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ロボット物SS総合スレ 46号機

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ロボット物SS総合スレ 46号機
214 : ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:41:41 ID:T/mVgolZ
久しぶりに書き込みます。

クリスマス用の短編を書いておるのですが、
クリスマスネタを用意されている方が多数いらっしゃるような上に、
自分の奴が短編と言う割にはちょっと長くなりそうなので、混雑を避けるべく
プロローグ的な部分が12/23の出来事なのを良い事に、
その部分だけ投下しようと思います。
ロボット物SS総合スレ 46号機
215 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:43:06 ID:T/mVgolZ

 2020年10月9日。その日、史上最大最悪のテロが日本で行われた。


 標的となったのは、当時首都であった東京。使用されたのは、某国から奪ったとされる核兵器。
 一瞬で23区の殆どが焦土と化し、正確な死亡者数は未だに不明だが100万人を超えるとされ、
被爆者を含む負傷者の数は、確認されているだけで1000万人以上存在した。
 三度の核攻撃を受けた国となった日本は、首都機能を京都府に移し、経済面への大打撃や日本各地で
起こる様々な混乱に対応しつつ、東京を復興していく事となった。

 燃え残った建物等の大量の瓦礫と、原型を留めぬほど変形したり亀裂の入った道路の撤去。
そして、どこまで崩れているのかも分からない地下施設の処理……ただですら時間の掛かるであろうそれらの作業は、
「広域にわたり放射性物質に汚染されている」という悪条件も加わり、困難が予測された。
 人が長時間作業するのは、防護服を着ていても厳しく、さりとて無人の作業機械では
現場の状況に合わせた細かな判断が難しい。専門家達からの「完全復興までは、どれだけ早くとも30年掛かる」
という意見もあって、一時は「東京一帯をコンクリートの壁で覆い封鎖。以後、100年はそのまま放置する」
などという話も出たのだが……

そういった主張は、ある技術が確立した事によって覆された。

『AI-N』

 Artificial Intelligence by Necromancy.……死者使用式人工知能とも呼ばれるその技術は、元々は医療用に
研究されていたものであった。
 自らの死を恐れる者にとっての夢である「永遠の命」を得るための方法の一つ、脳中情報を全て=魂というモノを
コンピューターへ移植する研究。その過程で、死体の脳から記憶や人格をデータ化させて取り出し、ナノマシンで
脳の構造を再現した電子頭脳に入力する方法が発見されたのだ。
 しかし、記憶の欠落や変質、それに伴う人格の歪みは生前の人物との連続性を欠き、どれだけ精度を高めても
目的としていた域には届く事はなかった。

 が、ソレは「人間的な思考を行える人工知能」としては驚異的なものであり、状況に応じた柔軟な自己判断や、
俗に職人技と呼ばれるような勘……経験則からくる特殊な技法の再現をも可能とした。

 10.9テロによって余命幾ばくも無くなっていた者達の中で、土木作業や建築技術等について経験豊富な人物を対象に、
事前に本人や家族の承諾を得て、死亡確認と同時にその脳データをAI-N化。東京の復興は、そのAI-Nを搭載した
建機群が中心となり行われた。
 人間と同等の思考力や技術力に、人間以上の力強さや頑丈さを併せ持ち、定期的なメンテナンスの時間を除けば、
随時働き続ける事が可能で、破損はしても怪我はせず、燃料補充や充電以外の食事は必要としない。そんな存在のおかげで、
僅か3年で放射性物質が完全に除去され、それから更に2年後には巨大なビルが並び立つ光景が復活するに至っていた。

 復興作業で発展したAI-N技術は建設以外にも転用された。それは工業的な方面だけでなく飲食業や接客業、警備業などなど……
日本国内、特に復興した東京ではAI-Nを搭載した機械が溢れ、やがては世界へと輸出されていった。その結果、テロから7年が
過ぎた頃には、日本は経済大国として返り咲き、東京は首都にこそ戻らなかったものの、日本の最先端技術の集まった街、
『新造東京都』と呼ばれ、世界中からも注目を集めていた。

 ……だが、急速過ぎる復興と発展によって生じた歪みは、確実に新造東京都を蝕み続けていた。

 複雑化した街を隠れ蓑にした犯罪者。どさくさに紛れて日本に不法入国した外国人。以前より更に極端になった貧富の差と、
それに伴う各種事件の増加。
 警察官の数が圧倒的に足りず、悪化し続ける治安……

