- ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目
95 :「 グレートサラマンダーZ 」[sage]:2010/12/20(月) 23:53:49 ID:GOodD9jT -
第4章「 グレートサラマンダーZ、たいむとらべる。」 霞ひとつない無垢な空。 冬のなごりなのか、遠くの山肌に見える雪がやけに目に沁みる。 「……?」 まったく見覚えの無い場所で気がついた。 「……何処だ? ……ここ?」 視聴覚モニターに映る残雪に違和感を覚え、発せられる強い反射光に眼が眩んだ。 「……痛てててて」 身体の節々から鈍痛が湧き上がる。 何が起こったのか理解できず、もやが掛かったような曖昧な記憶を探る。 「 …………。」 高速道路。 今、そこにいるはずだった。 ――……戦闘ヘリ出現。アクセル全開で逃げる。 あと5分で目的地到着。緑の単車の人に華ちゃん達を託して………… 「やばっ!戦闘ヘリっ!!! ――――?」 眼を見開き視聴覚モニターを睨む。敵の姿はない。 即座に振り返る。後部座席にうぱ華子、さらにその後ろでうぱ民子うぱ倫子がシートで気を失っている。 混乱。 次第に鮮明になる記憶から、重要な何かがすっぽりと抜け落ちている。 ――訳わからない……。 ここ何処だ……? 風に煽られた気がして、その後…… 高速道路から一転、まったく理解不能な場所にいる。 まず状況を確認するのが先決と思い、うぱ華子を揺り起こそうとした手を止めた。 そして今ひとつ釈然としないまま、うぱ太郎は再び視聴覚モニターを眺めた。
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96 :「 グレートサラマンダーZ 」[sage]:2010/12/20(月) 23:54:58 ID:GOodD9jT -
「……?」 モニター下部で点滅する赤文字に気づく。 見覚えはある。しかし何かが微妙に違っていた。 【 危険! スピードバルブ制御カット 暴走注意! 】 【 GTオートスポイラー作動 アクションボタン機能キャンセル中 】 【 下記エラーメッセージをお控えのうえ、至急サービスマンにお知らせください 】 【 自己診断モード:リピートリングモーター動作停止 】 【 障害発生(モーター部)の為、走行機能停止中。至急サービスマンにお知らせください 】 「なっ!!!」 衝撃的なメッセージが飛び込んできた。 反射的にアクセルを吹かし、大きくハンドルを切った。 ぴくりとも動かない。 シフトレバーをガチャガチャと忙しく、そして優しく丁寧に動かした。 しかしうぱ太郎の願いむなしく、グレートサラマンダーZは何の反応も示さなかった。 ――……やばい、動かない。 点滅する赤が鼓動を煽る。 しかしそれだけでは留まらない。うぱ太郎の受難はさらに続く。 【 0000−00−00 02:36 】 【 位置情報を取得できません。GPSアンテナの接続を確認してください 】 眼を移した先のナビモニター。 自動で更新されていく地図画面が消えている。 代わりにオールゼロの日付とアンテナ故障を思わせるメッセージが異常事態を主張していた。 うぱ太郎の額から汗が噴出す。 ――まずい、ナビも壊れてる。 うぱ松さんに怒られる……。って言うかナビないと帰り道わからない。 いや、グレートサラマンダーZも動かないし、とにかく基地に連絡しないと……。 壊してしまったという負い目はある。 しかし1人で悩んでも解決できる問題でないことは容易く想像できた。 それに報告連絡相談の徹底は、うぱ松から耳にタコが出来るほど聞かされている基地の方針である。 深呼吸のあと、少しだけ震える指でうぱ太郎は基地通信ボタンを押した。 「……?」 おかしかった。 いつもなら通信ボタンを押した直後に呼び出し音がする。 そして呼び出し音5回以内に必ず誰かが応答していた。 しかし、それが今は通信ボタンを押してもしばらく無音の後、スピーカーから通話中音が 虚しく響くだけだった。
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97 :「 グレートサラマンダーZ 」[sage]:2010/12/20(月) 23:56:07 ID:GOodD9jT -
