- ロスト・スペラー 5
411 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/01/26(土) 19:25:32.06 ID:w8uo08NK - 娘が苛立つのは当然だろう。
ラビゾーは商人らしさが全くない。 2人は商人同士なのだから、商売の話をするのが礼儀だ。 所が、ラビゾーは商売を二の次にして、娘を子供の様に扱う。 「予約は無いけど……」 ラビゾーは言い淀み、頭を必死に回転させて、言い訳を考えた。 目の前の娘は、仇を見る様な勢いで、ラビゾーを睨んでいる。 「素人には売れないよ」 彼は娘が薬の専門家でない事を理由に、取引を拒む事にした。 「そんなら初めから、そう言わへん? 買うてみい言うたり、売らへん言うたり……兄さん、何ぞ誤魔化しとるやろ? 白状しい」 だが、そう簡単には引き下がって貰えない。 一貫性の無い態度は、相手の不信感を増すだけの愚策。
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412 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/01/26(土) 19:28:56.21 ID:w8uo08NK - それでも一度言った事を、引っ込める訳には行かない。
「どの位、薬草の知識を持っているかに依るんだ。 素人ではなさそうだから、使い易いのなら幾らか譲っても良い。 でも、全部は無理だ」 ラビゾーは本来、売り手有利と言う事を思い出して、強気に出た。 「家が薬草に詳しないから、売れんっちゅう訳やな?」 「そう言う事だ。 薬も過ぎれば毒になる。 強い薬は、それだけ毒になり易い。 売る者は両眼でないと」 嘘は吐いていない。 彼は更なる反発を覚悟していたが、娘は眦を下げて笑う。 「成る程なぁ。 兄さん、真面目な人なんやね。 駄々捏ねてもうて、堪忍な」 ラビゾーは娘の心情を量り兼ねて、苦笑するより他に無かった。 彼女に限った事でないが、ティナーの商人は売りしてにも買いにしても押しが強く、 一度決めたら中々聞かない。 それに加えて、取り繕った言い方より、多少毒気を含んだ、率直な物言いを好む。 故に、一見した所は自己中心的に映るが、仁義や道理には弱い。 そう言う性質が、余所者のラビゾーには理解し難いのだ。
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413 :創る名無しに見る名無し[sage]:2013/01/26(土) 19:30:52.29 ID:w8uo08NK - 娘は薬草を全て購入する事は諦めた物の、未だ去らない。
「薬草の専門家なぁ……惜しいなぁ……」 何やら小言を零して、考え込んでいる。 ラビゾーは早く彼女に帰って欲しかったが、言えば角が立つと思って黙っていた。 数極後、娘は何事か思い付いて、パチンと指を鳴らす。 「兄さん、物は相談なんやけど、家で働かへん? 丁度、人手が欲しい所やったんよ。 家の周りは、二言目には銭銭吐かす、吝嗇な奴しか居れへんねん。 その点、兄さん職人気質で、ええ感じやわ」 「職人?」 「兄さん、薬師やないのん? まぁ薬師やのうても、目利きでも何でも構へん。 ややこい事は、後々覚えりゃええんねや」 ヘッドハントである。 ラビゾーは慌てた。 「待った、待った! そんな積もりは無い!」 彼は己の魔法を探して、旅する身。 未だ未だ、どこかで落ち着く気は無い。
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