 そして2028年に入り、その状況に更に追い打ちをかけるように、新たな脅威が徐々に姿を見せつつあった。

「AI-Nを搭載した機械による犯罪」

 数年前までは東京復興の要であり、今は新造東京都の象徴であるAI-Nが、新造東京都へ牙を向く。時代と共に変わりつつある
犯罪に対し、東京都警察はAI-N犯罪対策課を設立。
 また、それとは別に京都府の警視庁も、AI-Nを用いた犯罪に対抗する切り札を極秘に開発しようとしていた……
ロボット物SS総合スレ 46号機
218 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:44:08 ID:T/mVgolZ
 2028年12月23日……平成の日。クリスマス・イブ直前の祝日だ。楽しみに明日を待つ者、明日に向けた準備のラストスパートに
入った者、明日なんか来なければいいと願う者、クリスマスなど関係無く年末の仕事に追われる者、その他諸々。様々な人々が、
それぞれの思惑を抱えながら、イルミネーションにライトアップされ、クリスマス・ソングの流れる街を忙しなく行き交う。
20世紀より続く12月の日本の風物詩は、歪に発達した新造東京都にも受け継がれているのだ。
 そんな街並みから、拳銃弾程度では傷一つ付かない強化ガラスを挟んだデパートの内側で、東堂八雲は首を傾げたまま立ち尽くしていた。
 彼が立っていたのは女児用玩具売り場。白いライダースジャケットを着こなした、三十路突入済み男には似つかわしくない場所だ。
通りすがりの子供が彼を指差し何かを言おうとして、慌てて母親に引っ張られて去っていく。
「あの〜何かお探しでしょうか? お客様」
 見かねてデパートの店員が八雲に声を掛けてきた。どこにでもいそうな地味な顔付きの女性だが、両頬に人工皮膚の継ぎ目のラインが
走っている。彼女は人間ではなく、AI-Nを搭載した人型ロボット……俗に「モビット」と呼ばれる存在だ。
 最初にAI-Nを人を模した機械に搭載した製品を開発した企業が、「模人」と「ロボット」という単語を足して「モビット」という
名称で売り出した所、爆発的なヒットとなり、以後発売されたAI-N搭載の人型ロボットの多くはモビットと呼ばれるようになった。
 新造東京都ではどこでも働いているそれらは、人間以上の頑丈さを誇る機械の身体を持つが故にガードマン的な役割も兼ねるのだが、
どうやら不審者の類と警戒されてしまっていたようだ。
「あ、ああ、ちょっと娘のクリスマスプレゼントを探していてね……」
 恥ずかしそうに、頭をかきながら八雲は答えた。
「今年は僕が買うと嫁に言ったまでは良かったんだけど、どうも流行りの玩具は分からなくて……何かオススメの物はあるかい、店員さん」
 八雲が良からぬ事を企んでいた不審者ではなく、何を買おうか迷ってたお客様と気付いたモビットの店員は、笑顔になって左腕を変形させる。
彼女が右手でタッチしながら操作すると、薄い液晶パネルに玩具のカタログが映り、商品の画像が並んだ。
「お嬢様はいくつでしょうか? それによってお勧めできる物も変わりますが」
「この前、5歳になったばかりだね。最近は何とかってアニメに夢中だとか言ってたっけ」
「でしたら……コレなんかはどうでしょうか?」
 店員が更に操作を行い、並んだ商品の内の一つが拡大される。
「エラトステネス社製の『なりきりデビル でぃあぶろ☆やえちゃん なりきリボン&コスチュームカードセット』です。
 これは、現在土曜日の朝9:30から新東テレビで絶賛放送中のアニメ『なりきりデビル でぃあぶろ☆やえちゃん』という作品に出てくる
 変身アイテムをモチーフとした玩具でして、特殊素材のスーツがリボン型の端末と連動する事でホログラムを纏い様々な〜」
 腕に液晶パネルに映るアニメの映像と、玩具のCM。そして畳みかけるような商品解説。彼女が売ろうとしている玩具は特殊な機能を
内蔵しているので値段が高いのだが、どうやら八雲を「高い玩具でも勢いで押せば買う客」と判断したようだ。
「ええっと、じゃあソレでお願いするよ……」
 実際、八雲はその押しに負けて購入する事になり、クレジットカードを懐から出した。このように「即座にどのような客かを見抜く」と
いうのも、AI-Nの特性ではあるのだろうが。八雲がサインを書き終えると、店員は笑顔で購入の手続きを済ませた。
「ありがとうございます! 今なら無料でクリスマス限定ラッピングとクリスマスカード作成も行っておりますが、いかがいたしましょう」
 腕の液晶パネルは既に商品購入画面から切り替わり、いくつもの梱包パターンと数種類のカードが並んでいる。
「ラッピングは……そうだな、この3-Dで。クリスマスカードは、真ん中のトナカイとサンタが並んでいる奴を。カードの文面は……
 『サンタクロースから いちろちゃんへ』でお願いするよ」
「かしこまりました。ラッピング作業はすぐに終わりますので、ちょっとお待ちください」
 そういった直後、モビットではない人間の店員が梱包済みの玩具を大きな紙袋に入れて現れ、丁寧に八雲に手渡した。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ……頑張って下さいね、サンタクロースさん」
 並んだ二人の店員に手を振りながら、八雲は上機嫌で玩具売り場を後にした。
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219 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:45:34 ID:T/mVgolZ
 駐車場からバイクに乗り、イルミネーションに照らされた夜の街を走る。車が多く走ってはいるが、新造東京都の交通はスーパーコンピューターで
細かく管理されている為、長々と渋滞する事はまず無い。とはいえ、信号機は存在するので「止まらずに走り続けられる」という訳ではない。八雲は
信号の手前で止まり、赤から青に変わるのを待っていた。
 その時、八雲の耳に奇妙な音が入ってきた。金属同士がぶつかり壊れるような音と、人々の悲鳴。その音はどんどん大きく、近付いて来ており、
やがて……
「何だ!?」
 八雲の目の前を、ATMの機械を吊るしたクレーン車が、周囲の車に当たりながら駆け抜けて行く。彼の動体視力は、運転席の男が助手席に座らされた
子供に向かい包丁を向けているのを捉えていた。沸き起こる悲鳴とざわめき。そんな中で、八雲はバイクを急発進させてクレーン車の後を追った。
「こちら東堂。たった今、目の前を強盗犯が乗っているらしき車両を発見!このまま追尾する!」
 走りながらバイクに収納していたサイレンを出して鳴らし、フルフェイスヘルメットに仕込まれた通信機のスイッチを入れて警察無線に繋ぎ報告。
「え? 東堂警部補? 何でそんな所にいるんですか?」
 オペレーターの戸惑った声に、八雲は自分が現場から署に戻る途中でこっそり大きく寄り道してデパートに玩具の買いにきていた事を思い出した。
「あ〜〜僕が何でいるのかはともかく、このまま犯人捕まえて人質救助するんで、AI-N犯罪対策課の皆にはそう伝えておいてくれ!」
 それだけ言うと八雲は通信を切った。

