きく裂ける。承太郎の腕の傷がぱっくり開き、天井に血のシミを作った。 「「そして時は動き出す……」」 「BAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」 吹き飛ぶカーズとその叫びを耳にしながら、最後に拳を放つ二人。 凄まじいエネルギーがぶつかり合い……衝撃波が洞窟を通り抜けていった。 弾き飛ばされるようにDIOも承太郎も、大きく飛び下がった。 天井と壁が割れ、パラパラと小石が落ちてくる。砂埃が舞い、足元を舐めるように通り過ぎていく。 「やはり止まった時の世界で動けるか、承太郎……! このDIOにだけ許された世界にッ! 貴様はやはり入り込んできていたのか!」 「答える必要はない」 会話の終わりに二人の傷口が大きく開いた。カーズとてただ闇雲に突っ込んだわけではない。 承太郎との戦いの中でその不思議な能力は曖昧ながらも把握していた。 たとえと時間が止められようと、吹き飛ばされる直前にDIOと承太郎の体に『憎き肉片』を飛ばす。 カーズは倒れふしながらもそれでも意地を見せた。しかし屈辱には変わらない。 あの柱の男の一族が、人間と吸血鬼相手に劣勢であることは変わらない事実なのだから。 「よかろう……例え貴様が時に侵入してこようとも、このDIOが貴様をたたきつぶしてやるッ!」 「……貴様らは殺す。肉片一つ残らず殺す。バラバラのブロックに切り裂き殺す。死体も残さずこの体に取り込み殺す。 このカーズ自らの手で! 直々に! 殺し尽くしてやるッ!」
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62 :代理[sage]:2013/09/23(月) 20:10:17.03 ID:/hJiPncF - 638 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:19:06 ID:tFZwjNi.
激高するカーズの叫びと、DIOの高笑いがあたり一面にこだました。 増幅された怒りと憎しみの感情が霧のように承太郎を包んだ。しかし承太郎は怯まない。 その霧を弾き飛ばさんばかりのエネルギーが承太郎の体から立ち上った。 思い出せ、23年前のあの日のことを。怒りのままにDIOをぶっ飛ばしたあの日。 母を人質に取られ、友を殺され、祖父を侮辱され、プッツンしたあの日の怒りを……―――俺はッ! 洞窟内に見えるはずのない陽炎が立ち上っているかのようだった。 三人に増えたことで状況はより複雑なものになった。 誰かが動けば誰かが相手しなければならない。その隙に完全に自由な一人が生まれる。 ひりつくような状況で、いたずらに感情だけがそれぞれの中で昂ぶっていく。 コップいっぱいに水を注いでいくよう緊張感。火蓋が切られるギリギリまで一滴、また一滴……。 そして―――! 「お取り込み中申し訳ないのだが……君たち、泥のスーツをまとった奇妙な男を知らないか?」 辺りを漂っていた霧が散っていく。 戦いに水を差すようにひとつの影が姿を現すと、冷め切った調子で三人そう尋ねる。 見た目はただのサラリーマン以外の何でもない。きちっとしたスーツ、曲がっていないネクタイ、ピカピカに磨かれた革靴。 だがその奇妙な質問が何よりも知らしめていた。 この極限状況で、この殺気立った異様な空間で。こうまでも冷静に問を述べることができる。 カーズもDIOも理解し、承太郎は101%の確信をした。 この男もまた異形……・。絶対に始末すべき相手であると……。
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63 :代理[sage]:2013/09/23(月) 20:45:43.05 ID:/hJiPncF - 639 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:19:49 ID:tFZwjNi.