「 …………。」 何度も通信ボタンを押す。しかし結果は変わらない。 通信システムが不通に陥るなど経験もないし、考えたこともなかった。 うぱ太郎の汗が冷や汗に変わる。 携帯電話が繋がるか否かは現代社会における生命線のひとつでもある。 頭の中がぐるぐるになるまで考える、考える。 「あっ! もしかして!?」 うぱ太郎は小さく叫んだ。 流れる汗を拭う。そしてグローブボックスを開け、携帯電話のクリアボタンを押した。 画面が立ち上がる。ここでも表示される日付時刻は狂っている。 しかしそれは眼中に無い。確認したいのはただ一点だけだった。 「よし!」 笑みがこぼれた。 うぱ太郎の予想通り、携帯電話のアンテナ表示が「圏外」になっていた。 ――あはは、圏外ってなんて田舎なんだ! もしかしてGPSも圏外? 何ひとつ問題は解決していない。 それでも小さなことだが、自力で答を見つけだせたことにうぱ太郎は喜びを感じた。 コックピット内部に被害は無い。 自分の置かれた状況を理解した上で、うぱ太郎は何故こうなったか考え始めた。 ――ミサイルって通信スピーカーから聴こえた気がした。 姿かたちは見えなかったけど戦闘ヘリにミサイル攻撃されてその爆発の勢いで 圏外の山奥に吹き飛ばされた。そう考えるのが一番妥当か……。 実際、走ってた高速、田舎だったし……。 モニターを見回してうぱ太郎は仮説を立てる。 映るのは戦闘ヘリはおろか人の気配さえまったく感じられない野原の絵である。 ――携帯が壊れた可能性もあるけど、ミサイル爆発の衝撃で圏外の山まで吹っ飛ばされた。 その際、グレートサラマンダーZのモーターが壊れた。ついでにナビのアンテナも壊れた。 ナビや携帯の日付時刻もリセットされた。 気を失ってから2時間半経過ってところかな……。 仮説からぽんぽんと予想が連なる。 グレートサラマンダーZ動作せず、ナビ故障現在地不明、通信手段断絶という状況を再認識する ことになったが、我ながら冴えているなとうぱ太郎は内心、自画自賛する。 「参ったな……。まぁ、とりあえず水でも飲んで落ち着こう」 口にした弱音の割に、うぱ太郎は落ち着いている。 爆風で吹き飛ばされたのなら今いる場所はそれほど高速道路から離れていないはず、という 推測も心の拠り所にもなっている。 水を取ろうとシートベルトを外し後方へ移る。うぱ華子達は依然気を失ったままだ。 そっとボックスを開け、飲みかけのペットボトルを手にする。
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98 :「 グレートサラマンダーZ 」[sage]:2010/12/20(月) 23:57:21 ID:GOodD9jT -
――そうだ。マニュアル!!! ひらめく。 以前うぱ松に言われたことが鮮やかに蘇る。 困ったときのQ&A集。 まだ一度も見たことはない。が、ボックス内にマニュアルがあるのは間違いないはずだった。 手当たり次第にボックスを漁る。 封筒に入ったコピー用紙の束がすぐ見つかりペットボトル、赤虫グミと一緒に取り出す。 マニュアルがあったからといって直せるかは分らない。されど期待感に胸が高鳴る。 シートに戻り、ペットボトル片手に早速うぱ太郎は困ったときのQ&A集を捲りはじめた。 ――あった! 必要とする項目を見つけ、うぱ太郎は記載内容を一心不乱に目で追った。 《 モーター障害時(自己診断モードによるエラー表示)の対応について。 故障回路をバイパス(切り離し)することにより一時的に走行可能になる。 ただしあくまでも応急処置なので走行不能に陥る前に早急に修理すること。 リピートモーター切り離し可能:走行にさほど影響なし。ただし最高速度は時速80キロに制限。 パワーモーター 切り離し可能:走行に影響あり。早急に修理が必要。最高速度、時速30キロに制限。 スピードバルブ 切り離し可能:走行に影響大。走行不能に陥る可能性大。最高速度、時速10キロに制限。 メインモーター 切り離し不可:走行不能。速やかに機体から降りること。 切り離し手順。 オートマシフト位置、パーキング。ブレーキベタ踏み+ハンドルめいっぱい左に切る。 その状態でしっぽ振るボタン5秒以上長押し。 視聴覚モニターに『故障部切り離しますか?』と表示が出たら追加で跳ねるボタン5秒以上長押し。 