- ロスト・スペラー 6
474 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/08/08(木) 19:55:14.33 ID:j1cRDeO1 - 数月後、レノック・ダッバーディーは何時もの様に、古いビルの上から、街並みを見下ろしていた。
通りを埋め尽くす、人、人、人。 余りに多過ぎて、個人個人の顔を見分ける暇も無い。 レノックは「彼」を思い出して、深い溜め息を吐く。 「彼」は人になった。 もうレノックには、「彼」を見付けられない。 仮令どこかで擦れ違っても、気付く事は無いだろう。 「彼」は凡百の人間の1人になってしまった。 何千何万と言う「人」が暮らす街で、特徴らしい特徴の無い、只の1人を探し当てるのは、 容易ではない。 それに……、元々探す気も無かった。 「彼」は魔法使いとしての生を断ち、人としての生を歩むと決意したのだ。 その後の「人生」に、レノックが介入する余地は無い。 それは人としての生を選んだ嘗ての知り合いに対する、魔法使いとしての最低限の礼儀でもあった。
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475 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/08/08(木) 20:01:31.98 ID:j1cRDeO1 - 何時からだろう?
最初は物好きが居る物だと、深く考えなかったが、やがて誰も彼も取り憑かれた様に、 「人」の生に憧れ出した。 彼等の言い分は解るが、そこまで衝動に駆られる理由は解らなかった。 だが、置いて行かれると思うと、無性に虚しさが込み上げた。 ――彼等の成れの果てが、私の様な存在だったんだ。 ――気付いてしまったんだ。 ――この数百年間、私は『生きていなかった』と言う事に。 ――唯『死んでいない』だけで、無意味に存えていたと言う事に。 ――君は、「生きていた」か? 果たして、そうなのだろうか? 全ての答えは、『分からない』。 「彼」の言う事が正しいのかも、自分は生きていると言えるのかも。 何時かは、自分も「死に至る病」に冒されるのだろうか? あれから……未だに、その時は来ない。 美酒に酔い、甘い夢に浸る、夢想家の自分には、その資格が無いとでも言うのか……。 この儘で良いのか、おかしいのは自分なのか、それとも彼等の方なのか……。 全ての答えは、『分からない』。 『分からない』――が、せめて無意味で無感動な生は送るまいと、心に決めた。 以後、レノックは専ら子供の姿を取る様になり、その間は愛して止まなかった酒を断った。
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476 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/08/08(木) 20:12:29.34 ID:j1cRDeO1 - 「久しいな、レノック。相談事か?」
「流石は予知魔法使い。鋭いな。大凡、そんな所だ」 「その姿は?」 「気にしないでくれ。この方が、何かと都合が良いんだ」 「訳有りの様だが……、それにしても悪趣味だ」 「放っといてくれ。それより、相談だ」 「何が知りたい?」 「私の寿命を占って欲しい」 「寿命? 君程の魔法使いになれば、寿命等、有って無い様な物だろう」 「そうじゃない」 「死期が知りたいのか? らしくない。らしくないぞ。大体、知ってしまった所で、 どうにも出来ないのだから、そんな物は最初から知らない方が良い」 「それでも……」 「仕方無い、白状するよ。悪いが、そう言った『直接的な事』は、占わないと決めているんだ。 特に、君の様な『魔法使い』相手には……。君等と来たら、平気で必定を狂わせるからね。 百発百中も、一発外せば名が折れる。まあ、安心し給え。君は、そう簡単に死ぬ様な玉ではない。 死相が出ている訳でもないしなあ」 「……分かったよ。無理を言って、済まなかった」 「待ってくれ。それだけの為に、態々私を訪ねて来たのか?」 「そうだ」 「徒事ではないと見た。詳しい話を聞かせてくれ」 「気が進まない」 「そう不信がらないでくれ。何を言われても、驚きはしないから」
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