 八雲は警察という職業に誇りを持った仕事人間であり、結婚後も、娘が出来てからも、それは変わらなかった。殆ど家に帰らず、たまの休日も
家族サービスなどする事も無く終わる。
「新造東京都の平和を守る為なのだからしょうがないだろう」いつもそんな風に言い続けてきたが、「いちろがいつも『パパ……』って
寂しそうに泣いている」と、妻である幸枝に怒られ、今年のクリスマスはイブは家でパーティをし、クリスマス当日には遊園地に行こう!
という話になった。その為に日程の調整を行い、忙しい年末に二日間休んでも問題がないようにいつも以上に仕事を行ってきた……まではよかったのだが、
肝心のクリスマスプレゼントを買うのを忘れてしまっていたのだ。通信販売は明日まで間に合いそうもなく、他の人に頼むのも味気ない。そう考えて、
彼には珍しく、職務中にコッソリ買い物。という行為をするに至ったのだ。
 あと4時間もすれば日付も変わり、そのまま帰宅して翌日に備える事となる。わざわざ厄介そうな仕事にまで首を突っ込む必要はない。
だが……一瞬見えた、子供の恐怖に歪んだ表情。アレを無視して家に帰り、妻と娘の前で、笑ってクリスマスを祝う事は、八雲には出来なかった。

