- ロボット物SS総合スレ 46号機
440 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/26(日) 00:10:18 ID:1DzWrNro - 後ろから走ってきた人影がタクシーを追い抜きならんで走る。その姿は、32号と殆ど同じ……衛人であった。
「遅ぇんだよ28号! 後から出てきて美味しい所だけ持ってこうって腹積もりかコラァ!?」 「すまない32号、セントラル・トランスポート・チューブ使用の許可申請がなかなか下りなくてな!」 32号に怒鳴りつけられ、28号は走りながら頭を下げる。 「ごめんなさいね、そちらの申請には少し手間が掛かってしまったの……」 「構わないさ、イーナ。元々、私が出遅れたのが悪いのだからね」 どちらの衛人も同じ顔で、共通の声紋パターンを使用しているから同じ声のはずなのだが、荒々しい32号と優しく丁寧な28号では、受ける印象は全く違う。 当然、二人は性格も正反対で、それぞれが「AI-Nは記憶や人格をベースにしても、元となった人間とはまったく別の存在になる」というのを如実に体現していた。 ちなみに、衛人28号と同32号、都鳥17号は3人で1つのチームだ。人手不足故にそれぞれが別々の行動をする事も多いが、基本はセットでの運用を前提としている。 17号は32号を小馬鹿にしつつ、同時進行で28号の誘導も行っていたのだろう。並列処理の得意な彼女ならではの芸当だ。 「つーか、後からきといて何が『私に任せて貰おう!」』だ! 俺が先に着いたんだから俺の獲物だろ?邪魔すんじゃねぇよ!」 「アレは”誰かの獲物”ではなく、新造東京都の平和を乱す存在だ。どちらが倒すかどうかなと重要ではないだろう? それに……あのタクシーに乗せられている者達はもう限界だ、これ以上時間を掛ける訳にはいかない!」 28号の言葉に、32号は舌打ちして目線を逸らす。 「32号! 変な意地を張らないで、素直に協力しなさいな!私達はチームでしょう?」 「へいへい……で、俺は何を手伝えばいい? 『自分がやるから黙って見てろ』なんてアホな事は言わねぇよな?」 面倒臭そうに首を動かし、28号を見る32号。だが、その目付きは先程までの喧嘩腰なものではなく、街の守護神『衛人』のものになっていた。 「私は先行させて貰う。君はうまく奴を誘導してくれ!」 「クソッ!仕方ねぇな!」 何だかんだで同一人物の人格や記憶を持つ者同士、細かい打ち合わせをせずとも、何をやりたいのかは大体分かるし、臨機応変に合わせる事も出来るのだ。 28号が急加速し、32号を突き放す。残された32号は再び狂化タクシーに向かい電磁加速拳銃を撃ち始める。回避されるのは分かっているが、避け方に規則性を見出せるはずだ。 32号とタクシーからかなり距離を取った所で、28号が拳を強く握る。指の隙間から染み出た銀の液体が薄い刃物に変わっていく。流動金属製のナイフだ。 合計6本出来たソレを足元に投げて刺し、直後に火花を散らしながら急減速。そのまま足元を強く踏み込むと、轟音と共に道路に亀裂が走り、表面に酷い凹凸が生まれる。 「行ったぞ28号!」 いつのまにかタクシーの後方に回った32号は、タイミング良く左右に撃つ事で逆にまっすぐ走るよう誘導するのに成功していた。狂化タクシーは、 減速する事無く28号に向かって突っ込む。どうやら避けて弾丸に当たるよりも轢く方が良いと判断したようだ。 このまま正面衝突した所で、衛人28号が全壊する事は無いだろう。タクシーが壊れて止まるだけだ。しかしそれだと、乗客の命が失われる可能性が高い。 28号は、背負った鞘から刀を抜く。抜かれた日本刀は、短く太い鞘の倍ほどの長さになっている。それは先程のナイフと同じく刃を形成するのが流動金属で あるが故だ。彼は流動金属刀を低く構え、更に自身も膝を付いたような姿勢を取る。 「28号!何をする気なの?」 「いいから黙って見てろ、17号」 「だからイーナだといってるでしょう!」 結構な速度で突っ込んできたタクシーは、起伏で姿勢が乱れて飛びあがった。といっても、そのまま転倒する程ではなく、車体から道路までの距離は50cm あるかないか、という程度の高さしかない。 「せぁぁぁぁああああっ!」 気合と共に28号が跳ぶ。腰を低くしたまま、両脚を大きく広げた踏み込み。匍匐前進でもしないと通り抜けられないほどの隙間を、刀を持ったまますり抜けるように潜り…… 再びタイヤが道路に接触した時には、タクシーのエンジン部は見事に切断されていた。
