- 【長編SS】日本鬼子SSスレ3【巨大AA】
124 :GoGo! ひのもとさん1/4[sage]:2010/12/29(水) 14:44:25 ID:82BjFY4l - つづき
ヒワイなるヤイカガシ(注:ヒワイドリとヤイカガシの融合体)は、日本狗との熱戦の最中に手を休めた。 眼下では小日本(本作では金髪獣耳美少女)の操る矢を使わない弓術によって、鬼子が紅葉の中に倒れていた。 「しまった、あれは鬼退治の神器『追難大弓』だ! ヒワイ!」 身体の大部分を占めているヤイカガシが呼びかけると、主に翼の大部分を占めているヒワイドリが激しくはばたいた。 (うおおっ! しまった鬼子ぉぉぉっ!) 「落ちつけヒワイドリ! いまは落ちついてじっくりパンツ(パンツを穿く方向に飛べ)だ!」 (落ち着いてパンツなんか見ていられるか! まずはおっぱいを助けて人口哺乳だろっ!) 「取り乱すのは分かるが落ち着けそれを言うならパンストはぁはぁ呼吸だ!」 (俺にものを言うときは先ずおっぱいに例えろ! おっぱいに言葉はいらない、感じるんだ! ちくしょう来るぞ!) ヒワイなるヤイカガシは意識の水面下で仲たがいをはじめ、混乱状態にあった。 すでに日本狗(本作では大型二足歩行犬)の接近を感知していたヤイカガシはヒイラギの剣を振るったが、その剣筋は目に見えて鈍っていた。 その隙を日本狗は決して見逃さなかった。 「いまだ! 異武鬼(コトブキ)十二将《申鬼》機動之術《大返し・レベルテング》!」 かつて戦国の世に名をとどろかせていた第六天魔王の片腕、時空太閤が得意としていた時空間を超越した術が発動する。 ヒイラギの剣を前にかざした直後、ヒワイなるヤイカガシは日本狗の姿を見失った。 気がつけば全身が爆風に晒されており、左右上下に幾筋もの飛行機雲がたなびいている。 瞬時に背後へと移動していた日本狗の攻撃を、ヒワイなるヤイカガシはまったく防ぐ事ができなかった。 振り上げられたハリセンを、ただ見上げるしかない。 「残念だったな華麗なるヤイカガシ! また私の勝ちだ!」 (だから間違えんな狗ーっ!) 「倒してみろ、私は何度でもよみがえる! 言ったはずだ、冬は『柊の季節(ワタシのシーズン)』だとっ!」 (まてお前の台詞じゃない俺の存在を上書きするなぁーっ)
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125 :GoGo! ひのもとさん2/4[sage]:2010/12/29(水) 14:45:34 ID:82BjFY4l - ぱしーんという上空に響く快い音に見向きもせず、小日本は鬼子を見下ろしていた。
ちょうど同い年の女の子が、眠ったように横たわっている。 その顔に達成感も喜びも何一つ浮かんではいなかった、ただ沈痛な顔をしている。 そのとき、小日本はキツネ耳を震わせた。背後に何者かの気配を察知したようだった。 小日本が険な眼差しを向けた先には不気味なネコがいた。 般若の面をかぶり、牙のならんだ口をがたがたと震わせている。面が面だけにその仕草はいちいち怒っているように見える。 「おやおや、狐が感傷に浸るなんてらしくないね、おチビちゃん」 「誰ですか? 怖いのでその格好で話さないでくれます?」 ネコはやがて紙のようにくるくると丸まってしまうと、長い手足を伸ばして、そのままギブソンのギターを背負った女の子の姿へと入れ替わった。 真っ黒い女子高生の制服に茶髪、顔には真面目そうなメガネをかけているが、年齢的にはすでに女子高生を超越していることは確かだ。大学生であるかどうかも危うい。 その証拠はたるみ気味の胸のサイズにも、全てを見透かした感のある不敵な笑みにも現れている。周囲の異様な空気をはね返すようにでんと構えていて、むしろこの空気に馴染んでいるような風情さえあった。 「私は通りすがりの猫又だよ。やれやれ、ヒワイもヤイカも犬っころ相手に苦戦するとはな。