『XX(故障部分)切り離し中』と表示が変わったら切り離し完了。 『切り離し出来ません。早急に修理手配をお願いします』と出た場合、切り離し不可。 状況にもよるが、速やかにコックピットから退避すること。 うぱ太郎へ。壊したら罰金100万円! byうぱ松 》 「げっ!!! こんなとこまで……」 記されたうぱ松の脅し文句にうぱ太郎は大げさに驚き笑う。 されど逆に励ましの言葉のように思えて、逆境に立ち向かう意志に大きく火がついた。 ――走行にさほど影響ないなら……。よし、やるぞっ! マニュアルを横目に、手順に従い操作する。 無理な姿勢で攣りそうになりながらも、心の中でゆっくりと数を数えながら反応を待つ。 【 リピートモーター切り離し中。至急サービスマンにお知らせください 】 ―― 来たっ! マニュアル通り表示が変わった。期待感が最高潮に達する。 ―― 動けっ!!! 全身全霊を込めて願う。 オートマシフトはパーキングのままで、うぱ太郎はアクセルを煽った。
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99 :「 グレートサラマンダーZ 」[sage]:2010/12/20(月) 23:59:15 ID:GOodD9jT -
ヒュイン、ヒュイン、ヒュイイイィイイイィーン!!! ――よし!よし!よしっ!!! 眠っていたグレートサラマンダーZのモーターが眼を覚ました。 歓喜で胸が熱くなる。 すがさずシフトをドライブに入れる。指先が覚えている出動前の動作チェック。 立つボタン。グレートサラマンダーZ立ち上がる。 しっぽ振るボタン。グレートサラマンダーZ左右に尻尾を振る。 跳ねるボタン。グレートサラマンダーZ垂直跳び。 「よっしゃーっ!!!」 うぱ太郎、叫ぶ。 若干のパワーダウン感は否めなかったが気にしなければさほど問題にはならなかった。 暗雲から差し込む光を見たかのように、うぱ太郎の心に希望の青空が見る見る広がっていく。 「うるさいなー、もー!」 「…………」 「……ねぇ。ここ何処?」 動き始めたグレートサラマンダーZの振動とうぱ太郎の雄叫びで気を失っていたうぱ華子達 が眼を覚ました。 気持ちよく寝入っていたのか棘のある声と、モニターに映る見慣れない景色に不安を覚えたのか どこか怯えがかった声が響く。だがグレートサラマンダーZの再始動で気を良くしているうぱ太郎は そんな声を気にもせず、振り向き上機嫌に話し始めた。 「ごめん。ちょっといろいろ壊れちゃったみたいで直してたんだ。 えーと、もう戦闘ヘリもバイク軍団もいないから大丈夫、安心してていいよ。 でもいろいろ問題があって、まずナビと携帯が壊れたっていうか圏外になってて基地のうぱ松さんと 連絡取れないんだ。それとナビの地図が出なくなっちゃったんで今何処にいるかも分らない。 たぶんだけど戦闘ヘリにミサイル攻撃受けて、高速道路から山の中に吹っ飛ばされた時に 壊れちゃったんだと思う。 でも、ちょっと壊れたけどグレートサラマンダーZは今までどおり動くから高速道路 見つかればすぐに帰れると思う。最悪、携帯繋がらなくても道路さえあれば何とかなると思うし」 「……迷子っていうか、……ぶっちゃけ遭難してる訳?」 「そーなんですか山本さん?」 遭難という言葉にうぱ華子の動揺ぶりがうかがえた。 グレートサラマンダーZは動くようになったものの、現在地が不明なことは確かな事だった。 少し浮かれすぎたかとうぱ太郎は自分を戒める。それでも遭難というには大げさな気がした。 とりあえずどう突っ込めばいいか分らないうぱ民子は無視してうぱ華子に話し掛ける。 「うーん、まぁ遭難といえば遭難かな。でもミサイルで吹き飛ばされたからってそんなに 遠くまでは来てない筈だから大丈夫。戦闘ヘリもいないし。ちょっと歩き回るかもしれないけど 道路があれば標識もあるだろうし、人がいれば道も聞けるからそんなに心配しなくていいよ」 「そーなんそーなん!」 「……命を狙われる最悪の状況からは脱出できたって訳ね。……っていうか民ちゃん、 遭難してるのにあんた何でそんなにはしゃげる訳?」 嬉々とし、幼稚園児のごとく騒ぐうぱ民子に、うぱ華子はあきれ顔を通り越し、あきらめ顔で聞く。
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