- ロスト・スペラー 2
537 :創る名無しに見る名無し[sage]:2011/09/10(土) 19:52:39.08 ID:0gVjLlJY - 村の東の外れに建っている大きな一軒家に着いたラビゾーは、人の姿を探したが、
辺りには誰もいなかった。 彼は仕方無く、家の戸を敲く。 「今日はー! 誰か、いらっしゃいませんかー?」 待つ事、暫し……内から戸を押して出て来たのは、栗色の髪の若い女。 年齢はラビゾーと、そう変わらない様に見える。 鼻を擽る、ふわりとした甘い香水か何かの匂いに、ラビゾーの心臓は大きく一度高鳴った。 女はラビゾーを見るなり、真顔で訊ねる。 「誰?」 恐らく彼女は自分の事を知らないのだろうと思い、怪しい者ではない事を解って貰う為に、 ラビゾーは師の名を持ち出した。 「僕はアラ・マハラータ・マハマハリトの弟子です。 『バーティフューラー』さんを連れて来る様に言われました」 しかし、女は興味無さそうに言う。 「そんな事、誰も聞いてないわ。 アンタは誰かって聞いてるのよ」 「僕はアラ・マハラータ・マハマハリトの――」 再び答えたラビゾーに、女は溜め息を吐いて返した。 「……そうじゃなくて、アンタの名前は?」 ラビゾーは押し黙った。 師に与えられた「ラヴィゾール」は、仮の名。 堂々と自分の名前として名乗る事は躊躇われる。 「ラ、ラビゾー」 「ラビゾー? ……ラヴィゾール?」 ラビゾーは如何にも恥ずかし気に、小さく頷いた。 「はァー、へーェ、フゥーン、ほォー……アンタがラヴィゾール? アンタが……ねェ……」 女は大袈裟に驚いて、ラビゾーをまじまじと見詰める。 ラビゾーは「失礼な人だな」と思ったが、気が小さいので文句を言えずに黙っていた。
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538 :創る名無しに見る名無し[sage]:2011/09/10(土) 19:54:14.84 ID:0gVjLlJY - ラビゾーが対応に困っていると、家の中から別の女の声がする。
「姉さーん、お客様なのー?」 声の主は、女の妹であった。 姿は見えないが、明るく可愛い声。 女は家の中に向かって、返事をする。 「あー……その、お呼びが掛かったの。 この時期、恒例のあれよ。 ちょっと行って来るわ」 「はいはい、なるたけ早く帰って来てね」 軽い遣り取りの後、女はラビゾーに向き直って言った。 「大体何の用で来たかは解ってるから、ぼさっと突っ立ってないで、早く案内しなさい」 「あ、はい……ええっと、あなたがバーティフューラーさん?」 「そうよ。 未だ名乗っていなかったわね。 アタシはバーティフューラー・トロウィヤウィッチ・カローディア。 宜しく、アラ・マハラータの弟子ラヴィゾール」 微笑み掛けられ、ラビゾーは再び、どきりとする。 彼がバーティフューラーの一族の魔法が、どの様な物か知るのは、村に着いてからである。
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539 :創る名無しに見る名無し[sage]:2011/09/10(土) 19:56:08.63 ID:0gVjLlJY - 村へと続く天然の並木道を、ラビゾーとバーティフューラーは2人で歩く。
こういう所で全く気が利かないラビゾーは、時々後ろを気遣うだけで、ずっと無言だった。 雰囲気の悪さに耐えられなかったのか、先ずバーティフューラーからラビゾーに話し掛ける。 「アンタ、喋らないのね。 もしかして、アタシと口利くなって言われてる?」 「えっ、何で……?」 「別に隠さなくても良いのよ? アタシの魔法が他人に、どんな風に思われてるか位、解ってるし」 突然の発言に、ラビゾーは戸惑った。 しかし、状況から何と無く、「バーティフューラー」は忌避されている存在なのだと察した。 取り敢えず、口止めされた事実は無い。 それだけは誤解の無い様に伝えなくてはならない。 「いや、何も聞いてませんよ。 何をしてはいけないとか、そんな事は全然」 「……可哀想」 「えっ」 ラビゾーは寧ろバーティフューラーを哀れに思って、庇う気持ちがあったのだが、 逆に哀れまれるのは心外であった。 気不味い雰囲気の儘、2人は村へと向かうのだった。
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