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少女漫画キャラバトルロワイアル

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少女漫画キャラバトルロワイアル
630 : ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:17:59.29 ID:VzinwrOp
投下乙です!
由希が覚悟決めた!
この由希は格好いい。
既に言われてるけど、手の描写対比がすげーうまい。
物を作り出す手、救いをつくるために差し伸ばされた手。
うーん、考えさせられる。由希もはぐみも今後どうなってくか、凄く楽しみ。

少々送れてしまいましたが投下させていただきます
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632 :笑顔 ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:20:07.43 ID:VzinwrOp
――どこにいるのか分からない。


空は何処までも遠く。
果ての見えない彼方へ届いていた。
朝日が見える。
希望を感じられる陽光に、朱理は思わず目を細めた。
隣に佇む慌ただしい少女もまた、殺し合いに不相応なほど小奇麗に瞬く光に息を洩らす。


――だから怖いんだと静かに思う。


そこは学校だった。
誰かがいる、そんな気がする。
実際誰かが踏み入った痕跡はあった。
だけど誰とも巡りあうことはない。
もしかしたら此処に居た人間は立ち去ったのかもしれないし、案外陰でこちらの隙を窺っているのかもしれない。
朱理にとってはどちらでも良かったし、透に至っては敵となるような存在など考慮もしていなかった。


――早く逢いたい。


地面をたたく音は空へ消える。
柵を握ると、周りの音は無に還った。
柵の外に広がる鳥瞰の景色。
学校の屋上に躍り出た朱理は、真っ先にこの景色を眺め、物思いに耽る。
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634 :笑顔 ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:22:55.82 ID:VzinwrOp
――不安は心を蝕むように。


光に交る俯瞰光景は、何処か幻想的で淡彩色に染まっていた。
蘇芳では見られない、沖縄などを彷彿させる自然に思わず目を奪われる。
付近、そして遠くの方に見られる近代的な町並みも、朱理の知らないような建築構造で、不謹慎ながら感嘆を覚えた。
是非ともこんな景色を更紗に見せてやりたいな。朱理は自ずと心に決める。
振り回される形で後ろを付けてきた透もまた、素朴ながら味わいのある光景に一時、息を飲む。


――焦燥は身を貪るように。


しかし感動にも似た心境も、少し視点をずらすと脆く崩れ去る。
火事。山火事。
学校とは遠く離れた座標だが、確かに空へと舞う炎が燦々と己の存在を主張していた。
思わず透は衣嚢(ポケット)に手を入れ携帯電話で「119」を押そうとしたが、そもそも携帯電話がなかったことに気付き慌てふためく。
そんな様子を傍らで一瞥をくれ、再び山火事へと視線を送ると、朱理は回想する。


――思いだけがただ強まる。


白虎の村。
朱理が襲った一つの村だ。
あの時も、あのように火が囲んでいた。
タタラとの宿命もまた、火を以て、赤を以て火蓋が切って落とされた。
思うと感慨深くもあるが、だからといって許容できるはずもなく、腸が煮え繰り返る思いで俯瞰を止めて背を向ける。
この場にタタラがいたらいたら、有無を言わさず叩き切るというのに。朱理は四道を(生き返ったかもしれないとはいえ)殺された私怨を更に深めて、足早に屋上から去った。
後ろから付いてくる透は唐突な朱理の撤退に、例の如く驚いた様子を見せ、慌ててその背中を追う。
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636 :笑顔 ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:24:15.30 ID:VzinwrOp
――早く見たい。


二人が出逢って早二時間。
劇的な事件も刺激的な出来事も起きないまま、流れるように時は過ぎる。
どうにも噛み合わない二人の知識が、何処か会話の発展を阻害していた。
時代背景でさえも類似しない二人の価値観でも、尤もな進展でもある。
しかし、あまりに会話が弾まないと居心地がよくなることはあり得ない。
それは二人の共通認識。


――その顔を。


人当たりの良い透であっても、未だ朱理の全貌を窺い知ることは叶わなかった。
それはさながら空の様に。
そして朱理からしても、透と言う存在はある種更紗やタタラよりも謎めいている、不思議な少女。
そもそもからして、藍色基調の《制服》という衣服でさえも見知らぬものであった。
二人は二人、素性の知らぬ相手に対する話題を考えあぐねて、結果として会話の種なるものは、何時まで経っても生まれなかったのが現状である。


――その笑顔を。


あの人が傍にいたならば、なにか変われるだろうか。
どこか想い人を彷彿させる付き人を見て、二人は思った。


――大好きなあの顔を。
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637 :笑顔 ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:25:55.62 ID:VzinwrOp
 △



あまりにどうしようもない現状を顧みて、透は深く考えることを放棄した。



 △



「やっぱりもう一度話し合いましょう!」
「急にどうしたんだ」
「待ってるだけじゃいけません! お友達になるためには――歩み寄ることが一番なんです!」

屋上から出た直ぐの踊り場。
本田透は朱理を引き止めるように叫びをあげる。
歯車はようやく動き出す。
朱理は透の方へ振り向き、顔を仰いだ。

「ほう、面白い事を言うではないか」
「私は至って真面目ですっ!」
「ふっ」

鼻を鳴らす。
朱理は改めて透を観察するように眺める。
暫しの後、カツカツと階段を再び昇り、透の手を乱暴に取る。
そしてその勢いのまま透を壁に押し付け、鷹のような鋭い眼光を浴びせた。
いつだったか、更紗やユウナに執った様ないつもの行動である。

