- ロスト・スペラー 6
423 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/07/22(月) 21:06:38.82 ID:ga7MG19a - だが、そうは行かない。
ゲントレンは気付かれない内に、男の木剣の鎬に手を添え、軽く押して軌道を逸らし、 上半身と首を横に曲げて回避した。 達人の身の熟しに、男は警戒心を抱き、反射的に飛び退いて、剣を構える。 両手で木剣を持ち、腰を引いて下段に構えた、独特の払い抜きの姿勢。 「伊達に道場開こうって訳じゃないみたいだな」 そして、少しゲントレンの事を、見直した様な口振り。 喧嘩が得意なだけの素人ではない。 「その構え、覚えがあるぞ……。 築城大成流の物だな?」 築城大成(つくしろたいせい)流とは、ボルガ地方全土に支部を置き、多数の門下生を擁する、 タイファン市発祥の武術流派の一で、剣術以外にも、槍術、杖術、短刀術、投擲術、弓術、 体術その他、殆どの武術を扱っている。 創始者の通称でもある、その流派名は「城を築く程に大成する」と言う意味だ。 そんな大物が、一々新興の小流派に突っ掛かるとは思えないが……。 「……知らんなぁ」 男は惚けて苦笑するも、目は笑っていない。 「おい、お前等も見てないで手を貸せ。 こいつは確実に潰す」 そう言って、仲間の2人に応援を呼び掛ける。
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424 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/07/22(月) 21:10:11.71 ID:ga7MG19a - 凡そ正々堂々とは掛け離れた姿勢だが、道場を潰すには有効な手段である。
どんな手を使われたとしても、道場主が負けたとあれば、その威信は地に落ちる。 男達は各々剣を構えた。 「悪いなぁ、達人さんよぉ。 お望み通り、外道は外道らしく振る舞わして貰うわ」 それでも――実際に3対1になっても、ゲントレンは何も文句を言わなかった。 自ら挑発した責任もあるが、常人では敵にならないと見切っていたのだ。 男達はゲントレンを包囲しようと回り込み、それを甚(いと)も簡単に許すゲントレン。 男達はゲントレンから2身程の距離を保って、彼の三方を取り囲むと、互いに目配せし、 先ずは死角から2人が、微妙にタイミングを外して、音も無く奇襲を掛ける。 ゲントレンは素早く反応して、最初に動いた男に、自ら向かって行った。 1人に注意が向けば、2人が自由に動ける。 ……そんな理屈は、ゲントレンには通用しない。 距離を詰めるのは一瞬。 「うぉおっ!?」 突然、目の前にゲントレンが現れた男は、動揺して硬直から反応が遅れた。 ゲントレンは右手で木剣の鎬を掌打し、強い衝撃で柄を握る男の手が緩んだ隙に、 左手で剣を確と掴んで奪うと、同時に足裏で男を蹴り、突き放す。 「ぐっ!」 直後、剣を持ち直しつつ、振り返って横薙ぎ一閃。 「波っ!!」 「木剣が伸びて」、突きの構えで突進してくる、男2人の剣を一度に切断する。 剣が伸びる等、常識的には有り得ないのだが、少なくとも男達には、「そう」見えたのだ。 「うぁ!?」 「へぇっ!?」 男達は信じられない出来事に、目を白黒させて戸惑う。
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425 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/07/22(月) 21:12:40.50 ID:ga7MG19a - 剣を折られた2人の男は、慌ててゲントレンから距離を取った。
一方、剣を奪われて蹴飛ばされた男は、僅かな間だが目を閉じていたので、 余り事情を呑み込めていなかった。 呆っとしている所を、仲間に諭される。 「馬鹿、早く離れろ!!」 よく状況を理解しない儘、彼は困惑を露に後退した。 「おい、あんた何をした?」 男の1人は恐怖を押し殺し、折れた木剣を突き出して、ゲントレンに訊ねる。 「見た儘だ」 そう言われて、男達に解る訳が無い。 向かって来る相手との距離を一瞬で詰め、剣を奪った所までは良い。 「達人の業」で納得出来る範囲だ。 問題は、その後。 然して長くもない木剣で、明らかに届かない位置から、同じ材質の木剣を切断した。 魔法ならば同じ現象を起こせるかも知れないが、大量の魔力を消費した様子も無い。 その正体は、秘剣・縮地剣。 「剣が伸びた」のではない。 「距離が縮まった」のだ。
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