◇ ◇ ◇ たっぷり一分は待っても返事がないことを確かめ、吉良吉影は残念そうに首を振った。 「どうやら誰も心当たりがないようだな。すまない、邪魔をした」 「待ちな、吉良吉影」 唐突に名前を呼ばれ、立ち去りかけた男は振り返った。 彼の名前を読んだ男は視線を上げることなく、斜めに構えたままだ。 吉良はその生意気な横顔に生理的嫌悪感を抱きながらも、丁寧な物腰を崩さない。 「ええと、すまない。仕事柄人と沢山合うので名前を忘れてしまったようだ。どちら様で?」 問いかけられた承太郎は長いこと無言のままだった。 ロウソクの先から雫が垂れさがるほどの沈黙の後、承太郎はポケットから右手を出すとカーズを指差しこう言った。 「カーズ、柱の男と呼ばれる一族の中で天才と言われた男。 太陽を克服したいという目的の元、石仮面を開発。さらなる進化を遂げるべくエイジャの赤石を求めた。 1941年イタリアで目覚めたのち赤石を求めヨーロッパを放浪。のちにジョセフ・ジョースターの手によって始末される」 カーズの驚いたよう表情を無視し、承太郎は続いてDIO指し示す。 「DIO、本名ディオ・ブランドー。 1860年代に生まれジョースター一族を乗っ取るべく、石仮面をかぶり吸血鬼となる。 ジョナサン・ジョースターの手によって一度は殺されたと思われたが、100年の時を経て再び野望を達成すべく蘇る。 1987年、エジプトにて空条承太郎の手によって殺される」 DIOはカーズとは対照的に驚きを一切示すことなく、承太郎の言葉を鼻で笑って見せた。 だがその目は怒りに染まっている。承太郎を睨み殺さんとばかりにその視線は赤く、燃え滾っている。 承太郎はそれを無視して吉良を指差す。あらかじめセリフ考えていたごとく、スラスラと言葉が飛び出てきた。 「吉良吉影、1966年生まれ。 18歳のとき初めて殺人を犯す。それを皮切りに手の綺麗な女性をターゲットとした殺人を繰り返す。 最終的には48人もの女性を殺害、二次被害を考えれば殺害数はそれ以上と推測できる。 1999年、M県S市杜王町の郊外で自動車事故に遭い死亡する」 言葉はなかったが空気が揺らぐような感覚が辺りを走った。 いきなり死を宣言される戸惑い、自分の領域に勝手に土足で踏み上がられた気味の悪さ。 しかし稀代の極悪集である三人はそれ以上に怒りを感じた。屈辱を味わった。 時代のズレについては理解している。なるほど、自分はそうやって死ぬの『かもしれない』。 だがそれがどうしたというのだッ! それは『貴様』の世界でおきた出来事に過ぎないッ! 自らの終りの決めるのは自分自身の行いだ。自分自身の信念だ。 この私が! そうも無様な終わりを迎えるだと? 野望を叶えることなく、惨めに地に伏すことになるだと……?
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69 :代理[sage]:2013/09/23(月) 22:59:37.69 ID:/hJiPncF - 640 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:20:27 ID:tFZwjNi.
吉良の登場で冷え切った空間が急速に熱せられていく。 爆発直前のエンジン中のように、三人の怒りがあたりの空気を変えていく。 承太郎とて同じことだった。彼は怒っている。どうしよもなく、こらえる必要もなく怒っている。 ここにいる三人は間違いなく性根の腐りきった「悪」だ。 川尻しのぶの放った言葉が上滑りしそうなほどの悪。彼らを悼む家族などいない。彼らが突然良心に目覚めることもない。 殺し合いに巻き込まれたから仕方なく殺すのでない。 彼らは殺し合いが起きなかったとしても、自ら殺しあいを仕掛けるような人種なのだから! 怒りに震える三人を眺めると、承太郎はポケットからタバコを取り出し一服する。 全員から立ち上る殺気をそよ風のように受け止めながら独りごちる。 「三人同時は『少しだけ』骨が折れそうだな……やれやれだぜ」 余裕の笑みを崩すことなく、しかし内心は怒り狂いながらDIOはザ・ワールドを傍らに呼び出す。 もはや遊びはおしまいだ。死よりも残酷な結末を……ここに描いてみせるッ! 「どんな未来に生きていようとも……どんな過去を辿っていこうとも……! 『世界』を支配するのはこのDIOだッ!」 吉良吉影は己の半生を思い返す。 どんな困難であろうと切り抜けてきた。どんなピンチもチャンスへと変え、この生活を守ってきた。 譲りはしない……! びくびく怯えながら過ごす日は『今日』だけだ。 私は帰るんだ。元の世界に帰って、必ずあの平穏な日々を……! 「私の正体を知られてしまった以上、誰であろうと生かしてはおけない。全員まとめて……始末させてもらおうか」 パキパキ……と音を立てながら体が修復をはじめる。しかし木っ端微塵に砕かれたプライドまでは決して治すことはできない。 突き出た刃物越しにカーズは三人の顔を眺めた。 どいつもこいつもアホヅラを下げてやがる。このカーズの足元にも及ばぬ程の、原始人どもが……ッ! 「簡単には殺しはしないぞ、人間。このカーズを踏みにじったその行い……泣き喚き、許しを乞うほどの後悔を与えてやるッ!」 そこは既にただの洞窟ではなくなっていた。 四人の超人たちによる生き残りデスマッチ。時間無制限。ギブアップなしの一本勝負。 先の戦いの余波で、天井からゆっくりと小石が落ちてくる。そしてそれが地面に落ちたその瞬間! ―――四人の戦いが始まった。
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70 :代理[sage]:2013/09/23(月) 23:00:08.29 ID:/hJiPncF - 641 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:21:20 ID:tFZwjNi.