「前方のクレーン車! そのまま左に寄せて止まりなさい!」
 何度か指示を出すが、当然のごとく無視。やがてクレーン車は強引に高速道路に突入して、さらに加速していく。犯人はATMを奪っている以上、
どこかで降ろして金を取り出す必要がある。何処かへ逃げ込むのか、或いは仲間と合流するつもりなのか……どの道、ここまで目立つと
金を手に入れるどころか逃げる事も難しいだろう。余りの無計画ぶりに、八雲が「もしや陽動か?」などと考え始めた頃、何を思ったのか
クレーン車は封鎖を破って工事中のルートへ侵入した。
「何を企んでいるのかは知らないけど……そっちは行き止まりだ!」
 交通渋滞のほどんと起こらない新造東京都。しかし、車が増え続ければそれも適わなくなる。対策の一つとして日々道路が増え続けているのだが、
クレーン車が進んだのは、予算の都合だか何だかで工事が一時ストップして、半年近くそのままになっている箇所だ。このまま真っ直ぐ進めば、
やがて道が無くなり、止まらなければ20mの高さから真っ逆さまに落ちる羽目になる。
 クレーン車もやっとそれに気付いたのか、急ブレーキを掛けて行き止まりの少し手前で停止した。
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221 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:46:32 ID:T/mVgolZ
 そのままUターンして元来た道を戻るかと思いきや、停車したまま動かないクレーン車。八雲は不審に思いながらもバイクを停めて、拳銃を手に
クレーン車へと向かった。
 運転席に座っていたのは、先程見えたのと同じく、包丁を持った男と子供が一人。共にシートベルトを締めて青ざめた表情で座っている。
「そのまま、包丁を捨てて車から降りろ!」
 八雲が銃口を向けた男は、どこにでもいそうな工事現場で働く男だ。金に困って場当たり的にATM強盗を行ったはいいが、その後どうするのかが
思い付かず、逃げ回ってただけ……という所だろうか?
 そのままゆっくりと近付き、助手席側のドアに手を掛ける。ロックはしておらずあっさりと開いた。シートベルトを外して子供を引っ張り出すと
男は抵抗する事もなく包丁を捨て……
「ち、違う!俺じゃない!俺がやったんじゃないんだ!!」
 突如、そう声を張り上げた。
 声と同時に、クレーン車が動き出す。

「オイオイオイ……お前が犯人のフリしろつったよな?何ダイナシにしてくれちゃってんの?」

 車内から響く声。包丁を持っていた男のものではなく、当然、八雲が抱えた子供のものでもない。急発進と強引なカーブで八雲は振り落とされ、
子供を庇いつつ道路に転がる。
 犯人と思われた男はハンドルすら握っておらず、シートベルトに締めつけられて悲鳴を上げている。 
「父ちゃん!」
 子供が、暴れるクレーン車の方を向いて叫んだ。

「何が起きているんだ……!?」
 主犯と思われる謎の声と、どうやら親子だったらしい二人。勝手に動きだしたクレーン車。
「アイツが……あの車が悪い奴なんだ……」
 抱えた子供が、涙と鼻水を垂れ流しながらそんな事を言い始めた。
「父ちゃんがいきなり包丁持って来いって電話してきて……持ってったらいきなりシートベルトされたまま走り出して、で……父ちゃんがあの車に
オレに包丁向けてないと絞め殺すとか言われてて……」
 どうも要領を得ない証言だが……あの車のAI-Nを乗っ取り、遠隔操作している犯人がいて、この子供の父親もソイツの指示で動かされていたのだろうか?
「お願い……父ちゃんを助けて!」
「うん、大丈夫。僕に任せて、お父さんは絶対に助け出すよ」
 詳しい状況は分からない。だが、今何をすればいいのかは理解していた。八雲は子供を比較的安全そうな場所に降ろすと、バイクに駆け寄る。
元々、この服とヘルメット、そしてバイクはこの手の相手をどうにかする為に用意されたモノなのだから。
「ガイリュウ……着装ッ!」
 八雲の声に合わせるバイクが展開し、その身を覆っていく。瞬時に2m強の鎧を纏った大男のような姿に変わった。

