トップページ > 創作発表 > 2013年06月02日 > h3eAvYNP

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創る名無しに見る名無し
ロスト・スペラー 6

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ロスト・スペラー 6
320 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/06/02(日) 21:09:33.50 ID:h3eAvYNP
神妙な顔で俯くサティに、ジラが声を掛ける。

 (サティ、この文様は?
  魔法陣?)

そう言いながら、彼女はサティに近付き、魔法陣の中に足を踏み入れた。
瞬間、サティは悪寒を感じて、身を竦める。
優れた魔法資質が、共通魔法とは異質な魔力の流れを、敏感に察知したのだ。
彼女は第一に、ジラの身を案ずる。

 (ジラさん、この場から離れて――)

だが、警告は間に合わない。
魔法陣から黒い霧が噴き出し、小部屋を暗黒の空間にしてしまう。
サティとジラは、互いの姿を見失った。
テレパシーも届かない上に、魔法資質による探知も利かない。
サティは霧を払おうと、風の魔法を唱えたが、これも効果が無い。
周囲は怪しい魔力の流れに支配されている。

 (一体、何が、どうなって……?
  罠?
  それとも……『魔法陣の内に2人居る事』が、発動条件だった?
  これは全くの偶然に起こった事?)

現状把握の為、サティは懸命に思考を巡らす。
ロスト・スペラー 6
321 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/06/02(日) 21:11:34.21 ID:h3eAvYNP
そんな彼女の前で、魔力が渦を巻いた。

 「お前は誰だ?
  フェンシューの血の者ではないな」

地の底から響く様な太い声に、サティは一層強い悪寒に襲われ、身を震わせる。
彼女は数歩下がり、魔力の塊が成す形から距離を取った。

 「否、誰であろうと構わぬ。
  贄は受け取った。
  汝、我との契約を望むか?」

「それ」は闇から這い出し、サティに語り掛ける。
毛皮の代わりに影を纏った、虎の様な暗黒の獣……。

 「名乗られよ。
  さすれば、応えよう。
  我は汝の願いを聞き届ける」

紳士的な態度にも、サティは警戒を解かない。
「これ」の様子は、旧暦の書物に度々登場する、『悪魔<オールド・コンクエラーズ>』の記述と、類似している。
悪魔の存在を本気で信じる訳ではないが、迂闊に応えよう物なら、何をされるか、分かった物ではない。

 「何者だ?」

 「名乗られよ。
  さすれば、その疑問にも答えよう」

 「贄とは?」

 「名乗られよ。
  さすれば、その疑問にも答えよう」

 「この空間は、どうなっている?」

 「名乗られよ。
  さすれば、その疑問にも答えよう」

どうあっても、「契約」を済ませるまでは動かないと決めているらしく、その頑なさにサティは閉口した。
ロスト・スペラー 6
322 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/06/02(日) 21:25:55.93 ID:h3eAvYNP
どう対応すれば良いか思案中、サティの心は僅かに揺れる。
もし、「これ」が本物の悪魔ならば、この物は「契約」さえすれば、サティの疑問に答えてくれるだろう。
この物の正体、この物の出所、復興期魔導師会到達前のボルガ地方の状況、この家の末路、
その他、この物が知り得る限りを知れる……可能性がある。
魅力的な見返りだが、気になるのは「贄」だ。
「贄は受け取った」と、この物は確かに言った。
詰まり、この場の「何か」が、失われた事になる。
それが「サティの物」なのか、或いは、「この部屋にあった物」なのか、それとも「全く別の物」なのか、
判明しない限りは、軽々しく答える訳には行かない。
断るにしても、その後が保障されていない。
異質な魔力の流れの所為で、相手の正確な実力が計れない内は、動きが取れない。


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