◇ ◇ ◇ 一番に動いたのはDIOだった。 承太郎目指し、真っすぐに向かっていく。が、左方向から迫る影を察知し、急停止。 スタンドを構え直したと同時に、上から振り下ろされた刃から身をかわす。 カーズの動きは早い。DIOが足を止めた一瞬の隙に二手、三手と攻撃を畳み掛けてくる。 小刻みに距離を取りながらDIOは考える。カーズは接近戦を仕掛けようとしている。スタンドを持たず、飛び道具もないようだ。 ならば距離を取るのが定石。スタンドがある分、距離を広げれば有利になる。 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ! ……なに?!」 「無駄、と言ったか……? 『無駄』と言ったのかァ、DIOォォ〜〜?」 が、しかしDIOは見誤っていた。相手を大きく吹き飛ばそうと放ったカウンター。 巨大なゴムをたたいているような違和感のなさ。見れば叩き込んだ拳にべったりと蠢く肉片が付着していた。 強力な酸を浴びせ掛けられたような熱さを感じ、DIOは歯を食いしばる。 嘲るカーズの追撃を間一髪でさけ、足元に転がっていた岩を放り投げ牽制する。 ようやく距離をとった頃には指先の皮膚は全て喰らい尽されたあとだった。 余裕の表情を見せるカーズ。強敵の出現に表情を険しくするDIO。 「フン、たかが吸血鬼がこのカーズに楯突こうとはなァ……。やめるなら今のうちだぞ、吸血鬼よ」 「柱の男だがなんだか知らんが……頂点に経つのはこのDIOだ。その言葉、そっくり返してやるぞ、カーズ!」 「…………」 「タバコ、やめてくれないか。そもそも吸うのであれば周りの人に一声かけるのが常識だろう」 人有らざる者たちの戦いの脇で、人同士の戦いも始まろうとしていた。 カーズとDIOの戦いを眺めていた承太郎は吉良の言葉に振り向く。 気だるげにこちらを眺める吉良の姿を確認すると、承太郎は黙って二本目のタバコに火を付けた。 吉良はイラついたような表情を浮かべたが、諦めたのか言葉を繰り返すようなことはしなかった。 代わりにキラー・クイーンを傍らに呼び出し、戦いの構えを取る。 ポケットに隠し持っていた小石を爆弾に変えようと手を伸ばす……―――。 「―――!」 「スター・プラチナ」 その一瞬の隙を付き、承太郎が仕掛けた。 時をゼロコンマ止め、一気に吉良の懐に潜り込む。吉良は突然の接近に慌てて後退するが、二人の距離は3メートルもない。 吉良は一瞬ためらい、距離をとることを諦めた。 キラー・クイーンは接近戦を得意としているわけではない。爆発の能力をフルに発揮できない分、戦いにくさは否めない。 「しばッ」 「オラァ!」
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71 :代理[sage]:2013/09/23(月) 23:00:55.62 ID:/hJiPncF - 642 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:21:50 ID:tFZwjNi.