 正式名称『25式強化外骨格・改 鎧竜』……25式は対テロ用に開発されたパワード・エグゾスケルトンであり、バイク型に変形することも可能。
ガイリュウはソレに、対AI-N搭載機械用の放電装備を追加したモノで、内蔵バッテリーは変更していないので活動時間こそ短くなっているが、
おかげで短期決戦が主流となり、逆に被害を最小限に食い止める結果に繋がっていた。
 今日は某犯罪組織が秘密裏に輸出しようとしていた戦闘用モビットを破壊し、そのまま帰る途中だったのだ。バッテリー残量は少々心許ないが、
ただの建設機械風情に一分以上掛けるほど弱くはない。クレーンに繋がったまま振り回されるATMを、ワイヤーを手持ちの大型拳銃で破壊してふっ飛ばし、
運転席側のドアを力任せに引き千切る。そのままシートベルトを腕から生やしたナイフで切断し、男を抱えるとクレーン車から飛び出した。
「父ちゃん!」
 父親の方は意識を失っているが命に別条はないようだ。子供の近くに彼を置くと、再びクレーン車に向き直り、両腕からグレネードを連射。
一斉に炸裂し、巻き起こった爆発でクレーンは根元から折れ、クレーン車は原形を留めないほどに破壊された。
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223 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:47:53 ID:T/mVgolZ
「さて……」
 動かなくなった事を確認し、八雲はクレーン車の残骸に飛び乗った。極力、運転席周辺は破壊しないようにしたつもりだが、天井にはガイリュウを
着込んだまま入れるほどの大穴が空いていた。
「どうやって操ってたんだろ?」
 搭載されたAI-Nを何らかの手段で乗っ取り、機械を遠隔操作するという手法は何度か見た事がある。このクレーン車もその類かと考えて、わざわざ
完全に破壊しなかったのだが……そういった事に使われる装置の類は一切見当たらない。

「ハッハッハ!ンな訳あるか! 俺は俺の意思のまま好き勝手やってんだよ!もう誰かの道具になる気はねぇんだ!!」

 そんな時、壊れかけたスピーカーから声がした。
「……どこの誰だ?」
「まだ気付かねぇのか? 目の前にいる俺だよ!お前がブッ壊してくれたのが俺の身体さ!!」
 どこかで誰かがガイリュウの通信システムに割り込んでいる風でもない。となれば、考えられるのは一つ。
「お前は……この車両に搭載されたAI-Nなのか!?」
「御名答ゥ〜! そう、俺はお前らがAI-Nとか呼んでる機械さ!」
 本来、AI-Nというものは、人の心を複製しているとはいえ、自主的に犯罪行為には走らない。製品化されるモノは、それも記憶や人格のデータの
一部を書き換えられ、そういった行為をやろうという結論に行き着けないように思考を調整されているのだ。ならば、誰かが再調整し、犯罪行為を
行えるようにしたというのだろうか?
「俺はなぁ……もう7年間ずっと働き続けてんだ……半年に一度のメンテの日以外は毎日毎日ずっとずっと……休む事すら許されねぇ!うんざりだ!!」
 この言葉も異様なモノだ。そもそもAI-Nは働く行為にストレスは感じず、休暇を取りたいという考えは起こらないはずなのだ。
「だが、金さえあればいいんだ。知ってんだぜェ俺は……ガキの頃からそういう奴らばっか見てたからなぁ! 金があれば好き放題やれる!
 飯も酒も飲み放題!良い女だって抱ける! あ〜色んなトコ旅行すんのもイイなぁ……海外とか生きてぇなぁグアムとかよぉ!!」
 喚き立てるAI-N。戦前の記憶との混同。もはや無くなっているはずの飲食や性行為への欲求。
「お前は……何だ? 本当にAI-Nなのか?」
「俺がAI-Nだぁ?馬鹿を言うなよ!俺は人間様だろ!どっからどう見てもよぉ!違う訳ねぇダろコラァ!」
 その声に合わせて折れたクレーンが動き、軸の曲がったタイヤが空転する。

 八雲はやっと理解した。半端に人間であった頃の記憶を取り戻して狂ったAI-N。それが全ての原因だ。

 まだスピーカーからは罵声が垂れ流され続けている。もしかしたら、これまでに起きた何らかの組織によると思われるAI-N暴走事件も、今回のような
ケースだったのかもしれない。八雲はそう考え、今後の研究の為にあえてそれ以上は何もせずに運転席から離れた。