「女は皆、こうすれば喜ぶ」

女を酩酊へ誘うような声。
野蛮な行為とは対象的に美酒のように気品に溢れ、
一たびその瞳と目を合わせてしまったならば、なるほど女が魅了されるのも得心がいく。

「確かにオレは歩み寄ったぞ?」
「そ、そういう意味じゃ……って、だ、だめですよ……」
実際、透も頬を朱に染め、どうにも抵抗しづらい様子でいたが、
夾の姿が脳裏をよぎった瞬間、ようやく手で押し退けるにまで至った。
朱理もまた、しつこく攻寄る気はさらさらないらしく、直ぐ様透を解放する。
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639 :笑顔 ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:26:40.70 ID:VzinwrOp
 
「久しく見なかった反応だな」

朱理にとって記憶に新しい、更紗のそれとも、ユウナのそれとも違う、
勝気な様子など一片も潜まない、乙女の代表例のような反応に思わず笑ってしまう。
「酷いです……朱理さん」
むくれた調子で透も返すが、ようやく得た「交流」だ。
満更でもないのかもしれない。

「まあ、そういうな。中々初な反応が見れてオレも満足だ」
興味深そうに朱理は頷きを繰り返しながら、透を宥める。
むくれながらも、しかしようやく得れた接点を逃すまいと、話を進めた。

「その……更紗さん……でしたっけ?」
「ああ」
「その方はどんな風に反応したんですか?」

純粋な疑問だった。
この傲岸不遜な男を惚れ落とすような女。
同じ女としても、そして朱理と言う人間を知るためにも気になった。

「その時はおまえとは違い、随分な言い草をこのオレに対して放ったぞ」

ははは、と楽しそうに語る朱理の姿を見ていると、

(やっぱり朱理さんは、更紗さんのことが好きなんですね)

実感するに容易かった。
そして彼の口ぶりからして、更紗と朱理が相思相愛であることも想像に難くない。
それはとても素敵な関係だと、透は思う。

「詳しくはまだ聞いてなかったと思うんですけど、これから向かう温泉と更紗さんはどのような関係が?」

二人は今現在、温泉に向かっていた。
その道中にたまたま学校があったから、事のついでに足を運んだにすぎない。
火事と言う災害を目の当たりにしたことは、幸も不幸も思わぬ収穫である。
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641 :笑顔 ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:28:02.28 ID:VzinwrOp
「温泉はあいつと出逢った場所だからな」
「そうですか」

朱理は簡潔に述べ、透も簡潔に応えた。
透からしたら、温泉で男女が巡りあうという自体が不思議でならなかったがロビーかどこかで出逢ったのかな、と一人妄想を終結させる。
世の中には様々な縁が、巡りあいがあることは、透はその身をもって知っていた。
不意に朱理が口を開く。

「訊ねてばかりいるがおまえはどうなんだ?」
「はい?」
「おまえはどうなんだ、と訊いた。恋仲などいないのか? 肴程度に聞いてやるぞ」

不意に尋ねられたところで、その問いに対する答えは一つだった。
透は笑顔で答える。

「私は夾君が大好きです」
「草摩夾とやらか」
「ええ、そうです」

目に付くオレンジ色の髪。
他人を寄せ付けない様な鋭い目つき。
外見だけ見ると、とても近寄りたいとは思わない。
だけど――

「不器用な優しさも――笑った顔も――照れた顔も――どれも素敵で、嬉しくて。
 だから、私は彼の事を自然と好きになっていったんです」

夾の事を語る透の顔は、とても倖せそうで。
到底朱理には、その気持ちを邪魔立てすることは敵わないだろう。
半ば嫌味を含ませたはずの問いの答えに、思わずこちらが口を閉ざすを得なかった。

「私は夾君が大好きです」
「わかった。わかった。もう皆まで言うな」

朱理は逃げるように階段をカツンカツンと下りながら、透の話を打ち切った。
自分の惚け話は話していて楽しいが、相手の惚け話は聞いていて胸が痛くなる。
朱理自身、自身が言うほど二人関係は発展出来てないことは推して知るべしだ。
精々が接吻と言ったところか。そう考えると無性に悲しく、同時に更紗に会いたい欲が増してくる。

しかし。
と、後ろを付き添う透に、朱理は言葉を繋げた。
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643 :笑顔 ◆FGluHzUld2 [sage]:2013/03/09(土) 00:30:06.40 ID:VzinwrOp
「そこまで想う奴がいるなら、オレなどに構っとらんでそいつを探しまわればいいだろう。
 案外飛んで火に入る夏の虫ではないが、あの火事にひかれてウロチョロしとるかもしれんぞ」

告げる。
朱理からしてみれば透の本質を問い正す問掛。
――この少女の行動原理。
先刻朱理は、透の嗚咽を無視して更紗を探そうと奮起していた。
それを悪いことだとは今でも思っていないし、間違ったことだとも思ってない。
けれど透は朱理の行動とはまるで反し、想い人がいるからといって、それでも目の前の人間を無視できない、
――あまつさえ友達になりたいというのだ。
ここまでの、ある種図々しさは更紗にはなかった。
だからか、不思議でならなかった。

「そうかもしれません――否定はできません」

透は瞳を閉じて。
たとえば夾があの火事に巻き込まれている光景を想像する。
それはとても辛いことだ。
言葉に換言することさえも叶わないほど、苦しいことだ。
夾じゃなかったとしても、それが由希でも、綾女でも、依鈴でも、彼らが死ぬなんてことを考えると、吐き気さえをも催す。
直ぐ様に駆けつけてあげたいというのは、事実だ。


「ですが、私は友達の朱理さんを放って何処かに行こうだなんて思いません!」


それでも彼女は、朱理を見捨てるなんて真似はできなかった。
理屈や理由でそれらを形容することはとても難しい。
希望論だと揶揄されたら、それは紛うことなき事実なのだろうし、幻滅だといわれたら。
それを否定できるぐらいの言い分なんか、或いは彼女にはなかったのかもしれない。


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