連戦と負傷で満足には動けないといえど、それでもやはりスター・プラチナが上をいっている。 キラー・クイーンが振り下ろした手刀を拳で跳ね除ける。続けて放った連撃に、キラー・クイーンは対処しきれない。 二発、三発が入り、キラー・クイーンの体が衝撃に揺れる。吉良の口から苦しげな呻きが漏れた。承太郎は手を緩めない。 だが、キラー・クイーンは吹き飛ばされた衝撃を利用して、逆に後ろに飛び跳ねた。 さらに追ってくるスター・プラチナに対し、無造作に小石を投げつけていく。 どれが爆弾化されたかわからない承太郎は闇雲に突っ込むわけにも行かず、スタンドを止める。 急停止、急後退。承太郎は追撃を取りやめ、カウンターを恐れた。 接近戦ではかなわないと悟っていた吉良は、下がった承太郎に対しむやみに仕掛けない。 そのまま距離をとり続け、爆弾が届く距離で止まった。 再び両者の距離は広まり、承太郎と吉良の間には二十メートル強の間合いが生まれる。 勝負はこの間合いにかかっている。この間合いをいかに保つか。この間合いをいかに詰めるか。 吉良は口元からたれた血をハンカチで拭う。 ポケット内で染みがうつることのないよう、折り目を逆にしてしまいなおす。 一つ一つの動作は冷静だったが、その表情は屈辱に燃えていた。苦々しげにつぶやく。 「なるほど、全てお見通しというわけか……! 私の正体のみならず、キラー・クイーンの能力までもお前は知っていると!」 「どうした、俺を吹き飛ばすんじゃなかったのか……? そんなに離れてちゃ、爆弾どころか煙すら届かないぜ」 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」 「KUWAAAAAAAAAAAA――――ッ!」 両者の戦いは熾烈を極めていた。互いに吸血鬼、柱の男の再生能力頼みの荒っぽい真っ向勝負。 DIOはカーズの『憎き肉片』に対処するため、ザ・ワールドに二本の斧を持たせていた。 自身もいやいやではあるが拳銃を手にする。直接手を触れずに、確実に息を止めるため。 カーズは既に纏っていたコートを脱ぎ捨て、帽子も放り捨てていた。 肉体を120%フルに活動させ、己の体でDIOを殺す。体面などを気にしている暇もなかった。 まるでおもちゃを扱うように、ザ・ワールドが斧を振り回す。カーズの刃をはじき飛ばし、首もとめがけ豪快に振り下ろす。 カーズは時に迎え撃ち、時に関節を捻じ曲げ、スタンドの攻撃をいなしていく。同時にDIOへの対処も怠っていない。 DIOも最初の数発でただいたずらに弾丸を打ち込むだけでは無駄と悟り、今では首輪のみを狙った射撃を心がけている。 もちろん隙あらば自身もザ・ワールドに混じり、カーズの体に攻撃を叩き込んでいる。 血が天井までとび赤いシミを作り出す。細かくちぎれた肉片が壁一面にべたりと張り付いていく。 そしてしばらくすると……パキパキパキ、と背筋が凍るような音が洞窟に響いた。 カーズの傷が癒えていく。DIOから流れ出ていた血が止まり、傷口がふさがっていく。 まさに化物どうしの戦いだった。凄まじい轟音を立てながら二人は洞窟内をめちゃくちゃに飛び回り、互いの刃を真っ赤に染めていた。
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72 :代理[sage]:2013/09/23(月) 23:01:45.66 ID:/hJiPncF - 643 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:22:18 ID:tFZwjNi.