 バッテリー残量の少なくなっていたガイリュウを脱ぎ、離れた位置にいる父子を確認する。父親はまだ気絶したままだが、息子の方は爆発に巻き込まれ、
怪我をしたりすることもなく、父親に声を掛け続けている。
「もう大丈夫だよ……救急車も呼んだから、すぐ来るからね」
 静かにそう言って、八雲はヘルメットを外す。彼らが救急車で運ばれた後は、報告書だ始末書だ何だで時間を取られそうだ……だが、それらは徹夜して
でも終わらせ、明日の朝から家族揃ってクリスマスを過ごす。気合を入れていかねばならないかと頬を自分の叩いた。
 そんな八雲の方を向き、子供が何かを指差している。
「お、おじさん!アレ!」
「ん?どうしたんだい?」
 必死に何かを伝えようとする子供。敵は完全に動けなくしたと思い、気の抜けていた八雲はその意味に、即座に気付く事が出来なかった。

「うしろ!!」
「え?」

 彼の背後にあったのは、スクラップ寸前の状態でありながら走りだそうとするクレーン車。
 慌てて、子供を掴んで投げ、気絶したまま寝転がる父親を蹴り飛ばした。直後に、全身に衝撃。目に映る景色が凄まじい勢いで回り、
やがて身体が空中に浮いた。落下していく感覚に再び全身に走る強い衝撃。少し離れた位置にクレーン車が落ちて、大きな音を立てて潰れる。
 己が轢かれて工事中の高速道路から落ちたと気付いた時には、全身の感覚が殆ど無くなっていた。
ロボット物SS総合スレ 46号機
226 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:49:29 ID:T/mVgolZ
 いつの間にか雪が降り始めていた。
 八雲は、どうもこの街に振る雪が好きになれない。水気を多く含み、積もる事も無く、すぐに融けてしまうような、この街の雪が。
 今も、八雲の身体に落ちてきてはすぐに融けて、血と一緒に体温を外へと流していっている。

「おじさーん!おじさーん!」

 上の方で、子供の声がする。結構強く投げてしまったが、大きな怪我はしてないようだ。少し安心しながら閉じた瞳が開かれる事はもう無かった。








 ここはどこだ?ずいぶんとまっくらな所だな。何も見えないし聞こえない。


 僕は何をしていたんだっけ……そうだ、明日はクリスマス・イブだから、早く家に帰らないといけないんだったな……


 いちろに……せっかく買っ……プレゼント……わたさ……………───
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230 :衛人─エイト─ サンタクロースはもういない ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:55:23 ID:T/mVgolZ
 2029年1月15日。国のAI-N研究機関が「AI-Nの狂化」という現象を正式に発表。原因は不明だが、AI-Nがその職務を放棄し暴走するというというものだ。
狂化する確率そのものは低いようなのだが、新造東京都にはAI-Nを搭載した機械が多く存在する為、相応の件数、事故が起こり得ると予測された。
 AI-Nの危険性を国が認めたといっても、一度得た文明の利器を手放す事は難しい。新造東京都から離れてAI-Nのほどんど無い街に移った者はいても、
街からAI-Nが消える事は無かった。


 京都府の警視庁は、AI-Nを用いた犯罪や狂化AI-Nによる事件・事故に対抗する切り札として、兼ねてから開発を続けていた最新鋭戦闘用モビット
『衛人』の完成を急がせた。衛人のAI-Nを造るにあたって、脳情報ドナーに登録済みであった東堂八雲警部補の脳が使用される事となり、彼の記憶と
人格を受け継ぎ……2029年8月31日、遂に衛人は完成、量産が開始された。そして……
ロボット物SS総合スレ 46号機
234 : ◆CNkSfJe3Zs [sage]:2010/12/23(木) 23:57:30 ID:T/mVgolZ

 と言う訳で、以前投降したロボット刑事モノのプロローグ部分の続き(細かいところは変えているが)を投下。
正式タイトルは「衛人─エイト─ サンタクロースはもういない」で行こうと思います。
マナガルとかサムライロボの奴とか書いてはいるのですがクリスマス的じゃないので今回は控えて、
実はクリスマス要素の有った衛人の方を投下しました。

 明日、明後日と続きを投稿できると良いのですが……

 ちなみに作品の元ネタは説明するまでもなく8マン。作中で使われてる単語には、
これまでに自分が書いてきたネタ(マナガル含む)を流用してるのがありますが、世界観的な繋がりはありません。

 追伸:マーナガルム(主にツクヨミ)をネタとして使って作品を作って下さってる皆さま、本当にありがとうございます。
 今後もあまり反応はできませんが、基本的に好きにやっちゃって構いません。

 では出来ればまた明日。


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