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443 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/26(日) 00:12:32 ID:1DzWrNro - これ以上の加速が不可能になった車体を、即座に32号が後方から引っ張り、減速させて止める。
「す、凄いわ……」 「チッ……相変わらず見事なモンだぜ」 驚く17号と、悔しそうな32号。32号がタクシーの車体にめり込んだ指を抜き終わるまでの間に、28号はタクシーのドアを刀で切断し、乗っていた一家のベルトを 斬り始めていた。そして、近付いてくる数台分の救急車のサイレン。すぐにタクシーの近くに停まると、28号から子供二人を受け取り乗せていく。 「ちゃんとここに呼んでたのな、救急班を」 「私だって、仕事に手を抜くつもりは無いわ」 一番最後となった父親を丁寧に抱えて救急車の近くまで走る28号を横目に、32号は狂化タクシーの中を覗き込む。生存者が嘔吐や失禁、脱糞だのをしていたおかげで 凄い臭いになっていたが、注目する所はそこではない。 「何で停まってんだー? オレっちはもっと早く走れるのになー誰よりも早く何よりも早く!チンタラ走ったり停まったりなんてありえないだろー」 タクシーに残った、狂って壊れてしまったAI-Nだ。 「17号、トンデモ運ちゃんを完全に停めとくぞ。動かしたままにしといて、ヘマこきたくないからな」 28号が腕から有線接続用のケーブルを延ばして、AI-N用のコネクタに繋ぐ。武器で物理的に破壊するよりはいくらかはマシな止め方だ。 「では……おやすみなさい、今度こそ2度と目覚めない眠りを」 17号の静かな呟きと共に、タクシーを制御していたAI-Nの声が止まり、点灯していたランプ群が全て消え、やがてタクシーは完全に沈黙する。 「よし、これで一件落着と……」 「32号……」 「あ?」 「何度も言うのだけれど、私はイーナ!」 「おい、マスコミが来てんぞ! 情報遮断してなかったのかよ!」 17号の主張を無視して、32号が救急車近辺を指差す。そこに有ったのは、マスコミ各社の車とそこから出てきたマイクを持った人間やモビットに囲まれた28号の姿だった。 「良くも悪くも、貴方達は目立ち過ぎるのよ」 「お前の職務怠慢を、俺らのせいにすんじゃねぇよ」 おそらく先程までの鬼ごっこもカメラに収められているのだろう。車に追走する脚力と華麗な剣技、そして人質を即座に助けた衛人28号は正にヒーローだ。 東京都警察の奴らは、ここ数年の間に染み付いた「AI-N関連の事件や事故に対して、後手後手で役に立たない警察」のイメージを払拭するべく、何かある度に 蠅のように群がるマスコミ連中に、あえて好き勝手にやらせている節もあるのだが…… 「ケッ……また奴の手柄かよ!」 彼らがそういう状況になった時、カメラの前で笑顔でインタビューを受けるのは28号だった。無論、口も態度も悪い己がその手の事をやった所で碌な事には ならないだろうというのは理解している。適材適所と納得してもいるが、 元となった記憶や人格、造られた身体がほとんど同じである以上、自分の方が出来損ないだと言われてる 「見事な受け答え……彼、警察官を辞めたらスポーツマンか役者にもなれそうね」 「ハッ……俺達が最初に与えられた仕事以外の事なんて出来るかよ!」 17号が言っているのが冗談だとは分かっていたが、上手い返事を考える気も起らなかったので、直球で事実を述べた。 「それに比べてこっちは無粋の極み……20番台と30番台で造られた工場が違うのかしら?」 「21号から40号まで同ロットだっつーの!」 拳をタクシーに叩き付けてボンネットを凹ませると、32号は煙草型の強化剤を咥えて火を付け、不機嫌そうに煙を吐いた。
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445 : ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/26(日) 00:14:04 ID:1DzWrNro - と言う訳で今日の衛人〜
この調子だと多分年末まで毎日投下が続きそうなので、 もうクリスマス終わったし、完成してから全部から投下するべきかが悩み所。意見求む。
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