「『シアー・ハート・アタック』!」 「スター・プラチナ!」 一方人間たちの戦いに動きは少なかった。すり足で間合いを詰める。牽制を細かくいれつつ、後退する。 飛び交う爆弾、立ち込める砂埃で視界は悪い。どちらも強力なスタンドを持ってるが故に不用意に攻撃を仕掛けるわけには行かない。 人間同士だからこその堅実で、しかし息詰まるような戦いは、吉良の仕掛けで崩れた。 左腕から飛び出た不気味なスタンド。 それを見ると承太郎は即座に詰めていた間合いを放棄し、後ろ後ろへ下がっていく。 シアー・ハート・アタックの後を追うようなかたちで吉良も走る。 二つのスタンドによる波状攻撃。ここで一気に仕留める……! 承太郎はさらに後退する。時折、姿が消えたようなあの不思議な能力を発動しながら、彼は逃げていく。 ついには四人が顔を見合わせた天井の高い洞窟を離れ、狭く暗い横穴に消えていく。 吉良にとっては好都合だった。承太郎の攻撃方向を前方のみに限定できる。 間合いを見誤らなければ今までよりもう一歩踏み込んで攻撃できるだろう。 『コッチヲミロォォォォオ――――ッ!』 シアー・ハート・アタックがついに承太郎に追いつく。合わせて吉良も足をはやめる。 たとえスタンド能力を使ってシアー・ハート・アタックをかわしたとしても、必ず隙は生まれる。 承太郎のスタンド能力は連発が効かない。ならばそこをキラー・クイーンで仕留める! 狭い横道に逃げ場所はなかった。承太郎は息を切らせながら後退する。 もう少し……、もう少しでシアー・ハート・アタックが追いつく……! 「今だ、殺れ! 『シアー・ハート・アタック』!」 爆発とともに舞い上がった煙を見て、『殺った!』と吉良は思った。逃げ場などはなく決定的だと彼には思えた。 しかし次の瞬間、吉良はものすごい衝撃を喰らい、ロケットのように吹き飛んだ。 今走ってきたばかりの洞窟を逆戻りし、地面を何度も跳ねながらようやく止まる。 同時に凄まじい痛みが全身を貫いた。腹部、左腕、左手、背中、後頭部……。 フライパンで思い切り殴られたかのような痛みに、情けないうめき声が漏れた。 爆破の余波で舞い上がった煙に紛れ横道から一つの影が浮かび上がる。 のたうつ吉良の視界に移ったのは、殺ったと確信したはずの男の姿だった。 承太郎の左半身はシアー・ハート・アタックの爆破でズタズタに引き裂かれている。 だが、足も腕も、頭も無事だ。ピンピンしている。 それどころかさらに怒りを滾らせ、吉良を始末しようと迫ってくる……! 両者のダメージで言えば承太郎のほうがひどい。吉良は軽傷、承太郎は重症だ。 だがスタンドは精神力だ。心と心のぶつかり合いだ。その点で、吉良にもう勝ち目はもうなかった。 彼の心は完全に折れていた。自分の能力を完全に把握し、秘密を知っている男に吉良は不気味さと恐怖を覚えていた。 戦いは一転、弱腰の吉良を承太郎が追い詰めていく形になる。 吉良はもう攻めていかない。彼の頭にあるのはいかにこの場を切り抜けるかだけだ。
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73 :代理[sage]:2013/09/23(月) 23:02:32.99 ID:/hJiPncF - 644 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:22:54 ID:tFZwjNi.
四人は戦った。時折相手を入れ替えて、一瞬のつばぜり合いをし、また戦う。 死力を尽くし、自らを鼓舞しながら戦い続ける。 終りの見えない、嫌な戦いだった。もしも誰かひとりでも倒れれば、四人のバランスは大きく傾き、戦いは終局に向かっていっただろう。 だが終わりは唐突にやってきた。誰ひとり倒れることなく、突然に。そして、唐突に。 「捉えたぞ、カーズ! 『ザ・ワールド』! 時よ、止まれッ!」 幾度の交戦を経て、DIOはフルパワーで時を止め、勝負を仕掛けた。 停止時間五秒をすべて攻撃に回しカタを付ける。 今までほんの一瞬時を止めてもフルパワーで時を止めるようなことはしなかった。 