こんな時にあいつらは役に立たないね」 「だから、なんですのあなた? あれは犬っころじゃありません、くぅたんですよ。猫又さん、あなた低級妖怪のくせにちょっと偉そうですよ?」 小日本の眉が不愉快そうなラインを描いて頬も膨らんだ、女子高生姿の猫又は意に介さない様子で、二本に枝分かれした尻尾をふらふら振っていた。 「あらあら、手のひらサイズのくせに生意気なおチビちゃんだな。すっげぇ萌えるんですけど?」 なにが手のひらサイズなのか? と問いたげな顔の小日本だったが、急にとてつもない怖気を感じたように身震いし、思わず自分の胸をかばった。 「な、なに……これは、この、全身にまとわりつくような邪悪な気配は……!?」 猫又はメガネをぎらりと光らせ、声高に言った。 「ふふっ、かかったね。これは私が生まれもって授かった『瞳術』……」 「ど、瞳術!?」 「そう……二千年に渡って蓄積された私の寝込み友人帳によって相手を男しか存在できない世界に閉じ込め、 一分間に約五千時間もの長さにわたって男性化・掛け算を繰り返させられてしまうのだよ主に脳内で」 「か、掛け算!? 男性化!? なにそれ!? やめて、そんな目で私を見つめないで! いやぁぁーっ! 低級妖怪のくせにぃぃーっ!」 「にゃっはっはっはー!」 小日本が嫌悪感に苛まれると、般ニャーは尻尾をぷるぷる回してますます楽しそうだった。
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126 :GoGo! ひのもとさん3/4[sage]:2010/12/29(水) 14:47:38 ID:82BjFY4l - 「般ニャー!」
不毛なやりとりを繰り広げている二人に、日本狗が空から野太い声を響かせた。 縦にざっくり割れたアパートの残骸からひょっこり姿をあらわした日本狗の、その足元には白い羽毛と鰯の干物が散らばっている。 「どさくさに妙な暗示をかけるな! お前は分かっているのだろう、一体この気配はなんなのだ!」 般ニャーは暢気な表情を一転させ、厳しい目で融合の解けたヒワイドリとヤイカガシを見やった。どちらも既に戦闘不能のようすだ。 「あーあ、やっちゃったね、お前。言っとくけど、鬼子の中の鬼を抑える方法は、そいつらしか知らないよ?」 日本狗は口元を醜く歪めた。不可解な事を言われたようにくびをかしげている。 「鬼の中に住まう鬼、だと? そんなものが存在するのか」 「いると思うよ? 《酒杯》ってのはもともと心の奥底に眠る鬼を呼び覚ます怪器だからね。 鬼子が童子から《酒杯》を受け継いでいるって事は、当然そいつの中の鬼も受け継いでいるはずさ」 「そ、そ、そんなの平気だもん! かかってきなさいよー!」 先ほどの弓をすでに構えて、小日本は虚勢をはった。 だが、言葉とは裏腹にすっかり怯えきった様子で足を震わせ、耳などぺったり頭にはりついていた。 「狐だけあって、妖気に敏感みたいだね、おチビちゃん。けど鬼子の中の鬼は、そんな生半可な武器では退治できないよ。 どんな鬼かは私にも想像つかないけどさ、そんなちっぽけな神器が通用する相手じゃないはずだ。 なにしろ神代の怪物の血を引いている子だからね、鬼子は」 「ずいぶん遠まわしに言うものだな」日本狗は不愉快そうだ。「もう調べはついているのだろう、はっきり言ったらどうだ。鬼子の中の鬼とは……」 そのとき、生ぬるい風が生まれ、鬼子さんを中心にして紅葉が渦を巻いた。 小日本が足元に飛んできた紅葉から遠ざかった。 「き、きゃあーっ! なにこの虫っ! 顔に、顔に足が生えているぅ!」 妖気に長じた狐の目には一体なにが映っているのか、傍目にも愉快そうなものではなかった。 「くうたん、逃げましょう、なんか、ヤバいですぅ!」 「動じるな、相手はまだ私の封印の中だっ。『オーダー!』」 日本狗の発声とともに、鬼子さんの上空にあった光の紋章がひときわ強く光った。 