- 【なりきりリレー小説】ローファンタジー世界で冒険!2
210 :ヘッジホッグ ◇0LHqQZuyh[sage]:2013/03/09(土) 17:34:26.68 ID:ebacU8ua - 人の足取りの軽さは懐の重さに正比例する。
賭博師の人生哲学の一つだ。 つまり今、赤髪の歩調は街中で謡い、奏で、踊る楽団よりもなお軽やかだ。 『やぁ友よ! 随分と幸多そうな顔をしているね! どうだい。君も僕らと一緒に踊って、 ついでに少しばかりのお金を落としていく気はないかな?』 「――正直なのは良い事だが、頼み方がなってないな。 金を落として欲しけりゃ、こうするんだ。 コインを入れて、レバーを引いて、ボタンを三つ押す。分かったか?」 店を出てすぐに絡んできた、金に敏感な楽師を軽くあしらい、先の収穫を取り出す。 まずは一つ目、見るからに貧相な襤褸の財布。 中身の程はというと、見た目以上に最悪だった。 「……アイツ、何の為にこの街に来たんだ?」 少なくとも賭博に溺れる為でない事だけは確かだ。 が、ともあれこの財布は最早、身分証明くらいにしか用途がない。 ――無論、証明される身分とはスリの事だ。 「ツイてないな。俺も、アイツも」 赤髪は屑籠を探すべく首を左右に回す。 ――切れ長の蒼眼のすぐ横を、赤銅色の閃きが突き抜けた。 一瞬遅れて視線が赤の軌跡をなぞる。 先ほど放った筈の銅貨が石壁に突き刺さっていた。 >「――へェ、あんた。割りと出来るタチだろ? ま、いい。お得な情報感謝するぜ? 礼だ――俺の財布、金ねェからな」 >「何? もしかして情報料ってやつ!? それぐらい払うよ」 振り返れば突き刺さるお上り二人の眼光。 使用されている染料は闘争心と猜疑心といった風情。 「……もしかして、ツイてないのは俺だけだったか――!」 >「……財布落としちゃったみたい。歌でお礼させてもらうね」 魔力の揺らぎに赤髪が後退り、しかし歌声は苦もなく彼我の距離を渡り切る。 "響き渡る博徒殺しの呪歌" ――瞬間、歌声が、音律が、爆ぜた。 歌い損ねたのではない。お上り改め精霊楽師の唇が紡いだ音色に乱れはなかった。 呪歌は赤髪に触れてから、悲鳴へと変質したのだ。 灼熱の鉄板に落ちた一滴の水か、聖界に迷い込んだ惰弱な悪霊のように。
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