それはDIOならば承太郎の存在が、承太郎にとってDIOの存在が。 互いに時を止め終えた瞬間に時を止め返されたら大きな隙ができるとわかっていたからだ。 しかし長く待ちわびた状況がついに訪れた。 DIOとカーズ、承太郎と吉良。二組は洞窟内の端と端に分かれ、その間は優に三十メートルは離れているだろう。 たとえ時が動き出した瞬間に承太郎が時を止めても距離が大きく離れた今、十分に対処できる範囲内だ。 DIOは時を止めた瞬間、一瞬だけ承太郎の姿を確認する。いける……、今ならば間に合わない! 五秒前 ――― 戦いの余波で崩れ落ちてきた岩石をさけ、カーズのもとへ向かうDIO。 四秒前 ――― 十分間に合う。カーズまでの距離、残り十メートル。 三秒前 ――― DIOの顔に邪悪な笑みが広がった。哀れなり、カーズ……! こいつは自分が死んだことも知覚できない! 二秒前 ――― ザ・ワールドが構えた斧を振り上げる。死刑囚の首筋に叩き込むように斧が迫る! 「な、何ィィィ―――?!」 しかし直前でDIOは二つの違和感に気がついた。馬鹿な、とそう叫びたくなった。 まだまだ時間停止の世界は続くはずだった。途中で途切れたならば自身の消耗が激しかったからと納得も行きよう。 DIOにとって予想外だったのは自身も動けなくなっていたからだ。 斧が振り下ろされたその瞬間に、凍りついたようにすべてが止まったのだ! 「俺が時を止めた。カーズを始末したいのは俺とて一緒だが、お前を好きにはしておけないんでな……」 「承太郎、貴様ァ!」 そして二つ目の予想外は承太郎の行動であった。 大きく離れた位置から彼がしたことは間合いを詰めるでもなく、拳銃をぶっぱなすでもなく……。 なんと承太郎は『放り投げた』のだッ! 今しがたまで相手をしていた吉良のスタンド、『シアー・ハート・アタック』を掴むとDIOの目前めがけ放り投げたッ! 狙いすましたように斧の切っ先で停止した自動爆弾。 たとえDIOが振り下ろすのを止めたとしても、熱源に反応したスタンドは爆発するだろう。 ―――そして時は動き出す
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74 :代理[sage]:2013/09/23(月) 23:03:08.58 ID:/hJiPncF - 645 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:23:19 ID:tFZwjNi.
そして……直後、凄まじい音と光を発しながらシアー・ハート・アタックが爆発した。 その衝撃は凄まじく、近くにいたカーズとDIOは爆風に吹き飛ばされる。 遠く離れた位置にいた承太郎と吉良も、巻き上げられた砂埃に視界を奪われた。 轟音がとどろきあたりは一面何も見えなくなる。爆破音はいつまでもこだまするかのように、洞窟中を揺らしていた。 いや、違う……! 本当に洞窟が揺れているのだ! ミシリ、ピシリ……と音を立てて洞窟全体が揺れ始める! 四人の戦いの余波で崩れかけていた洞窟が限界を迎え、今の一撃で完全に崩壊しようとしていた! すさまじい音を立てて天井が崩れはじめた。次から次へと巨大な岩が、雨あられと降り注ぐ。 戦いを続けることは不可能だった。承太郎はそれでも逃がすものかと、懸命に三人の姿を追ったが後の祭りだった。 影がひとつ、ふたつと横穴に消えていく。承太郎が落ちてくる岩を壊し、かわし進むスピードより、三人の逃げ足の方が上だった。 そして四人の戦いは終わった。 あとに残されたのは手持ち無沙汰の怒りをぶら下げた承太郎と、天井まで積み上がった行き止まりの洞窟のみ……。 誰も死なず、誰も殺さず。痛み分けの、後味の悪い戦いだった。
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75 :代理[sage]:2013/09/23(月) 23:41:57.50 ID:/hJiPncF - 646 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:23:49 ID:tFZwjNi.