だが、ほとんど同時に鬼子さんの右腕がびくりと動き、がばっと身を起こした。その上半身は、少しずつ、少しずつ地に押し戻されていく。そして元のように寝そべると、まるで二度寝を決め込んだかのようにごろんと寝転がった。 「ひゃっひゃっひゃ、そうそう、しっかり抑えときなー。あの鬼が目覚めたら日の本がマジで危ういからねー」 「たわけた事を、この国などどうでもいい! あんな怪物を解放してたまるか! 小日本、手伝え!」 しかし、小日本は弓を抱えたまま一歩も動かない。ぺたりと座り込んで泣きそうになっていた。 「ふぇぇーっ、怖いよぉ、くぅたん何とかしてぇーっ」 「どうしたんだ小日本っ!」 「無駄だよ、どうやら心の鬼『任せっ鬼狸(きり)』に支配されているようだ……なんだかこのへんの邪鬼が活性化してきているみたいだねぇ、あれなんかもその影響かな?」 般ニャーの指差す先には、それまで置物のようにうずくまっていたガンダムが立っていた。 ボロボロ破片をこぼしつつ、ぎしぎしと軋みながら動いていた。半身の大破した体が舞い上がる火の粉にさらされている。 「ば、バカな……。あの人形にかけた術はすでに解いてあるはず……どうやって動いているというのだ!」 「心の鬼が操っているんだね」 「心の鬼にそんな事が出来るというのか?」 「私に聞くなよ、けど、たぶんそのくらいはできるんだろ」
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127 :GoGo! ひのもとさん3/4[sage]:2010/12/29(水) 14:49:32 ID:82BjFY4l - 『ふざけるな、ふざけるな……』
ただぶつぶつと文句を繰り返しているだけのガンダムだったが、次の挙動に誰しも息をのんだ。 『僕がガンダムを一番うまく使えるんだぁ!』 意味の通らない発言と共に力任せにビームサーベルを振り下ろした。 「あ」 「あ」 その先端は上空に浮かんだ五芒星を貫いていた。見る間に空に亀裂が走り、世界が崩壊した。 閃光。 とてつもない爆発によってビル群が次々と薙ぎ倒され、ガンダムはおもちゃのようにばらばらに吹き飛んだ。 小日本は桜の木に捕まって吹き飛ばされるのをどうにかこらえていた。 「にあああっ! くうたん、なんとかしなさいーっ」 同じく爆発をこらえていた日本狗は片膝をつきながら、苦しげに呟いた。 「くそっ、今日は、なんだかだるいや、明日から本鬼だす」 「何を言っているのーっ」 桜の木から飛び出した小日本は、日本狗の両肩を掴んで、熱くなった鼻面に額をぐりぐり押しつけた。 「しっかりしなさい、くうたんっ、やる気出して! 今くうたんが倒れたら、日の本を乗っ取る計画はめちゃくちゃですぅーっ!」 がくがく揺すぶっても日本狗はまるで上の空だ。どうやら完全に心の鬼に支配されているらしい。 ようやくその事を悟った小日本は、うぅ、と唇を結んで振り返った。 彼女の目に映る元駅前は、もはや更地のように荒廃していた。駅前のガンダムはおろか駅すら存在しない。 空に封印はなく、清廉な星空ばかりが広がっている。ただの空虚な空間の底で、紅葉だけがカサカサと音を立てている。 「うう……これは、これはまずいですぅ」 二〇一〇年とある冬の日。宇宙の中心のような大きな満月に照らされながら、日本鬼子さんはむくりと身を起こした。
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128 :GoGo! ひのもとさん[sage]:2010/12/29(水) 14:56:08 ID:82BjFY4l - >>123おおう、ご苦労様です。
見づらいという事はそれだけコンテンツが増えてきたということですね。 決算が楽しみですな!
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