◇ ◇ ◇ ずるずる…………ずるずる…………――― 洞窟の壁にもたれかかるように進む影がひとつ。体を引きずる音に紛れ聞こえるのは荒い呼吸音、ぴちゃんと液体が滴り落ちる音。 何も知らない人が彼を見たらぎょっとするに違いない。 吉良吉影は満身創痍で息絶え絶え、動いているのが不思議なほどにボロボロの姿をしていた。 何より目に付くのが血だらけの左腕。 手の甲は蜘蛛の巣のように裂傷が走り、上腕部は出血箇所がわからなくなるほどに真っ赤に染められている。 自慢のスーツも台無しだ。泥まみれ、血まみれ、埃まるけ……。時間をかけてセットした髪も、今はだらしなく垂れ下がっている。 ずりずり、と弱々しく進む。目に力はなく、もはや自分の容姿を気にかける余裕すらない。 「この吉良吉影が、なぜこんな目に…………どうして……」 闘争を嫌っていても劣っていると思ったことは一度もなかった。自分の能力をフルに発揮すればいつだって勝利できると、そう思っていた。 だが……見よ、この有様を! どうだ、この現実は! 惨めだった。情けなかった。誰ひとりとして敵う相手などいなかった。 黄金の吸血鬼、刃物を操る超人、最強のスタンド使い……どいつもこいつもこの吉良吉影よりも巨大な力を持っていた。 「くっ……なんでこんなことに……」 ぽたり、ぽたり……。 腕からの出血が止まらない。止血のため乱暴にまいたネクタイは既にたっぷりと血を吸って重くなっている。 滴る血に紛れて、頬を伝う涙が音を立てて落ちた。今、吉良は初めての敗北に打ちひしがれている。 何事も切り抜けられると思っていた。幸運は常に自分に味方してくれると、そう根拠もなく信じていた。 だが違ったのだ……! ここではそんな盲信は通用しない! 植物のような平穏な生活を送っていた彼にとって、まさにここは真逆の世界。 奪い合い! 殺し合い! 吉良は悟った。この期に及んでようやく、自分がどんな状況にいるのかが理解できたのだ……! 「私は、死なないぞ……ッ! 死んでたまるものかッ! 必ずあの平穏な生活を取り戻して……ッ!」 だがそう理解していても、吉良はどこか無用心だった。 怪我を負っているとはいえ、初めて敗北を知ったといえ、だれかの接近に気づかないほどに今の彼には余裕がなかった。 ころころと音を立て、小石が転がってくる。視線を上げ、すぐ目の前までに人影が迫っていることにようやく気がつく。 「空条……さん、じゃないですよね」 噛み殺したような声と共に懐中電灯が吉良の顔を照らす。顔を上げた吉良の視界に映ったのは川尻しのぶの姿だった…………。
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76 :代理[sage]:2013/09/23(月) 23:42:28.24 ID:/hJiPncF - 647 :大乱闘 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:24:29 ID:tFZwjNi.
◇ ◇ ◇ 「…………」 目の前高く埋まった石を見て、承太郎は元来た道を引き返す。もうかれこれ地下道を歩いて十数分はたっている。 承太郎が思った以上に先の戦いの影響は大きかったようだ。行く先行く先で天井が崩れ、元来た道も引き返せなくなっていた。 頼りになるのはコンパス一つのみ。地下地図はしのぶに渡してしまったため、方角のみを頼りに地上に向かうしかない。 走るほど焦ってはいないが、のんびり歩いているほどのんきでもない。 早歩きで分かれ道に向かい、左へ曲がる。ずんずんと道を進み、僅かな物音も聞き逃さないと耳を澄ませる。 まだ体の中で熱は残っていた。それは、確固たる怒り。 カーズ……、DIO……、そして吉良吉影……。 いずれも裁くべき邪悪だ。容赦なく拳を振り上げれる存在だ。改めて問いかける必要もない、完璧な悪。 承太郎はどこかで彼らを求めていた。 徐倫を失った悲しみを思う存分ぶつけられる相手を。自分の不甲斐なさを怒りに変え、躊躇なくぶつけられる悪を。 歩けば歩くほどに、少しずつその事実が承太郎を蝕んでいく。 娘の死にやけっぱちになっている自分。罪滅ぼしのために無謀な何かをしてみたいと思ってる自分。 わかっている……、わかっているとも……ッ! 『徐倫は……そんなことを望んではいやしないッ!』 『わたしは、ひどい母親でした』 頭の中でナルシソ・アナスイの言葉がガンガンと鳴り響いた。川尻しのぶの戒めるような視線が承太郎の体を貫いた。 そうだ、承太郎だってわかっている。とっくに知っていたんだ、こんなことをしてどうなるかなんて。 でも、それでもどうしようもないほどに、承太郎は自分が許せないのだ。 何か目的をもたなければ体がバラバラになって二度と立ち上がれないように思えるのだ。 その場に崩れ落ちて、ズブズブと地面に溶けさってしまいたい気持ちになってしまうのだ。 誰かを断罪せずにはいられない……そして、誰よりも罪を贖うべきなのは…………罪を償うべきなのは…………。
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